『TRUMP』10周年、末満健一インタビュー~「人間には、希望も絶望もどちらも必要」

SPICE

2018/10/9 06:00



演劇ユニット「ピースピット」を主宰する末満健一が作・演出を手がけた舞台『TRUMP』がオリジナル作品として異例の広がりをみせている。2009年11月、大阪の小劇場で初演されてから丸10年。再演が繰り返されるだけではなく、関連舞台がプロダクションの枠を超えて上演され、記念企画「TRUP series 10thANNIVERSARY」も展開中だ。舞台『刀剣乱舞』や『K』など2.5次元作品でも活躍する末満健一に、『TRUMP』10周年への話を聞いた。
末満健一(撮影:保田悟史)
末満健一(撮影:保田悟史)

――『TRUMP』のシリーズ化は初演から構想していたのでしょうか?

考えていなかったですね。『LILIUM』(2014年)を上演したときに、「これは『TRUMP』の続編だ」とお客さまのほうからSNSなどで盛り上がっていきました。その後、『TRUMP』の萬里(バンリ)という登場人物の前日譚を書きたいと思っていて、『SPECTER』(2015年)をつくりました。

――では、いつ頃からシリーズ化を考え始めましたか?

「シリーズ」と言い出したのは、昨年の『グランギニョル』からです。シリーズと呼ばれるためには、本数が必要ですから。このタイミングでシリーズと銘打ったのは、今後いろんな展開をするためにわかりやすいくくりがあるといいと思ったからです。

――シリーズと最初につけた『グランギニョル』、そして今年のミュージカル『マリーゴールド』は即日完売の大ヒットとなりました。10年間をどうつなげてきたのですか?

つなげたというより、積み重ねてきたという感じですね。『TRUMP』に登場するダリが、初演時から、観客に受ける印象と僕が考えるダリの造形の違いを感じていて、そこをいつか描きたいと考えてつくったのが『グランギニョル』です。『マリーゴールド』は4年前の『LILIUM』でマリーゴールド役を演じていた田村芽実さんに、「マリーゴールドが主軸となる物語があるからいつから出演してね」と話していたのが実現しました。
10thロゴ
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――『TRUMP』シリーズをはじめ末満さんのオリジナル作品にはインパクトのある魅力的なキャラクターが登場します。どこから発想が生まれてくるのでしょうか?

キャラクターより、物語からです。『マリーゴールド』では、「母と娘がいて」という設定から始まりました。最初の構想では街にサーカス団がやってきて、その団員としてソフィとウルが紛れ込んでいて…と考えていたのですが、出演者を見てがらっと変えたんです。俳優を見て発展させて描く、というのが多いですね。稽古場で造形していくこともあります。例えば、東啓介くんは2.5次元でキャリアを重ね、ミュージカルにも出演するようになっていますが、「形で演技するのを捨てよう」「わかりやすさにすがるのをやめよう」ということからつくりはじめました。最初はもう少しエキセントリックなキャラクターを想定していたのですが、最終的にはかなりそぎ落とした役づくりになりました。
『マリーゴールド』
『マリーゴールド』

――『TRUMP』初演から、そういうつくり方ですか?

初演は僕のイメージ通り、頭の中にあるキャラクターに近づいてくださいという演出でしたね。役者を役に寄せる。昔と今ではだいぶ違ってきています。

――『TRUMP』10周年に向けてプロジェクトが展開中ですね。第一弾が夏の『マリーゴールド』でその後、戯曲集『ソフィ・トリロジー』、劇中音楽を集めたCD『繭期音源蒐集』も発売され、来年もいろいろと計画中だそうですね。

戯曲集は、10周年で記念本を出そうという企画が上がったのですが、時間が足りなくて来年に持ち越しになり、その代替案として生まれた企画です。すでにテキストはあるし戯曲集なら楽に出せると思っていたのですが、3本分のテキストを読み物としてリライトして校閲していく作業はすごく大変でした。なにせ全600ページですから。
TRUMPシリーズ戯曲集Ⅰ
TRUMPシリーズ戯曲集Ⅰ

――CDも3枚組だそうですね。

音楽の和田俊輔さんの事務所から出しませんかとお話をいただいて、ぜひぜひにと実現しました。英語の歌詞が吉次正太郎さんで、日本語の歌詞は僕が書いています。
繭期音源蒐集
繭期音源蒐集

――さらにその流れで、シリーズの劇中音楽を集めた『繭期夜会』があります。

コンサートは前々からやりたかったので、せっかくだからこの10周年の流れの中でやろうと決まりました。新良エツ子さんがメインボーカルで、僕が構成・演出をします。新良さんとは長い付き合いで、『TRUMP』などの劇中歌を歌っていただいているので間接的には仕事をしたことがあります。でも直接はご一緒したことがなく、今回初めてプレーヤーとディレクターという形でご一緒できるので、楽しみですね。

――どんな内容になりそうですか?

一部は今までの劇中歌を新良さんが歌うコンサート。二部はトークコーナーや東君をゲストボーカルに招いての歌のコーナーなどがあります。お客さんと一緒にメインテーマ曲「ライネス」を合唱したり、短い朗読劇も書きおろしました。僕は和田さんとのトークコーナーに出演します。前半がアーティスティックなライブで、後半がバラエティ的な感じですね。
末満健一(撮影:保田悟史)
末満健一(撮影:保田悟史)

――2019年の一年間、『TRUMP』の上演権料を無料にすることも発表されました。珍しい試みですね。

学生劇団や社会人劇団や、商業演劇でも『TRUMP』をいろんな人がやってくれたら面白いなと思います。これを機に『TRUMP』という作品世界に触れる人が増えてくれたら嬉しいですね。

――来年以降の『TRUMP』の展開はいかがですか

再演がひとつ予定されています。ドラマ CD みたいなものも出したいと思っています。小説版『TRUMP』も書かなくてはなのですが、なかなか進んでいなくて…。シリーズ全体の構想はラストまで決まっていますので、今後はどう上演していくか。最短で上演したとしても、あと6本か7本ぐらいは必要なので……。

――『刀剣乱舞』など、2.5次元舞台でも活躍されています。いわゆるイケメン芝居や2.5次元舞台に課題は感じていますか?

2.5次元舞台に関しては、俳優育成としては難しい場所だとは思います。技術や、演技に関する意識が不足している若手が出演する機会が多いので。そういうあり方も含めて、送り手と観客との関係が需要と供給だけの形になっているのを、表現者として危惧しています。ビジネス的には需要と供給の構造も大切かもしれませんが、表現とは送り手側と受け手側では対等であり共鳴関係でないといけない。それが需要と供給だけに陥って、それで成り立ってしまっては、表現と観客の相互関係を歪ませてしまう。目先の利益優先で、とにかく観客の機嫌を損ねないような当たり障りのない作品が乱発されるようならこのジャンルに表現としての未来はないと思います。
末満健一(撮影:保田悟史)
末満健一(撮影:保田悟史)

――エンタメビジネスとしては大きく盛り上がっていますが。

もう少し、2.5次元を「文化」にしていきたいです。エンタメビジネスとして盛り上がるのもいいですが、それ一辺倒だと消費されつくしたときに滅びゆくだけです。2.5次元をビジネスシーンだけで消費しないよう、いま関係各所と相談しながらできることを模索しているところです。

――プロデューサー的な目線を持っているのも末満さんの特徴だと思いますが、客観的にみて末満健一というクリエータ―はどう映っていますか?

雑多ですよね、とても。東京の演劇界の文脈から出てきたわけでもないし、関西演劇界でも亜流で、どこの文脈にも属さない。かといって、2.5次元舞台で活躍する人たちの中にも混ざれない…。

――その違いを楽しんでいるように思います。

楽しんでいるというか、気にしていないですね。

――『刀剣乱舞』や『TRUMP』での注目が高まりましたが、オリジナルの作風は実にバラエティに富んでいます。今後はどんなタイプの作品をやっていきたいですか?

会話劇はもちろんですが、オリジナルミュージカルにもまた挑戦したいですね。前作の『マリーゴールド』では小劇場出身がいれば、宝塚の元トップスターもいて、大劇場ミュージカルをやっている人もアイドル出身者もいる。異種格闘技みたいでしたが、それがひとつの世界観の中で調和しあい、お互いを補いながら適材適所でいかされた。そういうものも続けていきたいです。

――『TRUMP』シリーズをはじめ、「絶望」を描くと作家といわれますが、末満作品は終演後は冷たく落ち込んだ雰囲気ではなく、どこか人間の体温を感じて不思議な思いになることがあります。このシリーズがここまで受け入れられた理由はどう考えていますか?

なぜなんでしょうかね? 心温まる話でもなく、感動の涙もない。笑えるわけでもなく、観てハッピーになれるものではないのに。多分、それは、やっぱり人間には、希望も絶望もどちらも必要だからだと思います。快楽も必要だし、苦痛も必要。エンターテインメントにいろんなものがあっていいんです。多様性があってはじめて、その場所は「豊か」といえるのだと思います。
末満健一(撮影:保田悟史)
末満健一(撮影:保田悟史)

取材・文=田窪桜子

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