『花より男子』をデータ化し、恋愛分析してみた。




少女マンガ研究家の和久井香菜子さんが、マンガの登場人物にフォーカスし、恋愛を読み解いていく連載が今回から始まります。

イケメンキャラや恋愛模様に萌えつつ、ちょっぴり自分の人生を一緒に見つめていきましょう。

第1回目のテーマは花より男子』の牧野つくしです。

 

「ありえないっつーの!」なマンガ『花より男子』


大学の卒業論文で少女マンガを取り上げて以来、趣味が仕事になりました、少女マンガ研究(と言うほどのことはしてないけど)和久井香菜子です。
この連載では、大メジャーな作品から、コアなファンに愛されている名作まで、いろいろ取り上げて、みなさんと楽しんでいきたいと思います。

さて、何度読んでも『花より男子』は夢の玉手箱だなあと思う。ドラマ化&映画化までされたこの作品。アラサー世代のみなさんにとって、少女マンガの中で馴染み深い作品のひとつではないでしょうか?

まずは、あらすじを簡単に。


主人公・牧野つくしは、超絶裕福な生徒が通う英徳学園にひとり紛れ込んだ貧乏人の娘。学園を財力と権力で牛耳っている4人組「F4」のリーダー・道明寺司に目をつけられてしまい、いじめの対象になります。
しかし、彼女の真っ直ぐな正義感と名前の通りの雑草パワーに道明寺は惚れてしまい、次第に2人は両思いに……という内容のラブコメディー。

……と、あらすじだけ見るとのどかですが、とにかく『花より男子』はいろんなことが起こりすぎです。

まず、つくしが両手を縛られて、車で校内を引きずられるシーン。これ、普通に拷問です。
(ちなみに「校内引き回しの刑」って言ってるけど、いわゆる「市中引き回し」は、罪人が罪状を書いた札とともに馬の上に乗せられて刑場に向かうことで、あるある勘違いのひとつ)

雪山で遭難したり、雑誌の表紙モデルになったり、エレベーターに閉じ込められたりもする。でも、そんなときいつもイケメンが一緒なのだから、読んでる方は悶えちゃってたまったもんじゃないですよね。

セーター一枚で吹雪の中飛び出していくのも軽く常軌を逸しているし、冬に川に入って落とし物を捜すのも勇気がある。つくしも道明寺も、プールに落ちたり沼に落ちたり(水難の相が出ているのかもしれないですね)。

とにかくこの作品は、度重なる困難が尋常じゃない大きさで、いい感じにハラハラさせられる。そして、困ったお姫さまを救うヒーローが道明寺ひとりじゃないんだから、いくら困難が来ようが、むしろウェルカム……。いやいや、現実でそんなのありえないっつーの!

 

つくしの身に起こったことをデータ化してみた




さらに、つくしの波瀾万丈さをわかりやすくするため、データにしてみました。

まず、全37巻中つくしが酒につぶれたり気を失ったりして気絶した回数。これはなんと10回。

……え、待って? 多くの人が、「寝よっかな」と自分の管理下以外で意識がなくなったことが人生で何回あるのかな?

あったとしても数回あるかなって程度のじゃない?それがつくしは高校から大学の間に10回もあるって、もう病気なのか、呪われてるのか、疑った方がいいレベルの話だよね!

次に、つくしが男性に乱暴されそうになるシーン。これは計8回。そしてこれ、全部未遂。8回も危機に陥って未遂で生還ってすごくないですか?

(ちなみに、序盤は激しい暴力シーンがよく見られるのだけど、連載が続くに連れ、徐々に減っています。セクハラやDVといった言葉が浸透してきた時代を反映してますね)

さらに、その他、父の経済的ピンチは3回。
リストラされたり、ギャンブルで有り金全部すっちゃったり、心底ダメ親です。つくしが正義感に満ちあふれて育っているのが不思議なくらい。

キスシーンも振り返ってみましょうか。
道明寺とのキスは13回。まあ付き合ってるってことを考えれば少ないくらいかもしれない。

他には、花沢類とは2回、織部順平、吉松松太郎、国沢亜門にそれぞれ1回ずつ奪われています。自らの意志じゃなく「奪われてる」ってのがポイント。

少女マンガは夢があってナンボのところがあるものね。
なんの取り柄もない貧乏人の娘・つくしが、金持ちイケメンたちによってなんランクも上の世界を体験し、恋に落ちる……。しかも、つくしの逆境を支えるのが、F4を始め、彼女の周りに現れるイケメンたちなわけで、読者は楽しくないわけがない!夢見る少女たちは「自分もこんな体験ができるかも」って期待しちゃうじゃないですか。

 

で、何で牧野つくしがモテるんだ?




牧野つくしのモテることはまるで蟻地獄のよう。
道明寺に花沢類、青池和也、織部順平、天草清之介、国沢亜門、吉松松太郎と、出てくる男出てくる男……(しかもイケメンに限る)。
そして、みんななぜかつくしに夢中になる。なぜだ……?
それは彼女が、少女マンガの主人公だから。それしか理由はない。

私たちがイケメンを好きなのと同様に、つくしはよっぽどルックスがいいの……かもしれない。

(とは言っても、万人受けする美人とか、どんな万能なんだよ!)

でもひとつ、間違いなくつくしがすごいのは、どんな環境にあっても自分を見失わないところ。

……というと、「いや、マンガ読んだらつくしの真っ直ぐな性格は誰でもわかるよ!」ってツッコみたくなったそこのアナタ。ちょっと冷静に考えてみて?

たいていの人間は、周りが金持ちなら、自分もそこに染まって金持ち風の生活がしたいと思うようになるでしょう。

親に「玉の輿に乗れ」と執拗に言われたら、誰でもいいから英徳学園で男をあさり始めるかもしれない。

周囲の生徒がブランド品や海外旅行をひけらかしていたら、それができない自分の家や生い立ちを呪うようになるかもしれない。

道明寺や花沢類といった女子憧れのメンズに言い寄られたら、「私は特別なんだ」っていい気になるかもしれない。

周囲の男が金持ちなら、「タクシー代出してよね」くらい言うようになるかもしれない。

リアルな人間なんてそんなに強くないもの。
知らず知らずのうちに周囲に流されて、そして痛い目に遭って反省して。そしてまた流されて、反省して、少しずつ軌道修正していくんだと思うのです。

でも、つくしにはお金であろうが、人であろうが、周囲や環境から影響されて流されることが一切ない。その「揺らぎのなさ」が、つくしの魅力なのだろうし、主人公たる資質なんだろうな。

 

人生、我が物顔で生きてもいいじゃない




よく「少女マンガの弊害は、読者に間違った(自分に都合のいい)男性像を植え付けることだ」って言われてます。
でも、和久井はそれはそれでアリなんじゃないかと思うんです。多くの少女マンガの主人公は、主人公であるが故にイケメンたちから追い求められているわけだけど、この「主人公感覚」って、ホントは誰もが持つべきなんですよ。

誰もが「自分の人生の主人公」で、自分の好きなように、自分の思うように人生が運んでいくはずなのです。
だけど、ちょっとの不運や、思慮の浅さなんかで失敗すると、多くの人はくじけちゃうのね。それで「私なんか才能ないし」とか「私には出来ない」「もういい歳だしなぁ……」とか言い出しちゃう。

でも、牧野つくしが主人公たるゆえんは、彼女の「揺るぎのない価値観」にあったはず。いくつになったって、何をしていたって、「私は私よ」って自信を持っている女子は人を惹きつけるものです。

実際に、和久井の周囲のカッコいい女性たちは、ホントにパワフルだし、自信に満ちていて、くだらない卑下をしない。年齢関係なく恋愛を楽しんでいるし、彼女たちはとてもキラキラしていて、たくさんの男性たちを惹きつけるのも頷けます。

「私なんか……」って自分を卑下するのではなく、牧野つくしを見習って、人生我が物顔で生きるってのもいいんじゃないかな。

WRITER和久井香菜子

  • 大学の社会学系卒論で「少女漫画の女性像」を執筆、以来少女マンガ解説を生業にする。少女マンガの萌えを解説した『少女マンガで読み解く乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。視覚障害者によるテープ起こし事業「ブラインドライターズ」運営。Twitter:@kanawaku124

あなたにおすすめ