「カーネーション」脚本家・渡辺あや新作「ワンダーウォール」が凄いらしいぞ本日放送、どこが凄いか聞いた

エキレビ!

2018/9/17 09:45

話題のドラマ「ワンダーウォール」とは何か。
朝ドラ「カーネーション」の脚本家・渡辺あやの新作「ワンダーウォール」が9月17日(祝)、14時からNHK総合で放送される。

7月、8月にBS で放送され、なんかすごいとSNS を賑わせて来たドラマは、100年もの歴史をもつ京都の学生寮〈近衛寮〉を舞台に、老朽化で立て直したい大学側と修繕しながら住み続けたい寮生との対立を描く。
学生たちが長らく愛着をもって住んで来た寮はどうなってしまうのか・・・。
そこはかとなくチェーホフの「三人姉妹」を思わせるようなうつりゆくものへの愛惜にあふれたドラマだ。

ちょうど今、京都では、古い歴史をもちユニークな寮生が暮らす京都大学の吉田寮が9月30日をもって全員が退寮することを大学側から要請されているところ。でもまだ住み続けたいと願っている人たちもいる。
ドラマはこの現実問題にも取材して描かれた。

渡辺さんは、吉田寮に限ったことではなく、廃校の中に映画館のあった立誠小学校も再開発でホテル(ホテルや図書館などの複合施設)になることを惜しむ。
こういうことが京都に限らず今、日本のどこでも起こっている。古いものから新しいものへの以降ーーたとえば東京では築地市場から豊洲市場への移転、中野サンプラザの取り壊しなどなど、たくさんの古いものが消えていこうとしている。渡辺さん自身、住んでいる地域(島根)の古い小中学校が廃校になることを止める行動に参加したが、経済の論理には勝てず、涙を飲んだそう。

「『ワンダーウォール』は私自身がまだ答えがわからないことをなるべく多くの方と共有させてほしく、私の問いかけから私達の社会のあり方や良い道筋をみんなで探していけたらと思って書いたものです。ドラマを見てくださった方々と是非一緒に考え続けられたらと思います」

2017年9月13日(木)、下北沢B&B「壁の向こうに見えるもの 『ワンダーウォール』をめぐって トークショー」が行われ、渡辺さんはこのように呼びかけた。

強い思いから渡辺さん自ら「近衛寮広報室」を立ち上げ、広報活動を行っている。
「知り合いの映画プロデューサーに相談したところ、パブリシティーを自分で雇ってみたらいいんじゃないと言われ、そしたら、須藤蓮くんも力になってくれました」と渡辺さん。


たくさんの人たちが自主的に応援活動
イベントは渡辺さんのほか、『ワンダーウォール』の出演者のひとり・須藤蓮さん(キューピー役)が参加、彼の中高の先輩だった映画音楽ジャーナリスト宇野維正さんが聞き手として登壇。
全体の進行をやっていた近衛寮広報室のひとり岡崎拓也さんは、「ワンダーウォール」撮影時はNHK京都の局員だったが退職し、NPOなどの活動をしはじめたところ、今回の活動に賛同しての参加。
NHKと関係のないところで、純粋にドラマとそこに描かれた社会問題について語り合いたいという人々が集まった。

ドラマのキャラクターデザインをした澤田石和寛さんが現場で撮った写真を一冊の本にまとめたり、ドラマが気に入ったミュージシャン・大友良英さん(「あまちゃん」などの音楽を担当している。渡辺作品では「その街のこども」の音楽を手がけた)がTwitterで声をあげ、その結果、吉田寮で演奏をすることになったり、面白い連鎖が起こっている。

「ドラマの冒頭のピアノの音を聞いたとき、大友さんは音楽のプロなので、すぐにそれが調律されてないピアノだとわかったそうで、もうそれだけで泣けるらしいんです。アマチュアの人間が調律されていない楽器を弾いているにもかかわらず心を打つことにシンパシーを覚えるらしくて・・・。私たちは、音楽に詳しくないから、音楽を担当された岩崎太整さんがあえてそういう試みをやっていることを知らなかったのに」と渡辺さん。

音楽のプロといえば椎名林檎さん(「カーネーション」の主題歌担当)もTwitterで「ワンダーウォール」を讃えた。ほかに漫画家・海野つなみさんも渡辺作品を高く評価する。脚本家の野木亜紀子さんもイベントを見に来ていたそうだ。

「ワンダーウォール」が志ある人たちの琴線に振れるわけとは・・・。
渡辺さんは「作品を通して、もっと事情に詳しい方、考える力のある方にも考えてもらいたい。私はいつもそう思って作品をつくっています。『ワンダーウォール』もそういう問いかけだった」と言う。
その真っ直ぐな問いかけ力が人の心を動かす。

イベントでは、ドラマの立ち上がり、吉田寮の魅力、ドラマで描かれた「壁」について、観客からの質門など、様々な話が語られ、2時間があっという間。
そのもようは広報室で動画配信されるので、ここでは一部を抜粋しながら、ドラマの魅力を紹介していこう(ネタバレには配慮してあります)。


「ワンダーウォール」はこうしてはじまった
「去年の12月くらいに、NHK 京都局から古い学生寮を舞台にしたドラマをやりたいと話があってとても興味を惹かれました。吉田寮は脚本を書くにあたって取材をしたひとつであり、大きな存在ではあります。これまで、老朽化を理由につぶれてしまった学生寮は全国的にもあるが、京都は観光地としていろんな古い建物がホテルになるなど、街全体に危機感があることから、浮上してきたテーマだと思います」(渡辺)

脚本ができたのは、今年の3月。出演者のオーディションが行われ、5月に京都や滋賀などで撮影が行われた。

キューピー役の須藤蓮さんはオーディションについてこう回想した。

「一次審査で、息苦しいと思うこと不条理と思うことを書いてくださいという課題があって、それが面白いと思いました。あとで聞くと、前田悠希監督が聞きたかったことだったらしく。僕自身、若者の閉塞感が大事なテーマになっていたので真剣に書きました」

吉田寮に愛着を感じて
ドラマでは、学生寮の人たちは、全員タメ口、トイレもジェンダーフリー、ものごとを決めるにあたり全会一致が原則。これは吉田寮の取材から取り入れたもの。猫もケバブも吉田寮を知る者には親近感があるはず。

「寮では、誰かが意見を言う時、どんなに感情的になっていたとしても言い終わるまで待つというルールがあるんです。そういう意味でも、寮生はみんな人に対して優しいんです」と渡辺さん。
優しいと言ってもとっつきやすいとうことではない。辛抱強く、相手の話に耳を傾けるということだ。

個性豊かな近衛寮の寮生のなかで比較的ふつうに見えるのが須藤さん演じるキューピー。視聴者に近い目線で、
寮の状況を見つめていく。
須藤さんが中学の頃から吉田寮には興味があって、今回、役作りのために寮に行き、友達もできたので、撮影後も京都に遊びに行くようになったと言う。

「僕は、面倒くさいことを避けながら生きていることに気づけていないところがあります。怒られる機会もないから。ふだん、意見が合わないなあと思いながらも誤解を解くのは面倒くさくて、しばらく放置しておくうちに溝が深まってしまう経験があります」

須藤さんの世代は、つながりが希薄で、それゆえにサッカーの試合があると街に繰り出し誰彼構わずハイタッチするしかないのではないかと言う。
このドラマがはじめての演出作の25歳の前田悠希さんは、大学時代のサークル活動で楽しくやっていたと思っていたが、摩擦をおそれて深いところに踏み込まなかっただけだと、「ワンダーウォール」を撮って感じたと言っていたと渡辺さんは語った。

渡辺さんは、このドラマを書くにあたり、こんなことを考えていた。

「今の若者は声をあげるとか苦しいとか思っていいのに、それをしてはいけないと思いこんでいる。
戦うこと、声をあげることを諦めている感じがする。
大人として明るい未来を彼らに用意できてないうえに、声をあげていいということすら思わせてあげられてないことに疑問を感じ、どうにかしてあげたいと思った」

「もうひとつは、誰が敵なのかわからない。敵と思っていた人がただのバイトで、倒しても倒してもすげかえられていくだけ。やっても無駄だと諦めにつながってしまうのはこわいことと思う」

ドラマでは、そうやってわかり合えない人々の間に立つ心理的な「壁」を前にした苦しみが描かれ、胸を締め付ける。それでも、登場人物たちはもがきながらも言葉を発し、他者に気持ちを伝えようとし続ける。


諦めたら書けない
古いものが取り壊され新しいものに変わっていくことに渡辺さんは抵抗がある。

「建物が大事。新しい箱を用意されても、これまで培われてきたものは代えられない」

その意見はすごくわかる。建物に刻まれた時間の堆積は、新しい建物とは比べられない。
 面白かったのは渡辺さんの独自の解釈だ。

「寮はとても散らかっているのですが、アレルギーのあるプロデューサーが意外にも平気だったんです。きっと長年溜まった菌(?)が逆にいいものになっているんじゃないかと。だから空気清浄機を可動させたらかえって良くないんじゃないかと思います」

そう言って会場を笑わせた。

渡辺さんは一見ふんわりして見えるが、独特の強烈な感性をもっている方のようで(「カーネーション」や「メゾン・ド・ヒミコ」などの圧倒的なオリジナル作品を書いているのだから当然だが)。
やりたい作品ができない時代になってきたという話で「若い編集者と仕事したい」という宇野さんの発言を受けて、「わたしはおじさんにも希望は捨てていません。おじさんに眠っているものがあってしゃべっている間に野生が立ち上がってくる瞬間があってそれが面白いです」と返したことがとても面白かった。

また、イベントの終わりにこんなことも。

「私と蓮くんは、これ(ワンダーウォール)を作ったスタッフの中でほぼふたりだけ、本気で(吉田寮を)残せるんじゃないかと思っている。残らない理由がわからないくらいなんです。そういうふうに想像力を使いたいんです。諦めたら書けなかったと思う」

司会の宇野さんは「2週間後にひとつの大きなタイミング(吉田寮退寮期限)が来るなかで、似た事象を描いたドラマの地上波放送があるという珍しいことになっている」と指摘。確かに、ここまで現実とドラマが
接近していることは興味深い。
かつて、歌舞伎や人形浄瑠璃は、実際に起きた出来事をすぐに上演して民衆を沸かせていた。今回のドラマはそういうアクチュアルな問題に肉薄する。

みんなに思考を促すラスト・・・渡辺あやがどんな結末をつけたか。
地上波放送、ぜひ見てほしい。きっと心がざわざわする。
劇中、渡辺あやさんがちょっとだけ出演している、そこもチェックしてみて!
(木俣冬)

京都発地域ドラマ『ワンダーウォール』
9月17日(月) 午後2時  NHK総合
脚本 渡辺あや
演出 前田悠希(初演出作)
音楽 岩崎太整(『モテキ』、アニメ『ひそねとまそたん』など。地元大学生とのコラボレーションを行う)
出演 須藤蓮、岡山天音、三村和敬、中崎敏、若葉竜也、成海璃子ほか(山村紅葉が面白い役で出ている)。

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