飯尾久香(チェロ)と土屋恵(ピアノ・アコーディオン)が紡いだ「喜怒哀楽」の「怒」と「哀」の音楽世界

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2018/9/15 12:00

「サンデー・ブランチ・クラシック」2018.8.19ライブレポート


クラシック音楽をもっと身近に、気負わずに楽しもう! 小さい子供も大丈夫、お食事の音も気にしなくてOK! そんなコンセプトで続けられている、日曜日の渋谷のランチタイムコンサート「サンデー・ブランチ・クラシック」。8月19日に登場したのは、CMでの演奏など映像関係でも活躍しているチェリストの飯尾久香と、ピアノと共にアコーディオンの演奏も展開している土屋恵だ。

桐朋学園大学でチェロの研鑽を積んだ飯尾久香は、サイトウキネン小澤征爾音楽塾への参加や、プロオーケストラへの客演活動でオーケストラを学んだほか、2013年白寿ホールにて東日本大震災の為のチャリティーロビーコンサートを1年間行い、その収益が岩手県大槌町へ全額寄付される等、復興支援活動にも熱心なチェリスト。クラシックは勿論のこと、多ジャンルに興味を持ち、幼少期にジャズダンスとフィギュアスケートを学んだ経験を生かし、ショー演奏も積極的に行い、2016年TBS放送「アッコにおまかせ」エンディングロールでその演奏風景が3ヶ月間放映された他、2017年は日本テレビ「過保護のカホコ」での劇中演奏、影武者演奏、イト役女優大久保紗友への演奏演技指導を担当する等全面的に携わり、これを筆頭にTVドラマやCMでの演奏、音楽番組での演奏、ライブサポート演奏など、幅広く活動。最近では舞台『クレオパトラー美しく死ぬために』(東京コンテンポラリーシアター)にて演奏しながらの演劇に挑戦し好評を博した。

また、東京音楽大学でピアノを学んだ土屋恵は、大学卒業後、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラの『Musica en Compostela-International University Course of Spanish Music』にてアントニオ・イグレシアス、ジョセップ・コロン両氏よりスペイン音楽を学び、ディプロマ取得。サントリーホールで小林研一郎と室内楽にて共演。自分が好きな音楽の表現世界を広げるため、2014年11月より、クロマティックアコーディオン(ボタン式アコーディオン)を始め、アコーディオ二ストとしても数々のコンクールで入賞、優勝。チェロ奏者の黒川実咲とDuo"MeiM"にて、ファーストアルバム『MeiM first』 CDをリリースし好評を博し、また東日本大震災があった地元福島県いわき市の友達のために作ったCD『Dear C』がレコ発前に完売となるなど幅広いジャンルでの演奏活動を展開している。
飯尾久香(Vc.)、土屋恵(Acc.)
飯尾久香(Vc.)、土屋恵(Acc.)

スペインの舞曲に情熱を感じて


そんな二人がサンデー・ブランチ・クラシックに初登場したステージは、まず飯尾のチェロのソロによるタヘルの「フラメンコ」からスタート。スペインの情熱的なダンスを想起させるエキゾチックな重音に、チェロのピッチカートの重さが曲のキッパリとした趣きを引き出し、堂々とした演奏になった。
飯尾久香
飯尾久香

「今日はとても暑い時期なので、熱いフラメンコの曲をお届けしました」という挨拶に続いて、共演の土屋を呼び込んだ飯尾は「スペインに留学していた彼女ならではの演奏も楽しんでください」と語って「次はフランス人の作曲家がスペインを舞台にして書いた作品から、皆さんもよくご存知の『ハバネラ』です」と紹介があって、ビゼー作曲『カルメン』から「ハバネラ」。カルメンの登場シーンからの演奏で、土屋のピアノのリズムの刻みがスペインの香りを醸し出す。チェロが重低音で歌う様に深い味わいがあり、ピアノがより華やかに情熱的にリードしていくと、チェロも呼応するように盛り上がる。やがてオペラアリアとしてお馴染みのメロディーが現れると、チェロの非常に低い音域での演奏が、本来はアルト歌手の歌である「ハバネラ」に男性歌手が歌っているような趣が感じられるのが面白い1曲になった。
飯尾久香
飯尾久香
飯尾久香(Vc.)、土屋恵(Pf.)
飯尾久香(Vc.)、土屋恵(Pf.)

飯尾からスペインの音楽には「喜怒哀楽」の「怒」「哀」をテーマにしたものが多く、また舞曲も多いという説明があって、演奏はツェザール・キュイ作曲の「オリエンタル」。ピアノの前奏が特段にエキゾチックで、チェロの奏でるメロディーにも哀愁がたっぷりと込められ、こちらは「哀」の世界。後半に行くにつれて、次第に重低音を響かせるチェロと、ピアノの高音の響き合いが特段の効果をあげていた。

続く演奏も舞曲でファリャの「火祭りの踊り」。バレエ音楽『恋は魔術師』のクライマックスとなる悪霊払いの場面で演奏される、ファリャの代表作とも言える情熱的でミステリアスな名曲だ。飯尾のチェロがこれまで低音域での演奏が続いていただけに、この曲で高音域にいくことで緊張感が生まれ、プログラム全体としてもバランスが良く引き付ける。後半強弱の振幅がピアノとよくリンクし盛り上がった。

アコーディオンの歌心と、呼応するチェロの響き


ここで土屋がピアノを離れてアコーディオンを持ち、音楽はスペインからアルゼンチンへと移って、ピアソラの代表曲「リベルタンゴ」。土屋のアコーディオンがたっぷりと自由に前奏を奏で、飯尾のチェロが刻みで入ると、アコーディオンがメロディー、チェロがオブリガードを美しく歌いあう。チェロにメロディーが移ると、アコーディオンは更に自由さを増し、客席からは自然と手拍子も湧き起こった。
土屋恵
土屋恵
飯尾久香
飯尾久香
飯尾久香(Vc.)、土屋恵(Acc.)
飯尾久香(Vc.)、土屋恵(Acc.)

拍手の中、土屋が手にしている「クロマティックアコーディオン」は、半音階で音数が多く、ピアノのキーとはまるで違う指使いであることを説明。「持ち運べるのは嬉しいけれど10㎏はあります!」と、持ち運べない楽器であるピアノ奏者ならではの感想も飛び出した。

そこからプログラムのラストは土屋が再びピアノに戻ってポッパーの「ハンガリアン・ラプソディー」。チェロの超絶技巧を聴かせる代表的な楽曲で、飯尾のチェロは今日1番の豊かな音色を響かせ、演奏者がこの楽曲に自信を持っていることが伝わってくる。明るいパートに入ると、ピアノとの息もピッタリと合い晴れやか。ヴィルトゥオーゾを誇るパッセージも一気に弾き切り、ゆったりと歌ったのち、クライマックスに向かって爽快に駆け上がった演奏に大きな拍手が贈られた。
土屋恵
土屋恵
飯尾久香
飯尾久香

アンコールを求める手拍子の中、土屋がもう1度アコーディオンを手にして土屋作曲による「Where I am」。「私はどこ」というタイトルを持つ楽曲は、楽器の特性を活かした自作曲ならではのアコーディオンの重音と、チェロの単旋律の掛け合いが興趣を生む。やがてアコーディオンのメロディーにチェロが通奏低音のように添い、哀感あるアコーディオンの音色の歌心が際立つ演奏となった。
飯尾久香
飯尾久香

様々な活動を展開している二人らしさの詰まった40分間だった。

クラシックを身近に感じていただく為に、様々な活動をしていきたい


演奏を終えたお二人にお話しを伺った。

ーーサンデー・ブランチ・クラシックには初登場となりましたが、リビングルームカフェ&ダイニングでの演奏はいかがでしたか?

飯尾:クラシックを気軽に、という場だと伺っていたのですが、皆さんコンサートさながらに食い入るように聴いてくださって、温かい雰囲気を感じました。お食事もしながらというコンセプトですから、もう少し賑やかな空間を想像していたので。

土屋:本当にね。皆さんが集中して聴いてくださっているのが伝わってきてとても嬉しかったです。

ーーその中で今日の選曲については「喜怒哀楽」から「怒」と「哀」をテーマに、というお話がありましたが、そのテーマを選ばれたのにはどのような意図が?

飯尾:チェロという楽器自体が、ソロ楽器としてイメージしていただくのが、少し難しい部分もあるのかな? と思っていて。私自身「伴奏楽器でしょう?」とよく言われるんです。今日はそのイメージを打破する、カッコいい曲を演奏したいということで、まず1曲目に演奏した「フラメンコ」が決まりました。そのあと、更に皆さんのイメージの中にあるチェロの音色の上品さも、今回は良い意味で裏切りたいと思って、スペインものを中心にしたプログラムが決まっていったという流れでした。
飯尾久香
飯尾久香

ーーそれはご一緒される土屋さんがスペインものがお得意でいらしたり、アコーディオンも演奏される方だということにも、関係性がありましたか?

飯尾:もちろんそうです。

土屋:選曲は(飯尾)久香ちゃんにすべてお任せしたのですが、私も大好きな曲が入っていて楽しかったです。

ーー一緒に演奏されていて感じるお互いの魅力についてはどうですか?

飯尾:(土屋)恵さんの魅力は、音楽が常に前向きなことです。情熱にあふれていて、「喜怒哀楽」の今日は取り上げなかった「喜」も「楽」もあふれているから、それに負けないように! と思っていつも必死でついていくので、共演することが私の原動力になります。リハーサルをした後は「もっと練習しなきゃ!」「もっとこんな音が出したい」という気持ちが漲っていく、とても刺激になる存在です。
(左から)飯尾久香、土屋恵
(左から)飯尾久香、土屋恵

土屋:ありがとう。私も久香ちゃんの出す音がすごく好きで、ひとつひとつの音を大切にしているし、細かいところ、繊細なところまでを愛していることが伝わるので、私にとっても刺激になる存在です。

ーーお互いに良い関係を築かれているのですね。お二人は視野の広い活動をされている演奏家でいらっしゃると思いますが、今後の活動に対しての夢やビジョンなどは?

飯尾:まさに今日のサンデー・ブランチ・クラシックのコンセプトと同じなのですが「クラシックを身近に」というのがひとつの目標としてあります。そして私は演劇の仕事もさせていただいているので、総合芸術としての音楽の世界にも視野を広げていきたいと思っていて、映画の主題歌の演奏などもいつかは担当したいという夢があります。

土屋:私はタンゴや情熱的な音楽が好きで、それを表現する為の音としてアコーディオンをはじめたんです。ピアノももちろん素晴らしいのですが、やはり抑揚をつけられる楽器の音色に惹かれて。
土屋恵
土屋恵

ーーピアノは伸ばした音にクレッシェンドがかけられない楽器ですものね。

土屋:そうなんです。音が減衰していく楽器なので、そういう意味でアコーディオンを求めたので、ピアノと共に更に深めていきたいですし、やはり音楽というのは人生の経験などが活かされていきますから、様々なことを経験してそのエネルギーを皆さんと共有できたらと思っています。

ーーまた色々な場所でのご活躍を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

飯尾:こちらこそありがとうございました!
(左から)飯尾久香、土屋恵
(左から)飯尾久香、土屋恵

取材・文=橘涼香 撮影=鈴木久美子

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