内野聖陽、情報が氾濫する時代に実感する「やってみなはれ」精神の尊さ


●シーン数が多すぎて不安に
日本の洋酒文化を切り拓いたサントリー創業者・鳥井信治郎……今や誰もが知っている大企業の創業者である彼をモデルに、伊集院静が書いた小説『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎』が、テレビ東京で実写ドラマ化。日経ドラマスペシャル『琥珀の夢』(10月5日 21:00~)は、俳優・内野聖陽が、鳥井をモデルにした主人公・鳴江萬治郎を演じ、明治・大正・昭和と3つの時代にまたがった壮大な”夢”の行方を描き出す物語となっている。

今回は、主演の内野にインタビュー。作品の見どころや、現代社会の中で思う「やってみなはれ」精神の大切さなど、仕事論にも通じる内野の話を聞いた。

○生命力を感じた

――3時代にもまたがり、全体を通して濃い内容だと思ったのですが、内野さんが作品を観られた時の感想をお聞かせください。

ここまでの時代に渡っているテレビドラマはなかなかないんじゃないかな、と思いました。ただ自分としては出ずっぱりだったので、あまりのシーン数の多さに、不安もありました(笑)。1日2~3回メイクチェンジをして、若いときをやったり、老けたときをやったりないまぜになっていたので、ワンシーンワンシーン、丹念に撮っていくんだけど、ちゃんと並べた時に力のある作品になるのかなぁなんて不安を感じることはありましたね。

だから、実際に観た時は「さすが監督! さすが編集マン!」って思いました(笑)。狙っていた経年変化も、うまくいっていました。あと観ている方がどう感じ取られるか、ものすごくユニークで周りを引っ張る牽引力がある男の一代記を、どういう風にご覧になるか、とても興味があります。とにかく一番感じたのは、生命力、バイタリティというか。ピンチや苦境に陥っても、絶対に負けない魂がある人なんだなと、改めて感じました。

――萬治郎のように、突き進む部分は内野さんにもあるんですか?

こんなにすごく先見の明があって、みんなを巻き込んで突き進むようなことはないんですけど、「自分の感覚だけを信じて生きていこう」という部分はちょっとだけ重なるかな。今まで、そうやって生きてきた部分はあります。
○強いメッセージが集約された

――演じられてみて、萬治郎の魅力はどのようなところにあると思いましたか?

いっぱいありました。萬治郎は会社のトップであるけど、彼にとっては会社という枠組みじゃないんですよね。本当に家族みたいな触れ合いで、実際のお話を聞いてもそうらしいのですが、病気になっている社員がいたり、社員の親戚が困っていたりしても手を差し出してあげたり。自分を「社長」ではなく「大将」と呼ばせて、人としてみんなと接していたのではないかと思います。それくらいみんなが付いていきたくなるような人なのが、すごいと思いました。

1番好きなのは、やっぱり「やってみなはれ」という精神ですよね。今の時代、いろいろ情報を得られて、いろんなケーススタディができる。そうすると、まず「やってみる」ということに対しての1番大事なエネルギーが弱まってしまうんじゃないかなと思ってて。まず「やってみなはれ。やってみなぁ、でけるかでけへんかわからしまへんやろ」という台詞が大好きで、「そうだよね」と思います。

やりたいことがあるのに、いろんな情報があるから、びびったり、怖気づいたりして、大事な大事な第一歩が踏み出せない人が多いんじゃないのかなと思うんですよ。この作品が尊いのはそこで、「まず、やってみなはれ」という力強いメッセージが集約されているのだと思います。

●子供の頃は見逃しがちだったテレビ東京
○ロマンのない時代?

――山本耕史さん演じる松亀の「今はロマンのない時代」という台詞に共感したのですが、今の時代にも通じるのかな? と思いました。

ロマン、ないですか?

――ないかもしれないです(笑)。

そこがひっかかったってことは、相当ロマンがないのかもしれないですね(笑)。情報が氾濫してるだけ、じっくり味わうとか、贅沢に、無駄に時を生きるということがしにくい時代なのかな。そういう意味では僕も、ロマンが薄れている時代なのかなという気はします。だからこそ、こういう見境のない夢に向かって走る姿というのは、現代人にとって憧れるところがありますよね。知らず知らずのうちに失ってしまっているものが、あるかもしれないから、この作品に流れる、這いつくばってでも生きていく生命力を見るといいなぁって思います。

――「やってみなはれ」精神がキーになりますが、内野さんご自身がこれまでに思い切って行動したという経験はありますか?

なんでもやってみなければわからないことって多いですけど、僕自身は実は昔から慎重派なところがあるんです。小心者なんでしょうね。「石橋を叩いて渡る」という言葉がありますが、僕は「石橋を叩き割って、全部砕いちゃってから、『しょうがねえや』って泳いでいっちゃう」タイプ(笑)。だから「まずやってみる」ということは本当に大事だと思います。

人間って、ネガティブになれば「なんだこりゃ、ダメだよこんなの」と、どんな言い訳も用意できるんです。でも、やってみたら全然違うことって、多くないですか? 僕自身、そういうところがあるからこそ、「できない証明をするより、できる証明をする生き方をしたい」という言葉が好きなんです。

「できない証明」って、簡単なんですよね。大人になればなるほど口実が上手になっていくから、「君、これは難しいよ」といくらでも言えてしまう。多面的に分析できる、という良い部分もあるかもしれないけど、「ただ言い訳を用意してるだけなんじゃない?」ということもたくさんあるから、この作品の「やってみなはれ」というメッセージがすごく好きで、萬治郎の生き方に「そうだよね」と勇気をもらえるのだと思います。
○逆境の時にどれだけ踏ん張れるか

――内野さんが作品をご覧になって、影響を受けたというシーンはありましたか?

関東大震災で、打ちひしがれて全て失ってしまったミドリさんを助けるシーンです。萬治郎が「この国はまだ踏ん張れる、いつかきっといいものをこさえるから待ってておくなはれ」と言うのですが、「こうありたいものだ」と思いました。これだけ厳しい時代、逆境の時にどれだけ踏ん張れるかというスピリットに感動しました。

――最後に、ぜひテレビ東京さんへの印象を教えてください。

子供の頃は、つい見逃しがちでした(笑)。でも、『ヤンヤン歌うスタジオ』を見てましたね! あのねのねさんがテーマソングを歌っていて、東京タワーのローアングルから始まるんですよ。最近は、テレ東さんの番組枠自体が受賞されてたりもして、すごく奇抜なものを作っているイメージがあります。深夜帯は特に、「こういうことやっちゃうんだ」「こんな監督が演出してるんだ」とか驚きます。金がないとか、自虐ネタを平気で出しているところも偉いと思います(笑)。

■内野聖陽
1968年9月16日生まれ、神奈川県出身。ドラマ・舞台などで活躍。映画『(ハル)』(96)で、第6回日本映画評論家大賞 新人賞、第20回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞する。主な出演作は舞台『ハムレット』(17)、映画『罪の余白』(15)、『海難1890』(15)、テレビはNHK大河ドラマ『真田丸』(16)、特集ドラマ『どこにもない国』(18)、TBSブラックペアン』(18)など。

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