春画と妖怪画のイメージが変わる? 描かれた「わらい」と「こわい」展

Excite Bit コネタ

2018/10/12 15:30

京都・細見美術館で〈日文研コレクション 描かれた「わらい」と「こわい」展 春画・妖怪画の世界〉が2018年10月16日から開催される。

春画とは、あらゆる性の交わりを主題に描いた浮世絵の一ジャンル。近代化以降、その主題から国内では長らくセンセーショナルな存在として公に展示されることは避けられてきた。

しかし、2013年にイギリスの大英博物館で〈春画展〉が開催されて以来風向きが変わり、国内でも2015年に永青文庫、2016年には細見美術館で関連の展示が行われ大きな話題となった。

春画に関しては同館で2回目の展示となる〈描かれた「わらい」と「こわい」展〉。(以下、〈「わらい」と「こわい」展〉)前回とは違うのは、春画と一緒に妖怪画も展示されていることである。

なぜ春画と妖怪画なのか? 「わらい」と「こわい」というタイトルの言葉にはどんな意味があるのか? 細見美術館と共にこの展示を主催し、総数150点もの作品を出品している国際日本文化研究センター(以下、日文研)特任助教・石上阿希さん、プロジェクト研究員・木場貴俊さんにお話を聞いた。



固定観念を覆す こわい春画、わらえる春画
――わらい、こわい、とひらがなが続く愛らしい題名に絶妙なニュアンスを感じます

石上さん
「わらい、こわい、というそれぞれの言葉をとってみても『笑い』、『嗤い』、『怖い』、『恐い』などニュアンスの異なる漢字表記があります。本展覧会では、このふたつの言葉が持つさまざまな意味合いを春画と妖怪画で見ていただきたいという意図があり、ニュアンスを特定する漢字表記を避けました。

『春画』、『妖怪画』と聞いたときに思い浮かべるイメージとは異なるであろう、『わらえる妖怪画』、『こわい/わらえる春画』など、これまでとは違った側面に光をあてることで多くの人に興味を持ってもらいたいと思います」

〈「わらい」と「こわい」展〉では、春画の物珍しさや面白おかしさだけではなく、浮世絵や絵巻の世界の魅力や奥深さをも伝えている。いくつか興味をひかれる作品をご紹介しよう。

初代歌川豊国『絵本開中鏡』。男性のお相手は、骸骨!? 悪夢でもいいからせめて夢であってくれ! と願ってしまう。



続いて鈴木春信「風流座敷八景」。愛し合う二人は背後の障子から覗く人影に気づいてないのか、それともワザと見せつけているのか……?



――春画とは近世の人々にとってどのような存在だったのでしょうか?

石上さん
「一人でこっそり楽しむ、他人と体験を共有する、どちらもあったと思います。肉筆春画は依頼主が絵師に注文する高級なもの。一方で版画や版本はそれに比べれば手に入りやすい値段でした。

艶本の流通経路のひとつが『貸本屋』と呼ばれる本屋。購入するよりも安い値段で楽しむことができました。借りる日数や、新刊、人気ジャンルなどで値段が変わるなど、現在と似たシステムで多くの人が艶本を読んでいました」

―― 絵師にとっては、(華のある)大首絵や美人画といったジャンルではない、「わらい」と「こわい」の要素の作品を描く上でのモチベーションはどこにあったのでしょう?

木場さん
「もちろん生計を立てるためもありますが、そのためには作者としてのオリジナリティと購買層の求めるものが一致することが大事です。読者が要求するテーマからいかに独創性を発揮できるかが、絵師の腕の見せどころだと言えますね。

『わらい』や『こわい』の要素は、人間の感情を揺さぶるものであり、どのような構図が人の感情を揺さぶるのか、そうした実験的要素もアーティストには必須かもしれません」

絵師たちは上記のような“実験”を繰り返すことで、「わらい」や「こわい」の要素をダイレクトに作品へと反映させ、今日に伝わる豊かな作品世界を築き上げた。その点で今回最も注目を集めていると言っても過言ではないのが、どちらも初公開となる「妖怪春画絵巻」・「俳諧女夫まねへもん」の2作品だ。

「妖怪春画絵巻」は江戸後期に描かれた作品で、絵師は不明。性器を顔にかたどった妖怪や幽霊が描かれた肉筆絵巻で、春画表現の中に幽霊や妖怪を取り入れた最初期の作品とされる勝川春章の『百慕々語』をベースとしている。

続いて磯田湖竜斎「俳諧女夫まねへもん」は、まさに“わらい”を誘う春画の代表格。浮世草子、浮世絵で題材・画題として描かれてきた「豆男もの」のひとつで、仙薬などによって身体が小さくなった男と女がさまざまな閨房(けいぼう)をのぞいて色道修行をするという趣向の作品である。



「豆男もの」に限らず、空想、誇張、わらいは江戸時代の春画の特徴でもあり、同展覧会ではそのような春画もいろいろと紹介されるとのこと。

ひと口に春画と言っても、艶っぽいものから面白おかしいものまで千差万別。長らく春画を公の場で展示することはタブー視されてきたが、ようやく時代が春画に追いついてきたという状況だ。

今後の研究の結果次第では出品リストに名を連ねる歌川豊国、歌川国芳、葛飾北斎といった著名な浮世絵師達のみならず、まだほとんど名を知られていない絵師の活躍が再確認される可能性もあるはずだ。

ちなみに、絵巻などは無名の作家によるものも多いため、石上さんのおすすめの鑑賞法は作者名にこだわらず各作品を鑑賞することだという。

妖怪画と中世人の感性
打って変わって、古来より大人から子供まで幅広い世代が楽しむものというイメージがあるのが「妖怪」だ。

――なぜ近年妖怪に関する資料が再発見・再評価されているのでしょうか?

木場さん
「妖怪については『妖怪ウォッチ』、そして今年から再び放送が始まった『ゲゲゲの鬼太郎』が高評価を受けているように、安定した人気を得ています。毎年夏の時分には、全国の博物館・美術館で“妖怪”を冠した展示が行われているのが、その証拠ですね。

日文研ではそうした動向を押さえながら、人間文化としての「妖怪」について研究活動を継続しています。その成果が活かされた今回の展示を通じて、市民の方々に妖怪に対する関心をより高く持っていただければと思います」



このような“妖怪コンテンツ”のルーツは中世に遡ることができる。そのひとつ「長谷雄草子」は、早い時期から物語の筋が成立していたと伝えられている絵巻だ。男が契りを交わした女性が水になるという、幻想的でありながら背筋が寒くなるストーリー。思いついた人、天才すぎる……。

――「長谷雄草紙」は完成度も高く、現代にも通じる面白さを感じます。写しがとられるほどなので中世の御伽草子の中でも非常に人気が高い作品だったのでしょうか?

木場さん
「人気があったかまでは確かではありませんが、絵師が技法を学ぶためにさまざまな絵巻を模写していました。契りを交わした女性が水になるのは、とても幻想的でそこから中世人の感性に思いを馳せることは大事だと思います」



続いて妖怪を語る上で外せないのは「百鬼夜行絵巻」である。中世から近世、そして近代、現代になっても絵師たちの想像力を刺激し続ける妖怪画史上最大のバイブルとも言えよう。確かに、百鬼夜行絵巻から派生した作品は「こわい」というよりは「わらえる」妖怪画だ。

――英一蝶「妖怪絵巻」は、生類憐みの令に触れて島に流されるという波乱万丈な人生を送ったからこそ描けた絵だと感じます。

木場さん
「実はこの作品は、英一蝶の落款が押されているだけで、果たして本人の手によるものなのかは不明なんです。この絵巻は土佐派の『百鬼夜行絵巻』という妖怪の群行を描いたものを元にしています。中には絵師オリジナルのものも確認できますね。元の絵巻を踏まえながら、新しい妖怪を創作するのは絵師としての創作意欲に駆られたかもしれません」



最後に明治期に入ってから月岡芳年が描いた、可憐で耽美な蜘蛛女が活躍(?)する妖怪画も紹介しよう。月岡芳年はエロティックで過激な作風で、浮世絵にあまり詳しくない人にも知られているかもしれない。

女性に化けた蜘蛛のアンバランスな足元と、坂田公時の逞しいふくらはぎの対比がいっそ清々しい。現代人には場違いなほどにユーモラスに映る姿もまた「わらい」と「こわい」の世界を体現しているのだろうか?



――こちらはどのような場面を描いたものなのでしょうか?

木場さん
「女性に化けた土蜘蛛が、寝ずの番をしている坂田公時を術で眠らせて頼朝の寝所に向かおうとしている様子を描いています。武勇のある公時ですら妖術にかかってしまうこともあるという絵です。九尾の狐のように妖怪は美人に化けることもありますが、美は時として人を惑わすこともありますね」

このような女性の変身譚には、生きることの厳しい時代だからこそ滲み出る独特のエロティシズムも感じられる、……と言っては言い過ぎだろうか。

館長の情熱的すぎる想い「一度きりのお祭り騒ぎとなってはいけない」
「わらい」と「こわい」展を行うきっかけとなったのは、細見美術館から日文研に対してもう一度春画の展覧会を行いたいと連絡があったからだという。細見館長はその時「一度きりのお祭り騒ぎになってはいけない。春画については今後も展覧会を開きたい」と言葉を重ねた。

2013年に大英博物館で〈春画展〉が開催される以前、日本では春画に関する展示は一度も行われなかった。しかし逆にそのことが、「自国の文化を自分たちの手で紹介しなければ」という細見館長の春画にかける情熱的すぎるほどの熱い想いを際立たせているようでもある。

一方、日文研も1990年代半ばより20年来、妖怪画や春画の保存収集を進めてきた。石上さんは「わらい」と「こわい」というふたつの感性は、人間が持つ普遍的なものであり、この切り口で日本文化を紹介することで、海外の方にも関心を持ってもらいやすくなると考えているそう。

――最後に上記以外の注目の作品や、来場者の方へ伝えたいメッセージをお願いします。

石上さん
「日文研では春画と現代をつなぐプロジェクトとして鳥居清長『袖の巻』の復刻事業を進めています。本展覧会では、実際に復刻された錦絵、版木、彫・摺の道具、映像なども展示予定です。江戸時代の技術に、現代の職人たちがどのように挑むのかというところをみていただければと思います」

古くから日本人の興味をひきつけてきた「わらい」と「こわい」。現在に生きる私たちもそれにひかれるのは変わらない。エロティックなだけではない春画、恐ろしいだけではない妖怪画。それらがつなげる世界をこっそり覗いてみよう。

日文研コレクション
描かれた「わらい」と「こわい」展 ―春画・妖怪画の世界―

http://www.emuseum.or.jp/exhibition/ex062/index.html

18歳未満は入館不可(美術館・ショップ)
受付にて、年齢のわかるものをご提示いただく場合があります。

<会期>
2018年10月16日(火)~12月9日(日)
※展示替有り・再入場不可
1期:10月16日(火)~10月28日(日)  3期:11月13日(火)~11月25日(日)
2期:10月30日(火)~11月11日(日)  4期:11月27日(火)~12月9日(日)

<開館時間>
午前10時~午後6時 (毎週土曜日は午後8時まで)
※入館は閉館の60分前まで

<休館日>
月曜日

<入館料>
1,500円(1,400円)
※( )内は20名以上の団体料金
※障がい者の方は、障がい者手帳などのご提示でご優待 (一般:1,500円→1,400円)

(丹野加奈子/イベニア)

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