じん インタビュー 5年半ぶり最新アルバムは「今の自分がこの時代のこの瞬間に創るもの」

SPICE

2018/11/7 20:00

じんが11月7日、アルバムとしては実に約5年半ぶりとなる『カゲロウプロジェクト』最新作『メカクシティリロード』をリリースする。前作から大きなインターバルが空いた理由、その間に感じたことや変わったこと、そして変わらないこと──。20代前半にして一大現象を巻き起こし、今28歳となったじんが本作に込めたメッセージとは。そして、その制作へと向かうに至った原動力とは一体何なのか。じっくりと解き明かす。


──『カゲロウプロジェクト』としては、小説『カゲロウデイズ』が昨年完結して、漫画版もクライマックスという状況ですが、アルバム『メカクシティリロード』も、エンディングへ向けて作っていく感覚だったんですか?

そうですね。小説が完結したことはもちろんですし、マンガの連載ももう間もなく(完結)なので、その一区切りでアルバムを創っておきたいという思いがあって。それを形にしていくという意味では、確かに最後へ向けてという感覚はあったと思います。

──アルバムとしては約5年6ヶ月ぶりですが、昔と今で音楽を作る過程の変化みたいなものはありましたか?

昔はストーリーと音楽を一緒に創っていく感じだったんですけど、自分の中でいろんな変革を繰り返していくなかで、今は小説を書いている自分と、音楽を創っている自分が完全にセパレートされているんですよ。たとえば、このストーリーをやりたいというよりも、まずテーマがあって、音楽があって、そのうえにストーリーが乗るような感じというか。そういう意味では、システマティックになった感じもあるんですけど(笑)。

──分業制というか。

そうです。でも、小説を書いている自分と音楽を創っている自分はものすごく仲がよくて(笑)、いつでもリンクさせられるっていう。そこは、音楽と小説の両方を、それぞれ確固たるものにちゃんとしないといけないと考えるようになってからこうなっていったと思います。

──先ほどの発言で「まずはテーマがあって」とのことでしたが、じんさんとしては、それを伝えることが一番大切であって。

そうですね。それを伝えるために全部をやっている感じがあります。音楽も、小説も。

──物語が終わりに向かっていく『メカクシティリロード』の中で、じんさんがやりたかったことや、一番伝えたかったものというと?

フィナーレに向けて物語を考えなきゃいけないところはあったんですけど、なによりも、今の自分がこの時代のこの瞬間に創るものとしては、特に音楽に関しては情感が大切だなと思って。そこは分業制になってきたことで、より直情的な表現をしたいと思ったところもあるんですけど、そのなかで今回テーマにしたのは……「友達」ですかね。アルバムではそういう言葉として使っていますけど、「人との関わり」みたいなものは、やっぱり根本的なテーマとしてあると思います。この作品自体、そのことを描き続けてきたからこそ、このタームではそれが一番ビビッドになるべきだと思ったし、前回アルバムを出してからのことを考えても、自分の中からそのテーマが素直に出てきたので、やっぱりこれなんだなと思ったというか。

──なぜまたそう思ったんですか?

この5年半って、自分がかなり変わった時間だったなと思っていて。それは成長なのかもしれないし、これを成長とは呼ばないのかもしれないけど、確実に自分は変わったし、自分を変えたのはやっぱり人間関係だったんですよね。だから、アルバムを創ろうと思ったときに、人との関わりについて書こうと思ったことと……あとは「大人なんて許さんぞ」みたいな(笑)。その2つがありました。絶対にお前らだけは許さんぞって思いながら書いていたので。

──めちゃめちゃ中指を立てていたと(笑)。

立ててました。怒りで書いたところもあるんで(笑)。でも、そこってすごく大事なことなんですよね。そこで一緒に戦ってくれる人がいることとか、誰が悪いということではなく、正義観がまったく違うことの難しさとか。そういうものが根底にある気がしますね、どの曲にも。

──「大人」というキーワードについてはまたあとでお聞きしようと思っているんですが、今作の初回限定盤Bにはじんさんの弾き語り音源が付属されていて。ここ数年はご自身がマイクをとることも多かったですよね。それもあって、じんさんはもうボカロ曲を作らないんじゃないかと思っていた人もいるかと思うんですが。

ああ。確かに。それこそ5年ぐらい前は、なんかちょっと嫌だなと思ったこともあったんですよ。それはボーカロイドが嫌いになったわけでも、シーンが嫌いになったわけでもなくて、周りの大人がとにかく嫌いだったんです。ボーカロイドのことも、『カゲロウプロジェクト』のことも何も知らない大人たちに、いろんなことを言われたりして。でも、一時期はその人たちを信じていた自分もいたんです。ペーペーだし、まだ子どもだから言うことを聞いてやってみようと思ったら、全然うまくいっている感じもしなくて。それが怒りに繋がっていったんですけど(笑)。

──なるほど。

だから、嫌いになったわけでは全然なくて、距離を置きたかったというか。自分がふさわしくないと思ったっていうのかな。自分がすごく悶々としているのに、眩しい場所で偉そうに座っていることはできないし、それこそ「人との関わり」のところですね。人との距離感や関係値みたいなものと向き合ったことで、そのうえでモノを創るのであれば、自分が信頼できて、この人たちと一緒であれば創れるって胸を張ってやれるものじゃないと、やっぱり子供たちにお金を払ってもらうのは嫌なので。だからまあ、いろいろと大変な時期があったんですけど。

──じゃあ、もしかしたら小説と漫画で『カゲロウプロジェクト』は完結する可能性もあったと。

全然ありました。「創りたいな」っていう作家としての興味みたいなものは、「ゲームやりたいな」と同じぐらいの感覚であったんですけど、それが今回「これを創るべきだ」って思うぐらい燃え上がったので。(今作は)ユニバーサルさんとご一緒することになったんですけど、担当の方はまず本を読んでくれて、ここがすごくよかったとか、こうすればこういう人たちに届いて喜んでくれるんじゃないかとか、この先はこういう風にしてみたらどうだろうかっていうのを、すごいワクワクする感じで話してくれて。そういう人たちに会えたから単純に創ってみようと思えたし、これなら自分も絶対にいいものが創れると思ったんですよね。それに、作品としても「人との関わり」とか「友達」みたいなテーマを欲しがっている気もしたし。だからこそ、そのことを一番伝えたかったんです。アルバム創ってるときはずっとそのことばかり話していたし、それを伝えることが一番嘘がないと思ったので。



──あと、先ほどお話に出た「大人」というキーワードなんですけど、前作から5年半となると、当時15歳だった子たちはもう20歳になるんですよね。プロジェクト自体が始まったのが2011年なので、その当時の少年少女はそれ以上の年齢になるわけで。そういう中で、たとえば「ロストデイアワー」は、じんさんの音楽を聴いて育って、少しずつ大人になってきた人たちに向けて歌っているイメージがあったんですが。

それはまさにおっしゃる通りで。特に「ロストデイアワー」と「リマインドブルー」は、大人になった曲というか。自分の中では、アルバムの中でも2曲でセットになっているものとしてあるんですけど。これはキャラクターの話うんぬんは置いといて、単純に想像しやすいという意味でいうと、それぞれの曲にそれぞれの主観があって、それぞれが友人同士なんだけど、今は別の場所で同じようなことを思っているっていう。そういう景色が自分の中で見えていたんですよね。でもそう思ったのは、自分が大人になったからなのかもしれないなって。

──というと?

なんか、その当時やりきれなかった感覚みたいなものが、心のどこかに残っていて。だから「リマインドブルー」には、ストーリーとは関係なく自分の入れたイースターエッグみたいなものというか(笑)、比喩として「あの夏は何かを伝えられなかったのかもしれないな」と思ったことを、歌にしたくなったと言えばいいのかな。そういう感覚があったんです。でも、おもしろいもので、ストーリー上でもそういう曲がほしいと(笑)。そしていい曲ができ、アルバムに入れるっていう、非常に健康的な感じ(笑)。

──ですね(笑)。それこそ嘘をついていないという。じんさんは、基本的にはこれまで10代に向けて歌っていたけど、大人になっていく人たちに向けても伝えていきたいという思いが大きくなってきたんでしょうか。

なってきましたね。僕は今年28歳なんですけど、いまだに「こいつ大人だな」って思う人に会うんですよ。すげえズルい人というか(笑)。「うわっ! 出た! 俺の嫌いな大人だ! 戦え!」って、もうバッチバチに敵意を向けていく人もいるんですけど、そういう人たちと相対したときに自分は今も子どもになるんですよね。でも、今回みたいに曲を出したときに、「初めて『カゲロウプロジェクト』の曲を聴きました! 今の自分のことを言ってくれているみたいで感動しました!」って言ってもらえたりすると、俺も大人になったなって思うんです。それって不思議だなと思って。それに、ファンの方が少しずつ大人になってきたとはいうけど、意外とまだみんな大人になっていないんじゃないかって思うんです、その歳の頃って。

──そうですよね。

「もう大人でしょ?」って言われても、そもそも大人っていつなるんだろう?って。そういうことを考えたときに「ロストデイアワー」が出てきたんです。<大人になったけど 君は今でも僕の友達だ>とか。俺、大人になったら「友達」って言葉を使わなくなると思ってたんです。実際、自分の親父とかオカンがそうなんですけど「友達と遊んでくる」って言わないんですよ。

──確かにウチの両親も言わないかも(笑)。

たまに親父の知り合いの人に会っても、自分が思っている「友達」とは違っていたんですよ。なんか、独特の距離感で酒とか飲んでて、あれは一体何だろう?って。だから、昔は大人になったら友達っていなくなると思っていたけど、「いるよ?」ってはっきり言いたかったんですよね。それを言えると思ったし、歌詞にも書いたんですけど、大人になっても結局くだらないことばっかり考えてるなって。すごい余談なんですけど、最近カードゲームにはまってて。俺、28歳にもなって、どんなデッキ組むか?ってことしか考えてないんですよ(笑)。

──ははははは!(笑)

俺、10歳の頃からやってること変わんねえなと思って。で、同い年にも「おもしろいよね」っていう人たちがいて、LINEがくるんです。「今度新しく出るカードのパック、すげえ強えやつ入ってるらしいぜ?」「やべえな!」「一緒に開封しようぜ!」「俺、休みとる!」みたいな(笑)。

──キラキラしてますね。

でも、大人になってもそういうことはあるから。子どもから大人にならなきゃいけないのか、自分はもう子どもではないのかって思っている人に、俺も同じことを考えるけど、大人になることは寂しいことなんかじゃないんだよって言いたかったんですよね。大人になっても子どもの自分は死んでいないし、大人ってなんだろうって考え始めたことを、もしかしたら大人と呼ぶのかもしれないっていう。そういうことを歌っている「ロストデイアワー」は、アルバムにとってすごく大事な曲になったし、今までずっと子どもたちの曲をやってきた中で、この曲が書けたことはよかったなって思います。

じん
じん

──そういう意味でも「大人になるのは悪いことではない」というメッセージが、聴いていてすごく残りました。

今までは大人なんてわからないとか、大人を倒せみたいな感じで、「リマインドブルー」の歌詞にも<今になって 思い出すんだ 君の歌った 「大人が嫌いな歌」を>って書いたんです。それこそボーカロイドとかアニソンとかロック、大人はそういう曲が嫌いだっていう、子どもながらの偏見としてあるんですけど。だけど、あのとき友達のあの子が、あの曲を楽しそうに歌っていたのを、大人になった今でもやっぱり思い出すって、すごくエモーショナルなことだと思うんです。これはエモいぞ!と思って。

──ですね。めちゃくちゃエモいです。

エモーショナルの極みですよ。そういう意味では、僕の嫌いな大人と、僕が好きな大人がいて。「大人」といっても形はひとつではないし、決まっていないし、もしかしたらそもそも存在しないものにそういう名前が付いているのかもしれないということも含めて、結局はその言葉を使う人それぞれに委ねられているっていう。だから、大人になったらこうしなくちゃいけない、子どもはこうでなくちゃいけない、大人になりたくない、子どもに戻りたいみたいなところをほぐしたかったんですよね。自分にはこういう子どもっぽいところと、こういう大人っぽいところがあるっていう。それって10歳の子にもあると思うんです。10歳の子が持っている大人と、28歳の僕が持っている子どもがあるはずで。その辺りが「夏」とか、今回のテーマにある「人との関わり」とかとマーブル状になって、作品として何かエモーショナルなものを感じさせられればいいなって。今作の捉え方は本当に人それぞれだと思うんですけど、でもなにか絶対にじわっとくるものは必ずあると思って願いを込めているところもあるんですよ。

──実際に今年37になる自分が作品を通して聴いて、めちゃくちゃ沁みました。

ほんとですか! ありがとうございます。

──だから、子どもだけじゃなくて大人にも刺さると思いました。

実はそこはちょっと狙っていた部分としてあったんですよ(笑)。自分が大人になってきた中で、自分が嫌いだと言っていた大人と、どう手を繋ぐのか?っていう。正直、「大人が嫌いだ」と言っても、僕ももう大人なんですよね。俺はこどもおじさんなんだっていう(笑)。でも、それも僕にとってはエモーショナルなことなんですよ。

──めちゃくちゃわかります。

だからこそ、ボカロは聴かないとか、アニソンがどうとか、最近のロックは死んだとか、逆にこれをロックと定義づけて保守的になるとか、いろんなパターンがあるじゃないですか。でも、そうやって「こうでなければいけない」「それが普通だ」って凝り固まってしまっているものすべてをほぐしたかったというか。「失想ワアド」の歌詞に<不思議なことに この世界は 「普通なこと」が 難しくて>って書いたんですけど、「一般的」とか「普通」と言われているものって、ものすごく肩が凝るんですよね。

──本当にそうですよね。

なんか、最近思うんですけど、今のロックミュージックほど普通というか形式的になってしまっているものってないと思うんです。たとえば、ボーカロイドやアニメソングって、僕はすごくロックだと思うんですよね。時代を振り返ると、ロックってすごく批判されてきて、こんなものは音楽じゃないと言われてきたんだけど、多くの人が熱狂してきた。そういう文化がものすごく好きだから、それこそボーカロイドとかアニソンは嫌いとか、そもそも聴きもしない人がいることに対して、燃えていたんですよね。「いや、いいものがあるんだよ?」って。だからこそ今回の「リマインドブルー」で「大人が嫌いな歌」という言い方をしました。だから、今作にも反骨的な部分はすごくあるんです。でも「ロストデイアワー」では、「いや、そうは言ってもわかるよ? 俺もおっさんだし」みたいな。だから、自分の中から嘘のない形で、いいバランスで曲たちが出てきてよかったなと思います。

──今後のお話なんですが、これからの『カゲロウプロジェクト』について考えていることはありますか?

たぶん、終わらないかなあと思っていて。「いつまでやんねん!」って話なんですけど、自分がまだちょっと楽しみたい気持ちがすごくあるんですよね。もうやりたくないなって思った瞬間も正直あったけど、やりたいと思っているうちはやっておこうかなと思っていて。

──まだまだ「夏」は終わらなさそうだと。

いやあ、終わらないですね。僕、『カゲロウプロジェクト』が始まって以来、お盆休みがないんですよ(苦笑)。8月15日をキーワードにしてしまったせいでお墓参りにいけない! 先祖の人たちに本当に申し訳ない! まあ、終わったときにまとめてしようかなと思います。

──時期をずらして行かないとですね(笑)。お彼岸とかもありますから。

そうですね(笑)、これからも頑張らないと。今回のアルバムは本当にすごく気持ちよく創れたんですよ。曲を公開したときも予想以上にすごくしっかりとした反応をもらえたりしましたし。

──待っていた人は大勢いると思いますよ。

ありがたいです。その辺って、自分としてはわかりにくいというか、意外と気付けないんですよね。でも、創っている自分としては、5年半前と同じことをやってもダメだろうなって思ってたんです。そういう意味では、この5年半の先にある曲にきっとなっているし、「今までで一番刺さる」と言ってくれた人もいたし。この時間は無駄ではなかったかなって思いますね。

取材・文=山口哲生
※「VOCALOID(ボーカロイド)」ならびに「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。

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