ミュージカル指揮者 塩田明弘が『マリー・アントワネット』の楽曲の魅力を語り尽くす

SPICE

2018/11/7 06:00



2006年、ミュージカル界のゴールデンコンビ、ミヒャエル・クンツェ(脚本・歌詞)とシルヴェスター・リーヴァイ(音楽・編曲)の手によって、日本で華々しく初演を迎えたミュージカル『マリー・アントワネット』。初演から12年経った今、その伝説の作品が新演出版として日本に帰ってきた。

世界初演時の製作から携わり、現在も帝国劇場のオーケストラピットで指揮を振り続けるミュージカル指揮者 塩田明弘氏に、新演出版『マリー・アントワネット』の楽曲が持つ魅力を語り尽くしてもらった。


再演ではなく、新しい作品として臨む『マリー・アントワネット』


――初演から12年ぶりの再演となりますが、再演が決まったときはどんなお気持ちでしたか?

こうしてまた『マリー・アントワネット』という作品に携わることができるとは、正直思ってもいませんでした。僕はどの作品においても、毎回初心の気持ちで取り組むようにしています。『マリー・アントワネット』は再演ではありますが、曲のシチュエーション、タイトル、アレンジなども違いますし、新しい作品へ臨むという感覚が強いですね。

初演から12年も経てば、時代の流れや社会の状況も変わります。例えば女性の社会の中での立ち位置なども、時代と共に変わりつつあるものの1つでしょう。初演を観られたお客様自身の環境も大きく変わっていると思います。そういった意味でも、観る側もやる側も新作だと思って臨むのが良いのかな、と。

――現在『マリー・アントワネット』は帝国劇場で上演されていますが、初日の幕を開けたのは福岡の博多座でしたね。

今回の博多座での開幕というのは、1つの新しい試みだと感じています。これまで全国を巡るような大きなミュージカル作品の幕開けは、東京や大阪の劇場であることが多かったと思います。博多座で開幕したことによって、福岡のお客様も博多座のスタッフの皆様も、幕開けの劇場としての独特の緊張感や楽しみを肌で感じられたのではないでしょうか。地方のミュージカル活性化という面でも、非常に良いことですね。


「リーヴァイさんと仕事をして16年、彼の音楽をより一層深く理解できた」


――塩田さんは『エリザベート』や『モーツァルト!』など、『マリー・アントワネット』以外の作品でもリーヴァイさんとお仕事をされてきたと思います。リーヴァイさんの楽曲に関して、どんな印象をお持ちですか?

僕が初めてリーヴァイさんと仕事をご一緒したのは2001年の『エリザベート』ですが、最近になってようやく、彼の音楽をより一層深く理解できたと思っています。新演出版『マリー・アントワネット』の製作では、リハーサル時点から幕が開くまでずっとリーヴァイさんが稽古に立ち会ってくださっていました。個人的に、今までで一番リーヴァイさんと長く時間を共有することができた日々だったと思います。それもあって、もちろん完璧ではないかもしれないけれど、彼の音楽独特のメロディーやテンポに対する理解が深まったと感じるんです。

――リーヴァイさんの音楽に対する塩田さんの解釈を、より具体的に教えてください。

リーヴァイさんの音楽はとにかくフレーズが長く、音楽と言葉が密接にリンクしています。そして時には力強く、時には優美淡麗であることが特徴だと思います。例えば今回の作品で言うと、貧しい民衆たちの激しい感情が、美しさ、激しさ、切なさを伴ってメロディーに乗っています。登場人物の心情の動きのメロディーへの乗せ方が、とても素晴らしいんです。

彼がハンガリー人であるということが、彼の音楽性に大きく影響しているのではないかと僕は考えています。日本とは違った、国と国との軋轢や社会的背景がある中で生きてきた人だからこそ、その沸き立つエネルギーがフレーズの長さや、地の底から湧き上がる内的に表現されたメロディーやテンポに表れているのではないでしょうか。今回の『マリー・アントワネット』の仕事を通して、さらにリーヴァイさんの音楽への理解が深まり、新しい発見も得ることができたと思います。


――そんなリーヴァイさんの楽曲で紡がれるMAという作品の中で、塩田さんが個人的に気に入っている曲はありますか?

たくさんありますが、まず挙げるとしたら今回新たに追加されたマリーのソロ曲、『孤独のドレス』ですね。この曲はレチタティーボ(※話しことばに近い叙述的な独唱、叙唱)とアリア(※旋律の美しさを重視した叙情的な歌唱、詠唱)という2種類の歌い方が絶妙に融合していて、まるで音楽が芝居をしているかのよう。リーヴァイさんの作った音楽というのは、忠実に、正確に歌うことで自然と立体的になるんです。『孤独のドレス』は、その様子が顕著に表れている曲かもしれません。

そして、マルグリット・アルノーと民衆たちが歌う『もう許さない』。この曲は落ち着いたテンポでスタートして徐々に盛り上がっていくのですが、実は最後までテンポは変わらないんです。普通、キーが変わって曲が盛り上がるとテンポを上げたくなるもの。けれどあえてテンポを上げないことで、民衆たちの地の底から沸き上がるマグマのような沸々とした熱いエネルギーが伝わってきます。今にも火山が噴火する直前の、ものものしく、重厚なテンポと言えばいいでしょうか。最近は「これがリーヴァイさんの音楽なんだ!」と感じながら指揮を振ることが快感になっています。

――2人のMA(マリー・アントワネットとマルグリット・アルノー)は非常に対照的な人物として描かれていますが、音楽面でもやはり対照的な特性を持っていると言えるのでしょうか。

優美淡麗に歌うマリーと、エネルギッシュに激しく歌うマルグリット。2人の生き様が、そのまま声のトーンとキーになって曲に表れていますね。ただ、物語が進むにつれてマリーも地声で力強く歌う場面もありますし、マルグリットにも苦悩が生まれることで変化があります。王妃と貧民という全く異なる立場のマリーとマルグリット2人のMAが、物語の最後に通じ合う様子が垣間見えるところが良いですね。


渾身の想いで取り組む『マリー・アントワネット』を一人でも多くの方に観てほしい


――最後に、これから『マリー・アントワネット』を観る方へメッセージをお願いします。

登場人物それぞれの想いや葛藤が音楽になっているのが、『マリー・アントワネット』という作品です。だからこそ、この作品を観た方一人ひとりに違った捉え方をしていただき、その違いを皆さんで語り合ってほしいですね。マリーとマルグリットをはじめとする登場人物の生き様を、今この時代にいるお客様それぞれの考え方で受け止めてもらえればと思います。

『マリー・アントワネット』ではオーケストラも役者もスタッフも、皆さん毎日クタクタになりながら、渾身の想いでこの作品に取り組んでいます。公演は年明けまでまだまだ続きますので、一人でも多くの方に観ていただけたら嬉しいですね。


『マリー・アントワネット』は帝国劇場で東京公演が11月25日まで、その後12月10日~21日まで御園座で愛知公演、1月1日~15日まで梅田芸術劇場メインホールで大阪公演と、年明けまで公演が続く。本作を観たことがない方にはぜひ1度観てほしいのはもちろんだが、既に観たことがあるという方には、今回の塩田氏の話を踏まえた上で再度観に行ってほしい。音楽的な知識を持って観劇することにより、きっとまた新たな『マリー・アントワネット』の面白さを発見できるに違いない。


取材・文・写真 松村蘭(らんねえ)

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