日本人は、なぜ「お金の話」をするのは恥ずべきことだと思うようになったのか?――マンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『インベスターZ』の第32回目です。

『インベスターZ』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。

(C)三田紀房/コルク

【本日の一言】

「社会全体が貧しいとそれが当たり前になり、誰も不満を口にせずじっと辛抱してしまうんだ」

(『インベスターZ』第5巻credit.42より)


大人気マンガの『インベスターZ』より。創立130年の超進学校・道塾学園にトップで入学した主人公・財前孝史は、各学年の成績トップで構成される秘密の部活「投資部」に入部します。そこでは学校の資産3000億円を6名で運用し、年8%以上の利回りを上げることによって学費を無料にする、という極秘の任務が課されているのでした。

国民が豊かになれないよう、仕組み化された国

投資部の歴史を調べていた財前は、なんと明治時代の道塾学園にタイムスリップしてしまいます。財前がスリップしたのは、日露戦争が終わった翌年の1905年。そこでは、学園の創設者・藤田金七(かねしち)の番頭たちと、数学の天才少年の間で投資会議が行われていました。明治時代の人たちには、財前が見えません。議事録に書いてある名前を見た財前は、天才少年・財前龍五郎が自分の曽祖父であることを直感します。

番頭たちが帰った後、密かに優秀な生徒だけで投資部をつくることを藤田家に提案する龍五郎。すでにその部員まで選んでいました。部員候補の小野と原が会議室に呼ばれますが、原は投資部に入ることを拒否します。士族生まれの原は、「金もうけは卑しい」と言われて育てられました。しかし、「その考え方は権力者の思う壺だ」と言う龍五郎。

もともと江戸時代が300年も続いたのは、国民が豊かになれないよう、巧妙に仕組み化されていたことにあります。参勤交代によって大名は資金を蓄えることができず、お金を扱う商人は卑しい身分と見なされました。「今、この時代の金もうけがこの国の未来の繁栄をもたらす」と言う龍五郎。その言葉を聞いた原は、投資部への入部に同意するのでした。

なぜ日本人は「お金の話をするのは恥ずべきこと」と思うようになったのか?

日本人の間では、「人前でお金のことを話すのははしたないこと」とされ、長らくタブーとされてきました。「金もうけをするのは良くない」という考え方は、今でも日本人の中に根強く残っています。

龍五郎は、日本人が「お金は汚いもの」と考えるようになったルーツは江戸時代にあると言い、そのきっかけとなったのが“本能寺の変”だと主張します。本能寺の変とは、戦国の風雲児・織田信長が日本統一を目前にしながら、家臣の明智光秀によって打たれた政変のことです。後に江戸幕府の開祖となる徳川家康はこの時、信長の招きを受け、堺(現・大阪府堺市)見物をしているところでした。

政変を聞きつけた家康は、わずかな手勢とともに鈴鹿山中を抜けて、船で本拠の岡崎(現・愛知県岡崎市)まで帰り、九死に一生を得ます。当時は百姓も武器を取って自衛し、恩賞目当てに“落ち武者狩り”をする者が絶えませんでした。国民に武器を持たせておくことの危うさを、身を以て体験した家康が、「国民がお金を欲しがらない」ような政策を採るようになったのも自然なことです。

(C)三田紀房/コルク

自分の中の“当たり前”を疑ってみる

今回の話でお伝えしたいのは、「私たちが当たり前と思っている常識も、実は誰かが作為的につくった可能性がある」ということです。ですから、当たり前と思っていることが「本当にそうなのか?」と疑ってみるのは大切なことです。

事例をお話しましょう。『インベスターZ』の作者・三田紀房(のりふさ)先生は、かつて「マンガ家が徹夜をして作品を仕上げるのは当たり前」だと思っていた時期があったそうです。そう考えていたころは、アシスタントとともに毎日昼過ぎから夜まで仕事をし、締め切り前は徹夜、というサイクルを15年くらい続けていたそうです。

ところが、40代も半ばに差しかかると、徹夜が体に与えるダメージが大きくなります。しかも自分より若いアシスタントが次々と辞めていくのを見て、「本当にマンガ家は徹夜をしないと務まらない職業なのか?」と自問するようになった、と言います。その疑問が“マンガ界の働き方改革”とも言われた「作画は外部委託し、自分はストーリーに注力する」という、三田先生の現在の働き方につながったわけです。

革新とは「常識が常識ではない」と気づくことから始まる

今の日本人にとって、蓄財法がもっぱら貯金一辺倒になったのも、「第二次大戦前に、国が戦費調達の原資として貯金を推奨したこと」や、「戦後の高度成長期には、定期預金に高い利息が付いたこと」などが大いに関係しているでしょう。

このように、私たちの価値観や考え方は、気づかないうちに過去から続いている慣習や政策の影響を受けています。これをお読みのあなたにも、ぜひこのことを知っていただき、1度「自分の中の当たり前」に向き合ってみていただきたいと思います。革新とは、気づくことから始まるのですから。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』を上梓。著作累計は40万部。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト


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