カバノー氏の最高裁判事就任めぐる背景に「人工妊娠中絶」、三浦瑠麗氏「もはや後戻りはできない」

AbemaTIMES

2018/10/9 16:30


 「今夜は歴史的な日だ。我々の国、我々の国民、我々が愛する憲法にとって、素晴らしい勝利が、会ったばかりの皆さんの前に立っている。数時間前に上院がブレット・カバノー氏を最高裁判事に承認した」。そうアピールしたトランプ大統領だが、性暴力の疑惑が持たれるカバノー氏の最高裁判事就任に、またもアメリカ世論が分断されている。

カバノー氏には、最初に声を上げた大学教授のクリスティーン・フォード氏の他、2人の女性から告発されている。フォード氏は高校生だった36年前の1982年に参加したパーティーで、酒に酔っていたカバノー氏に無理矢理身体を触られたとし、「カバノー氏と友人に押し倒され、服を脱がされそうになった。2人は暴行しようとしながら酔って笑っていた。今も閉所恐怖症などのトラウマがある。口を塞がれ息ができず殺されるかと思った」と証言している。また同級生だったという女性は「1983~84年、寮のパーティーで下半身を露出し、顔に押し付けてきた」、別の女性は「82年ごろ、ホームパーティーで集団暴行された、カバノー氏も居合わせた」と主張している。

一方のカバノー氏は「私は彼女(フォード氏)に対しても、誰に対してもこのような事をしたことがない。私はこの告発に対して無実だ」と涙を浮かべながらこれを否定。上院で開かれたこの公聴会は全米で生中継され、ニュース雑誌『TIME』は告発者であるフォード氏を掲載するなど、全米の注目を集めてきた。

公聴会を視聴した米国在住のコラムニスト・町山智浩氏は「絶対に阻止しなければということで、傍聴にきていた女性運動家たちが次々に立ち上がってカバノー氏を罵倒していた。女性に対するレイプやセクハラを告発していくMeToo運動とも繋がっている」と話す。

告発を受けてFBIも捜査に乗り出したが、上院議会はフォード氏らの証言を裏付ける証拠がないとして裁決に踏み切り、1881年以来の僅差だという賛成50・反対48で承認された。議場内には「これはアメリカ史の恥だ!分かっているのか?」など大きなブーイングが起こり、連邦議会前で行われたデモでは160人以上が逮捕されている。

■共和党と民主党の対立の背景にある「人工妊娠中絶」の問題
 今回の対立について、国際政治学者の三浦瑠麗氏は「今までトランプ大統領の決断に異論を唱えてきたリンゼー・グラム氏やミッチ・マコーネル氏などの共和党主流派の人までもが本気でカバノー氏をかばっていた。人材としてカバノー氏を発掘したのはトランプだが、守り切るという判断をしたのはマコーネル。彼が絶対に守り切ると判断したから今に至っている。つまりこれに関して、共和党はほぼ一枚岩だということ。そこからスタートしないと"トランプ問題"だと誤解してしまう。一方、民主党はMeToo運動の波を活かして共和党をバッシングしたい。民主党の中には被害者の女性が匿名を望んでいたのに名前をばらしてしまった人までいて、被害者を救済するという目的や判事本人を置き去りにして党派化している。双方が絶対に譲らないし、お互いに陰謀論だと思っているという状況だ」と話す。

その上で、カバノー氏の中絶に関するスタンスが背景にあると説明する。

「カバノー氏は有能な判事ではあるが、ブッシュ政権下で政治的な部分が明らかになってしまっているし、中絶に関してかなり保守派という条件が揃っている。だから民主党はここまで命がけで闘っている。保守派には、自分たちが望む案件に関しては"自由だ"、自分たちが望まない案件に関しては"コントロールしたい"という欺瞞がある。カバノー氏は高裁判事として不法移民の女性の人工妊娠中絶に反対する判決を出している。1970年代の最高裁判決で、女性が人工妊娠中絶する権利が全米で認められたが、今後、連邦単位では人工妊娠中絶は認めない、ただ州ごとに好きにして、という風に変える可能性がある」。

その上で三浦氏は「何が正しいか、ということについては連邦単位で考えられるべきだ。避妊をしてくれない夫から日常を暴力を受けていたとか、望まない妊娠をしたが里子に出すところまではやってくれるかもしれないとか、いろんな細かなケースがある中で一概に禁止すると、貧困層のピルも買えない女性たちが不法でアングラな中絶を行ったり、胎児の置き去りをしてしまうなどの問題が出てくる。そういう女性たちに対して、"保守的な州を出ればいい"という意見もあるけれど、経済的な余裕があったら出ているはずだ。これは日本にも関係のある問題で、日本は自由に人工妊娠中絶ができるわけでもない。中高生の妊娠中絶率も非常に高く、しかも諸外国と比べて非常に痛みの伴う手術の形をわざと残して、先進的な手術をしないできた。避妊しなかったのは男性なのに、女性を罰するような社会になっているのはアメリカに限らない」と指摘した。

■「最高裁にふさわしい人物ではないが、もはや後戻りはできない」
 暴行疑惑については「フォード教授が暴行を受けたのは本当だとしてもそれは自分ではない。人違いだ」と話し、飲酒については「酒を飲みすぎて記憶を失ったことは一度もない」という。更に判事就任に関しては「自分こそが名誉ある職業につくべき人間。私は民主党の陰謀にはめられた」と真っ向から否定したカバノー氏。この騒動の中で「HimToo」という男性の権利も守るべきという言葉も生まれたという。

三浦氏は「証拠も集めにくい中、レイプにまでは及んでいない36年前の犯罪で裁くということの問題もある。私の友人で、極めてリベラルなアメリカ人の教授が、"この道は危険な道にたどり着くかもしれないと"ツイートしていた。36年前の判断できない事件について人を裁いたとしたら、我々の重要な原則がないがしろにされてしまう。男性に対して、過去にそういうことをやった人全ての未来のチャンスを閉じるのか」と指摘しつつも、「カバノー氏の公聴会での言動は、とても判事にふさわしいとは言えない言動だった。これまで報じられてきたように、権威主義的で、男性優位で女性を見下していて、共和党のある一部を象徴しているようだった。ホームパーティーに呼んだ女性をわざと酔わせ、集団暴行をしているのを黙って見ているような人間が、今の今になって避妊をしてくれなかった男性の子どもを間違って妊娠してしまった女性から中絶の権利を取り上げるなんてことは死んでも許せない。この怒りは正当なものだと思う。だからフォード氏の意図は疑わない。まさに女性を踏みつけにした人なのに、倫理的なことを言って権利を否定している。どの口が言う、おととい来やがれだ」とし、人格面と、中絶の権利を取り上げようとしている点から、最高裁判事にしてはいけない人物だと結論づけた。

カバノー氏が判事に就任することで、保守派4人、リベラル派4人で均衡を保っていた最高裁判事は保守派5人、リベラル派4人となり、与党共和党は保守派の過半数確保という数十年来の悲願を達成したことになる。また、アメリカの最高裁判事は終身制だ。

三浦氏は「今後、カバノー氏が最高裁の判決を覆すのかどうかというのは注視していく必要がある。この問題は政治化してしまったので、もはや後戻りはできない。これから最高裁の判事のバランスを変えたいと思ったら、永遠に民主党の大統領を選び続けるしかない。保守派の最高裁判事が亡くなったときに民主党の大統領だったら、民主党的な人をアポイントできる。そういう形に戦場は移っていく」と話した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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