靖国神社宮司が天皇批判!「天皇は靖国を潰そうとしている」…右派勢力が陥る靖国至上主義と天皇軽視の倒錯

リテラ

2018/10/10 15:28


 先週発売の「週刊ポスト」(小学館)10月12・19日号が、靖国神社の宮司による衝撃的な“天皇批判”をすっぱ抜いた。

「陛下が一生懸命、慰霊の旅をすればするほど靖国神社は遠ざかっていくんだよ。そう思わん? どこを慰霊の旅で訪れようが、そこには御霊はないだろう?」
「はっきり言えば、今上陛下は靖国神社を潰そうとしてるんだよ。わかるか?」

記事によれば、今年6月20日、靖国神社の社務所会議室で行なわれた「第1回教学研究委員会定例会議」で、靖国宮司・小堀邦夫氏の口からこの“不敬発言”は飛び出した。小堀宮司は皇太子夫妻に対しても「(今上天皇が)御在位中に一度も親拝なさらなかったら、今の皇太子さんが新帝に就かれて参拝されるか? 新しく皇后になる彼女は神社神道大嫌いだよ。来るか?」「皇太子さまはそれに輪をかけてきますよ。どういうふうになるのか僕も予測できない。少なくとも温かくなることはない。靖国さんに対して」と批判的に言及したという。

小堀宮司は「週刊ポスト」の直撃に対して「何も知らないですよ」などと誤魔化しているが、すでに、録音された音声が動画で公開されており、靖国宮司が今上天皇を猛烈に批判したことは疑いない。

いうまでもなく、靖国神社は戦前・戦中の皇室を頂点とする国家神道の中枢であり、いわば「天皇の神社」だ。そのトップである宮司が、今上天皇が皇后と共に精力的に行ってきた各地への“慰霊の旅”を全面否定し、「靖国神社を潰そうとしている」と批判するとは、ただ事ではなかろう。

複数の神社関係者によれば、神職の間でも「小堀さんはわかっていない」「神道の慰霊は様々な場所で行われるものだ」「靖国のことしか考えていないのか」などの反発の声があがっており、大きな波紋を広げている。当然、保守系言論人を巻き込む一大騒動に発展するものと思われた。

ところが、である。この「週刊ポスト」のスクープから一週間が経つというのに、反応したのはごく一部のメディアだけ。一般紙はまったく後追いせず、あの産経新聞ですら沈黙状態なのだ。それだけではない。普段、「首相の靖国参拝」をあれだけ熱心にがなりたてている極右メディアや安倍応援団もまた、完全に無視を決め込んでいる。

これはいったい、どういうことなのか。

●富田メモに残された「昭和天皇が靖国神社に参拝しない理由」

そもそも、小堀宮司による“天皇批判”の背景は、来年4月末日をもって退位する今上天皇が、即位してから一度も靖国を参拝していないことにつきる。

しかし、それは昭和天皇の意志を引き継ぐものであり、当然の姿勢と言えるだろう。

周知の通り、昭和天皇は、1975年の親拝を最後に、靖国参拝を行わなかった。その直接の原因は、1978年に松平永芳宮司(第6代)が行ったA級戦犯合祀に、昭和天皇が強い不快感を持ったためだ。

実際、日経新聞が2006年7月20日付朝刊でスクープした通称「富田メモ」には、その心情が克明に記されていた。当時、昭和天皇の側近であった元宮内庁長官・富田朝彦が遺した1988年4月28日のメモの記述である。

〈私は或る時に、A級が合祀され その上 松岡、白取までもが筑波は慎重に対処してくれたと聞いたが 松平の子の今の宮司がどう考えたのか 易々と松平は平和に強い考えがあったと思うのに 親の心子知らずと思っている だから 私あれ以来参拝していない それが私の心だ〉

「松岡」というのは国際連盟からの脱退で知られる近衛文麿内閣の外相・松岡洋介。「白取」とは松岡とともに日独伊三国同盟を主導した元駐イタリアの白鳥敏夫のことをさす。両者とも戦後にA級戦犯として東京裁判にかけられたが、昭和天皇がわざわざ「その上」と言っているように、この「あれ以来参拝していない それが私の心」は、松平宮司による14名のA級戦犯合祀そのものにかかっていることは自明だ。

ところが当時、「富田メモ」の発表で大混乱に陥り、驚くべきペテンと詐術を繰り返したのが右派勢力、とりわけ、現在の安倍晋三を支える極右応援団の面々だった。いま、あらためてその御都合主義に満ちた反応を振り返ってみると、連中が、今回の小堀宮司による天皇批判に沈黙を貫いている理由も自ずと理解できるだろう。

●「昭和天皇の思い」を攻撃、無視した極右文化人たちのご都合主義

たとえば、“極右の女神”こと櫻井よしこ氏はその典型だ。「週刊新潮」の連載で〈そもそも富田メモはどれだけ信頼出来るのか〉(2006年8月3日号)とその資料価値を疑い、さらにその翌週には、3枚目のメモの冒頭に「63・4・28」「Pressの会見」とあることを指摘、〈4月28日には昭和天皇は会見されていない〉〈富田氏が書きとめた言葉の主が、万が一、昭和天皇ではない別人だったとすれば、日経の報道は世紀の誤報になる。日経の社運にも関わる深刻なことだ〉(2006年8月10日号)と騒ぎ立てた。

しかし、実際には「63・4・28」というのは富田氏が昭和天皇と会った日付であって、「Pressの会見」はそのときに昭和天皇が4月25日の会見について語ったという意味だ。ようするに、櫻井氏は資料の基本的な読解すらかなぐり捨てて、富田メモを「世紀の誤報」扱いしていたわけである。いかに、連中にとって、このA級戦犯の靖国合祀に拒否感を示した昭和天皇の発言が“邪魔”だったかが透けて見える。

もっとも、本性をさらけ出したのは櫻井氏だけではなかった。たとえば百地章氏、高橋史朗氏、大原康男氏、江崎道朗氏ら日本会議周辺は、自分たちの天皇利用を棚上げして「富田メモは天皇の政治利用だ!」と大合唱。長谷川三千子氏は〈これ自体は、大袈裟に騒ぎたてるべき問題では全くありません〉〈ただ単純に、富田某なる元宮内庁長官の不用意、不見識を示す出来事であつて、それ以上でもそれ以下でもない〉(「Voice」2006年9月号/PHP研究所)、小堀桂一郎氏は〈無視して早く世の忘却に委ねる方がよい〉(「正論」2006年10月号/産経新聞社)などとのたまった。

また、あの八木秀次氏も、富田メモについて〈この種のものは墓場までもっていくものであり、世に出るものではなかったのではあるまいか〉とうっちゃりながら、〈首相は戦没者に対する感謝・顕彰・追悼・慰霊を行うべく参拝すべきであり、今上天皇にもご親拝をお願いしたい〉(「Voice」2006年9月号)などと逆に天皇に靖国参拝を「お願い」する始末。

いったい連中は天皇をなんだと思っているか、改めて訊きたくなるが、なかでも傑作だったのは、長谷川氏、八木氏と並んで“安倍晋三のブレーン”のひとりとされる中西輝政氏だ。中西氏はどういうわけか、この富田メモを同年7月5日の北朝鮮のミサイル発射、そして安倍晋三が勝利することになる9月20日の自民党総裁選に結びつけて、こんな陰謀論までぶちまけていた。

〈いずれにせよ「七月五日」と「七月二十日」(引用者注:富田メモ報道)に飛び出したこの二つの「飛翔体」は、確実に「八月十五日」と「九月二十日」に標準を合わせて発射されていることだけは間違いなく、それぞれの射程を詳しく検証してゆけば、それらが深く「一つのもの」であることが明らかになってくるはずである。〉(「諸君!」2006年9月号/文藝春秋)

こうした「保守論壇」の反応は、保守派の近現代史家である秦郁彦氏をして〈「多くの人は、見たいと欲する現実しか見ない」(ユリウス・カエサル)という警句を思い出した〉〈はからずも富田メモをめぐる論議は、一種の「踏み絵」効果を露呈した〉(『靖国神社の祭神たち』新潮社)と言わしめたが、結局のところ、昭和天皇が側近にこぼした言葉を“北朝鮮のミサイル”と同列に扱う神経をみてもわかるように、「富田メモ」が明らかにしたのは、昭和天皇のA級戦犯合祀への嫌悪感だけでなかった。

つまり、普段、天皇主義者の面をして復古的なタカ派言論をぶちまくっている右派の面々たちは、ひとたび天皇が自分たちの意にそぐわないとわかると、平然と“逆賊”の正体をむき出しにし、やれ「誤報だ」「無視しろ」「まるでミサイル」などと罵倒しにかかる。そのグロテスクなまでの政治的ご都合主義こそが、連中の本質であること暴いたのだ。

●戊辰戦争の“賊軍合祀”を主張して辞任に追い込まれた徳川前宮司

事実、こうした自称「保守」による反天皇的反応が見られたのは「富田メモ」の一件だけではない。今上天皇が2013年の誕生日に際した会見で日本国憲法を「平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り、様々な改革を行って、今日の日本を築きました」と最大限に評価したときも、八木氏が〈両陛下のご発言が、安倍内閣が進めようとしている憲法改正への懸念の表明のように国民に受け止められかねない〉〈宮内庁のマネジメントはどうなっているのか〉(「正論」2014年5月号)と攻撃した。

また、一昨年の生前退位に関する議論のなかでも、安倍首相が有識者会議に送り込んだとも言われる平川祐弘東大名誉教授が「ご自分で定義された天皇の役割、拡大された役割を絶対的条件にして、それを果たせないから退位したいというのは、ちょっとおかしいのではないか」と今上天皇を「おかしい」とまで言い切った。

こうした流れを踏まえても、つまるところ、今回の靖国神社宮司による天皇批判は、極右界隈がいかにご都合主義的に天皇を利用しているかをモロにあわらしているとしか言いようがないだろう。「保守論壇」や産経新聞がいまだに小堀宮司の「今上陛下は靖国神社を潰そうとしてるんだよ」なる発言になんら反応を見せないのも、ようはそれが、戦中に靖国が担った国民支配機能の強化を夢見る連中の偽らざる本音だからにほかなるまい。

その上で念を押すが、そもそも靖国神社という空間自体が、極めて政治的欺瞞に満ちたものだ。事実、靖国神社に祀られている「英霊」とは戦前の大日本帝国のご都合主義から選ばれたものであり、たとえば数十万人にも及ぶ空襲や原爆の死者などの戦災者は一切祀られていない。“靖国派”は「世界平和を祈念する宗教施設でもある」などと嘯くが、実際には、靖国神社を参拝するということは、先の大戦に対する反省や、多くの国民を犠牲にした贖罪を伴った行為とは真逆の行為なのである。

だいたい、靖国の起源は、戊辰戦争での戦没者を弔うために建立された東京招魂社だが、この時に合祀されたのは「官軍」側の戦死者だけであり、明治新政府らと対峙し「賊軍」とされた者たちは一切祀られていない。そのご都合主義的な明治政府の神聖化≒国家神道復活の野望は、靖国の人事にもあらわれている。

小堀宮司の前任者である徳川康久前宮司は、今年2月末、5年以上もの任期を残して異例の退任をした。表向きは「一身上の都合」だが、“賊軍合祀”に前向きな発言をしたことが原因というのが衆目の一致するところだ。徳川前宮司は徳川家の末裔で、いわば「賊軍」側の人間であった。徳川氏は、靖国神社の元禰宜で、神道政治連盟の事務局長などを歴任した宮澤佳廣氏らから名指しで批判され、結果、靖国の宮司を追われたのである。

その後任に送り込まれたのが、伊勢神宮でキャリアを積んだ小堀宮司というわけだが、複数の神社関係者によると「小堀氏を直接推したのはJR東海の葛西敬之会長だが、その葛西氏に入れ知恵をしたのが、神社本庁の田中恆清総長と神道政治連盟の打田文博会長だと囁かれている」という。真相は定かではないにせよ、田中・打田コンビといえば、昨今の「神社本庁・不動産不正取引疑惑」(過去記事参照https://lite-ra.com/2018/09/post-4272.html)でも頻繁に名前が取り沙汰されるなど、神道界で強権的支配を強めている実力者だ。

いずれにしても、靖国神社の理念が「祖国を平安にする」「平和な世を実現する」などというのは詐術であり、その本質は国家のために身を捧げる“新たな英霊”を用意するためのイデオロギー装置に他ならない。

●小堀宮司になって金のためみたままつりの露店を復活させた靖国

同時に、戦争世代・遺族の減少によって寄付金等の右肩下がりが止まらない靖国にとって、「天皇親拝」の実現は、二重の意味で“生き残り”をかけた悲願でもある。

靖国神社は德川宮司時代の2015年、夏の「みたままつり」での露店出店を取りやめた。德川氏は「若者の境内でのマナーの悪さ」「静かで秩序ある参拝をしてほしい」などを理由に挙げていたが、実際、祭りに際した暴行や痴漢などの性的被害なども靖国内部で報告されていたという。結果、参拝客が激減したのだが、その消えた露店が、小堀氏が宮司となった2018年に復活している。そのことからも連中の本音がうかがえよう。

德川宮司批判の急先鋒であった前述の元靖国神社禰宜・宮澤氏は、当時、靖国の総務部長として露店中止に強く反対していた。著書『靖国神社が消える日』(小学館)では〈将来の靖国を支える若者の教化という観点に立てば、あれほど多くの若者を集め、しかも「平和を求める施設であることをアピールするためにはじめられたこの試みは、大きな成功をおさめた」とまで評価されていたみたままつりを活用する方が、はるかに合理的で生産的でした〉と書いている。

ものは言いようだろう。しかし、実際は、靖国神社が喉から手が出るほど欲しがっているのは、信仰に繋がる卑近な“PRとゼニ”なのだ。

煎じ詰めれば、A級戦犯が合祀されている靖国の「英霊」ではなく、各地で亡くなった戦争犠牲者を分け隔てなく慰霊する、それこそが平成の天皇の責務だと自覚した今上天皇の在り方は、国家神道的イデオロギーの復活を目論む集団から見て、あるいは今後の先細りを宿命づけられた靖国神社という宗教法人にとって、まさしく「不敬」をはばからず攻撃したくなる“目の上のたんこぶ”なのだろう。

だが、それは所詮、八つ当たりでしかない。気鋭の政治学者である白井聡は、著書『「靖国神社」問答』(小学館)の解説文のなかで、靖国の歴史的欺瞞の分析を踏まえたうえで、こう提言していた。

〈してみれば、われわれが目指すべきは靖国の「自然死」である。多くの人が、靖国の原理を理解すること――すなわち、そこには普遍化できる大義がないことを知り、「勝てば官軍」の矮小な原理を負けた後にも放置しながら、あの戦争の犠牲者たちに真の意味で尊厳を与えるための施設としては致命的に出来損ないであり続けているという事実を知ること――がなされるならば、誰もがこの神社を見捨てるであろう。〉

靖国神社と靖国至上主義を叫ぶ右派勢力は天皇を攻撃する前に、まず、自分たちの姿勢を考え直すべきだろう。
(編集部)

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