ビジネス書に訊け! 第14回 英語ができないITエンジニア、なにから始めればいい?


悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、英語ができない人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「英語ができないというのがコンプレックスで、このままでは今後仕事で困るのではないかという危機感があります」(36歳男性/IT関連技術職)

「アメリカ=おしゃれ」というイメージが大きかった時代に育っただけに、思春期のころの僕はアメリカかぶれでした。音楽にしてもファッションにしても、すべてにおいてアメリカのそれが基準になっていたのです。

そしてそんななか、いつしか英語に関する関心も高まっていきました。

幸いだったのは、中学生のころから日常的にFEN(現在のAFN)を聴いていたことです。在日米軍関係者向けのその局に周波数を合わせれば、最新の洋楽を手軽にチェックすることができたわけです。

インターネットなどなく、ましてやお金もなかったので重宝したのですが、同時にそれは英語力を高めてもくれました。堅苦しい英会話教材とは違う“生の英語”が流れ続けているのですから、当然といえば当然すぎる話です。

で、その結果、いつに間にやら英会話をマスターし、高校時代は学校内で唯一英会話ができる男として英語の先生に認められるほどになっていたのでした。

が、なかなかうまくはいかないものです。それからまた歳月が過ぎ、20歳を越えたあたりには、少し前まで流暢だったはずの英語がまったく話せなくなってしまったのです。

なぜ、そんなことになったか? 僕が思うに、それは「恥」の概念の問題です。つまり、怖いもの知らずだった中高生のころは「間違ったら恥ずかしい」という気持ちがなかったから、間違えること前提で英会話を身につけることができたのです。

ところが大人になっていくに従って、「間違ったら恥ずかしい」と思うようになり、そんな思いが、いままで築き上げてきたものを一気に崩壊させてしまったということ。そして、いまもまだ、そんな状態を抜けきれないままです。

そのような過去があるからこそ、「英語ができないコンプレックス」を抱く方の気持ちはとてもよくわかります。 絶対になんとかしたいですよね。ということで、なんらかの突破口になりそうな3冊の本をご紹介したいと思います。
○英語の勉強を正しく「習慣化」

まず1冊目は、『「英語を話せる人」と「挫折する人」の習慣』(西 真理子著、明日香出版社)。著者は、ビジネス英語・ホスピタリティ業界英語などのビジネススキル講座講師をするかたわら、小学生から60代までの生徒に授業を行う英語コーチとしても活躍する人物です。

などと書くと、いかにも豊富な留学経験や海外生活経験を持っていそうに聞こえるかもしれません。ところが、そうではないのです。だからこそ本書は、「英語が話せない」というコンプレックスを拭えない人に響くのです。

私はこれまで海外で暮らした経験がなく、留学経験もありません。それどころか短期のホームステイの経験すらないうえに、英会話学校に熱心に通った経験もありません。外国語教授法を大学院で修めた人間でもありません。長崎で生まれ、東京で育ちましたが幼いときは海外旅行に行く機会もなく、いまはやりの英語のプレスクールに通うなんてことは考えられない、英語に無縁の環境で育ちました。(26ページより)

それでも社会に出てからは秘書としてアメリカ人、スウェーデン人、イギリス人、香港人の社長や重役のもとで通訳や翻訳を含む業務を担当してきたというのですから驚き。

信じられないような話ですが、英語に無縁だったにもかかわらず“英語漬け”の人生を送ることになったきっかけは、中学校に入学したときに始めたNHKの『基礎英語』だったのだそうです。そこで英語の魅力を知り、その後も勉強を続け、英語講師として活動するに至っているということ。

そんな著者は、英語を話せるようになるためには、英語の勉強を正しく「習慣化」する必要があると主張しています。英語は、日本語と同じくひとつの「言語」。だからこそ、ただしい勉強法を習慣化し、続ければ効果は必ず出るというのです。

そのため本書で紹介されているのも、著者が実際に行ってきた「習慣」ばかり。「スピーキング」「リスニング」「環境・ツール」「モチベーション」「資格試験」「リーディング&ライティング」「文化理解」に分けられた本書が提示する「習慣」を1年間続けることができれば、その「効果を保証します」と断言しています。

ゼロからスタートした著者の言葉だからこそ、強い説得力があるとお感じにはなりませんか?
○元ソフトバンク社長室長が実践した勉強法

同じく「1年」がんばることを進めているのは、『海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる』(三木 雄信著、PHP研究所)。ソフトバンクの社長室長として孫正義氏のもとで数々の実績を残したのち、独立してからはさまざまな事業を手がけている著者による書籍です。

海外とのやりとりも多いため、現在では日本で働いていながら、英語をひとことも話さなかったという日はほとんどなくなってしまったと著者。英語でコミュニケーションする際、言葉が出なくて困ったりすることはたまにあったとしても、交渉やプレゼンで失敗することはまずないのだといいます。

しかし、そうであるからこそ、そのバックグラウンドは意外です。

海外留学の経験は、短期も含めて一切なし。まともに英会話を勉強したのは、ソフトバンクに転職してからのわずか一年だけです。(「はじめに」より)

中学や高校でも英語が得意だったわけではなく、とくにヒアリングやスピーキングには苦手意識が強く、就職してからも商社マンになって世界を飛び回りたいなど考えもしなかったのだとか。それほど、海外や英語とは無縁の人間だったというのです。バックグラウンドは、『「英語を話せる人」と「挫折する人」の習慣』の著者と似ていますね。

にもかかわらずハードルを越えることができたのは、「そうしなければならない事情」があったから。つまりソフトバンクにおいて、英語が苦手なままでは仕事にならないということ。そこで、「交渉で負けない英語力を一年で絶対に身につけること」を自分に課したのだそうです。

つまり本書で紹介されているのは、すべて著者が実践してきた勉強法。これを実践すれば、どんなに意志が強い社会人でも、わずか一年の勉強で「使える英語」をマスターできるといいます。

「そうは言っても難しいのでは?」と思われても不思議なはないと思いますので、実務経験を通じて著者が理解した「ビジネス英語についての考え方」を書き添えておきましょう。

(1)流暢に話せる必要はない
(2)限られた表現を覚えればいい
(「はじめに」より)

たしかにこれだけなら、(以前の著者のように)英語が苦手な人でもできるかもしれません。
○ITエンジニアのための英語術

ところで質問者さんはIT関連技術職だとのことなので、最後はお仕事により役立ちそうな一冊をご紹介したいと思います。『ITエンジニアの英語術 最強の教科書』(板垣政樹著、KADOKAWA)がそれ。

著者は、米マイクロソフトのAI and Cloud部門で重要なプロジェクトを担当してきた実績の持ち主。つまり英語の能力なくしては成り立たない環境に身を置いているわけです。

そんななか、しっかり勉強してきたにもかかわらず「自分の英語がまったく通用しない」ことを痛感する日本人エンジニアを数多く目にしてきたのだといいます。

なぜでしょうか? それは、英語の勉強が足りないからではなく、とにかくスピードが足りないからなのです。(中略)現場では複雑な問題が常に発生し、それを即議論して解決していかないといけません。そこで求められるのは相手の主張のポイントを即座に理解し、自分の意見を簡潔に話す力です。そのために必要な英語力というのは、細かい文法などにとらわれず、シンプルに英語を整え、スピーディーに伝える力です。(「Prologue」より)

ここでいうスピードとは流暢に英語を話すことではなく、必要最小限のことを極力シンプルな英語で簡潔に表現すること。そして、そのスピードを手に入れるための答えは、IT現場でよく使われる英文チャットにあるのだとか。

海外のIT現場では、メールでは対応しきれない緊急の質問や確認などにチャットを使うそうなのですが、その特徴は、要点を極限まで削ぎ落として5秒程度で発信するスピーディーなやりとり。

なんだか難しそうですが実は逆で、5秒だからこそ話す内容が絞られ、英語も簡単になっていくというのです。そしてこの5秒チャットに慣れてくると、会話においても自然とシンプルな表現を使うようになり、驚く細スピーディーになってくるといいます。

そこで本書では「分割」「言い換え」「質問」「短縮」などのテクニックを駆使し、5秒でチャットする英語術を明かしているわけです。しかしITエンジニアのみならず、さまざまな業種の人にも十分応用できる内容だと思います。

仕事柄、ここでご紹介した3冊だけでなく、日常的に多くの「英語術本」に目を通しています。しかし、それは仕事として「書評を読んでくださる人のために」読んでいるにすぎないのかもしれません。

今回、そのことを強く実感しました。結局のところ、「高校時代の英会話力を取り戻したい」と思いながら、どれだけ英語本を読んでも、それを自分ごととして活かせていないのだなと。

つまり、それが今回の反省点。そこで、これをきっかけに、この3冊をはじめとする数々の英語本を「自分のために」改めて読みなおしてみて、なんとか結果を出したいと思います。

一緒にがんばろうではありませんか!(まさか、この原稿がこのような結末になるとは)

○著者プロフィール: 印南敦史(いんなみ・あつし)

作家、書評家、フリーランスライター、編集者。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家としても月間50本以上の書評を執筆中。『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)ほか著書多数。

あなたにおすすめ