アートとの出会いは、まだ見ぬ自分との出会い 『UNKNOWN ASIA』をレポート【FM802 DJ 河嶋奈津実編】

SPICE

2018/10/6 12:00

アジア各国から集まったユニークなアートが大阪・梅田の巨大空間に所せましと並ぶ、『UNKNOWN ASIA ART EXCHANCE OSAKA』。4度目の今回は9月15日(土)、16日(日)に行われ、全10か国から212組のクリエイターが選りすぐりの作品を持ち寄り、会場は大いに賑わった。明るく照らされたハービスホールには老若男女さまざまなひとびとが行き交い、気になった作品の前で足を止め、クリエイターとの談笑を楽しんでいる。このレポートでは、そんなUNKNOWN ASIAで私の印象に強く残った作品を、作者に聞いた話と共に紹介したい。



ハービスホールに足を踏み入れるやいなや、それぞれのブースが発する個性的なオーラに思わず目移りしたが、初めに目が留まったのはひときわ淡く優しげな色合いでまとめられた一角だった。壁にかかっている絵はどれも一見すると日本画なのだが、近づいて見てみるとそこにはボーダーのTシャツを着たひとや、洋風の天使が、筆を使った柔らかいタッチで描かれていて興味深い。


作者である愛媛県出身の堀としかずさんに話を聞くと、彼はもともと外国のアニメーションから影響を受けてキャラクターを描いていたこともあるそうだが、あるとき和紙と墨に出会い、現代的で身近なものと古来の日本画を絵の上で共演させるという、現在の作風に行き着いたのだそうだ。


ブースにはアルファベットの「C」と「E」をかたどった2つ折りの屏風も置かれていた。これは「洋室にも違和感なく置けて、外国人にも親しみを持ってもらえる屏風を作りたい」と考えた堀さんが、表具師(屏風や掛け軸を仕立てる職人)に直々にオーダーし、「C」の屏風には波打つ川とカワセミを、「E」の屏風には盆栽と猫を描いて完成させたものだ。「和」と「洋」、「新」と「古」が美しく溶け合う彼の作品は、これからも世界中のひとたちに日本文化の奥深さを伝えてくれるに違いない。


会場を奥へ進むと、先ほどの堀としかずさんとは打って変わり、こってりとした濃い色がひしめき合っているブースがあった。黒い壁にかけられた3枚の大きな絵に描かれているのは、タイヤやビニールシートが投棄された「ゴミ置場」の光景であり、そのゴミ置場の上を大きな金魚が飛んでいるのだから不思議だ。しかも絵の上部には茶褐色のサビがこびりついている。




そもそもどうしてこの場所を絵のモチーフに選んだのかが気になり、作者のChiHaruさんに声をかけると、「朽ちていくものに感じる寂しさが好きなんです。」と答えてくれた。7年ほど前に趣味で絵画教室に通い始めたが、「ふつうに描いても面白くないな」と思い立ち、アクリルを使って絵そのものを錆びさせる斬新な方法を編み出したのだそうだ。


ブースの左手に何気なく吊るされた深めのフライパンの底には、おいしそうに焼き上がった10個の餃子が描かれている。これは『引退餃子』と名付けられた作品だ。「長年使っていたフライパンを買い換える前に、これで最後に作った料理の絵をここに描こうと思ったんです。」 彼女は金属が錆びる様にも美しさを覚えるのだという。ゴミ置場やサビをアートの主役に選ぶChiHaruさんの独自の感性に触れ、いつもなら目を背けがちな何気ないものに隠れた魅力に気づくことができた。


さらに歩みを進めると、「キー、キー」ときしむような音が聞こえた。その音に導かれて黒く塗られた木箱を覗くと、向かい合うスイギュウとトラの人形が上下に動き、鈍い光沢を放っている。


インドネシアから訪れた作者のWulang Sunuさんによれば、スイギュウとトラはそれぞれインドネシアとオランダの象徴であり、これはかつてインドネシアを「東インド」として統治したオランダとインドネシアの争いに基づいた作品なのだそうだ。


木箱の傍らに貼られたWulangさんの絵には、いくつもの槍を刺されたトラや、炎に包まれるトラの姿が描かれている。「僕たちの国に起こった事実にいつでも立ち返ることができるように、この歴史的題材をアートにしています。」 口調こそ穏やかだが、Wulangさんの言葉には重みがあった。子どもにも親しみやすいタッチの絵を描く彼は、日本のアニメにも強く影響を受けており、今回の出展に伴う来日をとても楽しんでいるそうだ。


今回のUNKNOWN ASIAでグランプリに輝いた木村華子さんのブースの前では、多くのギャラリーが人だかりを作っていた。フォトグラファーである彼女の作品は、街角に佇む真っ白な看板の写真に、青いネオンライトをあてがったものだ。


このような何も書かれていない看板は、大阪の街でも頻繁に見受けられるのだという。そして青い照明には人の精神を落ち着かせる効果があるとして、投身自殺を防ぐために駅のホームや踏切に設置されていることがある。「特に若いひとたちには『今日もなにもできなかった。こんな人生でいいのかな?』と悩むひとがいると思うんですけど、この看板は意味を持たなくてもここに存在しているんです。この空白と青いネオンライトを組み合わせることによって、『存在意義なんて見出せなくても、堂々と生きていていいんだ』ということを伝えたいです。」 わたしの目をまっすぐ見据えて話す彼女の瞼には、ブルーのアイシャドウが煌めいていた。




昨今、明確な夢や目標を見つけられない若い世代が多いと聞くが、華子さんの作品はすべてのひとが自信を持って毎日を送るためのヒントをくれる。決して押し付けがましくなく静かで、それでいて力強くポジティブなエネルギーが、青い光に宿っていた。


こうして気になった作品を改めて振り返ると、どうやら私はアートだからこそ実現できる「意外な組み合わせ」を好むようだ。UNKNOWN ASIAには、自分がどういった色彩、質感、雰囲気、メッセージに惹かれるのかを再発見できるという大きな醍醐味がある。芸術に触れる機会が少ないひとにこそ、敬遠せず気軽に足を運んでほしい。きっと、その感覚に訴えかける刺激的なアートやクリエイター、そしてまだ見ぬ自分自身との出会いが待っているだろう。

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