警備会社のCMのターゲットには、「泥棒」もいる。その理由は?ーーマンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『インベスターZ』の第22回目です。

『インベスターZ』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。

(C)三田紀房/コルク

【本日の一言】

「(警備会社のCMは)抑止的効果も狙っている」

(『インベスターZ』第3巻credit.24より)


大人気マンガの『インベスターZ』より。創立130年の超進学校・道塾学園にトップで入学した主人公・財前孝史は、各学年の成績トップで構成される秘密の部活「投資部」に入部します。そこでは学校の資産3000億円を6名で運用し、年8%以上の利回りを上げることによって学費を無料にする、という極秘の任務が課されているのでした。

CMとは消費者に対してだけ流されているワケではない

「次はどこの会社の株を買おうか」と物色していた財前。両親が警備会社との契約を検討していると知り、興味を持ちます。「警備会社は、顧客宅に警報装置を取りつけるだけで、毎月必ず固定収入が入ってくる。途中で解約する人もほぼいないし、値下げも必要ない。これはいい商売だ」と感じた財前。

ところが投資部の部室で株価を調べてみたところ、すでにかなり値上がりしていました。財前は「これでは利幅がかなり少ないかも」とがっかりします。「“安く買って高く売る”投資の原則には当てはまらない」とあきらめかけたその時、ちょうどテレビで警備会社のCMが流れているのが目に入ります。

先輩の渡辺が何気なく「社名はすっかりおなじみなのに、どうしてここまでCMを流す必要があるんだろう?」と口にするのを聞いて、ひらめいた財前。

「これは泥棒に対しても流しているCMだ。『ウチのシールの貼ってある家に空き巣に入るな』と伝えているんだ」と。

そのことに気づいた財前は、警備会社の株を買おうとします。しかしやってきた先輩の神代(かみしろ)に「今ごろそんなことを言っているのか?俺はもう売ったぞ」と言われて興醒めしてしまうのでした。

依然として、CMの効果は侮れない

テレビCMは、「消費者全般に向けて行われる」マスマーケティングを代表する手法の1つです。現在はインターネットの普及により、CMにかつてほどの影響力はなくなったと言われていますが、流す側からしてみれば、効果があるからこそ高いコストを支払い、広告を打っています。

例えば、先ほどの警備会社を例に取ると、会社にとっては、犯罪が起こってガードマンが出動する事態になるのが、もっともコストが掛かります。彼らにとっての理想とは、「顧客の家の入口に自社のシールが貼ってあるだけで、それが抑止力となって犯罪を未然に防いでくれる」ことです。警報機は、その後の話なのです。

もちろん、CMには従来通り「新規客獲得のため」や「認知度アップのため」といった意味もあります。けれど、会社としては1つのCMにいくつもの意味を持たせることによって、その分だけ有効に広告宣伝費を使えることになります。「CMを打つのは、何も顧客を獲得するためだけが目的ではない」というのは、おそらく多くの人がこれまで注目してこなかった点なのではないかと思います。

「テレビを持っている人にテレビを宣伝する」不思議

もう1つ、事例をあげましょう。CMの中には、テレビ自体の宣伝もよく流れています。私たちは普段、それを当たり前と思って観ていますが、よくよく考えてみると、これは「すでにテレビを持っている人に対して、テレビのCMを流している」ということです。なぜ、もう持っている人にテレビのCMを見せるのだと思いますか?

もちろん、「新しいテレビが発売されました。こんなにいい商品ですから買い替えませんか?」というアプローチの意味もありますが、さらに別の意味もあります。それは、「すでにそのテレビを買ってくれた人に対して、安心感を与えるため」です。メーカーは購入してくれた人に対して、テレビを通じて「あなたの買ったテレビはこんなにいいモノです。あなたはいい買い物をしましたね」と訴えかけているのです。

テレビを買った人がそのCMを見れば、「いい買い物をしたんだ、私は」とテレビを通じて刷り込まれます。あなたも自分の買った商品の宣伝を見て、親近感を覚えた経験はないでしょうか?

テレビCMをマーケティング教材として活用する

もし、家に遊びにきた人がテレビのCMを見ていれば「あ、あのテレビですね」となりますし、「○○さんの家にはあのテレビがあった」といった口コミ効果も期待できるでしょう。他人が持っているものは、自分も欲しくなるのが人情というものです。

今回の話のポイントとは、「1つの行動の目的が、1つだけとは限らない」ということです。むしろ宣伝は、告知活動だけではないのが普通でしょう。よかったら、次回テレビを観る際には、普段は無視しがちなCMにもぜひ注意を向けてみてください。「1つのCMに、いくつの意味を見い出すことができるか?」というのは、とてもいいマーケティング教材となるに違いありません。

俣野成敏(またの・なるとし)

大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」』を上梓。著作累計は40万部。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。

俣野成敏 公式サイト


【関連記事】
→ 俣野 成敏氏の記事一覧

あなたにおすすめ