ミスター慶應&東大候補者の性犯罪報道、「熱狂する世間」の欲望を精神科医が読む


 都内の自宅マンションで30代女性に性的暴行を加えたとして逮捕・起訴された「ミスター東大コンテスト2014」ファイナリスト・稲井大輝被告と、酩酊状態の女性に対する暴行と強制性交の疑いで逮捕された「ミスター慶應コンテスト2016」ファイナリスト・渡辺陽太容疑者――10月、難関大学のミスター候補だった男性2人の逮捕・起訴が立て続けにニュースとなり、世間を驚愕させた。

高学歴、ミスターコンテスト出場以外にも、実家が裕福という共通点がある稲井被告と渡辺容疑者。そのことがネット上に知れ渡ると、「金持ちのバカ息子が調子に乗った」といった論調の批判が巻き起こった。それを受けてメディアも、2人の過去を掘り起こしながら人物像に迫るニュースを展開するなど、大きな盛り上がりを見せた。

なぜ難関大学のミスター候補は性犯罪に手を染めたのか、そして、なぜ世間はこのニュースに熱狂するのか――今回、『被害者のふりをせずにはいられない人』(青春出版社)や『高学歴モンスター~一流大学卒の迷惑な人たち~』(小学館)などの著者である精神科医・片田珠美氏に話を聞いた。

■「高学歴」「容姿」「裕福」による特権意識

片田氏はまず、稲井被告と渡辺容疑者について、「自分は特別な人間である」と思っていた可能性を指摘する。

「2人は、『高学歴』『容姿』『裕福』という三要素によって、特権意識を抱いていたように思います。本来であれば、女性に対する性的暴行は許されない、けれど“自分は特別な人間だから許される”というふうに考えていたのではないでしょうか。それから、女性を“性欲を満たすための道具”としてしか見ていないとも感じましたね」

こういった特権意識を肥大させたのは、「本人だけでなく、周囲の影響もある。頭がいいから、顔がいいから、家がお金持ちだからと、周囲が容認してきたのでは」という。確かに「週刊文春」(文藝春秋)では、渡辺容疑者の祖父が同誌の取材に応じ、孫である彼について、高校を2カ月で退学になったことや、スイスに留学したものの女性問題を起こして追い出され、ニュージーランドに渡ったことを明かしており、これまで家族が示談金を払ってトラブルを解決してきた可能性も考えられる。そういった状況で、女性をモノ扱いし、性的暴行も許されると思い込んでしまったのではないかと、片田氏は考察を広げる。

「『高学歴』『容姿』『裕福』のどれか1つではなく、3つ“揃った”ことが、特権意識をかなり助長したのでしょう。しかし、『容姿』と『裕福』は、彼ら自身の努力によって得られたものではありません。『高学歴』だって、生まれ持った頭脳と努力だけでなく、多額の教育投資により手に入れられた面もあります。本人はそのことに気づかず、『高学歴』『容姿』『裕福』を全て自分の力で手に入れたと思い込み、“自己愛”を強める要素にしたのではないでしょうか。2人は、“自分は特別な人間である”という特権意識に支えられた強い自己愛を持つ『自己愛性パーソナリティ障害』だと思われます」

しかし、そんな2人だが、全てが完璧だったわけではない。2人はともに留年しており、大学内では“劣等生”だったようだ。

「自己愛性パーソナリティ障害の人は、自己愛が傷つきそうになると、現実から目を背け、別の面で自己愛を補強しようとします。ですから、この2人がミスターコンテストに出場したのも、稲井被告が『日本一チャラい東大生』を自称してインターネット番組などに出演したのも、学内で落ちこぼれて傷ついた自己愛を、“有名になること”“モテること”“経験人数の多さ”といった別の面で補強するためと考えられます」

■ミスター慶應候補、情性欠如者の可能性も

さらに片田氏は、渡辺容疑者に関して、「衝動制御障害」の可能性もあると見ているそうだ。

「週刊誌で、渡辺容疑者と肉体関係を結んだ女性が彼について、『性行為を拒むと首を思いっきり絞めてくる』『頭をバリカンで刈ろうとする』などと証言しています。また、今回逮捕された事件でも、女性に性的暴行を加えた後、場所を移動して、腹を蹴るなどしたと報じられており、性衝動や攻撃衝動をコントロールできないのではないかと感じますね。だから、衝動制御障害の可能性が高いのですが、その原因は、生まれつきの性格と環境の相互作用です。本来であれば、子どもの頃からのしつけや教育によってだんだん矯正されていくはずですが、渡辺容疑者の場合はどうだったのでしょうか。彼の祖父は建築関係の仕事で財をなしたやり手の経営者だったものの、口癖は『一番欲しいものは学歴』『孫たちを難関校に進学させるのが願い』と伝えた週刊誌記事がありました。こういった記事を読む限り、家庭内に“勉強さえできればいい”という雰囲気があり、渡辺容疑者が自分の思い通りにならないことがあって問題を起こした際、周囲が咎めなかったのかもしれません」

そんな渡辺容疑者の祖父は、「文春」の取材に対して「最低五年間は刑務所で“治療”してほしい(中略)あれは病気なんだ」と述べているが、片田氏は「厳しいことを言ってしまうかもしれない」と断った上で、「刑務所に入っても治らないのでは」と見解を述べる。

「なぜなら渡辺容疑者は、犯行内容から見て、情性欠如者である可能性が高いからです。情性欠如者とは、罪悪感や良心の呵責、同情心、反省する気持ちなどが一切ない人のことを指します。渡辺容疑者はかつて、親友の彼女を寝取ったこともあると伝えられており、倫理的に禁じられた行為を犯すことに快感を覚えていたフシがあります。これもまた情性欠如者と私が考える一因です。刑務所で更生できるかというと、難しいのではないでしょうか」

一方で、稲井被告には、衝動制御障害や情性欠如者の特徴は、報道内容を見る限りでは、見当たらないようだ。実家は神奈川県で歯科医院を開業しており、父親は有名国立大卒と報じられている。自身も、超エリート校である駒場東邦高校を卒業し、一浪ののち東大に合格。大学入学当初は「地味で口下手」「根暗」で、キャリア官僚を目指すサークルに所属していたと友人が証言する週刊誌報道もあった。

「開業医の家庭で、“勉強ができなければいけない”という価値観の中で育ってきたのではないかと思いますね。東大で多くの優秀な人たちに出会って挫折を味わい、その傷ついた自己愛を、チャラさで補強しようとしたのではないかと思うのですが、渡辺容疑者に比べると、まだ更生できる可能性はある気がします」

■大衆は“ものすごい”カタルシスを覚える

次に、ミスター候補者の逮捕・起訴報道を“見る側”の意識を、片田氏はどう捉えているのだろうか。「勝ち組だったのに、人生終了」「難関大のミスターコンテストにろくな奴いない」などの批判が飛び交い、ネットユーザーの中には、さらなる余罪を探し出そうとする者もいる。

「やはり、大衆の“羨望”を感じますね。羨望とは、“他人の幸福が我慢できない怒り”にほかなりません。『高学歴』『容姿』『裕福』の三要素が揃った人物に、人は怒りを抱くものなのです。そんな羨望の対象である人物の失墜を目の当たりにして、大衆はものすごいカタルシスを覚えます。元衆議院議員・宮崎謙介さんが、妻の出産直後に不倫スキャンダルを起こした際も世間は盛り上がっていましたが、彼もまた高学歴かつルックスも良く、お金持ちでした」

「他人の不幸は蜜の味」とはよく言うが、他人が高スペックであればあるほど、その蜜は甘くなるものなのかもしれない。

そんな中、思い出されるのが、2016年に起こった東大生サークルによる集団わいせつ事件だ。加害者の男性5人は、女子大生に無理やり酒を飲ませ、男性の1人が住むマンションの一室で強制わいせつ行為に及んだ。その際、世間では加害者に対する怒りの声が上がった半面、「なぜ女性は酒を飲んで男性宅についていったのか」など、被害者女性の軽率さを指摘する声も少なくなかった。中には、「前途ある東大生の未来を潰した」と女性を責める者もいた。

しかし、今回は被害者女性を非難する声はほとんどなく、稲井被告と渡辺容疑者に世間の視線は集中。もちろん、事件の背景が異なるだけに一概には言えないが、この世間の反応の違いを、片田氏はどう見るのだろう。

「稲井被告と渡辺容疑者が『イケメン』というのは大きいと思います。恵まれた容姿の持ち主に対する、大衆の羨望はかなり強いのです。それから、ネットテレビに出演するなど、目立つ存在であったことへの羨望もあったと思います。そのため今回、世間は加害者側を叩くことに夢中で、被害者女性のことは眼中に入っていないのでしょう。スキャンダルを起こした芸能人が叩かれる構図と同じとも言えますね」

加えて片田氏は、先の東大生の集団わいせつ事件をめぐり、被害者女性を非難し、加害者の東大生を擁護した風潮に対して、「こういった高学歴をチヤホヤする空気自体が、エリートの特権意識を強め、勘違いさせてしまう場合もある」と警鐘を鳴らす。

難関大学生の性犯罪はいつもセンセーショナルに伝えられ、その背景や要因を探る報道が飛び交うものだが、世論が新たな犯罪を生む風潮をつくったり、被害を不透明にしたりすることは避けなければいけない。そうあらためて実感させられる。

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