大切なのは、失敗から学びを得て成長すること。丸亀製麺流「人の育て方」


お昼が近くなってくると、「さて、なにを食べようか」と頭を悩ませることになります。そんなとき、丸亀製麺のうどんをチョイスしたことがある方も多いのではないでしょうか。

日本の外食産業全体の規模は約25兆円。うどん・そば市場はマーケットの規模としては大きくて1兆円以上。そんななか、丸亀製麺の売上は約904億円(2018年3月期。国内のみ)と、うどん業界ではダントツの1位を独走中。売上高でも店舗数でも、うどん業界で日本一なのだそうです。

そして、そんな丸亀製麺のことを誰よりも熟知しているのが『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方』(小野正誉著、祥伝社)の著者です。

私は株式会社トリドールホールディングスで社長秘書兼IR担当をしています。 弊社は国内外においてさまざまな外食業態を運営している会社ですが、売上の約8割を占めているのが国内の丸亀製麺です。 そもそも、トップの粟田貫也社長は、わずか8坪の焼き鳥店から、国内外に1500店舗以上を運営する企業人まで成長させた創業者です。 私はその粟田社長の秘書を2014年から担当しています。(「はじめに」より)

トリドールホールディングス入社前から外食産業に携わっており、店舗の立ち上げからマネージャー、広報・PR、経営企画という一連の流れを経験してきたという人物。つまり、この業界の「常識」を熟知しているわけで、だからこそ、丸亀製麺がいかに常識破りのすごさと強みを持っているかがよくわかるのだといいます。

本書を書こうと思い立ったのも、そんな丸亀製麺の強さの秘密を伝えることで、多くの人のビジネスや日々の生活に役立ててもらえるかもしれないという思いがあったから。

事実、ここでは丸亀製麺のユニークな経営方針がさまざまな角度から明かされています。きょうはそのなかから、人の育て方についての考え方を明かした第4章「なぜ若手社員にいきなり大きな仕事を任せるのかーー与えて、任せて、人は育つ」をクローズアップしてみたいと思います。
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丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方
丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか? 非効率の極め方と正しいムダのなくし方
1,620円

手を挙げた人にチャンスを与える


「いまどきの若者は失敗を恐れる」という声を聞くことは少なくありません。しかし実のところ、まわりの環境が失敗を許さないからチャレンジできないのではないかと著者は分析しています

でも、トリドールの粟田社長の考え方はちょっと違っているようです。なにしろ採用の最終面接において、今後の会社のビジョンを熱く語り、そののち「トリドールに失敗しにおいで」と声をかけることもあるというのですから。いわば同社は、失敗することを容認してくれる会社だということ。

トリドールでは、失敗は未然に防ぐものというより、失敗から学びを得て成長することが尊いのだという考えが社内に行きわたっています(もちろん、同じ失敗を繰り返すのはダメですが)。したがって、やる気や開拓精神のある社員なら、誰にでも等しくチャンスを与えます。

たとえば、ハワイの海外1号店立ち上げの際には、挙手をした社員が行きました。 海外初進出なので、社内にはノウハウがまったくありません。最初は担当者が現地でパートナーさんを採用しても、指示をまったく聞かないので困り果てたと言います。

そこで現地で仕事を早く覚えた人を昇格させ、彼らから指示を出させたところ、素直に従うようになったのだとか。貴重なノウハウを手に入れることができました。(141ページより)。

「出る杭は打たれる」と言われることがありますが、逆に、出る杭のほうが歓迎されるのがトリドールなのでしょう。経験や年齢よりも、やる気を重視しているため、手を挙げた人にはどんどん大きなチャンスがめぐってくるということです。

だから若い人も社会を覆う閉塞感に負けず、どんどん手を挙げるべきだという考え方。(140ページより)

いきなり任せる


著者はトリドールに転職して3年目に、いきなり社長秘書に抜擢されたのだそうです。一般的な感覚からすれば「ありえない」ことですが、こうしたいきなりの抜擢は、トリドールでは日常茶飯事なのだといいます。経験ゼロの新卒社員であったとしても、すぐ大舞台に乗せてしまうというのです。

2013年新卒1期生として入社した籾井由香里は、入社後の研修を終えるとすぐにパスタの新業態での商品開発に携わりました。 新業態の商品開発は、会社の命運を左右するとても難しい仕事。

経験の浅い新入社員に任せるなんて、普通の会社なら考えられないかもしれません。たいていは既存の事業でサポート的に経験を積ませるでしょう。しかし、何度もダメ出しされながら、彼女は見事にトマトソースを完成させました。 その後は、入社2年目の年にcafé事業部へ異動。韓国でのカフェ事業1号店のオープニングサポートとして韓国へ赴任することになりました。

これも韓国での新業態の成功を占う重要な仕事です。彼女は入社時から「世界で活躍する」という夢を持っていたので、早い段階で経験を積ませたのだと思います。(143ページより)

もちろん、若手社員にいきなり大きな仕事を任せるとしたら、相応のリスクが生じることにもなるでしょう。にもかかわらず、トリドールはなぜそのような手段を選ぶのでしょうか?

たとえば、ひとつひとつていねいに仕事を教えていくという方法もあるはずです。若い世代には、手取り足取り教えないと自分で動けるようにならない人も少なくないと言われているのですから。

しかし、1から10まで教えていったら、いつまで経っても「10教わらないと動けない」状態のままになってしまう可能性があります。むしろそれよりも、2、3教えたら、あとは任せて自分で考えながら走ってもらったほうが、伸びしろを広げられるのかもしれないというのがトリドールの発想。事実、社員を見ていると、著者はそう実感するのだといいます。

それに、そもそもトリドールは上司の指示に従う優秀なサラリーマンを育てるのではなく、自分で考えて行動できる人、そしてゆくゆくは経営者になれる人を要請したいと考えているのだそうです。

根底にあるのは、「たとえトリドールを辞めても、起業家としてやっていけるようになってほしい」という思い。

粟田社長は、「今、『世の中そんなに甘くないで』という言葉が若い人をつぶしている。『そんなことないで、甘いとこあるで』と若い人を集めたい」と語っています。

「世の中、甘くないぞ」は、若者がチャレンジするのを阻む言葉です。それは若者のためを思って言っているのではなく、相手の可能性を信じられないから言っている部分もあるのではないでしょうか。(145ページより)

そういう思いがあるからこそ、もしも部下に仕事を任せられないとしたら、問題は部下にあるのではなく、上司自身にあるのかもしれないとも主張しています。

失敗を恐れない人材をそだてたいのであれば、まずは自分自身が部下の失敗を恐れない人物になるべきだということ。そうでないと、失敗を容認する職場にはならないわけです。(143ページより)。

ほめて、ほめられることで、モチベーションは上がる


どんな仕事でも長く続けているとマンネリ化し、モチベーションが落ちてくるもの。丸亀製麺でもそれは同じで、最初はやる気に燃えていたパートナーさん(スタッフ)が、働き続けているうちに流れ作業的に仕事をこなすようになることがあったのだといいます。

しかし、それを放っておくとお店の活気がなくなるので、丸亀製麺にとっては死活問題。そこで考えたのが「ほめたつ」、ほめる達人という制度なのだそうです。

たとえば、天ぷらを取ろうとしたお客様に対して、パートナーさんが「あと3秒で揚げたてをお出しできますよ」と声をかけたとします。それをそばで見ていた店長が、「いまの声のかけ方、よかったよ」とすかさずほめるのは、人材育成の基本。ただ、それだけでは、ほめられた喜びはすぐに消えてしまう可能性があります。

しかし、この制度では、釜、製麺、天ぷら、おむすび、湯煎、レジ、洗い場、ホールと、それぞれの担当ごとにほめるチェック項目を定められており、その項目ごとにポイント数が決めてあるのだといいます。

どの担当者にも共通しているのは、「ひとりひとりに挨拶! 商売の基本ができてます」という項目で、これは1ポイント。それ以外にも、釜の担当なら「茹でたてが一番うまい! その思いがお客様に届いていました(3ポイント)」など、全部で12種の項目があるのだそうです。

パートナーさんが実践していてほめたい項目があったら、店長(他のパートナーさんも)はiPadの「ほめたつ」のアイコンをクリックし、パートナーさんの名前を入力して該当する項目にチェックを入れればOK。

コメントを書き込む欄もあり、書かれたコメントは、ほめられた本人も自分のiPadで読むことが可能。そして、たくさんほめてもらってポイントが貯まったら、(ニンテンドーDSや松坂牛のすき焼き用肉など)好きな賞品がもらえるのだとか。

この制度の狙いは、ほめあう文化をつくるということ。 店長→パートナーさんだけではなく、パートナーさん同士、パートナーさん→店長と、あらゆる関係で互いに認めあえるようになると、「ここでずっと働きたい」というモチベーションになります。

お店の雰囲気が明るくなり、それが組織の活性化につながるのです。(157ページより)

もちろん、「賞品をもらうために、ほめてもらう行動をとるのはいかがなものか」という疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。しかし、「お客様に感動してもらおう」と言葉で伝えるだけでは限界があるのも事実。

どのような行動をとったらお客様に喜んでもらえて、同時にお客様のためになるのか、それはなかなかわからないものです。でも、目に見える形で、「この行動をとったら評価してもらえる」とわかれば、継続してその行動をとろうという意欲がわいてくるはず。

パートナーさんとしても、小さな行動を評価してもらえたら、「もっとお客様のためになることをしよう」という意識になるはず。それがお客様の感動につながり、本人のモチベーションにもなるということです。

人間は誰しもほめられたいもの。しかし、それは単に上司に気に入られてほめられるということではなく、「お客様のよろこびのため」になる行動がベースにあることが大切だというわけです。(155ページより)


丸亀製麺とトリドールが成功したのは、他社との競争を重視しなかったからではないかと著者は推測しています。常に「お客様のニーズやウォンツはなにか」ということを考えて店舗運営に反映し、効率や競合に競り勝つことを最優先しなかったからこそ、それが結果につながったということ。

つまり、本書で明かされているトピックスの背後には、そのような姿勢があるのです。そしてそれらは、きっと多くの会社にも応用できるのではないかと思います。
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Photo: 印南敦史

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