出会って3か月で薬物依存になったカップルは更正できるのか?<薬物裁判556日傍聴記>

日刊SPA!

2018/9/14 08:50



身に覚えのない家宅捜査をきっかけに、薬物裁判を556日傍聴し、その法廷劇の全文を書き取ったという斉藤総一さん。556日も裁判の傍聴に通い続けるようになり、それだけでなく、彼は文字通りその法廷劇のやりとり全文を書き取ってきた。今回紹介するのは、前回紹介した裁判の被告女性の交際相手である。男女の関係性に覚せい剤はどう作用するのか? そのリアルを伝える法廷だ。

※プライバシー保護の観点から固有名詞や住所などはすべて変更しております。

前回紹介した裁判は、覚せい剤を摂取し不審な言動をとっていた女性を心配して自宅を訪ねた女性の姉が、覚せい剤と注射器を見つけて警察に通報したというケースでした。今回の被告は、その女の交際相手の村上正和(55歳)。

「公訴事実。被告人は法廷の除外事由がないのに、平成28年4月下旬頃から同年5月9日までの間に、東京都内または、その周辺において覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン、またはその塩類若干量を自己の身体に摂取し、もって覚せい剤を使用したものである。罪名および罰条、覚せい剤取締法違反、同法第41条の3第1項1号19条。」(検察・起訴状)

今回も覚せい剤の使用ですが、村上が使用した場所は「都内または、その周辺」と非常に漠然としており、この起訴状からは人間性、人柄、そういったものはわかりません。村上はどんな男なのか。検察官の冒頭陳述を聞くと、それが少しずつ見えてきます。

検察官「(前略)まず身上経歴等ですが、被告人は高等学校を中退後、職を転々とし、本件犯行当時は無職でした。離婚歴がございます。前科は同種前科5犯を含む前科13犯を有します。犯行に至る経緯および犯行状況等ですが、被告人は平成元年から平成17年までのあいだに、5回覚せい剤取締法違反で有罪判決を受け、いずれも服役しています。犯行状況は公訴事実に記載したとおりです。被告人は平成28年5月9日に警察官に尿を任意提出したことから、本件犯行が発覚しました。(後略)」

ここまで読むと、村上が“常習者”であることが伺いしれます。今回の逮捕は11年ぶりということですが、以下の弁護人とのやりとりを聞くと、前科の多さゆえか手慣れた感があり、やはり「通り一遍の受け答え」という印象を拭えません。

弁護人「前回の覚せい剤取締法違反の裁判のあと、いつから再び覚せい剤を使用するようになったんですか?」

被告人「11年振りだから、今年の4月あたり。」

弁護人「そこで再開するまで、覚せい剤は使用しなかったということでいいんですか?」

被告人「はい」

弁護人「なぜ再び覚せい剤を使ってしまったんですか?」

被告人「仕事に嫌気がさして、仕事をしてもお金にならないという、嫌気があったので、それを埋めるために使用しました」

弁護人「仕事に対する不満とかストレス、あるいは疲れ。そういったところですか?」

被告人「はい」

弁護人「今回の覚せい剤はどこで入手したんですか?」

文面からは神妙な態度ともとれますが、この後、被告人は検察が具体的な話に踏み込むと「よくわからない」という曖昧な答弁を繰り返します。検察官が過去の逮捕について触れ、「やめていたのに手を出せば、また前に戻ってしまうと思わなかったか?」と聞くと、被告はまた「結果的にはそうなったが、よくわからない」と答えます。もちろん、検察官はそう簡単には納得しません。

検察官「よくわからないなんて言う人が、今後覚せい剤をやめられると言えます?」

被告人「年も年だし。産まれてくる子供のために頑張って働いて、仕事さえマジメにやっていれば、薬なんかに手をだしませんから!」

検察官「でもこのときも、マジメに仕事をしていたのに、お金にならなかったから、覚せい剤に手を出してしまったんじゃないんですか?」

被告人「うん。だから、それが今回の失敗点」

検察官「今後もなにかうまくいかなくてストレス溜まることもあると思うんですけど、そういう時はどうしようと思います?」

被告人「お酒でも飲んで気分を晴らします」

検察官「今回はそういうことはできなかったですか?」

被告人「……たまたま覚せい剤があるということで買ってしまいました」

検察官「耳塚さん(前回の記事の被告人女性)とは、これからも一緒に生活していこうとは思われているんですか?」

被告人「耳塚は子供を産む気でいるから。産まれてくる子は自分の子だから。耳塚のことも一緒に面倒を見てやろうと思っています」

検察官「子供がいるので両親で面倒を見るというのは必要なことだと思うんですけど、覚せい剤を使っていた者同士が一緒にいると、また使ってしまう危険が高いということは、あなた自身は認識をしていますか?」

被告人「もうやらない。年も年だし。薬はもうやりませんから」

検察官「気持ちのところはともかくね、一緒にいたら、どっちかがやりたいってなった時に、もう片方が影響されてしまうということはあり得るというふうに思えないですか?」

被告人「耳塚のほうが、かなり薬やったら、ひどい女ですから、絶対にもうやらせません」

先に逮捕された村上の交際相手(耳塚絵里子)は、村上の子供を身ごもったばかり。ちなみに2人の出会いは耳塚の勤務するマッサージ店で、当初は従業員と客の関係です。2人が交際を始めたのは4月で、村上が起訴されたのは同年の7月ということを鑑みると、やはり覚せい剤に溺れて急転直下に現実が転がり落ちていく様が垣間見られます。

村上は「二度と覚せい剤をやらない」と主張していますが、このやりとりが伝えるのは薬物に惑溺した男女の現実といったほうがふさわしいでしょう。検察官も「反省して何より、これからは頑張ってください」という態度にはならず、最後の論告でも手厳しい(というよりは至極もっともな)主張を突き付けます。

検察官「同種前科5犯を有し、いずれも服役しながら、前刑が終了した8年後に覚せい剤を再び使用したというものであり、本件についても単に薬理効果を求めるため、覚せい剤を使用したことが認められますから、被告人に覚せい剤に対する親和性、依存性が認められることが明らかです。再犯のおそれもあります。前述の事情に加え、被告人は本件当時、覚せい剤の使用状況や入手状況については疑うべき事情もあり反省までは認められないと考えられますから、再犯のおそれは高いといえます」

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前科を棚に上げての「仕事さえマジメにやっていれば、薬なんかに手を出さない」といった発言や、「(交際相手の)耳塚は薬をやったらひどい女だから、自分の前でやったら警察に通報する」といった、どこか上から目線の村上の言葉が空疎に響く。この法廷劇の主役である村上の言葉から、深い悔恨のような情を感じることはできなかった。

【斉藤総一】

自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す。斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中。

(https://note.mu/so1saito/n/n95fa77f343e9)

<取材・文/斉藤総一 構成/山田文大>

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