【インタビュー】『のみとり侍』鶴橋康夫監督「この作品に登場する江戸の人々のたくましさは、今の人たちにも共感してもらえるはず」

テレビファン

2018/11/2 15:41


 天下泰平の江戸中期。たった一つの失言が藩主の逆鱗(げきりん)に触れ、長岡藩・勘定方書き役から、“ノミ取り”稼業に左遷された小林寛之進。それは、“猫のノミ取り”というのは建前で、実態は女性に愛のご奉仕をする“添寝業”だった。果たして、“ノミ取り”稼業に精を出すことになった寛之進の運命は…? 阿部寛主演『のみとり侍』のBlu-ray&DVDが11月7日にリリースされる。脚本・監督を担当したのは、『後妻業の女』(16)の大ヒットも記憶に新しい名匠・鶴橋康夫。小松重男の短編集を巧みな脚色で見事な喜劇に仕上げた本作に込めた思いを聞いた。

-6本の短編集である小松重男さんの原作のうち、三つのエピソードを一つの物語に脚色したのが見事で、大笑いしながら見ました。この三つを選んだ理由は?

長いサラリーマン生活を辞めて、もう15年ぐらいたちます。名刺も肩書もなくなり、どうやって生きていこうかと考えたら、組織とは何だったんだろうと、急に思えてきました。そんな時、小松重男さんの原作を読んだら、その登場人物たちが僕にはとてもいとおしく感じられたんです。

-それは、どんなところでしょうか。

表題作の「蚤とり侍」では、長岡藩の勘定方だった小林寛之進がうっかり殿さまの怒りを買って、“のみ取り”にされてしまう。「唐傘一本」では、小間物問屋の娘婿だった清兵衛が、浮気がバレて妻に追い出され、一物にまぶしたうどん粉を落としながら街を歩くことになる。さらに、貧乏長屋で子どもたちに読み書きを教えて細々と暮らす落ちぶれた武士の佐伯友之介が登場する「代金百枚」。彼らは全員、今までの居場所を失くしている。そういう意味で、僕と同じ種類の人間だと感じたんです。

-ちょうど心情的に共感できるキャラクターだったと?

彼らのように軽んじられた人間を“へそ者”と呼びます。へそは、生まれるまでは母親とつながる唯一の生命線で、大事なものですが、生まれた後は不要な穴でしかない。そういう“へそ者”たちに対する愛情が、僕は他の人より強いんでしょうね。

-人々のしたたかさを描いている点は、前作の『後妻業の女』とも共通しますね。

その通りです。僕はテレビやドラマの監督という仕事をしていますが、近所の人から「本当に監督なの?」と言われるような地味な生き方をしてきた人間。だから、そういうものが通奏低音としてにじみ出てしまうんでしょうね。

-その点では、原作の持ち味も生きている印象です。

小松重男さんの小説を何冊か読むと「こんなあめ売りがいました」、「こんなノミ取りがいました」、「こんな相撲取りがいました」というふうに、江戸の町で生きたいろいろな人たちのことが書かれています。その様子が非常に生き生きとしていて、そういう部分は、この作品にもしっかり取り入れたつもりです。でも、今の日本にだって、生き生きとそれぞれの人生を生きている人たちはいっぱいいる。この作品に登場する江戸の人々のたくましさは、現代に生きる人たちにも共感してもらえるはずです。

-なるほど。

ただ、映画の結末は原作とは少し変えています。そこには「人は一人では生きていけない」という僕のロマンチシズムが出て、ちょっと非現実的でシュールになっています。「甘い」と言われるかもしれないけど、そういうところは昔から変わりません(笑)。本当は、映画の最後に「登場人物たちのその後」も出したかったんです。寛之進がどうなったとか、松重豊さん演じる殿様がどうなったとか…。いろいろな事情があって実現しませんでしたが(笑)。

-人々が生き生きとしているという点では、俳優陣も魅力的です。主演の阿部寛さんをはじめ、物語の中心となる男優陣の印象をお聞かせください。

阿部さんは、とにかく熱心。この作品では、柔軟な芝居を見せてくれました。彼が寛之進を演じてくれて、本当に良かったと。僕の大学の後輩でもあるので、やっぱりかわいいですよね。清兵衛役の豊川悦司さんは、僕にとって今や欠かせない俳優。この2人は、これからの日本映画を引っ張っていく存在であることは間違いありません。僕の中ではそういう未来がはっきりと見わたせる俳優です。この2人がいれば大丈夫。だから、僕の体力と気力が続くうちに、あと2本ぐらいは彼らとやりたいです。

-佐伯友之介役の斎藤工さんは?

彼は本当に勉強熱心で、本人が監督もやっているせいか、現場では役柄だけでなく、テレビと映画の違いについても質問してくる。阿部さんや豊川さんよりも若いし、たどってきたキャリアも違うけど、居住まいがいいので、野心的な破壊力を身に付けて、2人にぶつけたら面白いことになるんじゃないでしょうか。そういう意味では、斎藤さんも僕の中では未来が見える俳優の1人です。

-また別の作品で、この3人の共演を見てみたい気がします。

僕はいつも、出てくれた俳優の皆さんの次の作品のことを考えています。だから、会う人、会う人、みんなが「次はどんな作品?」と聞いてくるんです。今回の阿部さん、豊川さん、斎藤さんともまたぜひ一緒にやりたい。今度は現代劇で切迫した男のドラマなんか面白いんじゃないでしょうか。甚兵衛を演じてくれた風間杜夫さんは、もう40年近い付き合いなので、風間さんにも加わってもらって。やっぱり、人は1人では生きられませんから、役者さんやスタッフに囲まれているのが一番です。これからもずっと、次の作品のことを考えていきたいです。

(取材・文/井上健一)

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