鬱、引きこもり、自分をコントロールできない葛藤…難役を体当たりで演じた趣里が『生きてるだけで、愛。』にかける想い

AbemaTIMES

2018/11/3 08:00

「生きてるだけで、ほんと疲れる。」趣里が演じたのは愛することも愛されることも不器用なヒロイン・寧子
 他人にも自分にも嘘がつけず、世間との折り合いをつけえられない女と、他人と距離を保ち傷つきも傷つけもしないが全てをあきらめているような男の切なくも尊い触れ合いを描いたエモーショナルなラブストーリー『生きてるだけで、愛。』が11月9日(金)より公開される。原作は劇作家・小説家の本谷有希子の同名小説。鬱が招く過眠症のせいで引きこもり状態の寧子役を趣里が、出版社でゴシップ記事の執筆に明け暮れながら寧子との同棲を続けている津奈木役を菅田将暉が演じる。

「生きてるだけで、ほんと疲れる。」メンタルに問題を抱え理不尽な感情を周囲にぶつけまくり、そんな自分に疲弊するという不器用なヒロイン・寧子をまるで憑依したかのように感情豊かに力強く演じた趣里。彼女はどのように寧子と向き合い演じきったのか、話を聞いてきた。
『生きてるだけで、愛。』は誰かを救える可能性のある作品「わたしが、絶対に演じたいと思いました」
ーー原作を読んだときの感想をお願いします。

本谷さんの舞台などを拝見して、いつか本谷さんの描く世界に入ってみたいと思っていました。「生きてるだけで、愛。」に出てくる人は針が振り切れていて胸が苦しくなるけれど、(読んでいて)人間の芯である部分や大切なことが身体に深く刻まれる感覚があります。個人的には寧子に共感できるところもあり、彼女がどうなるのか、寧子と津奈木がどうなるのか、登場人物の行く末を見届けたいと思い、一気に読んでしまいました。他人と関わること、人生の苦しさや美しさ、生きること、すべてがこの小説のタイトルに凝縮されているなと思いました。

ーー寧子を演じるにあたり心がけたことはありますか?

撮影に入るまで半年ほどの期間がありましたが、たくさん寧子のことを考えて想像していました。“どう演じよう”ではなく、ただただ彼女のことを想っていました。撮影中は、相手とちゃんと向き合うこと、そして自由にいられたらいいなと思っていました。


ーーどんな寧子像が見えてきましたか?

寧子は脆さの中に強さがある子、ちゃんと前に進んで行く強さがある女性だなと思いました。ダメな自分を分かっているんだけど変えられない。そういう部分がほっとけなくて、自分にも重なる部分がありました。その期間は必然と自分とも向き合う時間でした。

寧子のことが他人事だと思えなくて、誰でもなり得るなと感じました。『生きてるだけで、愛。』に私は救われた想いがあります。、観てくださった方々にも何かを感じて頂ける作品になっていればうれしいです。

わたし自身、過去に挫折を経験した時にエンターテイメントに救われた経験があります。怪我をしてバレエをやめたのがお芝居を始めたきっかけで、そういう時に、映画や舞台に触れて。「こういう世界があるんだ」って感じました。自分が弱っているときにそういう経験をしたものですから、。舞台やドラマ、映画には観た人を明るい気持ちにさせる力が絶対あると思っています。(脚本を読んだときには)わたしが、絶対に演じたいと思いました。

ーー監督から役作りについてアドバイスやリクエストはありましたか?

ちょうど撮影に入る3、4日前まで舞台の本番があって忙しくしていたんです。なので、「とにかく終わったらダラダラして」というようなメールを頂きました。あとはもう「自由にいていいよ!」っておっしゃってくださったので、監督を信じて委ねることができました。お正月だったので、ちょうどよくそのまどろみを引きずっていたかもしれません(笑)。


ーー寧子はカロリーの高いキャラクターでしたが、私生活に影響はありませんでしたか?落ち込んじゃったり。

それが意外と無かったんです!というのも、寧子を演じる準備の段階で、自然に過去だったり、現在自分が抱えていることに向き合いました。そこで寧子と自分の人生を重ねたりしていたので、逆に入り込みすぎちゃうとかもなく、「全部がこうなるな」って納得しながら撮影できたんです。監督がいて、相手役の方がいて、すごく自然体でお話もできたし、健康的な撮影でした。

ーー勝手に落ち込んじゃってるんじゃないかなと思ってました。

そう思いますよね(笑)。でも自然と寧子の部分がいけるようになる準備の仕方ができたのだと思います。現場ではありのままの自分の中から引き出してもらえました。

菅田将暉の冷ややかな目の演技に感動「ドキッとしました」
ーー趣里さんが寧子の気持ちに共感したシーンはどこでしょうか?

人と向き合うってエネルギーがいることで、ちょっとしたことですぐ傷つくんですよね。(寧子は)津奈木のちょっとした表情とかで傷ついちゃう。自分の(鬱の)状態が(普段に比べて)いいからすごく話しているのに、彼には彼の状態があって、そこまで気がまわらなかったりする。人間ってそういうことの連続じゃないですか。だから、(寧子と津奈木のすれ違いは)すごく本質的なやりとりだと思います。男女の付き合いだけでなく人間的な付き合いでも見られる。そこの部分をすごく実感させられました。

「自分ってやっぱり人と違うんだ」と、相手に合わせることのできない現実にぶち当たってしまう。自分がやったことに対する人の(冷たい)表情って、すごくしんどいですよね。

ーー寧子の「わたしが自分に疲れているのと同じくらい、(津奈木にも)わたしに疲れて欲しかった」というセリフがとても印象的でした。

本谷さんってすごいですよね!この感覚ってあるけど、相手に伝えるときにどうやって言葉にしたらいんだろう?ということをうまく表現している!すごい表現力だなと思います。最初に拝読した時から心に残っています。

ーー仲 里依紗さん(安堂:津奈木の元カノでメンタルに問題を抱えている)の演技も凄まじかったですね。めちゃくちゃ怖かった。

目で伝わってくる力が凄くて、圧倒されました。

ーー間近であの演技を見られていかがでしたか?

「え~……」ってなっちゃいました。(安堂と対峙する)あのシーンは自然な反応でした。ちらっと見て「ヤバイ」と感じました(笑)。


ーーその他にもこの人の演技すごいな!と思ったシーンはありますか?

菅田くんの冷ややかな「殺すぞ」みたいな目。津奈木がキレる前のシーンです。今まで(津奈木は)温厚だったのに、実は彼も彼なりの葛藤があって、疲れている中で寧子にギャーギャー言われて、それであの顔。ドキッとしましたね。

ーー菅田さんの抑えめな演技が素晴らしかったですよね。実際はどんな方でしたか?

菅田くんは全くもってプレッシャーを感じさせないような人でした。「受け止めるから好きにやってね」ってさらっと言ってくれました。お芝居の面でもすごく自然にやり取りができたので、終わってからも「楽しかったねー」って言い合えました。お芝居をする喜びみたいなものを感じさせてくれました。菅田くんが本当にただただそこにいてくれたので、それに反応して会話して、(寧子を)自然と引き出してくれたのかなと思います。

「自分のことを愛してあげてもいいのではないか」趣里が同作を観て感じたこと
ーー印象に残っているシーンを教えてください。

印象に残っているのはラストシーン、部屋での踊っているシーンです。あのシーンは撮影期間の序盤で撮ったのですが、カメラマンさんともうまくセッションできた感覚が味わえました。「映画って素敵だな」って思いましたし、みんなで創っているという事を改めて感じることができました。監督もラストシーンを撮った後に「勝った」とおっしゃっていました。「このラストシーンが撮れたからこの映画はもう大丈夫」って思えたすごく印象なシーンです。

ーーラストのダンスシーンのあと、寧子と津奈木はどうなったと思いますか?

わたしは完全に“別れた派”です。原作を読んでも脚本を読んでも、実際に演じてみても「二人は別れたんだな」って思いました。でも、それは前向きな別れ。(この作品は)「ほんの一瞬だけでも、分かり合えたら」っていうキャッチコピーがあります。そういう一瞬で相手を受け入れて、同時に自分のことも分かって、お互いに「二人は無理だな」と理解した上で一歩を踏み出すっていう二人なのかな、と思っています。

ーー別れてほしくないって思って観ていました。

希望はそうですよね~!(笑)でも解釈が分かれますね。監督は別れてないっておっしゃっていました。観てくださった方々か色々お話を聞くと、男性と女性で意見が分かれるようです。皆さんそれぞれの解釈で正解もないので、観終わってから人と話したくなる映画になっているといいなと思います。

ーー最後に完成した映画を観てどう感じましたか?見所とあわせて教えて下さい。

素晴らしいキャストのみなさん、スタッフの皆さんとご一緒できた喜びがありました。みんなの想いをのせた1カット1カットがとても愛おしく、純粋な想いが伝わってほしいと強く思っています。“身近な人のことを思い出す”でも“こういう人もいるんだな”でも“大切なひとのことをより大切に思う”でも、なんでも良いのでこの映画をみて、何か感じていただけたら嬉しいです。私自身は、寧子のことを好きになった自分を発見し、自分のことを愛してあげてもいいのではないか、そんなことも思いました。

ストーリー
 同棲して三年になる寧子(趣里)と津奈木(菅田将暉)。もともとメンタルに問題を抱えていた寧子は鬱状態に入り、バイトも満足に続かない。おまけに過眠症のため、家にいても家事ひとつするわけでなく、敷きっぱなしの布団の上で寝てばかり。姉との電話やメールでのやり取りだけが世間との唯一のつながりだった。

一方の津奈木も、文学に夢を抱いて出版社に入ったものの、週刊誌の編集部でゴシップ記事の執筆に甘んじる日々。仕事にやり甲斐を感じることもできず、職場での人間関係にも期待しなくなっていた。それでも毎日会社に通い、家から出ることもほとんどない寧子のためにお弁当を買って帰る。

津奈木は寧子がどんなに理不尽な感情をぶつけても静かにやり過ごし、怒りもしなければ喧嘩にすらならない。それは優しさであるかに見えて、何事にも正面から向き合うことを避けているような態度がむしろ寧子を苛立たせるが、お互いに自分の思いを言葉にして相手に伝える術は持っていなかった。

ある日、いつものように寧子が一人で寝ていると、部屋に安堂(仲里依紗)が訪ねてくる。かつて津奈木とつき合っていた安堂は彼に未練を残しており、寧子と別れさせて彼を取り戻したいと言う。まるで納得のいかない話ではあったが、寧子が津奈木から離れても生きていけるように、なぜか安堂は寧子の社会復帰と自立を手助けすることに。こうして寧子は安堂の紹介で半ば強制的にカフェバーのバイトを始める。

カフェバーではマスターの村田(田中哲司)とその妻である真紀(西田尚美)をはじめ、引きこもりの過去を持つ莉奈(織田梨沙)も働いており、寧子を全面的にサポートするという。最初は戸惑いつつも、思いがけないチャンスを得て、寧子は今の自分と生活から抜け出そうと次第に前向きになっていく。

そんな寧子の変化と挑戦に耳を貸す余裕もなく、相変わらず否定も肯定もせず受け流す津奈木。会社では気の進まない仕事を大量に押しつけられ、「ゴシップ誌は皆さんの下半身でメシを食っている」と割り切っている編集長の磯山(松重豊)とは話が通じない。ただ一人、同じ葛藤を抱えている後輩の美里(石橋静河)だけはさりげなく彼を気遣っていたが、記事の無断差し替えが発覚したことをきっかけに、疲労とストレスの限界に達した津奈木はついに爆発してしまう。

同じ頃、寧子は遅刻や無断欠勤を繰り返しながらも、異常なほどの寛容さで見守ってくれる村田たちのおかげで、みんなの仲間入りができるかのように思えた。しかしそれも長くは続かない。ウォシュレットをめぐる些細な会話の行き違いから、彼らとのどうしようもない断絶を痛感した寧子は、完全に振り切れて店を飛び出すが……。

『生きてるだけで、愛。』は11月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

(c)2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

テキスト:堤茜子

写真:You Ishii

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