藤山直美の復帰舞台『おもろい女』が開幕! 早逝の天才漫才師の壮絶な半生を描く

SPICE

2018/10/9 17:00


藤山直美が、昭和初期の天才女流漫才師ミス・ワカナ役をつとめる舞台『おもろい女』が、10月8日から10月29日まで、東京・シアタークリエで上演される。上演時間は、3時間25分(途中休憩あり)。

ミス・ワカナは、一郎との夫婦漫才で、戦中戦後に活躍した実在の人物。各地の方言をネタに取り入れたしゃべくり漫才や、ラジオの生放送のアドリブから生まれた「泣かせ漫才」で、大評判をとったという。

そんなワカナを主人公に描く、舞台『おもろい女』は、15歳で芸人に入門するところから、漫才で人気の頂点を極めながら、35歳の若さで壮絶な最期を迎えるまでを描く。

1965年にテレビドラマとして制作された際は、ワカナ役を森光子が、相方の一郎役を直美の父・藤山寛美がつとめた。その後1978年に舞台版が初演された。テレビ版と同じく森光子がワカナ役をつとめ、2006年までで計463回上演された。
『おもろい女』公演プログラムより (右から藤山寛美と藤山直美)
『おもろい女』公演プログラムより (右から藤山寛美と藤山直美)
『おもろい女』公演プログラムより (左から森光子、藤山寛美)
『おもろい女』公演プログラムより (左から森光子、藤山寛美)

藤山直美が、はじめて舞台「おもろい女」に挑んだのは、2015年のことだった。

各界から称賛され、2017年にも再演される予定だった。しかし延期となったのは、直美に初期の乳がんが発覚し、治療に専念することとなったからだ。満を持しての再演の開幕前日、関係者に向けて公開されたゲネプロ(総通し稽古)の模様をレポートする。

35歳でこの世を去った、昭和初期の天才漫才師


物語の舞台は、通天閣を見上げる大阪・楽天地。時代は大正。レトロモダンな装いの女性が行きかう楽天地に、ミス・ワカナ(藤山直美)となる田舎娘が現れる。漫才師に、弟子入りをしに、田舎からでてきたという。

客席は、大きな拍手で直美をむかえた。その拍手は、はじめこそ「おかえりなさい」の意味だったかもしれない。しかし、歩み寄ってくる姿さえ面白味があふれ、第一声を発するよりも前に、拍手は笑いへと変わった。


ようやく15歳になる年というワカナの、垢抜けなさも鼻っ柱の強さを、藤山直美は愛嬌たっぷりに演じ、客席の笑いをさらう。その後に披露される安楽節では、おぼんをもっての陽気な歌と踊りで、観る者を魅了した。

戦争描写と藤山直美のミス・ワカナ


ワカナは、華やかな場所だけにいたわけではない。一郎とともに、演芸派遣団「わらわし隊」の一員として、戦地にも赴く。劇中では、演出のひとつとして、戦地の記録映像や写真が多用されていた。攻撃をしかける兵士たちだけでなく、一般市民と思われる逃げまどう人々などの姿も、モノクロのイメージで映し出される。実際の戦時中の映像が与える生々しさや重々しさは、簡単に扱えるものではない。それと均衡を保てるだけの力強さと華が、直美によるミス・ワカナにはあった。藤山直美がいてこそ実現する、演出ではないだろうか。

ワカナの人生を彩る登場人物たち


田山涼成が演じたのは、ワカナの才能をいち早く見出す、帝国大卒の漫才作家、秋田實。永遠の文学青年といった純粋さで、ワカナの才能を信じつづける役どころを、温かな演技でつとめる。

チンタオで出会う若い男女を演じたのは、桜井晴美役の黒川芽以と、江藤和夫役の篠田光亮。劇中に醸し出される時代の空気はそのままに、若々しい風を吹きこんでいた。

ワカナ・一郎の恩人であり、九州の芸能界を仕切っていた女ボスを山本陽子(山路たま役)が、華やかにぴりっと演じれば、大阪の漫才界を牛耳る女社長を正司花江(菱本せつ役)が演じ、存在感を発揮。

そして渡辺いっけいが、ミス・ワカナの相方であり、夫でもあった玉松一郎役を演じる。劇中の漫才においても、ワカナの「おもろさ」を引き立てる上では欠かせない存在。波乱の人生を切り開いていくワカナに「振り回されるだけ気弱な男」なだけではない、やさしさと人間味を感じさせた。


その他、ワカナが節目節目に出会うどのキャラクターも、「おもろい女」のワカナ像を描き出す上で重要な役割を果たしていた。

“おもろさ”の光と影を描きだす


この舞台は、タイトル『おもろい女』の名のとおり、直美はもちろん、すべてのキャストの職人芸的な間と、掛け合いなど、笑いどころがたっぷりある。同時に、ワカナが「おもろさ」を追い続けたゆえの、裏のドラマを、光からも影からも目をそらさずに描き出す。


ワカナは、晩年、当時は合法だった薬物ヒロポンにおぼれていく。その過程が、おさえた演技で描写されはじめるところに、リアルが滲んでいた。ラジオの収録のシーンでは、語りだけの芝居に泣かされ、西宮球場の大舞台のシーンは、ステージの美しさが胸に迫る。


ファン待望の、藤山直美の復帰公演。昨年3月には手術が終わったとはいえ、しばらくは経過観察などが続くはず。そのような中『おもろい女』という大きな作品に挑む藤山直美の、舞台にかける熱意と舞台女優として華に、「ミス・ワカナとは、まさにこのような人だったのだろう」と思わずにはいられなかった。

舞台『おもろい女』は、10月29日までシアター・クリエで上演。その後、全国を巡演する。「ぜひお気軽に劇場へ」とは決していえない。だからこそ、見逃さないでほしい。

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取材・文=塚田 史香

当記事はSPICEの提供記事です。

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