「発達障害者はコミュ障」なんて、ただの思い込み――光武克の「発達障害BARにようこそ」

日刊SPA!

2018/11/7 08:51



― 光武克の「発達障害BARにようこそ」第3回 ―

東京・渋谷にある発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」。ここは、マスター以下スタッフのほぼ全員が“発達障害の当事者”であるバーです。当店には毎晩、僕らと同じように発達障害の悩みを抱えたお客さんたちが数多くいらっしゃいます。そんな生きづらさを抱えた方たちが少しだけ羽を休めに立ち寄るバーの日常を、僕、マスターの光武克(みつたけ・すぐる)がご紹介します。

====【発達障害とは?】====

■自分の世界に閉じこもりがちな「自閉症スペクトラム症」(ASD)

■注意欠陥と衝動性が強い「多動性注意欠陥障害」(ADHD)

■特定分野(計算だけ異常にできないなど)の理解が困難な「学習障害」(LD)

上記の3種類が一般的に知られている。発達障害者はそれぞれ複雑な“特性”を抱えそれによって日常生活において、さまざまな支障が出る人も多い。

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皆さん、こんにちは。発達障害BAR The BRATsのマスターを務めます光武です。

最近の僕は、家賃の振り込みを忘れて、親から「いい加減にしろ」という連絡がきました。相変わらず自分の身の回りのことはポンコツっぷりを発揮しています(苦笑)。さすがに33歳になって親から叱られるのもひどいものだなぁ……と考えていたのもつかの間、数分後には落ち込むこと自体に飽きて、飼い猫にモフりに向かったのは言うまでもありません。

だって落ち込むこと自体が無駄ですから。これ読んだら、母がまた渋い顔をしそうですが、それはそれということで、自分乙!

そんな僕ですが、お店に立つとちゃんと仕事をするんです!お店での僕しか知らない方は、僕のポンコツっぷりにギャップを相当感じると言います。

「えっ!光武さんって、そんなにポンコツだったの???」

「見た目だけはそう見えないみたいですwww」

ええ、もはやこれは定番のやりとりとなりつつあります。

そんなBRATsも営業を開始してもう8か月が過ぎようとしています。一応、ずっとお店にいらっしゃるお客さんを分析して一つ傾向をまとめてみると、ADHDの方の割合が多いように思います。これはやっぱり衝動性が強いから気になったらまず来てみたくなっちゃうのかなと個人的には思っています(ちなみに飽きるのも早いのがADHDの特徴なので、常連になりにくいというね! さあ、この記事読んだらもう一回おいで!)。

しかし、自分の世界に閉じこもりがちな(いわゆる自閉傾向があるとされる)ASDの方もたくさんいらっしゃるんですね。あまり社交的ではないと思われがちなASD。そんなASDのお客さんのお話を今日はしようと思います。

今日のお客様は遠藤静香さん。年齢は27歳で、服装や髪型はカジュアルなのに少し暗めの雰囲気でご来店されたので、よく印象に残っていました。そんな遠藤さんですが、店の奥の方のテーブルに一人でお座りになりました。

光武「いらっしゃいませ。お飲み物は何にされますか?」

遠藤「あっ……、オレンジジュースで……」

光武「たしか、初めてのお客様ですよね? 何がきっかけでうちを知ったんですか?」

遠藤「…………」

光武「無理しなくていいですよ。ゆっくりしていってくださいね」

お客様のなかには、人と話すことが苦手で、一人で様子を見に来られる方もいらっしゃいます。そういうときはそっと一人にしておくことも大切かなと思い、あえて何もしないことがあります。

ですが、その後、遠藤さんは誰とも話せずじっとしていらっしゃいます。そのうち、なんと涙を流し始めてしまいました。

ウチにいらっしゃるお客様は、どんなに口下手であっても、人との繋がりを求めていらっしゃるケースがほとんどです。誰かと繋がっている実感、これは定型発達/発達障害を問わず、読者の皆さんも含め人間すべてが求める根源的な欲求なのかもしれません。

実は遠藤さんのようなケースはそれほど特殊なケースではありません。あくまでバーである以上、過剰な介入は避けていますが、このような場合(特に一人でいらっしゃったお客様が輪の中に入れずにいる場合)は、私を含めたスタッフが積極的に声がけをするようにしています。またありがたいことに、初めていらっしゃったお客様に対し、スタッフが声を掛けるより先に来たお客様が積極的に声がけをするケースも珍しくありません。

この日、カウンターで話していた山本さんと横山さん。お2人はもう何回目のご来店でしょうか?(笑) サラリーマンと公務員の二人組で、初めはお店で仲よくなって、いつの間にか最初から2人で飲んでいたかのような関係に変わっていました。

最初は一人で来ていたのに、お店で何度も見かけるようになると、「また会いましたね」という会話に発展していくケースが多々あります。

山本「こないだ仕事のスケジュールをダブルブッキングしちゃったんだよね」

横山「わかる! 僕もそれ、こないだやっちゃいました!めっちゃ上司に怒られちゃいましたよ」

山本「まじかぁ。後処理は上手くいったの?」

横山「なんとか、周りの人に手伝って貰ってひーひー言いながら謝罪行脚ですよ」

山本「ご愁傷様……って、あれ?そっちのテーブルの人、大丈夫? おーい、よかったらこっちに来ませんか?」

光武「よかったらこちらにいらしてくださいよ。この人いつも失敗ばかりしている面白い方ですよ!」

山本「光武さん、その紹介はさすがにないですよ!!!」

遠藤「あの……わ、わたしも実は………」

こうして少しすこしずつですが、遠藤さんに笑顔が戻ってきました。よかったよかった。

山本「僕は山本って言います。こっちは横山さん。よかったらお名前うかがってもよろしいですか?」

遠藤「……遠藤です。話しかけていただけて嬉しいです。あの、本当にお邪魔じゃないですか?」

横山「何を言ってるんですか。ここはそういう人が集まる場所なんだから、ここで気を使っても仕方ないですよ。ね、光武さん。気を遣うのは光武さんの仕事でしょ?(笑)」

光武「お上手なことで。そうですね、裏方の仕事は僕にお任せください」

山本「光武さん、パッと見たら何でもできそうなのに、話聞くとポンコツなんですよ。そのギャップがお酒を進ませるんですよね、この店」

遠藤「……ふふふ」

実はこの時、一連の流れをテーブル席の片隅で、マティーニを飲みながらじっと観察していたもう一人のお客様がいらっしゃいます。心理学を大学で教えていらっしゃる斎藤先生です。彼は心底びっくりした顔で僕に感想を言ってきました。

斎藤「ASDの人が初対面の人とこんなに話せるなんて! そもそもコミュニケーションを取ろうとする願望が少ないと思っていたから驚きです」

光武「そうですね。僕は寂しがり屋だから特にそうなんですけど、ASDの傾向があっても、やっぱり人に共感してほしい、繋がっていたいという気持ちが強くありますね。逆に『誰かと繋がっていたい』という感情は人間皆が持つ普遍的なものなのかもしれませんね」

僕はBRATsでいわゆる机上の学問とは異なる現実の面白さを垣間見た気がしました。

「一般には〇〇と言われているけれど、実際は全然違った」

こんなことが発達障害に限らず、僕らの周りにはあふれているのかもしれません。こんな風にカテゴリーに当てはまらないものと出会ったとき、目の前の不思議さを大切にしてみる。これが「互いに尊重し合う」ということではないかと、僕は思います。

そしてこの緩やかなつながりによって、このBRATsという空間は成り立っている気がします。

笑顔が戻り、楽しそうに話をする遠藤さん。

その笑顔を見て自分も笑顔を共有している山本さんと横山さん。

そんなやり取りを見つめて興味津々な斎藤先生。

明日はどんな人が足を運ぶのかを考え、今日しかない時間を僕は大切にしたいと思います。

今回もご愛読ありがとうございました。それでは、またのご来店お待ちしております。

*お客側の登場人物はプライバシーの問題から情報を脚色して掲載しています。

<文/光武克 構成/姫野桂 撮影/渡辺秀之>

【光武克】

(みつたけ・すぐる) 発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」のマスター。昼間は予備校のフリー講師として働く傍ら、‘17年、高田馬場に同店をオープン。’18年6月からは渋谷に移転して営業中。発達障害に関する講演やトークショーにも出演する。店舗HP(brats.shopinfo.jp) ツイッターアカウント「@bar_brats」

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