ノーベル物理学賞はレーザー研究者3人、うち一人は女性→歴代3人目55年ぶり!

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Image : University of Waterloo, Wikimedia Commons, Wikimedia Commons
ノーベル物理学賞を受賞した歴代の女性たち : ドナ・ストリックランド (2018) マリア・ゲッパート=メイヤー (1963) マリー・キュリー (1903)

ひとりは、あのキュリー夫人らにつぐ歴代女性3人目。

2018年のノーベル物理学賞は女性ひとりを含む3人の研究者に授与されました。米ベル研究所所属のアーサー・アシュキン氏、フランスのグランゼコール、エコール・ポリテクニークのジェラール・ムル氏、カナダ・ウォータールー大学のドナ・ストリックランド氏です。いずれも、レーザー物理学の分野での研究の功績が認められたことによります。 ストリックランド氏は歴代物理学賞受賞者では、キュリー夫人(1903年)、マリア・ゲッパート=メイヤー(1963年)についで55年ぶりに、受賞3人目の女性となる快挙です。

賞金900万スウェーデンクローナ(約1億1500万円)はその半分が「光ピンセット」を発明したアシュキン氏に贈られ、残りはCPA(Chirped Pulse Amplification)「チャープパルス増幅」というレーザーの増幅技術を実現した研究に貢献したムル氏とストリックランド氏に半分づつ送られる形です。いずれも日常の物理学研究に偏在するユビキタス的存在となった技術です。

ストリックランド氏の功業は、物理学賞の男女比のバランスに大きなマイルストーンを打ち立てることとなりました。「女性の物理学者はもっとその存在と功績を認められるべき...私はその女性たちの一人として誇らしい気持ちでいっぱいです」とストリックランド氏。

「光ピンセット」と「チャープパルス増幅」


今回の受賞者はレーザー研究者。レーザーとは媒体中の電子にエネルギーを与え励起(れいき)させることによって、原子が互いに励起され続け、同じ波長を有する光が干渉しビームを作り出して得られる量子効果のことを言います。受賞者の技術のいずれも、研究にこの効果をとり入れて現代に広く使用されている技術を生み出しています。

アシュキン氏の研究は「光ピンセット」の開発。レーザービームを使用してナノレベルの微小物体を捕捉し、分子やウィルスなどの微小なものも動かすことのできる技術です。研究の歴史は1980年代にさかのぼります。集光された光の焦点付近に生じる強大な電場勾配によって誘電体微粒子が電場の一番強い部分へ引き寄せられる性質を利用したものです。これにより、細胞や分子のような極小物体を正確に操作することができるようになりました。「アシュキン博士の光ピンセット研究の功績は、まるでSFの世界です」と素粒子物理国際研究センターのクララ・ネリスト氏は米ギズモードに語ってくれました。「物を引き寄せるトラクター・ビームに着想を得て、それを顕微鏡レベルに縮小することに着想したのです。これでウィルスやバクテリアをつかもうと考えました」

「チャープパルス増幅」は、レーザーを使用して高強度で超短パルスを生み出す技術です。ストリックランド氏とムル氏の研究以前には、短いパルスではレーザーの増幅に使用される素材に損傷が生じていました。これを克服するためには、大きなビームと高額で大きなレーザー装置が必要とされていました。この2人は研究を重ね、 一度発振した超短パルスレーザー光をパルス幅伸張器にかけてパルス幅を広げたあとで増幅し、また圧縮するという3段階の手法を開発することで、この問題を乗り越えました。1985年に発表されたこの研究は、ストリックランド氏の博士論文の根幹となっています。今では、「チャープパルス増幅」は超短パルスを作り出すレーザー物理学分野のいたるところで採用されています。ノーベル物理学賞のプレスリリースによれば、この技術により、高出力の超短テーブルトップレーザーパルスの生成が実現され、 ナノレベルの微細加工や目の手術などに広く採り入れられているとのこと。

歴代3人目の女性受賞者に喜びの声


ストリックランド氏とムル氏の研究を基に研究開発に携わるフランスのソレイユ ・シンクロトロンに所属する科学者マリー・エマニュエル・コウプリー氏は「ノーベル物理学賞の受賞に心躍らせています」と米ギズモードに語ってくれました。「このレーザー技術はこれまでは夢でしかなかったいろんなことを実現させてくれるとても重要な技術なんです」特にストリックランド氏については「女性の科学者として、ノーベル物理学賞を女性が受賞したことはとても素晴らしいことと思います。女性の科学者はごく少数。今回は女性科学者の功績にスポットライトが当たり、まるで自分のことのようにうれしいです」と喜びの声を聞かせてくれました。

受賞した技術はいずれも現在の物理学研究の基礎を打ち立てたもの。どちらもレーザーや極小粒子の操作など、ギズモードで紹介するさまざまな科学技術関連の記事にも採用されているような身近なものなんです。

こんな華やかな賞ですが、一部には、ノーベル賞は物理学における功績を正確に反映していないとの意見もあります。 昨年、プリンストンの物理学者である、シバジ・ソンディ氏と、スタンフォード大学の物理学者スティーブン・キベルソン氏は、この賞はもっと多くの人に贈られるべきだと提唱しています。あるいは、一生を通して科学者の業績を祝うべきだという意見も。 でもとりあえず、今年のノーベル賞選考委員会は、科学を根本から変えた先駆的技術に焦点を当てることができました。

多くの女性物理学者が過酷な環境で働くことを強いられている物理学会においては、つい先週も欧州最高峰の物理学研究所CERN(欧州原子核研究機構)で「物理学を構築したのは男性」などという性差別発言が飛び出して 物議をかもしたばかり。

「ここまで長い道のりでした。これからも苦難は待ち構えています。なにしろストリックランド氏のWikipediaページは今朝作成されたばかりというていたらくですから、歴代3人目の女性受賞者が出たことはもっと盛大に喜ぶべきではないでしょうか」とネリスト氏。

ノーベル賞を受賞した女性は全体の3パーセントにしかすぎません。昨年は白人男性が賞を総なめしていました。科学、特に物理学は白人男性が幅を利かせる世界です。物理学はまだまだ未知の世界。研究の余地はたくさんあります。このままいけば次の女性受賞者が誕生するまでには、50年はかからないでしょう。

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