価値観の違い、世代間のギャップを楽しみたい!! 三木聡監督のオリジナル作『音量を上げろタコ!』

日刊サイゾー

2018/10/5 22:30


 この世界はほとんどがムダなものでできている。人間の一生もほとんどはムダな時間で占められている。そんなムダなものやムダな時間を愛することができれば、人生はとても楽しい。ブレーンをつとめた『トリビアの泉』(フジテレビ系)で役に立たない雑学ブームを、時効を過ぎた犯罪を趣味で解決する警察官を主人公にした『時効警察』(テレビ朝日系)でゆるゆるギャグブームを起こした三木聡監督は、ムダなものを愛する天才だ。そんな異能の天才・三木監督にとって『インスタント沼』(09)以来となる9年ぶりのオリジナル新作が、『音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』である。ムダなもの、くだらないものが溢れ返った沼の中から、観る人によっては絵文字のようなメッセージがひょっこりと浮かび上がるおかしなコメディとなっている。

長年にわたってコメディの仕事を続けることはとても難しい。お笑い芸人やギャグ漫画家の多くは一瞬のブームによって消費され尽くし、ブームが過ぎ去った後は忘れ去られた存在となってしまう。オリジナル性が尊重されない現代のコピー社会を風刺した『俺俺』(13)の公開時に、三木監督をインタビューした際の言葉が印象に残っている。

「コメディをずっと書き続けていると、どうしてもお客さんとの間にズレを生じていくんです。多分、僕の持っている感性と視聴者が期待するものとがいちばん合っていたのが『時効警察』の頃でしょう。僕はお笑いのことを毎日考え続けるわけですが、視聴者が番組を観て笑うのは週に一度だけ。次第に距離が開いてしまうものなんです」

お笑いとは、マジメに考えれば考えるほどズレが生じてしまうという、何ともアンビバレントな世界だ。そして、一度生じたズレを修正するのは、これまた至難の技となる。さらには世代間による価値観の相違も生まれてくる。今回の三木監督は、バンドでいうところのベース&ドラムにあたるお笑いリズム隊に、松尾スズキ、ふせえり、麻生久美子、岩松了ら三木組の常連キャストを配して、きっちりとステージを整えた。その上で、メインキャストには三木作品には初登場となる阿部サダヲと吉岡里帆をブッキング。従来の小ネタギャグを散りばめた三木ワールドを再構築しつつ、新しいメインキャストを迎えることで新鮮な化学反応が起きることを狙っている。

麻生久美子が主演した『インスタント沼』は、三木監督が少年時代を過ごした横浜市周辺を舞台にしていた。三木監督の実家近くは、かつて沼が多かったらしい。埋め立てによって失われた原風景を、映画の中で甦らせようとする試みだった。同じくオリジナル作である『音量を上げろタコ!』も、三木監督が自身のアイデンティティーを見つめ直したものとなっている。アルバイトがきっかけで放送作家の道を歩むようになった三木監督だが、大学時代の三木監督はバンド活動に明け暮れていた。音楽は三木監督にとって表現活動の原体験だった。音楽からお笑いへとシフトチェンジしていった経緯がある。三木監督にとって、『音量を上げろタコ!』は音楽とコメディを融合させた待望の世界なのだ。そんな三木ワールドに、今回飛び込むことになるのがただいま絶賛売り出し中の若手女優・吉岡里帆であり、そのメンター役を務めるのがパンクバンド「グループ魂」でも活躍する阿部サダヲとなる。

吉岡里帆演じるストリートミュージシャンのふうかは、恐ろしく声が小さい。吉祥寺の駅前でバンドメンバーを従えて歌っていても、通行人がケータイでしゃべっている声のほうがデカく、まばらに集まったリスナーたちの耳にはまるで彼女の歌声は届かない。自分に自信が持てずにいるふうかに対し、恋人兼バンドリーダーの彼氏は牛丼屋で別れを告げる。ファストフード店で味わうハートブレイクほど、心の糧にならないものはない。

人気ミュージシャンになることを夢見て田舎から上京してきたものの、自分が歌いたいものが見つからず、人生のどん底気分を牛のように反芻するふうか。そんなときに出逢ったのが、イカれた謎の男・シン(阿部サダヲ)だった。ノーフューチャーに生きるパンクミュージシャン(小峠英二)に向かって「セットリストどおりに歌ってんじゃねぇッ」とケンカを吹っかける物騒極まりないシン。年齢も違い、趣味嗜好もまるで合いそうにないシンだったが、「音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」というシンの罵声に心の震えを覚えるふうかだった。シンの正体が声帯ドーピングで人間離れした声量を手に入れた厚塗りメイクのロックミュージシャンだということに、ふうかが気づくのはもう少し後になってからだった。

「いいの、いいの、ブラアン・イーノ」など洋楽好きな人じゃないと意味不明なギャグや、「糸電話が可能な距離は830mまで」などストーリーに直接関係のない豆知識が詰め込まれてある。初期代表作『亀は意外と速く泳ぐ』(05)の頃から三木作品は基本変わらない。そんなムダなものが溢れ返った三木ワールドに、今回はこれまでになかったメッセージがくっきりと浮かび上がる。

何事もリスクを避けようとするふうかに対し、「やらない理由をさがすんじゃない」というシンの言葉がリフレインされる。やりたいことをやり、思ったことをストレートに歌うのがロックなのに、ふうかは口実を見つけては人前に立つことを避けて生きてきた。そんなの全然ロックじゃねぇよ。宮藤官九郎脚本の連ドラ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)で注目を集めるようになった吉岡里帆をはじめとする、マイペースでヘコみやすい若い世代に向けた、お笑い界の“生きたレジェンド”三木監督からの熱いメッセージとなっている。

この「やらない理由をさがすな」は、三木監督自身への言葉でもあるようだ。『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)など数多くのコント番組やシティボーイズの舞台演出を手掛けてきたこともあり、三木監督が映画の中で描く主人公たちもコントのキャラクターと同様に物語の中での成長を拒んできた。2時間やそこらで人間はそう変わりはしないよと。だが本作では、女優として成長期にある吉岡里帆と、ふうかのミュージシャンとしての成長ぶりとがシンクロする形で物語は進んでいく。なかなか大声を出すことができずにいたふうかだが、破天荒なシンに振り回され続けることで大きな影響を受けることになる。それまでは自分の持っているちっぽけな価値観を理解してくれる人を求め続けたふうかだったが、シンと行動を共にすることで価値観の違いそのものを楽しむように変化していく。ふうかの視界は大きく広がる。これを成長と呼ばずして、何と呼ぼうか。

物語のクライマックスは三木監督史上もっとも派手なドンパチ&カーアクションに加え、恋愛要素もミックスしたものとなっている。三木監督もずいぶんと変わった。そして、価値観の違いを受け入れたふうかは、最後に絶叫する。「テンション、あげろ~ッ!!」。ふうかのことをタコ呼ばわりしていたシンの耳に、ふうかの叫び声は届くだろうか。そして、三木監督がゆとり世代、さとり世代と呼ばれる若い世代に向けた熱いメッセージはどれだけ届くだろうか。
(文=長野辰次)

『音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
監督・脚本/三木聡 音楽/上野耕路 主題歌/「人類滅亡の歓び」(作詞:いしわたり淳治、作曲:HYDE)、「体の芯からまだ燃えているんだ」(作詞・作曲:あいみょん)
出演/阿部サダヲ、吉岡里帆、千葉雄大、麻生久美子、小峠英二、片山友希、中村優子、池津祥子、森下能幸、岩松了、ふせえり、田中哲司、松尾スズキ
配給/アスミック・エース 10月12日(金)より全国ロードショー
(c)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会
http://onryoagero-tako.com

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