凱旋ムード一色の中で奏でられた、ピアニスト髙木竜馬の卓越した音楽世界

SPICE

2018/10/11 18:00

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.9.16ライブレポート


クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。9月16日に登場したのは、第16回グリーグピアノ国際コンクールで栄えある第一位と、聴衆賞の栄冠に輝いたばかりの、ピアニストの髙木竜馬だ。

現在、ウィーン国立音楽大学コンサートピアノ科に特別奨学生として在学し、研鑽を積みつつ積極的に演奏活動を行っている髙木竜馬は、その人並外れた高い演奏技術と音楽性で、内外の期待を集める気鋭の若手ピアニスト。これまでにも数々のコンクールでの輝かしい優勝歴を持ち、大人気を博しているNHK総合アニメ『ピアノの森』の登場人物である雨宮修平のピアノ演奏を担当するなど、注目度もさらに大きくなっていた。そんな中、2回目となるサンデー・ブランチ・クラシックに登場の直前に、グリーグピアノ国際コンクール優勝の報が届いたこともあって、eplus Living Room CAFE&DININGは、開演前から熱い期待とお祝いムード一色。その空気の中、颯爽と登場した髙木に大きな拍手が贈られ、演奏がはじまった。
髙木竜馬
髙木竜馬

楽曲の奥深さを自在に聴かせる演奏


1曲目はラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調作品3-2「鐘」。ロシアの作曲家ラフマニノフの楽曲の中で最も有名なもののひとつだが、日本では特にフィギュアスケートの浅田真央がこの曲でオリンピックシーズンを滑ったことで、更に広く知られる著名曲となっている。
そんな名曲を弾く髙木の演奏は、遠くから聞こえてくる鐘の音を極めて繊細に奏でるところからはじまり、その美しい響きがLiving Room CAFE&DININGでは普段ほとんど気にならない、食器の音が大きく感じられるほど精緻な空気感を醸し出す。半音階の三連符が多用される中間部の速いパッセージを的確に聞かせたあと、三段譜になる後半の迫力とダイナミズムは比類ない。そこから遠ざかる鐘を表現するラストの短いコーダのテンポを非常にたっぷりととっていて、消えていく音が胸にしみいるよう。決して長くない楽曲の中にある豊かな起伏を十二分に感じさせ、早くもブラボーの歓声が飛び交った。
髙木竜馬
髙木竜馬
髙木竜馬
髙木竜馬

「グリーグ国際ピアノコンクールを終えて、木曜日にノルウェーから帰国したばかりです」の髙木の挨拶に大拍手が贈られ、2回目の登場のサンデー・ブランチ・クラシックが、奇しくも受賞直後というタイミングになったので……とのことで、楽曲解説ではなく、MCではコンクール秘話をご披露しましょう、と粋な進行に。「グリーグピアノ国際コンクール」が北欧で1番大きなピアノコンクールであること。ファイナルに進む前に実に5回の予選があり、DVD選考で選ばれた28人が9日間に一次、二次、セミファイナル、ファイナルと絞られていくので、演奏順の日程によっては3日間連続の審査になるという、ほとんど気が遠くなるような壮絶な審査を「レパートリーを掘り下げられる幸福な時間」と表現する高木の、柔らかい雰囲気からは想像もつかない凄味に圧倒される。
髙木竜馬
髙木竜馬

次に演奏されたのはショパンの練習曲嬰ハ短調作品10-4。非常に急速なテンポの激しく情熱的な1曲だが、髙木の表現にはさらに力強さが加味された骨太な魅力がある。メロディも華やかに聴かせ、ピアニストとしての進化と逞しさも感じさせた。
髙木竜馬
髙木竜馬

続けて同じショパンのバラード ト短調第1番作品23。レチタティーヴォ風の序奏で始まる、ショパンの代表作のひとつで、こちらも非常に著名な楽曲だが、髙木の演奏は力強さと繊細さのコントラストが絶妙。速いパッセージの難易度があたかも高くないかのように感じさせる卓抜したテクニックの魅力の上に、ロマンティックなメロディを美しく聴かせる抒情性も豊か。ショパンの華麗さと「ピアノの詩人」と讃えられるに相応しい、妙なる魅力を十二分に知ることができる素晴らしい演奏に、涙が出るような気持ちになった。

コンクール秘話に続くムソルグスキー、そして待望のグリーグ


再びMCとなり「コンクールのあとに頂いた質問で最も多かったものをお話します」ということで、Q1「コンクールの期間中何をしていましたか?」には、コンクール期間中は事務局が用意してくれたホストファミリーの家でホームスティをしていたが、髙木は非常に珍しいケースで、中国人のピアニストと2人一緒のホストファミリー宅で過ごしていたとのこと。そのホームスティメイトの彼もセミファイナルまで残ったのだが、髙木がひたすら自由時間を練習にあてて、ほとんど観光もできなかったのと違い、彼は余裕をもって過ごしていて、それぞれのやり方でベストなパフォーマンスを追求していたという。

Q2「コンクールで辛かったことは?」には、セミファイナル の結果発表後、共に過ごした中国人ピアニストがファイナルに残れず大変辛い想いをしたが、別れ際に彼が「竜馬は絶対に優勝できる。僕の分まで(ファイナルの課題の)コンチェルトを弾いてきてくれ」と言ってくれたことが、強く心に残ったそうだ。
Q3「コンクールで何を考えていたか?」については、基本的には普段のコンサートと同じだったが、SNSをブロックし、世の中の出来事をシャットダウンしていたので、日本に起きていた災害のことも知らなかった。むしろ周りから「大丈夫だったのか?」と尋ねられたことで日本の被害を知り、被災した皆さんの為にも良い演奏を届けたいと思ったそうで、このコンクールに臨んだ髙木の集中度の高さが垣間見えるエピソードになった。

そして「コンクールでも演奏した曲です」とのことでプログラムラストはムソルグスキー『展覧会の絵』より「バーバ・ヤーガ」「キエフの大門」。印象的な「プロムナード」のテーマが殊に有名な、ムソルグスキーの代表曲とも言えるピアノ組曲で、髙木は、華やかさと同時に非常にコケティッシュな面もある楽曲の個性をだっぷりと聴かせてくれる。粒の揃った極めて繊細な音を奏でたあと、ドラマチックに盛り上げる迫力のパートで惹きつける。そこからテーマが聞こえた時の美しさは胸をつかれるほど。完璧にコントロールされたテクニックと表現と壮大で荘厳な響きで、1台のピアノでたった一人で演奏していることが信じ難いような世界観が構築され、誰もが息を呑むような時間が流れていき、「ブラボー!」「ブラボー」の大歓声と大拍手が湧き起こった。
髙木竜馬
髙木竜馬
髙木竜馬
髙木竜馬

その喝采の中ステージに戻ってきた髙木は、「今日のコンサートはグリーグピアノ国際コンクールの前にプログラムを決めていましたので、グリーグの曲がありませんでしたから、最後にグリーグを」との嬉しい申し出で、アンコールはグリーグ抒情小曲集第10集作品71から「夏の夕べに」ノルウェーの夏の夕暮れを描いた美しい小品で、高木の澄み切った響きの高音が、なんとも繊細で美しい。音が泡になって水に溶けていくような、精緻で静謐な世界がeplus Living Room CAFE&DININGを包み込んだ。
髙木竜馬
髙木竜馬

世界で確かな評価を得た人の真髄が伝わる、あまりにも贅沢な40分間だった。

常に実直にピアノに向き合い、一生上を目指し続けていきたい


演奏を終えた髙木にお話しを伺った。

ーー2回目となるサンデー・ブランチ・クラシックで、素晴らしい演奏でしたが、改めて今日の会場の雰囲気はいかがでしたか?

いつもこちらで感じることですが、とてもアットホームで、皆さんがお食事を楽しまれていながらも、演奏中は静かにしましょうというような、お互いに周りに心を配りあって、ベストな空間を創り出そうとしてくださることが伝わってくるんです。そうした相互の関係の中で共に素晴らしい空間を創ろうとすることは、サロンコンサートの醍醐味ですから、とても心地良かったですし、今回は特別なシチュエーションでのコンサートになりましたので、皆様がお祝いムードを醸し出してくださるのが嬉しく、温かく、とても弾きやすい雰囲気でした。

ーー今日は本当に祝賀ムードいっぱいで、コンクールでのお話もたくさんしてくださいましたが、選曲はコンクールよりも前に決められていたのですよね?

そうなんです。この結果を得るよりも前に構成は決めていました。
髙木竜馬
髙木竜馬

ーーその選曲にあたって工夫された点などは?

最初はラフマニノフで、最後がムソルグスキー、ロシアの作曲家で誰もが1度は耳にしたことがあるだろう名曲で大きなアーチを描きました。最初の「前奏曲」には「鐘」という副題がついていて、ラフマニノフの出世作で、モスクワ​中の人がこの曲を練習している音が響いたですとか、ラフマニノフ本人の演奏会でも、彼がこの曲を演奏するまではお客様が決して帰ろうとしなかった、などのエピソードが残っています。その名の通りモスクワに響き渡る鐘の音が表されている。そして最後のムソルグスキーの『展覧会の絵』は、彼と旧知の仲だった画家のハルトマンが亡くなってしまった後の、遺作展を見たムソルグスキーがハルトマンの絵をモチーフに書いた組曲ですが、ロシアだけでなくフランス、ローマなど色々な場所が出てくるんですね。それが最後にロシアに行きつく。
「バーバ・ヤーガ」はロシアの神話の世界を描いていますし、「キエフの大門」は、もともとロシアの文化発祥の地はモスクワ​ではなくキエフだったんです。日本でいうところの京都、奈良のような存在がキエフで。なのでムソルグスキーの、古き良き時代の栄光のロシアに復活して欲しいという強い気持ちが描かれています。有名な「プロムナード」のテーマはムソルグスキー自身が展覧会の会場を歩いているというイメージで度々挿入されるのですが、そのテーマが重なるのは「キエフの大門」だけなんです。それは亡きハルトマンの展覧会がこれだけ大々的に開かれていることへの想いと、栄光のロシアへの想いとがムソルグスキーの中で混然一体となって組曲が終わりに行きつくということで。その過程で鐘の音もたくさん出てくるので、「鐘」で作ったアーチの中に、ショパンを入れようと。ラフマニノフの「鐘」が嬰ハ短調なので、ショパンの嬰ハ短調のエチュードを置いて、さらにバラードは皆さんがとてもお好きな曲なので、ロシアの中にショパンを置くという意図で作ったプログラムでした。


ーープログラム全体も壮大でしたし、髙木さんの演奏は技術力が桁外れで、難曲をあたかもそうでないかのように軽やかに弾いてくださるので、曲の美しさがまず前面に出るのが素晴らしかったです。しかも今回はグリーグピアノ国際コンクール優勝直後ということで、非常に特別な時間になりましたが、あまりにもまだ近い話なので難しいかも知れませんが、コンクールを経験したことによって得たものなど、感じるところはいかがですか?

やはりコンクールというのはある種の極限状態に自分を追い込むものなんですね。もちろん先ほど申し上げたように臨み方は人それぞれではあるのですが、でも長いスパンで見れば等しく誰もが寝食を削って臨むもので。もちろん結果によって新しい扉が開くという希望もありますが、自分がこれだけの時間と情熱をかけて創り上げたものがどう評価されるのか、現地のお客様の反応はどうか、また日本で待っていてくださる方達に喜んで欲しい等、色々な感情がある中で、自分を極限まで追い込み最善の完成度を目指します。そうした自分に向き合えたということが、やはり1番の収穫でした。どんなに勉強してもまだまだ足りないというものは出てきますし、今回僕は様々な運に恵まれて1位になれたと思っているのですが、何かひとつが変わっていれば結果も変わっていた可能性もあります。
ですからコンクールの結果というのは目的地ではなくて、新しいキャリアの第一歩に過ぎませんので、これからも真摯に実直にピアノに向き合っていきたいと思います。その上でやはり今後は「グリーグピアノ国際コンクール1位」という経歴がついてきますから「国際コンクールで1位なら、これくらい弾いて当たり前だろう」という認識も皆さんの中におありかな? と思いますので、その期待を裏切らないように。「評判を聞いて来たのにたいしたことないな」(笑)とは、絶対に思われないように、1回1回の演奏の都度、聴いてくださる方に感動していただけるように頑張っていきたいと思っています。

髙木竜馬
髙木竜馬

ーーそうしますと、コンクールに向かう為に使った時間が最も大きな収穫だったということなんですね。

そこからしか得られないものが多くありますし、逆に言えばそこまでいったからこそまだまだ足りない点があるという課題も見つかりました。今までのレベルを、膨大な練習を積んだことでクリアしたからこそ、もうひとつ高いレベルでの課題に直面していて。おそらくこれはさらに勉強を積んでその課題をクリアできた、少しは成長できたと思った時に、またさらに新たな課題がきっと見つかる、一生続くことなんだろうと思います。ですからその課題をひとつずつクリアし続ける、少しずつでもずっと上を目指し続けていけることが理想なので、もちろんそうはいかず下がる時もあるのかも知れませんが、できるならば上を目指し続ける道を歩いていきたいなと考えています。

ーーその道程に心から期待していますし、これからのさらなるご活躍を楽しみにしています。サンデー・ブランチ・クラシックにもまたいらしていただけるんですよね?

はい、来年すでに予定も決まっているものもありますし、この空間が大好きでいつも楽しみにしていますので、これからもどうぞよろしくお願いします!
髙木竜馬
髙木竜馬

取材・文=橘涼香 撮影=岩間辰徳

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