死にゆくオフィーリアから白ユリの美少女まで、ロンドンの「テート・ブリテン」で絶世の美女に会う旅

GOTRIP!

2018/11/3 23:10

ロンドンのテムズ川河畔には、「テート・モダン(Tate Modern)」と、「テート・ブリテン(Tate Britain)」という、「テート」と名のつく2つの美術館が存在します。
今回は主にイギリス美術を集めた美術館、テート・ブリテンをご紹介します。



ロンドン中心部、トラファルガー広場に位置し、『英国の至宝』と称される「ナショナル・ギャラリー(National Gallery)」の所蔵品の中から、イギリスの美術品を展示する分館「ナショナル・ギャラリー・オブ・ブリティッシュ・アート(National Gallery of British Art)」として1897年にオープンし、1955年に「テート・ギャラリー(Tate Gallery)」に改称、大改修ののち2001年に現在のテート・ブリテンと再び改称し、リニューアル・オープンしました。



1500年から現在に至るまでの珠玉のブリティッシュ・アートが一堂に集められた美術館は、まさにイギリスの誇りであり、首都ロンドンになくてはならない存在。



「ブリティッシュ・アートを歩く(Walk through British Art)」というテーマで年代別に分けられれた展示室は、最も古い年代の美術品を集めた展示室「1540」から、1960年代から現在までの美術品を集めた「Sixty years」まで、15の展示室があり、このほかに作者別やテーマ別の展示室が鑑賞しやすくレイアウトされています。



特に規模の大きい展示室「1840」には、1840年代から1890年代の作品が展示されており、当時の旧態依然としたイギリス美術界の慣習を打ち破った芸術家グループ「ラファエル前派(Pre-Raphaelite Brotherhood)」の人気作品も数多くあり、特に多くの人々で賑わっています。



テート・ブリテンには、ラファエル前派の画家たちが好んで描いた美しい女性をモデルにした作品をはじめとし、魅力的な女性が描かれた作品が多く、その美しさは世界中の訪問者を魅了しています。



数多くの美女たちの中で、筆者が特に目を奪われたほんの一部をご紹介しましょう。

・個性が輝きを放つ「ハレルヤ(Alleluia)」

1896年、展示室1900

1876年から美術の勉強をはじめたトーマス・クーパー・ゴッチ(Thomas Cooper Gotch)は、ロンドンやオランダの美術学校で学んだ後、フランスやオーストラリアなど各国を転々とし、また美術教師として活躍しました。
1891年から1892年までイタリアのフィレンツェに滞在したゴッチが、ルネサンス芸術の影響を受けて、後に独特な人物画を描くようになった頃の作品です。



賛美歌を歌う少女たちが身にまとったドレスは、サファイヤやルビー、アメジストやエメラルドといったカラフルな宝石のように輝き、キリスト教の祭壇のような黄金の背景にちりばめられています。



少女たちの髪色は、黒髪、栗毛、赤毛、ブロンド、と様々で、ストレート、ウェーブ、巻き髪、ショート、ロングなど、髪質と髪型にも個性が表されています。



彼女達の美しさに強く惹きつけられるのは、現代の美的感覚に十分に通じるものがあるからなのかもしれません。

・「家に帰る落ち穂拾いたち(Gleaners Coming Home)」

1904年、展示室1900

デンマーク系イギリス人のジョージ・クラウゼン(Sir George Clausen)は、ロンドンからフランスに移ると、自然主義の画家に影響を受けました。イギリスへ戻ると、田園風景やそこに暮らす農民などをモチーフにした作品を多く描きました。



印象派の影響が色濃いこの作品には、落ち穂を拾い集めて家路に着く農民たちの姿が描かれています。画面の中央に描かれた女性の姿は特に力強く、神々しい美しさを放っています。

・「受胎告知(The Annunciation)」

1892年、展示室1890

フランスで美術を学んだイギリスの芸術家世代であるアーサー・ハッカー(Arthur Hacker)が、聖母マリアが大天使からキリストの妊娠を告げられる場面を描いた大作です。



「受胎告知」の場面は宗教画として様々な画家たちに描かれていますが、この作品は宗教画然とした多くの作品とは印象が異なります。



井戸で水汲みをするマリアの背後からまるで霊魂のように忍び寄る大天使ガブリエルと受胎告知を受けたマリア。マリアの静かながら深い驚きを表現しているのか、彼女は直立し、胸に両手を当てながら真顔で一点を見つめています。マリアの目線は絵の鑑賞者を直視しているようでもあり、宙を見つめているようでもありますが、この大きな絵の中でわずかな大きさでしかないながらも、その強烈な目力に釘付けになってしまいます。

・ラファエル前派の最も有名な作品「オフィーリア(Ophelia)」

1851-2年、展示室1840

ジョン・エヴァレット・ミレイ(Sir John Everett Millais)、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti)、ウィリアム・ホルマン・ハント(William Holman Hunt)の3人の画家によって1848年にロンドンで結成されたラファエル前派(『ラファエル』は『ラファエロ』の英語読み)は、イタリアの画家ラファエロを芸術の最高峰と仰ぎ、旧態依然としていた当時のイギリス美術界に反旗を翻し、ラファエロが登場する以前の色彩豊かで生命力に溢れた芸術を取り戻すことを理想に掲げました。ラファエル前派の作品群の中で、そして、テート・ブリテンが所蔵する作品の中でも、おそらく日本で最も有名なのがミレイの傑作であるこの作品ではないでしょうか。

シェイクスピアの戯曲「ハムレット」の登場人物であるオフィーリアは、デンマーク王子のハムレットに翻弄されたのち、父を殺されて半狂乱になり、木の上から川に落ちて死んでしまいます。



むせ返るような濃い緑が溢れる小川の中、口を半開きにし、水に流されながらかすかに歌を口ずさむオフィーリア。その顔に生気はなく、魂さえ抜けているかのように見えると同時に、すべての苦しみから解放され、安堵しているかのようにも見えます。
手の周りに浮かんでいるのは、象徴的な花。ポピーは死を意味し、デイジーは無邪気、パンジーは思考を意味します。水際には青く小さな花をつけた忘れな草が描かれています。



縦約76センチ、横約112センチのこの絵の中に描かれている象徴は植物だけではありません。茂みの中に死を象徴するドクロが描かれています。



この絵のモデルを務めたのが、ラファエル前派のミューズとして当時画家たちの間で引っ張りだこであったエリザベス・シダルという女性です。

ミレイはオフィーリアが水に浮かんでいる様子を描くため、服を着たままのシダルを金属製のバスタブに入れました。バスタブの下にランプの火を当てて水を温めながら描いたものの、その火が消え、シダルが寒さに震えるのにも気付かないほど、制作に熱中したのだそう。そのせいでシダルは体調を崩したため、彼女の父親がミレイに治療費を請求したという逸話があるほど、ミレイが心血を注いだこの作品。
緻密な自然の描写、オフィーリアの圧倒的な美しさ。ミレイの魂がこもった必見の作品です。

・ロセッティの傑作「プロセルピナ(Proserpine)」

1874年、展示室1840

2014年に東京の森アーツセンターギャラリーで開催された「テート美術館の至宝 ラファエル前派展」のポスターに登場し、強烈な印象を与えたのが、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティのプロセルピナです。



豊かな黒髪にすっと伸びた鼻筋、分厚く真っ赤な唇同様の赤いザクロを手にし、心ここにあらずといった様子でどこか一点を見つめるプロセルピナ。
取材時(2018年10月現在)は、壁の少々高い位置に展示されており、鑑賞しづらいのが残念だったのですが、それでもその他多くの絵画に囲まれながら、一際の存在感を放っていました。
ローマ神話の女神、プロセルピナをモチーフにし、冥界の王プルートに誘拐され、1年の半分を冥界で暮らすことになってしまったプロセルピナの憂いに満ちた姿を描いています。

・「カーネーション、リリー、リリー、ローズ(Carnation, Lily, Lily, Rose)」

1885-6年、展示室1840

背の高いユリ、黄色のカーネーション、可憐なピンクと深紅のバラが咲き乱れる、夕暮れ時の薄暗い庭に、優しく灯る提灯の灯り。ヴィクトリア時代の少女の特徴的な服装であるコットン・ドレスを着た2人の少女が、提灯に火をともしています。



アメリカ人の両親の元、イタリアで生まれたジョン・シンガー・サージェント(John Singer Sargent)は、19世紀後半から20世紀前半にイギリスで活躍した画家です。
一日にほんの数時間、夕暮れ時に屋外で制作されたというこの作品。少女たちとその周りを取り囲む花々の純粋無垢な美しさと、提灯の優しい灯りに、なんとも言えない心の安らぎを覚えます。
絵の素朴な内容とはかなり対象的に豪華な黄金の額縁との対比も見事です。

・「マクベス夫人に扮したエレン・テリー(Ellen Terry as Lady Macbeth)」

1889年、展示室1840

言わずと知れたシェイクスピアの戯曲「マクベス」。当時のシェイクスピア劇で活躍した人気女優、エレン・テリー(Ellen Terry)が演ずるマクベス夫人に衝撃を受けた画家、ジョン・シンガー・サージェントが、絵のモデルになるようエレンに懇願して書き上げた大作です。



勇壮な将軍であるマクベスは、野望溢れる妻に叱咤され、主君を暗殺して王位を奪ったものの、その重圧や亡霊に怯えて錯乱し、ついには貴族や王族らの復讐に倒れます。マクベス夫人も罪悪感から精神に異常をきたして死んでいきます。

縦2メートル21センチ、横1メートル14センチという絵の大きさもさることながら、念願の王冠を頭上にかかげ、権力に取り憑かれて狂気に満ちたマクベス夫人の迫力に圧倒されます。ただ、実際の舞台ではこのポーズはとっておらず、サージェントが考えだしたものだそうです。

・ファッショナブルな「シャロットの女(The Lady of Shalott)」

1888年、展示室1840

19世紀の詩人、アルフレッド・テニスンによる「シャロット姫」を題材にしたジョン・ウィリアム・ウォーターハウス(John William Waterhouse)の大作。



精緻(せいち)に描かれた自然の中、川に浮かぶボートの上に座る悲壮感たっぷりの女性。どこかミレイのオフィーリアを彷彿とさせますが、説明書きにはやはり「ミレイのオフォーリアに敬意を表したのかもしれない」と記されています。
川の中洲に住むシャロットは「外の世界を直接見たら死ぬ」という呪いにより、鏡に映る外の世界を眺めながら、来る日も来る日もタペストリーを織って暮らしていました。ある日、川のほとりで歌うランスロット卿の歌声に惹かれ、ついに外の世界を覗いてしまいます。その途端に呪いが現実のものとなり、織物の糸に巻きつかれながらやっとの思いで小船に乗ったシャロットは、対岸に辿りつく前に息絶えてしまいます。



まさに、ミレイのオフィーリア同様、死にゆく女性の姿を描いた絵なのです。

・テート・ブリテンを訪れる時は

今回ご紹介したのは常設展示されている作品ですが、時には展覧会などへの貸し出しで展示されていない場合があります。

どうしても見たいというお目当ての作品がある場合には、展示状況を確認してから訪問することをお勧めします。
テート・ブリテンのホームページで絵の名前を検索し「NOT ON DISPLAY」、貸し出し中のため「ON LOAN TO:(貸出先)」などと表示される場合は、残念ながら展示されていません。「●On display at Tate Britain」と表示されれば展示されているということになります。

絶世の美女たち会いにロンドンまで出かけてみませんか?

TATE BRITAIN
開館時間 月~日 午前10時~午後18時
住所 Millbank, London SW1P 4RG
https://www.tate.org.uk/visit/tate-britain

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