原作者急逝、清水富美加の出家とトラブル続出!! お蔵入り寸前だった千原ジュニア主演作『ごっこ』

日刊サイゾー

2018/10/12 20:00


 男と女の関係はいつか破局するときが訪れる。結婚して夫婦になっても、離婚に至るリスクは常に伴うことになる。それならば、大好きな女の子とひとつの家族になれば、一生別れる心配がない。2016年10月20日に急死した漫画家・小路啓之さんの代表作『ごっこ』(集英社)が、千原ジュニア主演作として映画化された。40歳にしてニートの引きこもりだったダメ人間が、DVに遭っている幼女を連れ出し、親子ごっこを始める。稚拙極まりない親子ごっこだが、父親を演じることでダメ人間は否応なく成長を遂げざるをえない。千原ジュニアと娘役・平尾菜々花の家族ごっこは、我々観客の胸の奥の熱いものを喚起させる。

千原ジュニア主演作『ごっこ』は、お蔵入り寸前となっていた映画だ。映画が完成する直前に、原作者の小路さんは心筋梗塞で突然死。また、17年2月にはメインキャストだった清水富美加が出家して千眼美子と改名し、一時芸能活動を休止するなど、次々とアクシデントが続いた。だが、それらのトラブルは、映画がお蔵入りしかけた直接的な原因ではなかった。

多部未華子主演作『君に届け』(10)などのヒット作で知られる熊澤尚人監督が、原作コミックに出逢ったのは15年8月。生きるのがへたくそな主人公とネグレクトに遭いながらもタフに生きる幼女という2人のキャラクターに魅了された熊澤監督は、わずか2カ月後の同年10月下旬に撮影をスタート。16年1月初旬の撮影も含め、わずか計14日間で撮り上げている。高い熱量で撮り終えた本作だったが、その時点で製作費が底を突いてしまい、映画の仕上げや劇場とのブッキングが遅れてしまったというのが真相だ。

公開が遅れたことにより、『ごっこ』はさらに思わぬ事態に陥った。児童虐待、幼児の連れ去り、年金の不正受給、血縁のない疑似家族による居場所づくり……という多くの社会的テーマが盛り込まれている『ごっこ』だが、それらの要素は6月に公開されて国内興収だけで40億円を越える大ヒットとなった是枝裕和監督のオリジナル脚本作『万引き家族』と丸被りしている。撮影は『ごっこ』のほうが早かったが、17年に主要パートが撮影された『万引き家族』が先に完成し、カンヌ映画祭パルムドール受賞という輝かしい栄誉を博している。話題性も含め、後塵を拝する形となってしまった。では、『ごっこ』は不運つづきの日陰の存在なのだろうか。

物語の始まりは、とても些細だ。おもちゃのBB弾がきっかけで、『ごっこ』の主人公たちの運命は動き始める。城宮(千原ジュニア)は生活能力のまるでないダメ男。アパートの自室に引きこもり、もう40歳になる。ある日、近所の悪ガキどもがBB弾で城宮の部屋の窓ガラスを一斉射撃した。怒った城宮が長年閉め切っていた窓ガラスを開けると、城宮の目にお向かいの二階にいた幼女(平尾菜々花)の姿が目に入る。幼女は虐待されているらしく、傷だらけだった。後先のことを考えずに衝動的に幼女を連れ出す城宮だったが、幼女から「パパやん!」と呼ばれ、このとき決意する。この子は欲望の対象じゃない、この子の父親になろうと。

幼女を「ヨヨ子」と呼ぶようになった城宮だが、自分の生活費も満足に稼げないため、寂れた帽子屋を営む父親(秋野太作)の実家にヨヨ子を連れて転がり込む。父親は事情を訊くことなく、ひとり息子である城宮に別れを告げる。近所には老人ホームに入居すると伝え、年金は城宮が受け取れるよう銀行振込みにして人知れず自殺を遂げる。不正受給で手に入れたお金で、家族ごっこを始める城宮とヨヨ子だった。

“ジャックナイフ”と呼ばれた若手芸人時代には、豊田利晃監督のデビュー作『ポルノスター』(98)、瀬々敬久監督の実録犯罪映画『HYSTERIC』(00)などに主演し、怖いもの知らずのとんがりぶりを見せていた千原ジュニア。10年から始まったドラマ『新・ミナミの帝王』(関西テレビ)では非情さを極めた闇金屋に扮している。だが、子役の平尾菜々花との2人芝居の多い『ごっこ』では、慣れない父親役を通してこれまでにない優しくナイーブな素顔を見せている。

一人でいるときはカップ麺しか食べていなかったのに、育ち盛りのヨヨ子のために初めてのカレー作りに挑戦する。テレビのヒーロー番組が大好きなヨヨ子にせがまれ、汗だくでヒーローごっこに興じる。ヨヨ子に「ありがとう、ごめんなさいを言えるようになろう」と教えた手前、自分が率先して頭を下げるはめになる。始まりは単なるごっこ遊びだったが、城宮は真剣にヨヨ子と向き合う。一人では漫才ができないように、一人ではごっこ遊びもできない。小さなパートナーがいることで、城宮は変身を遂げていく。城宮はヨヨ子の世話を焼いているつもりだが、実は城宮を大人へと導いているのはヨヨ子のほうだった。ヨヨ子の拾うBB弾が、2人の距離をより縮めていく。

千原ジュニアが『ごっこ』に出演したのは、独身生活に終止符を打った直後のタイミングだった。現在は一児のパパとなっている千原ジュニアだが、撮影時は新婚家庭を持ったばかりで、子どもはまだ不在だった。熊澤監督の前作『ユリゴコロ』(17)で吉高由里子扮するサイコキラーの幼年期を演じた小さな名優・平尾菜々花を相手に、不器用ながらも父親役を懸命に演じる姿は疑似家族をテーマにしたドキュメンタリー映画そのものとなっている。

城宮とヨヨ子の関係は歪んだ疑似家族ゆえ、円満には進まない。同じ商店街で暮らす幼なじみのマチ(優香)は警察署に勤めており、城宮が無職でいることを咎める。マチに勘ぐられたくない城宮は働きに出掛けるようになり、ヨヨ子と一緒になって遊んでいた楽しい家族ごっこの時間は終わりを告げる。再び一人ぼっちで家に残されるヨヨ子の孤独さに、仕事で疲れた城宮は気づくことができない。親子ごっこから本当の親子になろうとした瞬間に、2人の関係性は軋轢が生じるようになってしまう。

物語のクライマックス、法的には幼女を誘拐し、拉致していたことになる城宮は、ヨヨ子との物理的な別れを余儀なくされる。幼女時代の数カ月を「パパやん」と過ごしたヨヨ子の記憶からも「パパやん」との温かい思い出が消えてしまう。城宮はヨヨ子のお陰でダメ人間から脱したものの、社会からは犯罪者の烙印を押されることになる。では、『ごっこ』はバッドエンディングの哀しい物語なのだろうか。そして、映画化された『ごっこ』はお蔵入りしかけた残念な作品なのだろうか。

いや、そうではない。『ごっこ』は生命力に溢れた映画だ。低予算かつ短期間で撮影に入った作品ゆえに不満箇所は多々あるものの、生命力に満ちた作品ゆえに劇場公開に至ったのだ。無視することができない、生きものたちの叫びがこの物語には込められている。千原ジュニアと小さな名優・平尾菜々花が親子ごっこを演じた映画『ごっこ』は、スクリーンから幸せが溢れ出す作品として10月20日に誕生する。
(文=長野辰次)

『ごっこ』
原作/小路啓之 脚本/髙橋泉、熊澤尚人 監督/熊澤尚人 主題歌/indigo la End「ほころびごっこ」
出演/千原ジュニア、優香、平尾菜々花、ちすん、清水富美加、秋野太作、中野英雄、石橋蓮司
配給/パル企画 10月20日(土)より渋谷ユーロスペース、イオンシネマシアタス調布ほか全国順次ロードショー
(c)小路啓之/集英社/(c)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA
http://gokko-movie.jp

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