新感覚の傑作ホラーが女性に贈る3つのメッセージ。LGBT、フェミニズム…

女子SPA!

2018/10/12 15:45



10月20日に公開されるヨアキム・トリアー監督の『テルマ』。ストーリーこそ違えど、ブライアン・デ・パルマ監督の傑作ホラー『キャリー』(1977年)の遺伝子を受け継いだ名作だという評判でもちきりです。

しかも、ホラーというジャンルを越え、LGBT、フェミニズム、大人への通過儀礼を静謐な美しさで描いています。今回は、筆者が本作から受け取った、女性に対する3つのメッセージを紹介したいと思います。

◆1:誰かの支配から逃れること

ノルウェーの人里離れた田舎町で、足の不自由な母、厳しい父と3人で住むテルマ(エイリ・ハーボー)は、オスロの大学へ入学し一人暮らしを始めます。厳格なキリスト教の戒律の下で育った彼女にとって、大学生活はすべてが新鮮で楽しいもの。唯一気になるのは、父親が彼女の一挙一動を探るような電話を毎日してくること。従順だったテルマは父親の支配から逃れるように電話を無視し、友達と一緒にいることを選ぶようになります。

この映画で描かれるテルマと両親の関係は、“父権社会”のメタファー。母親は車いす生活を余儀なくされているとはいえ、すべてを父親にゆだねているところがどこか不自然で不気味。例えば、大学生にもなったテルマに毎日電話をするという過干渉ぶりを発揮するのも、母親ではなくて父親なのです。それゆえに、父が家長として君臨する“家父長制”を表しているようにも。唯一の神を「父」と呼ぶキリスト教の狂信的な信者という家族設定も、家父長制を示唆しており、父親への反抗は自分を支配する“権威からの自立”を意味しているのです。

◆2:自分自身を知り、受け入れること

あるとき、テルマにてんかんのような不思議な発作が起こり、助けてくれたアンニャ(カヤ・ウィルキンス)と知り合います。同級生の彼女は、テルマの知らない“大人”の世界を知っている自由奔放な女性。煙草やお酒にもトライし大学生活をエンジョイするテルマは、次第にアンニャに魅かれていき、とうとう彼女と口づけを交わしますが、宗教ではタブーの同性愛に罪悪感を覚えてしまいます。そして、またもやテルマを襲う謎の発作。次第に彼女の周りでは奇怪な現象が起こるように……。

そんなある日、アンニャが突然失踪してしまい、同じ頃にテルマの発作が起きたことから、テルマはアンニャの失踪に自分が関与しているのではないかと疑い始め、父親を問い詰めます。やはり、テルマには特殊な“力”があったのです。

発作が起こると放たれるテルマの超能力は、親の支配から逃れて、アンニャに対する感情を自覚したときから覚醒します。なぜなら、彼女の超能力は、セクシュアリティや自我を指しているから。

それに、テルマは自分の爆発的な力をコントロールすることができません。これは、人の性的指向やアイデンティティというものは、誰にも作られたり、支配されたり、または制御されたりするものではない、だからこそ、自分自身を知り、受け入れることが大切なのだということを訴えているのではないでしょうか。

◆3:「女らしさ」から自分を解放すること

テルマを遠くから撮ったロングショットと近くから撮ったクローズアップを、交互に繰り返しながら進むストーリー。この不安定なカメラワークには、観る者の心をかき乱し不安に陥れる効果があり、まるでテルマが感じる“心の不安定”と連動しているよう。

その上、美しく孤独なノルウェーの風景にテルマが閉じ込められているように見えるロングショットは、彼女の心が抑圧されているように見えます。おそらく、作中たびたび登場する“鳥”は、抑圧された自分を解放したいという葛藤の象徴なのでしょう(ちなみに、監督によるとこの鳥は、ヒッチコック監督の『鳥』(1963年)へのオマージュなのだとか)。

さらに、テルマがプールの水中に閉じ込められて息ができず、のたうち回るシーンがありますが、これも父権社会が決めたジェンダーに苦しむ女性を示唆しているようにもとれます。

話はそれますが、先日、杉田水脈議員が放った“生産性”発言はまさに、“女は産まなければいけない”という役割で女性を縛ったもの。このように、今日でも多くの女性は社会が期待する「女らしさ」にがんじがらめになっているのです。

私たちが大人になるときに、絶対に避けて通れないのが「自分とは何者なのか?」という問いかけ。自分自身の答えを見つけたとき、テルマは自分の“力”を自由に操り、より広い世界へと羽ばたくことができるかもしれません。

流れる血の一滴にさえ、たまらない寂寥感が広がる圧巻の映像美で、現代社会における女性のあり方を問題提起し、女の子が大人へと成長するときに避けて通れない心の旅を描いた本作。自分の人生の舵をとるのは親でも社会でもなく自分自身である、ということを改めて気づかせてくれます。

<文/此花さくや>

(C)PaalAudestad/Motlys

【此花さくや】

映画美容ライターで、MAMEW骨筋メイク(R)公認アドバイザー。。「シャネル」「資生堂アメリカ」のマーケティング部勤務を経てライターに。映画のファッションやコスメ情報、メイクのHow Toを発信中。

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