岩井秀人×松尾スズキ×前野健太インタビュー “ひどい人生”を描いた音楽劇?!『世界は一人』

SPICE

2018/11/7 11:00


劇団ハイバイを軸に、劇作家、演出家、そして自ら俳優として、人からにじみでる哀愁や滑稽さを、繊細かつ鋭い表現で独自の世界に展開している岩井秀人。今活動が最も注目される一人である彼の2年ぶりの新作が来春、パルコ・プロデュース公演『世界は一人』として東京芸術劇場プレイハウスにて上演される。この作品は、岩井が初めて手掛ける「音楽劇」で、昨年上演された、コドモ発射プロジェクト『なむはむだはむ』での共作も記憶に新しいミュージシャンの前野健太が音楽として参加する。出演者には、松尾スズキ、松たか子、瑛太と豪華キャストが名を連ねており、ここまでの事前情報だけでもスケールの大きな舞台になる要素が盛りだくさんだ。

既に期待が高まる今作品について、岩井と、主演の松尾、音楽の前野に、それぞれ意気込みや現在の心境を聞いた。

ーーまずは、今回の企画が立ち上がった経緯を教えてください。

岩井:もともとミュージカルを見るのは好きでしたが、でも実際やるのはきっと違うんだろうな、と思っていたんです。僕の作品は家族の話や自分の身の回りの話が多いんですが、「レ・ミゼラブル」とか「ミス・サイゴン」とかを見ていると、時代背景の大きなものしかミュージカルには向かないのかな、と思ってしまって。でも、歌とか音楽って、もちろんそういう爆発力もあるんだけど、もっと個人的な小さなことでも拡大してみんなに届ける力があると思うようになって、そう考えると、僕がいつもやっているサイズ感のことも音楽にしてこそ爆発させられるんじゃないかな、と。その感覚がこの企画のスタートですね。
岩井秀人
岩井秀人

ーー岩井さんが音楽劇、というのにびっくりしました。

岩井:そうですよね、音楽と関係なさそうですもんね。僕の芝居ではいわゆる状況説明の音楽も使わないし、使ったとしても「カラオケのシーンだからそのままカラオケを流す」というものだったし。

ーーでも『なむはむだはむ』以降、前野さんとのお仕事が続く形になりました。

岩井:去年の『なむはむだはむ』で(森山)未來くんとマエケン(=前野健太)と一緒にやったことが大きいですね。僕の芝居は自然な体で、自然なしゃべり言葉で扱う演劇で、かたやミュージカルは歌うための身体を持った俳優が巨大な背景も含めて堂々と「歌うぞ!」って歌っていて、僕の芝居とミュージカルは完全に別物という認識だったけれど、『なむはむだはむ』ではそのどちらでもない、その間というかもっと全然関係ないところをウロウロさせてもらえた気がしているんです。音楽は鳴っているけれど好きな時に歌にいけばいい、という感じで、舞台上における身体のあり方がすごく自由に感じられました。その自由さでいけば、モノローグの最中からスルッと歌に入っていくことも可能だし、逆にスルッと歌をやめてまたモノローグに戻っていくこともできるし、それがダイアローグでもできるし、と考えることができたんです。あとやっぱり歌の強さと言いますか、僕の表現だけだとパターンが少なそうですが、マエケンの表現だと、夜そのものだったり、家に置いてあるタンスだったり、様々な視点から歌うことができて、そうやって視点がいろいろなところに飛んでいけるのは歌の持つすごい力だな、と思っています。

ーー松尾さんはじめ豪華キャストが揃いました。

岩井:豪華キャストなんですよ、本当に。「全員集まった!」って思いました。例えば大勢の有名人が出て来ていろんなことをする、というのはそれはそれで贅沢だと思うけれども、例えば松尾さんと松さん、あるいは松尾さんと瑛太くん、とか2人だけの20分のシーン、っていう贅沢もあると思うんですよね。

松尾:怖い(笑) この人数の少なさが怖い。

岩井:僕もその怖さはなんとなく感じます。でも、僕は自分の劇団でやっているみたいに、一人の俳優がいくつかの役を「演じようとする」ことができるところが演劇の面白さだと思っていて、その不可能さも含めて面白がれるというのは演劇の特殊なところなので、それは有効活用していきたいと思っています。出演者は俳優が7人で、マエケンも出るので8人になります。マエケンは、バンドが舞台上にずっといて、その間をウロウロする感じですね。別の場所にバンドだけいて、ってなるとただの“伴奏”になってしまうので、そこは舞台上の世界とバンドの世界を混ぜたいと考えています。

ーー松尾さんは、ご出演が決まったときどのようなお気持ちでしたか?

松尾:僕が多分一番最初に決まったんですけど、その後に松さんが決まり、それから瑛太が決まり……おいおい大丈夫か、と(笑) もうちょっと気楽な感じで受けたんだけど、これは気楽じゃないな、って。そうか岩井、ちゃんとやる気なんだな、なんちゃって音楽劇じゃないんだな、って思いました。さっき岩井くんが言っていたように、ミュージカルっていうと大きな世界観の中で歌が始まって、というイメージが確かにあるけど、フランスのミュージカルとか『シェルブールの雨傘』みたいに、日常会話からサッと歌に入っていくのもおしゃれな感じがしていいな、と思います。でも、昨日あらすじをもらって読んだら、とてつもなくシェルブールではなかった(笑) これはひどい話だなと。
松尾スズキ
松尾スズキ

ーー松尾さん、松さん、瑛太さんの3人が同級生という設定ですね。

松尾:同級生はびっくりしましたね。どう頑張ればいいのかがまずわからない。何歳くらいからやるのかな。

岩井:8歳。

松尾:8歳かぁ……8歳児ってどんな感じなんだろう。

岩井:全然変わらないでいいんですよ。8歳児でも、言ったほうがいいかな、でも言ったところでなぁ、ってちょっと諦めて立ってる子とかいるじゃないですか。それが8歳だという設定だけで哀愁が爆発的に伸びる。5円だけ足りなくてみんなと同じものが買えなかった、そのとき小学校2、3年の松尾さんがゆっくり歌いだす、みたいなのを見たいじゃないですか。

ーー前野さんは、今回のお話を聞いた時のお気持ちはいかがでしたか?

前野:こういう曲を書いてほしいとかそういう要望が全然なくて、これからどうなるのかわからないですけど、まず今の段階は二人でスタジオに入って、岩井さんが自分で歌を書けるし曲も作れる人だから、それをちょっと整えるくらいのことをやっています。初めて岩井さんの舞台を見たときに、僕の好きな歌のようなものをすごく感じました。セリフの中に歌詞が既にあったというか、セリフが歌詞のようだと思ったので、今回岩井さんが音楽劇をやるということに全然違和感がないです。

ーー岩井さんの作品を見て感じた「僕の好きな歌」というのは、具体的にどういう歌なんでしょう?

前野:僕は街に出て歌を作ることが多いんですけど、例えばジャズ喫茶のママが言った言葉を歌詞のように感じて、そのまま本当に僕の歌の歌詞にしてしまうことがあるんです。街の人の話をそのまま歌にしちゃうから、自分は歌を書いていないような不思議な感触もあって、岩井さんも誰かの経験を元にそのまま作品にしているので、やっていることが近いな、と。そういうところがすごく好きですね。

ーーいわゆる一般的なミュージカルとは全然別のものが出来上がりそうですね。

岩井:音楽が鳴ったから歌いだすんじゃなくて、セリフと歌の中間部分みたいなところをもっと味わえるんじゃないかと思っているんです。二人で会話している最中にピアノが鳴り始めて、つられて他の楽器も弾き始めて、みたいに、人間同士が話していたことがだんだん音楽になってその流れで歌になっていくとか、あるいは歌にならずに音楽だけで終わるとか、いろんな道筋があるはずなんですよね。様々な表現の仕方、面白さを稽古場で探りながらやってみようと思います。
(左から)岩井秀人、松尾スズキ、前野健太
(左から)岩井秀人、松尾スズキ、前野健太

ーーそしてあらすじを読ませていただきましたが……。

岩井:いますね、ひどい人生を送っている人が。いつも通り取材を元にしています。さっき松尾さんが懸念していたように、今の段階でこれくらいひどい話なので、ここからもっとひどくならないように注意しなければ、とは思っています。僕は、俳優さんは悲劇にあえばあうほどいい、と思いすぎる節があって、どんどんひどいシーンに書き換えていってしまったりするので。

松尾:北九州を持ってきやがったか、っていうのはありますね。岩井くんってタフな人なんだろうなぁ、って思います。自分に暴力をふるっていたお父さんのことを自分で演じるって、俺だったらできないなと思うから。自分が北九州出身だっていうようなものを芝居に書いたこともないし。でも今回は、自分のことも乗っけていく作業になるんだろうな、と思いましたね。以前『業音』という芝居をやったときに、全員に本名の役名をつけてやったことがあって、それは主演の荻野目慶子さんに何かを背負わせようという狙いでした。そこでやったような、ある種の覚悟というか、私服で舞台に出るみたいなものを岩井くんの舞台からは感じています。

ーー松尾さんと岩井さんは2016年の舞台『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』でもご一緒されています。

松尾:岩井くんは芝居が終わったら飲みに誘ってくれるんですよ。僕はあまりやらないんですけど、そういう場で話をして、岩井くんが日頃どういうことを考えているのか知ることができる、というのは大事だなと思いました。9月に発売された岩井くんのエッセイ集『やっかいな男』を読んでみたら、「この世には自分しか主役しかいなくて、周囲は書割だから感情がない、と思ってた」というようなことが書いてあって、「世界は一人」っていうタイトルに結び付いていますよね。でも僕も、小学校3、4年生くらいの頃にちょっと似たような世界観を持っていたんです。僕の場合は、この世は神様が自分に見せている幻影だという妄想に取りつかれて苦しんでいて。ある意味それも「世界は一人」なんですけど。

ーー『なむはむだはむ』以降、あらかじめしっかりは決めずに場に臨む、ということを岩井さんは大事にされていますよね。

岩井:今回に関して、物語と音楽の原型は自分の中にあるし、もちろん台本も書きますけど、「その人にやってもらう意味」を考えると、「この人生をあなたが生きるとしたら、この瞬間どういうリアクションする?」と俳優自身でチョイスする部分を作りたいと思っています。歌に関しては難しいんですけど、通常のミュージカルだと、稽古場までにデモテープを渡されて、曲を練習してきてちゃんと歌える、というのがスタート地点だと思いますが、僕もマエケンもスタジオで曲を作りながら、ある程度以上は決めないようにしています。大体のフレーズや構成は決まっているけれど、俳優さんと一緒に歌ってみたりしながら決めていきたいと思っているので。

前野:僕と岩井さんが作った歌を松尾さんが歌ってみたら、こっちの言葉の方がいいだろう、と歌詞が変わるのは当然出てくるだろうし、メロディーも然りです。そういうのがすごく楽しいですね。松尾さんの声は、このボソボソ、が既にいいんですよ。もう歌があるというか。あまり最初から決めつけずに、この声を生かしたいと思っています。
前野健太
前野健太

岩井:「ちょっと今日はあの歌はやめようか」みたいな判断ができる雰囲気があるといいな、と思いますね。楽譜に書いてあるから違和感あるけど変えない、という判断じゃなくて。

松尾:自分が作・演出するときはもっとかっちりやっているけれど、今回はリズムだったり音程だったり、そういうことから自由になれたらいいな、とは思いますね。

ーーそれでは最後に一言ずつ。

岩井:けっこう見たことのないものになると思うので、ミュージカルが好きな人も、全く見たことがない人でも、人間に興味がある人はみんな来てください。これだけの人数でも全然空間を埋められるというか、見ている人の心に十分なものを届けられると思います。

松尾:稽古から公演まで長い旅になるから、険悪な仲にならないように、楽しい座組になればいいなと思っています。苦しみはもちろん必要なんだけど、険悪な仲からは“歌”ってあまり生まれないような気がしていて。この期間はお芝居のことだけを考えられるようにしてあるので、じっくり楽しみたいと思っています。

前野:役者の方が歌う、ここでしか聞けない歌がたくさん聞けると思うので、楽しみにしていてください。

インタビュー中、お互いの発言にツッコミを入れ合ったり、3人で話が盛り上がったり、と既にチームワークが出来上がっている様子がうかがえた。松尾は岩井よりも年長者で演劇界の先輩にも当たるが、岩井に対するリスペクトの姿勢がうかがえたことも印象的だった。年齢、経歴、肩書、役割……そういったものすべてがボーダレスに混ざり合った座組となることが目に浮かぶ。そんな彼らがどんな音楽劇を見せてくれるのか、公演を楽しみに待ちたい。
(左から)前野健太、松尾スズキ、岩井秀人 
(左から)前野健太、松尾スズキ、岩井秀人

取材・文=久田絢子 撮影=荒川 潤

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