『坂道のアポロン』三木孝浩監督が語る、人気コミック映像化における“こだわり”とは?

クランクイン!

2018/9/14 12:30

 小玉ユキの伝説的コミックをHey! Say! JUMPの知念侑李が初単独主演で映画化した『坂道のアポロン』が、9月19日より早くもBlu-ray&DVDとなってリリースされる。レビューサイトでも高い評価を獲得した本作が、いかにして生まれ、そして観客の心を掴んだのか。メガホンを取った三木孝浩監督に様々な視点からこだわりポイントを聞いた。

【写真】『坂道のアポロン』Blu‐ray 豪華版のイメージ&場面写真

本作は、1960年代、長崎県佐世保市のとある町を舞台に、都会から転校してきた高校1年生・西見薫(知念)が、同級生でレコード店の娘・迎律子(小松菜奈)、素行は悪いが根は純粋な川渕千太郎(中川大志)らとの出会いを通して、恋、友情、そしてジャズセッションの素晴らしさに目覚めていく姿を活写する。劇中の楽器演奏の手元は全て吹き替えなし。知念(ピアノ)、中川(ドラム)も8ヵ月にわたり猛練習をこなし、アート・ブレイキーの名曲「モーニン」など、難しいジャズナンバーに挑んでいる。

映像を観るだけで、本作に懸けるスタッフ、キャストの熱量の高さが伝わってくるが、今回は『藍色夏恋』『あの頃、君を追いかけた』『モンガに散る』など、台湾映画をかなり意識したという三木監督。「60年代という時代背景や佐世保の街にあふれるエネルギー、音楽への情熱、さらに千太郎の豪放磊落(ごうほうらいらく)な雰囲気が台湾映画に通じるものがあったので、汗ばむ感じとか、日差しのギラつく感じはかなり参考にしました」と振り返る。

キャストに関しては、知念演じる孤独な転校生・薫を軸に物語は展開していくが、鍵となる相棒の千太郎役が難航した。「こんな破天荒な高校生を演じられる若手がいるだろうか?最初はおよび腰だったんですが、ある日、プロデューサーが別の作品を観て“中川くんはどうだろう”と提案してきたんです。これが見事にハマって、ダイナミックで男気あふれる昭和の男そのもの、ドラムの呑み込みも早かったです」。“静”の知念、“動”の中川、身長差も二人の関係性を表す格好の素材となった。「知念くんは求めるものにジャストフィットさせる感覚が抜群。対して中川くんは自由に役を作り上げていくたくましさがある」。役を彷彿させる対照的な二人の共演が作品に命を吹き込んだ。

ところで、三木監督といえば、大ヒット作を次々と生み出している青春映画の名手。特に『僕等がいた』(12)、『ホットロード』(14)、『アオハライド』(14)、そして本作など、人気コミックの映像化に定評があるが、その秘訣についてこう語る。「(コミックは)連載が長期にわたるものが多いので、小説と違って小さな“山”がいくつもあります。連続ドラマなら、その小さな“山”を表現することは可能ですが、2時間の映画の枠だと、どの“山”を選択するかが難しいですよね。だからストーリーラインを映画向きに大きく変える場合もあります。ただし、キャラクターのイメージを壊さないこと、そして原作者が描きたい“核”の部分を大切にすること、これだけは守るよう心がけています」。

では、青春映画の命とも言えるそのキャラクターの演出についてはどうだろう。「これは映画にもよりますが、常に意識するのは“片想いの表情”ですね。お互いが見つめ合うより、好きな人を離れたところから見る視線の表情。思春期の届かない思いが甘酸っぱくて好きなので、そこはいつも意識します。あとは“陰”の部分もしっかり描くこと。傷ついたり、悩んだり、青春の“痛み”の部分を表現することで、キラキラした笑顔がより引き立ちますから。本作は特にそれが際立った作品だと思いますね」。

光、風、音、全てが美しいファンタジーの世界に、人間味あふれるリアリティーが共存する三木作品。その世界観を生み出すポイントは“美化された記憶”なのだとか。「思い出ってデフォルメされるんですよね。本当は天気が悪かったのに、記憶の中では太陽が降り注ぎ、ちょうどいい風が吹き、みたいな。そのどこかファンタジックだけれど、観ている方それぞれの思い出に触れるような、そんな空気感を大切にしたいと思っています。本作でいえば、海のシーンの光の美しさとか、感情が動くときに入り込む逆光とか…自然現象を重ねることで伝わる思いがあると思うんですよね」

三木監督の一貫性とは何か。そう考えたときに思い浮かぶのは、やはり未完成な人がもがきながら“成長”していく姿ではないだろうか。「仮に、僕がバイオレンス映画を撮っても、最後はきっと青春物語にするでしょうね」。満面の笑顔でそう語る三木監督が描く“青春”に益々期待が高まる。(取材・文・撮影:坂田正樹)

映画『坂道のアポロン』のBlu‐ray&DVDは、9月19日(水)発売。

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