韓国民主化をめぐる群像劇「1987 ある闘いの真実」市民VS今年度最強の悪役パク所長

エキレビ!

2018/9/13 09:45

すでに韓国では一大ジャンルになりつつある民主化前後の時代を舞台にした映画。『1987 ある闘いの真実』はこのジャンルの傑作である。群像劇でありながら、強烈な悪役の存在によって物語に一本背骨が通っているのだ。


拷問で大学生が死亡! シラを切る警察VS激怒の一般市民!
韓国映画では2003年の『殺人の追憶』など、80年代の民主化前後の時代を扱った映画がコンスタントに作られている。本国で昨年公開された『タクシー運転手』などはその中でもヒットした作品だが、この『1987』も昨年12月に韓国で公開され、一ヶ月あまりで700万人を動員したヒット作だ。

タイトルの通り、この映画は1987年の話。この年は韓国史において重要なタイミングにあたり、ソウルオリンピックの前年かつ、6月民主抗争という運動によって、大統領を大統領選挙団に代わって市民が直接選挙で選ぶことができるようになったという年である。このタイミングで何が起こっていたのか……というのを、生々しく描いたのが『1987』というわけだ。

舞台は1987年1月の韓国。南営洞に位置する警察の対共分室(北朝鮮のスパイや思想犯を取り締まる部署)で、尋問中に一人の男が重体となった。慌てて連れてこられた医者の手当も虚しく、男はそのまま死亡。死んだ男の名はパク・ジョンチョル。ソウル大学に通う学生で、民主化デモのリーダーとの関係を疑われ警察から尋問を受けていた。

尋問中の被疑者が死亡したことを聞かされた対共分室所長のパクは、証拠隠滅のため即座に死体を火葬することを命令。尋問中の被疑者だったため、火葬するためにはソウル地検の許可がいる。しかし地検公安部長のチェ検事は「22歳の学生が心臓麻痺で死亡」という対共分室の申請書を疑い、拷問があったことを確信する。対共分室からの脅しに激怒したチェ検事は、腹をくくってこの一件にあたることを決意。火葬の要求を突っぱね、法律通り解剖で死因を突き止めることを求める。。

さらにチェ検事から後輩検事、後輩検事から中央日報の記者というルートで、「取り調べ中の大学生がショック死」というスクープがリークされる。慌てた警察は記者会見を開き、「机を叩いたら学生が驚いて倒れた」というバレバレの嘘を発表。しかし司法解剖の結果は「水責め中の窒息死」。公安部長をクビになったチェ検事は、この死因も記者のユン・サンサムにわざとリークし、警察による拷問の事実が明るみに出る。しかし、事件はこれだけでは終わらなかった。

民主化前後のドタバタを描いた群像劇なので、とにかく登場人物が多い。が、めまぐるしくプレイヤーが入れ替わるにも関わらず、全然混乱せずにストーリーを追えることには驚いた。対共分室に意地で歯向かうアル中のチェ検事、拷問で死んだ学生の父を取材したことで政権に憤るユン記者、穏やかな物腰ながら頑固そうな民主化運動の闘士キム(演じるのは名優ソル・ギョングである!)、警察の立場が悪くなった瞬間に切り捨てられるチョ刑事、カン・ドンウォンが演じているので「あんなに脚が長くて頭が小さい大学生いねえだろ!」とよくわからないところが気になってしまう学生デモの参加者イ・ハニョルと、次から次にキャラの立った登場人物が出てくる。が、脚本の交通整理がしっかりしているので「こいつ誰だったっけ?」となることがない。

特にというかやっぱりというか、印象的なのが永登浦刑務所の看守ハン・ビョンヨンだ。刑務所に勤めつつも裏で民主化運動に関わり、獄中とシャバとの連絡係を務めるという男なのだが、演じているのがユ・ヘジン。今や韓国映画で「調子が良かったり臆病だったりするけど、根はいい奴で面倒見も良くて、最後に男気を見せる役」と言ったらこの人、ミスター気のいい兄貴分、という鉄板の役者である。なので今回の看守役も安定感抜群、大向こうから声がかかるようなハマり役だ。ていうかアンタ、『タクシー運転手』でもずいぶん酷い目に遭ってたよな! 韓国が民主化するまでに、一体何回ユ・ヘジンは酷い目に遭うのだろうか……。

一筋縄ではいかない極悪人、対共分室のパク所長に恐怖しろ!
これらの「民主化を求めていろんな方向から声をあげる人々」全員を敵に回して、一歩も引かない極悪ぶりを発揮するのが対共分室のパク所長である。演じているのはキム・ユンソク。傑作『チェイサー』では主人公で元刑事のデリヘル経営者をやってた人である。このパク所長の見た目がすごい。顔つきは梅宮辰夫と小沢一郎を足して何も引かない押しの強そうなおっさんフェイス。常に不機嫌そうな鋭い目つきで、デモ関係者を次々にしょっぴく劇中最強のヒールである。

しかもこのパク所長、偉いからといって指示を出してむっつりしているだけではない。自分でガンガン前に出て、時には暴力も厭わない武闘派なのである。特に中盤、警察による拷問の事実が明らかになってからのムーブは圧巻だ。報道によって旗色が悪くなったと見るや自分のところの部下を逮捕しにくる警察の別部署のおっさんを殴りつけ、さらに拷問の責任を負ってムショに放り込まれるのを渋る部下にはピストルを突きつけて脅迫! 言うことを聞かない奴は部下でも部下じゃなくても容赦なし! 画面いっぱいになる梅宮辰夫と小沢一郎の合体超人みたいな顔! ド迫力である。

『1987』は画面のトーンも暗く、ざらっとした感じの雰囲気だ。この暗い画面の中で、怖い顔のおじさんたちが脂汗を垂らしながらゴリゴリの暴力を振るいまくる。そういう絵面が好きな人(おれとか)にはたまらない、ご褒美みたいな映像だ。「民主化を求めて名もない市民たちが頑張りました」というだけのストーリーにすることもできたはずだが、この映画はそんな甘い展開を許さない。もし当時の韓国でパク所長の対共分室に放り込まれたらどうなるか、目一杯見せてくれる。

さらに言えば、パク所長本人が脱北者であるというのが早い段階で明かされる。もともと北朝鮮に住んでいた人がなぜ、北朝鮮のスパイを駆り立てる立場になったのか。そこも大きなキーになるポイントである(『1987』の公式サイトではなんでそんなことになっちゃったのかがサラッと書いてあるのだが、これは見ないで劇場に行くことをおすすめしたい)。言うなれば、パク所長本人が朝鮮半島という土地の矛盾を象徴するような人物なのだ。これほどビシッと映画の本筋に沿った悪役が出てくると大変気持ちいい。まあ、パク所長本人はめちゃくちゃ怖い人なんですけども……。

民主化を目指す群像劇に登場する人々全員を敵に回して充分張り合える悪役というのはすごい存在である。自国のダークサイドを扱った映画で、ここまで重層的なヤバさを持つ人物を登場させることができる韓国映画の豊饒さ、そしてそれが大ヒットするという本国の観客のリテラシーの高さは凄まじい。とにかく悪役目当てで見に行っても、必ず満足できる一本である。
(しげる)

【作品データ】
「1987 ある闘いの真実」公式サイト
監督 チャン・ジュナン
出演 キム・ユンソク ハ・ジョンウ ユ・へジン キム・テリ ソル・ギョング カン・ドンウォン ほか
9月8日より全国順次ロードショー

STORY
1987年、韓国警察の施設内で一人の学生が拷問の末に殺された。事態を隠蔽しようとする警察は死体を解剖せず火葬しようとし、さらに記者会見でもシラを切るが、逆に民主化を求める市民たちの動きを強める結果となっていく

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