岡田将生「昭和元禄落語心中」を落語版「蒲田行進曲」と紐解いてみた

エキレビ!

2018/10/19 09:45

NHK総合のドラマ10の新シリーズ「昭和元禄落語心中」(金曜よる10時~)が先週よりスタートした。原作は雲田はるこの同名マンガで、2016年と2017年にはテレビアニメ化されている(当エキレビ!ではオンエア時、杉江松恋が各話レビューを執筆した)。

先週放送の第1回は、若き日の落語家・八代目有楽亭八雲(岡田将生)と芸者のみつ吉(大政絢)の心中事件をほのめかすモノクロの回想シーンから一転、昭和52(1977)年、すっかり歳を重ねて名人と呼ばれるまでになっていた八雲に、刑務所帰りの与太郎(竜星涼)が弟子入りを申し出る場面から始まった。与太郎は服役中、八雲が慰問に来て演じた「死神」に感動して、出所したら落語家になろうと思い立ったという。八雲はそれまで弟子をとるのを頑なに拒んできたが、どういうわけか与太郎の入門を認める。


名人・八雲のねじくれた人間関係
原作の「与太郎放浪篇」(単行本第1巻~第2巻に収録)にあたる第1回を見ていて印象に残ったのは、八雲と与太郎を中心に、登場する人物の関係がことごとくねじくれているということだ。

八雲は弟子にとった与太郎を、寄席へ連れて行ったりはするものの、自分から稽古をつけようとはしない。八雲の家では、運転手の松田(篠井英介)が家事全般をこなすほか、小夏(成海璃子)という若い女が同居していた。小夏は、八雲と同門で親友ともライバルともいうべき天才落語家・有楽亭助六の娘だ。助六が早世したあと、彼女は八雲のもとで育てられながら、父を殺したのは八雲だと思いこみ、ときどき衝突もする。

やがて与太郎は見習いから前座になることを認められるのだが、八雲はまだ噺を教えてくれない。そこで小夏が代わりに稽古をつけてやる。おかげで与太郎は、八雲の端正な芸風ではなく、豪放磊落な助六の芸風を身につけていく。

他方、八雲に弟子入りした与太郎を、円家萬月(川久保拓司)という若手落語家がしきりにうらやむ。萬月は大御所落語家の円家萬蔵(平泉成)を父に持ちながら、八雲に何度も弟子入りを志願して断られていた。萬月だけでなく、八雲には演芸評論家のアマケン(夙川アトム)ら熱烈なファンがたくさんついており、与太郎は嫉妬の的となる。

与太郎は前座として寄席に出演しながら、落語を演じる楽しさも覚え始めたが(これは、与太郎をやくざ稼業へ呼び戻しに来たかつての兄貴分(永岡佑)に落語を聴かせたのがきっかけ)、入門から8ヵ月ほど経った冬のある日、八雲の独演会で大失敗をしでかす。独演会への出演を開催3日前にようやく知った彼は、どうにか噺を覚えようとろくに寝ずに稽古に励んだものの、これが裏目に出たのだ。睡眠不足で肝心の落語はボロボロ、さらにはあろうことか、師匠が大ネタの「鰍沢」を演じている最中、舞台そでで居眠りし、大いびきが客席に漏れてしまう。激怒した八雲は、与太郎に破門を告げる。

しかし、与太郎は、自分にはもうここしか居場所がないと八雲にひたすら訴える。そんな彼の姿に、八雲はふと、少年時代の自分を重ね合わせた。そこで破門しない代わりにと、与太郎に3つの約束をさせる。それは「二つ目になるまでに自分と助六の落語をみっちり叩きこむから、全部覚えること」「かつて自分が助六と約束したものの果たせなかった、落語の生き延びる道をつくること」、そして「自分より先に死なないこと」であった。そのうえで八雲は、与太郎と小夏を前に、助六との約束の噺を語り始める──。

つかこうへい「蒲田行進曲」との類似性
今回のドラマでは、岡田将生が八雲の青年期から老年期まで演じる。その老けメイクにはやや違和感を感じないでもないが、線の細いイメージなどキャラクターの一貫性を保つためにも、岡田が全編を通してキャスティングされたのだろう。与太郎は一昔前の長瀬智也が演じたらハマりそうな役だが(って、それじゃ「タイガー&ドラゴン」になってしまうか)、バカがつくほどおおらかで、そのじつ繊細な役柄は竜星涼にもぴったりで、好感が持てる。小夏は原作ではもうちょっとはすっぱなイメージだが、成海璃子はそこをもうちょっと上品に、きついなかにも優しさや哀しさを秘めた女性として演じている。タバコをふかす姿にはちょっと驚いたが。

このドラマで脚本を担当するのは羽原大介だ。羽原は劇作家・演出家のつかこうへいに師事し、これまでに映画「パッチギ!」や朝ドラ「マッサン」などの作品を手がけてきた。彼の名前を第1回のエンドロールで目にしたとき、私はふと、本作のヒロインである小夏が、つかの代表作で映画化もされた「蒲田行進曲」のヒロインと同じ名前であることを思い出した。

先述のとおり「昭和元禄落語心中」の小夏は、助六の娘として生まれるも、父の死後、その親友だった八雲のもとに預けられた。一方、「蒲田行進曲」の小夏(舞台では根岸季衣、映画では松坂慶子が演じた)は、時代劇のスター俳優・銀ちゃんの子供を儲けながら、彼の弟分のヤスに押しつけられる。いずれの小夏も、固い絆で結ばれた二人の男のあいだで揺れ動く点で共通する。

もちろん、それはまったくの偶然なのだが、脚本が羽原と聞くと、どうしても深読みしてしまう。しかも次回以降、八雲と助六の師匠である七代目八雲を、映画「蒲田行進曲」ではヤス役だった平田満が演じるとあってよけいに。

木俣冬はその著書『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)で、羽原の描く男性像につかの影響を見出している。それによれば、つか作品に出てくる男は「蒲田行進曲」の銀ちゃんといい、とにかくドSなのに対し、羽原作品の男は、つかほどのドSさはなく、マイルド化されているものの、ちょっとヤンチャなツンデレ男子が多いという。今回の八雲もまた、ドSとはいかないまでも、小夏や与太郎に対して愛情を抱きながらも偏屈な態度を示すから、まさにこれに当てはまる(年齢的に「男子」ではないけれど)。

なお、「蒲田行進曲」の制作時につかに師事していた劇作家・演出家の長谷川康夫(舞台初演では当初、彼がヤスを演じる予定であったという)は、じつは弟分のヤスが大卒で、中卒の銀ちゃんよりも圧倒的にインテリで育ちもいいことを指摘したうえで、《銀ちゃんの、ヤスへの振る舞いを含めたすべての言動は、彼の中にある特殊なコンプレックスの裏返しである》と書いている。つか自身、「蒲田行進曲」は、世間の受け取り方とは反対に、本当は銀ちゃんがヤスにいたぶられる話だと長谷川に漏らしていたという(長谷川康夫『つかこうへい正伝 1968-1982』新潮社)。

ひるがえって「昭和元禄落語心中」の八雲は助六に対し、あきらかにコンプレックスを抱いている。彼が小夏や与太郎にたびたび苛立ちを示すのも、二人のなかに助六の存在を見てしまうからだ。それでいて八雲には、ほかの誰よりも助六を理解しているという自負がある。そんな複雑な感情が彼のなかに芽生える過程を、羽原がどんなふうに描くのか、今夜放送の第2話以降も注目したい。
(近藤正高)

※「昭和元禄落語心中」第1話は現在、NHKオンデマンドの特選ライブラリーで無料配信中(2018年10月27日まで)
【原作】雲田はるこ『昭和元禄落語心中』
【脚本】羽原大介
【音楽】松村崇継
【主題歌】ゆず「マボロシ」
【落語監修】柳家喬太郎(ドラマ中にも木村屋彦兵衛役で出演)
【出演】岡田将生、山崎育三郎、竜星涼、成海璃子、大政絢、川久保拓司、酒井美紀、篠井英介、平田満ほか
【制作統括】藤尾隆(テレパック)、小林大児(NHKエンタープライズ)、出水有三(NHK)
【演出】タナダユキ、清弘誠、小林達夫
【制作】NHKエンタープライズ
【制作・著作】NHK、テレパック

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