日米野球で始まる「1992年の長嶋巨人」と「2018年の原巨人」

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2018/11/6 14:32

92年日米野球の大敗から始まった長嶋巨人


26年前の出来事だ。

1992年10月30日、日本中が東京ドームに注目した。日米野球第1戦の全米オールスターズvs.巨人のエキシビジョンマッチで、巨人監督に復帰した長嶋茂雄が12年ぶりのユニフォーム姿を披露したのである。

週刊ベースボールでは『帰ってきたミスター初采配!』と派手に表紙を飾り、一般の週刊誌でも背番号33の写真とともにその様子は大きく報じられた。巨人ナインとはこの試合が初対面。秋季キャンプ前に若手選手の実力を測ろうとスタメンは2番元木大介(当時20歳)、5番大森剛(25歳)を起用。投手陣は木田優夫(24歳)や谷口功一(19歳)らがマウンドに上がったものの、長嶋巨人初陣はなんと11対0の大敗を喫する。

元阪神のセシル・フィルダー(タイガース)やケン・グリフィー・ジュニア(マリナーズ)に特大ホームランを浴び、打線は同年18勝を挙げたロジャー・クレメンス(レッドソックス)に完璧に抑え込まれ、ヒットはベテラン篠塚の一本のみの惨敗。新生長嶋野球に期待した客席からは「マジメにやれ!」なんて野次が飛んだ。80年代を支えた主砲の原辰徳も30代中盤を迎え、次世代のスター選手候補も育っていない現実を突き付けられる大敗に、指揮官も「完敗? そうでしょうね。采配的なものは何も見当たらない試合でした」と珍しく弱気なコメントを試合後に残している。

スーパーマリオ=長嶋茂雄説


いったい長嶋ジャイアンツはどうなってしまうのか……。しかし、この3週間後のドラフト会議(当時のドラフトは11月下旬に行われていた)において自らの手で星稜高の松井秀喜を引き当てるのだから、長嶋茂雄の強運ぶりは凄まじい。さらに転んでもただでは起きない燃える男は、大リーガーの凄さを再確認したのか、直後のストーブリーグで86年の日米野球で参加選手最高の打率.450、4本塁打を記録し、90年にもヤンキースのユニフォームを着て来日していた33歳の大砲ジェシー・バーフィールドを1年契約の年俸170万ドル(当時のレートで約2億2000万円)で獲得してみせた。

ここからミスターとゴジラは二人三脚で90年代の球界のど真ん中を歩くわけだが、ちなみに92年秋から冬にかけてのスポーツ新聞を見てみると一面は長嶋と松井、たまに息子一茂のジャイアンツ移籍問題、そして婚約発表をした貴花田と宮沢りえがほぼ独占している。

平成4年、巨人・若貴・ビッグエッグみたいな昭和の空気感がまだ微妙に残っていた。細川と言えばたかしよりも、ふみえに夢を見たあの頃、スーパーファミコンの『スーパーマリオカート』や『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』が発売され、大学生から小学生までみんな同じ娯楽を共有するあの感じ。良くも悪くもインターネットが普及する2000年代初頭あたりまで、プロ野球もTVゲームも選択肢は少ない分、世代を越えた共通言語としてのベタな“大衆性”があった。その象徴がスーパーマリオであり、長嶋茂雄だったのである。

新時代の日米野球で新生原巨人がスタート


長嶋巨人が世界を知った92年は、全米オールスターズが全8戦6勝1敗1分と圧倒的な力を見せつけ、次に開催された96年の日米野球では日本人メジャーリーガーのパイオニア野茂英雄(ドジャース)が凱旋帰国しているので、まさに時代の変わり目と言えるだろう。

驚くべきは、80年代中盤までの日米野球は単独チームが来日しており、81年のカンザスシティ・ロイヤルズは17戦9勝7敗1分。84年のボルティモア・オリオールズは14戦8勝5敗1分と、今なら選手会も黙っていないレベルの過密日程で東へ西へ移動し十数試合を戦っている。迎え撃つ日本側も、単独チームや全日本だけでなく、「巨人広島連合」とか「南海近鉄巨人連合」という、のちの『ファミスタ』のレイルウェイズやフーズフーズのようなユルい連合チームが編成されるのも定番で、花試合ならではのお祭り感は懐かしさすら感じる。

長嶋監督が復帰第一歩を記したあの一戦から26年。いまや日米野球も侍ジャパンの強化試合の一環としてビジネスと勝負論が持ち込まれ、日米球界を取り巻く環境も大きく変わった。エンタメ寄りからガチンコ試合へ。今後は一方的な真剣勝負の押し売りではなく、シーズン終了後にイベント感覚で来日するMLBオールスターチームとも、その“ガチンコ感”を共有することが大きな課題となるだろう。

92年当時の主砲・原辰徳は60歳となり、三度目の巨人監督の初陣をミスターと同じく11月8日のMLBオールスターチームとのエキシビジョンゲームで飾る。しかもMLB側のベンチには、現ヤンキースGM付特別アドバイザーを務める松井秀喜がコーチとして参加することも発表された。

一昔前は巨人の元4番がヤンキースの4番を張り、引退後も指導者として来日なんて未来は夢物語だった。ここ十数年で、日本の野球ファンにとっても遠い海の向こうの大リーグが、スマホ画面の向こうの身近なメジャーリーグとなり、ファンタジーからリアルになった。その象徴が2018年のMLBチーム松井コーチなのである。

26年前、第二次長嶋政権は大敗から始まった。さて、原巨人の三度目の船出はメジャーのスター軍団相手にどんな戦いを見せてくれるのだろうか?

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