「欲は捨てる…以上。」――オファーが絶えない俳優【渋川清彦】流、“仕事で必要とされ続けるワケ”

26歳までにプロにならなければいけない、という将棋界にあって、夢破れた後に会社員となり、やがてプロ棋士になるという道を切り拓いた奇跡の実話『泣き虫しょったんの奇跡』(瀬川晶司著)。この原作が、自身もかつてプロ棋士を目指していたという異色の経歴を持つ豊田利晃監督の手によって『泣き虫しょったんの奇跡』として映画化されている。この映画で、松田龍平さん演じる主人公を支える親しいプロ棋士という重要な役回りを演じたのが、豊田作品には欠かせない俳優、渋川清彦さん。俳優の仕事について、今回の映画について、聞いた。

松田龍平さんたちとチェーンの居酒屋へ

――豊田監督の作品には、ほとんど出演されています。今回の『泣き虫しょったんの奇跡』については、どんな印象をお持ちになりましたか。

渋川:監督がかつて将棋をやっていたのはもちろん知っていました。9歳からプロを目指す奨励会に入っていたんですよね。でも、監督は将棋について深くは話しませんでした。将棋やりましょうよ、なんて言うと、「自信なくすから、やめたほうがいい」と言われました。

そんな監督が、ついに将棋の映画を撮るのか、というのが最初の印象ですよね。将棋をよく知る本物が撮るわけです。ついに来たか、という感じでした。


――役は、松田龍平さん演じる主人公が住む、ボロアパートに勝手に転がり込んで、毎日のように遊んで過ごした5人の仲間の一人。唯一のプロ棋士でしたね。

渋川:現在も活躍しているプロ棋士の方です。将棋ファンの間では有名ですが、ダジャレをいつも言っているプロ棋士の方で、実際の映像を見ることができました。

現場では、プロ棋士の方に何人も来ていただいて、指す手つきなどを指導してもらいました。やっぱり全然、違うんですよ。子どもの頃から脇目もふらずに将棋をやってきたわけですから、それはそうですよね。だから、付け焼き刃では限界があるのですが、みんな一生懸命、練習しました。実際に将棋も指しました。これがメキメキうまくなっていって。駒木根隆介が一番うまかったかな。次が永山絢斗。ハマってましたね。

2人と染谷将太、松田龍平とオレは、とても仲良し5人の設定でした。オレだけプロ棋士。年も上だし、まとめ役。だから、実際そういう空気をつくりたいと思って、オレからみんなを誘って将棋を指したり、みんなでよく飲みにいったりしてましたね。

龍平は目立っちゃうから知り合いのスナックとか選んでましたけど、チェーンの居酒屋に行ったこともあったなぁ(笑)。まわりは気を遣うんだけど、本人は意外に気にしていないんです。ワイワイ飲むのは、楽しかったですね。

こういう現場を離れたコミュニケーションが、画面に出てきたりすると思っているんです。監督も細かな指示とかはしない人ですから。それより、けっこう遊びますからね。台本にないことを、本番で急に言われたり。それで、その反応を見たりするわけです(笑)。芝居をすることを嫌うというのかな。大げさだったり、型にハマったことよりも、生っぽさを大事にしますよね。

面白い波が来たときに乗っかっただけ

――渋川さんは、そもそもどうして俳優になったんですか。

渋川:オレの場合は、本当にたまたまなんです。高校時代にドラムをやっていて、バンドにすごくハマって、東京に出てきてドラムの専門学校に行ったんです。でも、ドラムで生きていこう、何かやってやろう、なんて気があったわけでもなくて。

出身は群馬県の渋川(*芸名の由来は出身地の群馬県渋川市)ですけど、田舎なんですよ。だから、東京に出てくると、楽しいわけですね。それで遊んでしまって、ドラム学校も辞めてしまって。

そんなあるとき、地下鉄の茅場町の駅で乗り換えの電車を待っていたら、声を掛けられたんです。「写真を撮っていいですか」と。これが、写真家のナン・ゴールディンでした。当時、「TOKYO LOVE」という写真展のための撮影を東京でしていて、オレを気に入ってくれたみたいで。

「いいよ」と撮ってもらった後に連絡先を交換して、それからナンと一緒にいろいろ遊びに行くようになったんです。写真も、もちろん撮りながら。

その写真展が開かれたんですが、それを見た芸能事務所のマネージャーの友達がいて。「ちょっとウチに来てみない?」と誘われて。それで、事務所に行ったら、モデルの仕事がある、と。やっているうちに、流れで俳優のオーディションがあるから、と言われて俳優をやるようになった。

当時は、俳優をやろうとしたわけでもないし、なろうと思ったわけでもない。面白い波が来たときに乗っかった。今もそうですけど、それだけです。

カラオケの十八番からも、人柄は見えてくる

――豊田監督の作品はデビューの『ポルノスター』から1作を除き、全部出られています。

渋川:オレにとっての最初の映画が『ポルノスター』でした。のちのちになって、オレを使ってくれた理由を教えてくれました。ナン・ゴールディンが撮った自分の写真が、ポストカードになっていたんです。監督は、それを見ていたんですね。

だから、オーディションのとき、「こいつ、見たことある」と思われたみたいで。その後の出演は、くらいついてますね(笑)。ワンシーンでもやりたいです、と言っています。

『ポルノスター』の現場が面白かったんです。特殊な現場でした。主演の千原ジュニアは東京に来たばかり。お芝居やっている人がほとんどいない。もちろん、一部にはベテランの方がしっかりいましたけど、監督の狙いはお芝居じゃないんです。そういうのは、好きじゃないんだと思う。

気持ちの部分が見えないといけない。生の感情、生の部分。そこが、自分と合うのかもしれません。生きてきた何かって、絶対に見え隠れするじゃないですか。だから、人間として面白がってくれる人を使うんでしょうね。


――俳優として心がけていることは、どんなことですか。

渋川:現場の空気にうまく入る。溶け込めるように心がけています。監督の言うことは、絶対だと思っているので年齢に関係なく従う。熱がある人が好きですね。あとは、ちゃんと考えている人。

役作りというのは、監督がしたいことですよね。外見的なものなら、必要ならある程度はやります。ただ、オレは演技を学んできたわけではないので、自分なりのやり方しかできないです。演劇を学んできた人に聞いたりもしますけど。台本のセリフの横にいろいろ書き込んでいる人がいたりすると、何を書いてるんですか、とか。

調べたりすることもありますね。このセリフはどんな気持ちで言うんだろう、とか。今回でいうと、原作がありましたから、イメージがつきました。例えば、大事MANブラザーズバンドの「それが大事」をカラオケに行くたびに必ず歌う、という人だったりするわけです。そうすると、なんか、イメージつくじゃないですか(笑)。熱血漢で、わかりやすくて素直で。そういう習慣からも、キャラクターは見えてきますよね。

豊田監督は、細かな指示はないです。みんな自分のイメージでやりますね。細かい仕草の演出とか一切付けないんです。

役について、監督から「ごめんね」と言われることも

――ドラマで、ちょっとひどい役をやらないといけないときもありますが……

渋川:テレビドラマって、台本は途中までしかできていないんです。だから、わからないんですよ。後半の台本をもらったら、途中から極悪人になったりして(笑)。死ぬんじゃないかな、と思ったら、やっぱり死んだり。

オレは気にしていませんけど、監督から「ごめんね」と言われることもありますね(笑)。「あんまり、いいところがなくて、申し訳ない」とか(笑)。まぁでも、役の話ですから。


――では、演技力を磨くには、どんなことをされますか。

渋川:オレにはないものを持っている人から学んだり、いいと思うものを学んだり、ですね。自分なりに盗んでいる、とでもいうかな。

映画は意識的に見るようにしています。そうしている内に、色んなものが見えてきたりする気がします。


――影響を受けた方はおられますか。

渋川:豊田監督の『ナイン・ソウルズ』でご一緒した原田芳雄さん。芝居が云々というよりも、とにかく人間的にカッコイイと思いました。毎年年末にご自宅を解放されて、お餅つきをやるんです。そこにいろんな人たちが来ていて。

なんかこう、ついつい誰かを誘いたくなる。オレも、ちょっと行こうか、と誘われて行きました。原田さんが亡くなられた今も続いているんです。言葉じゃないんですよね。やさしさというか、存在感というか。もうなんともいえない人間的なカッコ良さ。それに惹かれて、みんなが集まってくるんです。

それとお会いしたことはないですが、渥美清さんですね。『男はつらいよ』の寅さんにはかなりハマりました。渥美さんの魅力が滲み出てますね。

現場では、よく飲みに行きます。つい最近だと、石橋蓮司さん。夜、飲みに行く、と現場で言われていたので、「自分も行っていいですか」とお尋ねして。飲みに行くのは、とても大事だと思っています。楽しいし。

誰かのためにやるのが、一番力が出る

――俳優の醍醐味は、どんなところにありますか。

渋川:難しい質問です。こういうのが、一番難しい……。現場でいろんな人に会えることですね。いろんな俳優に会える。

あと、いろんなところに行ける、というのも醍醐味です。オレはロケ好きなんですよ。そこにどっぷりいられるじゃないですか。実際の土地に行けるのは、やっぱり楽しいですね。他の俳優さんが、どう思っているかはわかりませんけど(笑)。

売れる人、売れない人、ありますけど、やっぱり個性なんじゃないでしょうか。俳優はたくさんいます。最終的には、個性であって欲しいですね(笑)

あとは熱かな。新人でも熱があれば、気になる存在になりますね。オレは好きになる。やっぱり、好きな人と仕事がしたいですから。


――いい仕事をするためのヒントをいただけますか。

渋川:自分のためにやらない、ということですね。少なくとも、オレは自分のためには、やってない。自分の欲はかかない。まじめにやる。

やっぱり監督のため、というのは大きいですね。プロデューサーが「この人、いいな」とい思ったら、「この人のために、よしやってやろう」という気になりますし。誰かのためにやるのが、一番力が出ると思うんです。


――最後に、今回の映画『泣き虫しょったんの奇跡』の見どころを。

渋川:一度、将棋のプロをあきらめた人が、「将棋のプロをあきらめたけど奇跡を起こした人」の話を撮る。もうこれだけですごいと思うんです。それこそ奇跡ですよ。だから、素晴らしい出来になっています。脚本も、俳優も、カメラも、全部素晴らしい。ぜひ、見てほしいです。



文:上阪 徹 写真:刑部友康
編集:丸山香奈枝

『泣き虫しょったんの奇跡』全国ロードショー

<STORY> 史上初! 奨励会退会からのプロ編入という偉業を成し遂げた男の感動の実話

監督・脚本:豊田利晃
原作:瀬川晶司『泣き虫しょったんの奇跡』(講談社文庫)
音楽:照井利幸
出演:松田龍平、野田洋次郎、永山絢斗、染谷将太、渋川清彦、駒木根隆介、新井浩文、早乙女太一、
妻夫木聡、松たか子、美保純、イッセー尾形、小林薫、國村隼

製作:「泣き虫しょったんの奇跡」製作委員会 制作プロダクション:ホリプロ/エフ・プロジェクト
特別協力:公益社団法人日本将棋連盟
配給・宣伝:東京テアトル
公式サイト: http://shottan-movie.jp
(C)2018『泣き虫しょったんの奇跡』製作委員会 (C)瀬川晶司/講談社


 

 

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