若冲の初公開作品も! アヴァンギャルドな江戸絵画にハマる『奇想の系譜展』制作発表会見レポート

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2018/11/2 19:09


伊藤若冲は、長らく日本美術史においてほとんど見向きもされなかった。ある美術商の話では「一昔前まで、美術館はもちろん、画廊でもゲテモノ扱いだった」という。それが近年では、熱狂的ともいえる人気を博す日本画家となった。

そんな若冲、そして岩佐又兵衛、狩野山雪、曽我蕭白(しょうはく)、長沢芦雪(ろせつ)、歌川国芳らの日本画家を、今から約半世紀前の1970年に著書『奇想の系譜』で紹介したのが、美術史家・辻惟雄(のぶお)氏だ。
伊藤若冲《象と鯨図屏風》(右隻)寛政9(1797)年 滋賀・MIHO MUSEUM
伊藤若冲《象と鯨図屏風》(右隻)寛政9(1797)年 滋賀・MIHO MUSEUM

東京都美術館は、辻氏を展覧会の特別顧問に、辻氏の教え子でもある山下裕二氏(明治学院大学教授)を展覧会監修者にむかえ、2019年2月9日(土)~4月7日(日)まで『奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド』を開催する。

この展覧会は、上記の日本画家6名に白隠慧鶴(はくいんえかく)と鈴木其一を加えた、江戸時代の奇想画家8名の代表作を紹介するという試みだ。

伊藤若冲《象と鯨図屏風》(左隻)寛政9(1797)年 滋賀・MIHO MUSEUM
伊藤若冲《象と鯨図屏風》(左隻)寛政9(1797)年 滋賀・MIHO MUSEUM

10月29日には、観世能楽堂(東京・GINZA SIX)で記者発表会が行われ、初公開作品の若冲《梔子雄鶏図》と芦雪《猿猴弄柿図》が、報道陣に向けてお披露目された。辻氏と山下氏により語られた、展覧会の見どころをレポートする。
展覧会監修者 山下裕二氏(明治学院大学教授)
展覧会監修者 山下裕二氏(明治学院大学教授)

国宝を含む約100点で「奇想の系譜」の全貌を

東京都美術館館長 真室佳武氏(中央)
東京都美術館館長 真室佳武氏(中央)

真室氏は、展覧会の概要を次のように紹介する。

「明治維新から150年。それ以前の2世紀半に及んだ江戸時代は絵画の発展が目覚ましく、様々な傾向の作品が多く生み出され、美術史上に輝きを放っています。江戸絵画史の中でとりわけ異彩を放つのが、『奇想の系譜』に連なる絵師たちです。この絵師たちの存在がクローズアップされたのは、ほぼ50年前の辻先生のご功績」

展覧会では、国宝や重要文化財を含む約100点を一堂に展示。『奇想の系譜』の全貌を紹介するものになるという。

曽我蕭白《雪山童子図》明和元(1764)年頃 三重・継松寺
曽我蕭白《雪山童子図》明和元(1764)年頃 三重・継松寺

真室氏の挨拶は、「奇抜さ、想像力の豊かさに際立った独自の個性で、私たちを驚かせ、魅了するでしょう。それは現代に通じる何かを秘めているからだと思います。多くの方にご覧いただければ幸いです」と締めくくられた。
長沢芦雪《白象黒牛図屏風》(右隻)18世紀 米国・エツコ&ジョープライスコレクション
長沢芦雪《白象黒牛図屏風》(右隻)18世紀 米国・エツコ&ジョープライスコレクション
長沢芦雪《白象黒牛図屏風》(左隻)18世紀 米国・エツコ&ジョープライスコレクション
長沢芦雪《白象黒牛図屏風》(左隻)18世紀 米国・エツコ&ジョープライスコレクション

日本美術史を立体的に捉えた『奇想の系譜』


辻氏は、現在86歳。『奇想の系譜』を執筆したのは、38歳の頃だという。

洋画に造詣があり、自ら絵筆をとることもあった辻氏は、「洋画の奥深さ、空間性に匹敵するような、インパクトのある江戸時代の日本画」を探した。そして見つけ出したのが、同著で紹介される6名の絵師たちの作品だった。
初公開作品の伊藤若冲《梔子雄鶏図(くちなしゆうけいず)》18世紀 個人蔵
初公開作品の伊藤若冲《梔子雄鶏図(くちなしゆうけいず)》18世紀 個人蔵

「それまでの日本美術史では紹介されることのなかった作品で、しかもちょっと変わった、日本美術の概念をひっくり返すようなものばかり。これに付き合ううちに、ある雑誌社から『江戸のアバンギャルド』というタイトルで執筆依頼がきました」

この原稿が、『奇想の系譜』のベースになったという。

辻氏は「日本美術を、これまでのように平面的に紹介しているのではダメだ。特に流派を縦割りにした平板な概説ではいけない。もっと立体的に、ダイナミックで活力のあるものにしないといけない」と述べた。

辻惟雄氏(美術史家、『奇想の系譜』著者)
辻惟雄氏(美術史家、『奇想の系譜』著者)

『奇想の系譜展』見どころ


伊藤若冲

プライス・コレクションより出品される《紫陽花双鶏図》は、「若冲の肉筆画は数が少ない。その中でも最も筆の良い部類に属する作品」であると辻氏。

辻氏は、この作品がプライス氏に購入されたことで、アメリカに渡る直前に「アメリカに渡ったら二度と見られない」「これが見納めだ」と考え、ディーラーに依頼し1日だけ借りたエピソードを披露。結果的には、「渡米後もプライス氏は気前良く、日本の展覧会に貸してくださるので、日本国内にとどまっていたよりも、鑑賞の機会は増えたかも」と山下氏は続けた。

伊藤若冲《紫陽花双鶏図》18世紀 米国・エツコ&ジョー・プライスコレクション
伊藤若冲《紫陽花双鶏図》18世紀 米国・エツコ&ジョー・プライスコレクション

山下氏は会場の大きなスクリーンに、絵の一部を映し出し「輪郭線を使わず、1mmにも満たない隙間で、緻密に描く、紫陽花の花弁。これだけ大きく引き伸ばしてもアップに耐えうる。素晴らしい出来栄え」と絶賛した。

若冲の代表作シリーズ『動植綵絵』にも類似した作品があるが、プライス・コレクションの《紫陽花双鶏図》の方が、年代的には先に描かれたもの。サイズも本作の方が大きい(139.4×85.1cm)ことから、ある意味においては『動植綵絵』を凌ぐという。

『奇想の系譜展』スライド 伊藤若冲《紫陽花双鶏図》エツコ&ジョー・プライスコレクションの部分
『奇想の系譜展』スライド 伊藤若冲《紫陽花双鶏図》エツコ&ジョー・プライスコレクションの部分

曽我蕭白

18世紀の京都画壇の鬼才たちの中でも、一際エキセントリックな個性を放った蕭白の作品も紹介された。中でも《群仙図屏風》は、『奇想の系譜』を執筆するきっかけとなった作品のひとつなのだそう。

「こんな江戸時代の絵があるのかと。その時に江戸時代絵画のイメージが根底からひっくり返されました」

長らくこの絵は個人蔵だったが、国が買い上げ、重要文化財に指定された。毒々しいほどに鮮やかな色彩で仙人が描かれる中、右端にモノクロームで描きこまれた人物は、蕭白の自画像だという説が有力だ。
曽我蕭白《群仙図屏風》(右隻)明和元(1764)年 文化庁 重要文化財(展示期間:3月12日~4月7日)
曽我蕭白《群仙図屏風》(右隻)明和元(1764)年 文化庁 重要文化財(展示期間:3月12日~4月7日)
曽我蕭白《群仙図屏風》(左隻)明和元(1764)年 文化庁 重要文化財(展示期間:3月12日~4月7日)
曽我蕭白《群仙図屏風》(左隻)明和元(1764)年 文化庁 重要文化財(展示期間:3月12日~4月7日)

長沢芦雪

円山応挙に師事した、長沢芦雪の襖絵も公開されるという。《群猿図襖絵》は、兵庫県大乗寺より出品されるもの。この襖絵は、ふつうに使われている部屋にあるのだそう。巧みに描かれた表情や、毛の質感に注目したい。

《猿猴弄柿図》は、初公開作品。今回の展覧会に向けた調査の中で、大正4年の売立目録に掲載されていた情報からたどり、見出されたもの。
初公開作品の準備中。『奇想の系譜展』記者発表会
初公開作品の準備中。『奇想の系譜展』記者発表会
お披露目された、長沢芦雪《猿猴弄柿図》18世紀 個人蔵
お披露目された、長沢芦雪《猿猴弄柿図》18世紀 個人蔵

岩佐又兵衛

「そっくり返った手足や顔を見れば、一目で又兵衛とわかる特色がある」と紹介されたのが、今回出品される《山中常盤物語絵巻 第四巻》。全12巻のうち、常盤御前が賊に襲われる場面が描かれたものが展示される予定だ。

岩佐又兵衛《山中常盤物語絵巻 第四巻(十二巻のうち)》17世紀前半 静岡・MOA美術館 重要文化財(展示期間:2月9日~3月10日)
岩佐又兵衛《山中常盤物語絵巻 第四巻(十二巻のうち)》17世紀前半 静岡・MOA美術館 重要文化財(展示期間:2月9日~3月10日)

狩野山雪

狩野山雪の代表作、《梅花遊禽図襖絵》も出品される。制作時期には、師匠の山楽も存命だったことから、山楽と山雪のどちらによる絵であるか論争が続いていた。しかし最近では、山雪が主導し描いたものだろうという見方が定説となっているそう。

京都・天球院が所蔵する障壁画だが、ふだん天球院には複製が置かれており、現物は京都国立博物館に寄託されている。本展では、その現物が展示される。

狩野山雪《梅花遊禽図襖絵》寛永8(1631)年 京都・天球院 重要文化財
狩野山雪《梅花遊禽図襖絵》寛永8(1631)年 京都・天球院 重要文化財

白隠慧鶴

「絵は素人のお坊さんである白隠が、こんなに面白い大胆な表現をしている」「若冲、蕭白、芦雪といった奇想の画家たちが、オリジナリティのある作品を生み出す起爆剤となったのでは?」と、白隠が18世紀の京都画壇に与えた影響の大きさが語られた。

代表作《半身達磨図》の他、最下層のダメ坊主をモチーフにした《すたすた坊主図》(展示期間:2月9日~3月10日)や、デフォルメした達磨の横顔を大胆な筆遣いで描いた《達磨図(横向き達磨)》なども展示される。

白隠慧鶴《半身達磨図》18世紀 大分県・萬壽寺
白隠慧鶴《半身達磨図》18世紀 大分県・萬壽寺

鈴木其一

鈴木其一は琳派の画家で、俵屋宗達や尾形光琳の伝統を受け継ぐ作品も残している。その其一をあえて『奇想の系譜』に加えたのは、《夏秋渓流図屏風》の存在があったからなのだという。

江戸時代の絵画の色感とはまるでちがう、ある種エキセントリックで人工的な画面に注目したい。

さらに山下氏が「初来日の中でも目玉作品」と語ったのが、アメリカのサンアントニオ美術館より出品される《百鳥百獣図》。若冲の影響、そして中国の《百鳥図》などから影響が見受けられるのだそう。「百鳥はあっても、百獣図はみないね」と辻氏も声を弾ませる。

鈴木其一《百鳥百獣図》(右)天保14(1843)年 米国・サンアントニオ美術館
鈴木其一《百鳥百獣図》(右)天保14(1843)年 米国・サンアントニオ美術館
鈴木其一《百鳥百獣図》(左)天保14(1843)年 米国・サンアントニオ美術館
鈴木其一《百鳥百獣図》(左)天保14(1843)年 米国・サンアントニオ美術館

歌川国芳

大人気の幕末の浮世絵師、歌川国芳の作品も紹介される。3枚続きで構成される、迫力のある画面を楽しんでほしい。

今回の展覧会では、浮世絵だけでなく、浅草寺に奉納された絵馬《一ツ家》も展示される予定だ。縦228cm×横372cmの巨大な作品を、間近でみるチャンスとなるだろう。
歌川国芳《宮本武蔵の鯨退治》弘化4(1847)年ごろ 個人蔵
歌川国芳《宮本武蔵の鯨退治》弘化4(1847)年ごろ 個人蔵

開幕前にチェック! 関連イベント情報


本展では、新発見&初公開となる伊藤若冲《鶏図押絵貼屏風》も展示される。これは、82歳の落款がある最晩年の作品で、雄雌ペアの鶏が六曲一双の屏風に12図描かれたもの。衰えを感じさせない勢いのある描写に、スライドで紹介された限りでも、記者席でため息が漏れ聞こえた。

日本美術ブームのさらなる盛り上がりを、はやくも予感させる『奇想の系譜展江戸絵画ミラクルワールド』。

2019年2月9日(土)の開幕に先立ち、11月10日(土)には画家の山口晃氏と山下裕二氏によるトークショーが予定されている。近日中には、横尾忠則氏による本展覧会のスペシャルイメージも発表されるというので、続報を待ちたい。
『奇想の系譜展』制作発表会見。会見終了後も、お披露目された作品の前に多くの関係者が集まっていた。
『奇想の系譜展』制作発表会見。会見終了後も、お披露目された作品の前に多くの関係者が集まっていた。

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