野球ならボール、文房具なら学習ノート…地味なビジネスほど儲かる?


●野球用品のうち最も魅力的な商品は何か

私の子供が軟式野球をしているため、買い物に付き合ってときどきスポーツ用品店に出向きます。野球用品のコーナーにはさまざまな商品が並んでいます。

たとえばバットは初心者向けの安いものから、特殊な素材を用いてよく飛ぶようにつくられた高価なバットまで、バリエーションが豊富です。また、グローブも投手用、内野手用などのポジション別に、色や素材、加工方法の違いがあり、さらには人気プロ野球選手と同じモデルなどが棚一面に並んでいます。

しかし、ボールの棚に目を向けると、この店には非常に限られた種類のものしか置いてありません。ブランドは最大手と思われる1社と、スポーツ用品店のプライベートブランドの2社だけで、バットやグローブが多くのブランドからいろいろな商品が出ているのとは対照的です。しかも、商品の種類は1パッケージ当たりのボールの個数の違いだけ―――1個売り、2個入り、12個入りの3種類―――しかありません。

野球をするのに最低限必要なのは、グローブ、バット、ボールです。グローブとバットは、一度買うとめったなことでは買い替えません。きちんと手入れすれば長持ちしますし、めったなことでは壊れません。しかし、ボールはちょっとしたことで、すぐになくなってしまいます。我が家の子供たちは近所の河川敷でよく練習していますが、何日かに1回は必ず川の中にボールを入れてしまうのです。また、生き残ったボールも使っているうちに消耗してきます。

そんなわけで我が家の野球用品のうち購入頻度ナンバーワンはボールです。値段が万単位のグローブやバットと比べると、単価は数百円ですが、それでも1年間を通してみると結構な金額になります。さらに、グローブやバットと違ってボールはチーム単位でも大量に買うことを考えると、ビジネスとしてはかなり魅力的な部類に入るのではないかと想像します。

現在、軟式野球ボールを国内で製造しているメーカーは4社しかありません。商品は全日本軟式野球連盟の規定に則っているため、性能はほぼ同じです。基本の素材はゴムですから、定価に対しての原価率はそれほど大きくはないでしょう。寡占とも言える状態になっている理由は、おそらく市場規模が小さく、原価率は低いものの生産設備等の投資がそれなりにかかるため、新規参入するには十分魅力的ではないからだと、私は思います。

こうした目で見てみると、軟式野球ボールと似たような市場はたくさんあります。ほかのスポーツの市場を見てみても、ゴルフのボールやバドミントンのシャトルなどがあります。

●目立たない小さな市場で確実に勝つという戦略

巨大なビジネスを狙わず、それほど大きくない規模の市場でよいと割り切り、設備投資と知的財産権の問題がクリアできさえすれば、ボールやシャトルは利益率が高く資金の回転もよいビジネスです。ビジネスで一旗揚げたいと考えると、どうしても目立つ市場に目を向けてしまいがちです。野球ならバットやグローブ、ゴルフならドライバーやパター、バドミントンならラケットです。しかし、ボールやシャトルなどのマーケットは、目立たないために一般の人は注目しませんが、新しいビジネスを生み出したいと考えている人ならば、こうした市場を狙うという着眼点を持つことが必要です。

今、例に示したような市場であれば、知的財産権を調査したうえで海外のメーカーと組んで、安い商品を提供するようなことは十分に考えられます。実際に始めてみると既存のメーカーも対抗策を打ってくることと思いますが、特に法的規制もない自由競争市場ですから、野球用品市場を変えたい、たとえば、野球をしている子供を持つ親の負担をもっと減らし、日本の野球選手の能力の底上げに貢献したい、という強い意志をもって、粘り強くやれば一定規模のシェアを奪うことはできるでしょう。

野球のボールやバドミントンのシャトルは、本体そのものの機能が非常に短い寿命で消費される消耗品ですが、本体に付随する消耗サプライ品で利益を取るビジネスがあります。これは古くから「ジレットモデル」と呼ばれて知られるビジネスモデルです。髭剃りの本体を安く売って、消耗品である替え刃を継続的に使ってもらうことで利益を得る、というビジネスを始めた会社の名前を取って、こう呼ばれるようになりました。

このモデルを応用したビジネスは数多くあります。たとえばプリンターです。家庭用のインクジェットプリンターは非常に安い値段で販売されていますが、インクカートリッジを買おうとして、その値段の高さに驚いた経験を持つ人も多いと思います。

また、カプセル式コーヒーもジレットモデルです。人が集まるショッピングモールで、コーヒーの香りを辺りに漂わせながら、試飲の大盤振る舞いをしているのをよく見かけます。専門店が出すような本格的なコーヒーを自宅で簡単に淹れることができて、マシンはインテリアとしても映えるデザイン。値段は一般的なコーヒーメーカーとそれほど変わらない値段で、しかもコーヒーのカプセルがたくさん付いてきます。

しかし、肝心のカプセルは1杯当たり100円もします。豆を買ってきてコーヒーフィルターで淹れれば、高級な豆を使っても1杯当たり80円、もっと安い豆を使えば10円を切る値段でコーヒーが楽しめることを考えると、カプセル式コーヒーはかなりの贅沢品といえるでしょう。

●「ジレットモデル」が機能しなくなってきた

ところで近年では、このジレットモデルは、必ずしもすべてのサプライ品市場を自社で取れなくなってきています。

たとえばインクジェットプリンターのインクカートリッジは、純正品だと全色セットで7000円ほどの値段で売られているものと同等品を、ネットショップで300円程度で買うことができます。メーカーは純正品以外のインクを一度でも使えば本体の保証をしないと謳っています。それでも、インクジェットプリンター本体を1万円程度で買えるのですから、ちょっと計算すれば社外品のインクカートリッジを使って壊れたとしても、買い直したほうが安いことがわかります。また、ネット上に投稿されている商品レビューに故障の報告がほとんどなければ、まあ大丈夫だろうと考える人も多いでしょう。

また、カプセル式コーヒーにも、別の会社が提供する互換性のあるカートリッジが存在します。ネットショップで値段を調べてみると、純正品の6割程度の値段で売られています。カプセル式コーヒーのマシンの寿命を左右する重要な部品は、気密性を保つためのシールです。以前は、このシールはマシン本体に組み込まれていましたが、現在はカプセル側に埋め込まれるようになりました。その技術は難しくお金もかかるため、社外品カートリッジは出てこないと考えられてきましたが、これだけ普及した製品ですから、やはり目を付ける事業者も出てきます。互換性のあるカートリッジが出てきた際には、案の定コーヒーマシンのメーカーは訴訟を起こしました。しかし、現在の販売状況から推測するに、メーカーはカプセル式コーヒーの知的財産権を完全に守れてはいないようです。

社外品カプセルの販売事業者とマシンのメーカーとの間でなんらかの取り決めがあるのか、あるいはまったくの野放し状態なのかは、今のところ明らかにはされていません。

インクジェットプリンターやカプセル式コーヒーなど、業界のガリバー企業でさえ利益の源泉であるサプライ品市場を守り切れないことがあるのです。起業を検討している人であれば、このような独占市場が転がっていないか、常にアンテナを張っておく必要があるでしょう。

●コピー商品が美しくないと思うなら発明を!

とはいえ、ジレットモデルにおける消耗品を安く提供することは、悪い言い方をすればコピー商品の安売り販売です。法的に問題がなく、消費者に支持されればそれはそれで立派なビジネスですが、美しさに欠けていると考える人もいるでしょう。ならばやるべきことは一つ、発明です。

歴史が長く、プレーヤーの少ない市場では特徴をなかなか出しづらく、発明は難しいものです。それでも、チャンスを見つけてそのなかでも新しいカテゴリーをつくり出す企業が成功を収めています。

たとえば、学習用ノートの市場では、一般的な製品よりも20%軽くした商品があります。学習用ノートは画一化された商品で、表紙のデザインを変える、罫線にドットを入れるなど、各社が小さな差別化により戦っている、基本的には価格勝負の市場です。

しかし、重さに目を付けたこの会社は、一般的に120グラムの学習用ノートを、96グラムでつくりました。たったの20数グラムと思うかもしれませんが、たとえば小学生のランドセルにノートが5冊入っているとすれば、合計で120グラム軽くなります。最近の小学生は持たされる荷物が多いことが問題になっているなかで、一般的なノートよりも値段が高いにもかかわらず着実に売上を伸ばしています。機能面でも、紙の厚さは同じで裏写りせず、書き心地も同じになるよう表面が加工されているそうです。

学習用ノートという小さな市場のさらにニッチな領域ですが、少子化が進んでいるとはいえ、毎年100万人程度の新しい小学1年生が参入し、そのほとんどが12年間ノートを買い続けます。さらに高校進学者の50%以上が大学に進学し、またノートを4年間買います。ノートは一度使ったら終わりの消耗品です。ビジネスとしては私にはとても魅力的に映ります。

新規ビジネスを考えるというと、どうしても巨大な市場を狙おうとしてしまいがちです。「大きく考え、小さく始める」といわれるように、大きな構想がなければ大きなことはできませんが、今携わっている仕事の内容や、能力、人脈、資金調達力とあまりにかけ離れていると、単なる夢想家で終わってしまう恐れもあります。

目立たない小さな市場で確実に勝っていくという戦略も研究すべきと私は思います。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

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