「クラウドファンディング」で資金が集まるのはなぜか? 「行動経済学」を軸にポップに読み解く


「予測は難しい。とりわけ未来の予測は難しい」 偉大な量子物理学者ニールス・ボーアが言ったとされるこの言葉から、本書を始めたい。 未来について話す本。未来に向かって進もうとする本だ。 (「序章 未来の雇用の衝撃」より)

ポップな経済学』(ルチアーノ・カノーヴァ著、高沢亜砂代訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、このようなフレーズからスタートします。そして本書を書いたのは、“Disruption(破壊)”が叫ばれるいまの時代に、まだ答えのない多くの問題を明らかにし、新たな課題を提起するためなのだそうです。

本書では、経済に応用されるテクノロジーの歩みをたどっていく。経済学は今、その姿を大きく変えつつある科学だ。それは経済危機のためでもある。危機はそれを予見すべきであった経済学者を追い詰めている。

しかし、科学という言葉を使う以上、経済学もほかの科学と同様、これまでも進化してきたし、これからも進化して、時代のうねりの中で人々が声高に求める変化の要求に応えていくものであることを述べておく。(中略)

望むと望まざるとにかかわらず、私たちを巻き込んでいくエクスポネンシャル(訳注:直訳すると「指数関数的」を意味するが、これまで支配的な地位を築いてきた業界内の企業に対し、新たな競争を迫る「前例なきディスラプション」を前提とする概念)な時代の中で迷子にならないように、そして、進むべき道を見極められるように、テクノロジー・イノベーションのおかげで生まれるたくさんの可能性を整理して、わかりやすく解説する。(「序章 未来の雇用の衝撃」より)

こうした観点に基づき、本書では今後の経済学に大きな影響を与えるであろう9つのキーワードについて解説しているのです。きょうはそのなかから第4章「クラウドファンディングの台頭」に注目してみたいと思います。
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ポップな経済学
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資金調達の手段が変わった!


ご存知のとおり、クラウドファンディングは、なんらかのプロジェクトの実現に必要な資金を調達するための新たな手段。その重要性が支持され、資金源へのアクセス方法に、そして金融市場にも大きな変化をもたらしました。

いったい、クラウドファンディングとは何なのか。その主な特徴は何か? 基本的には、何らかのプロジェクトを実現させる資金として、寄付または出資を受ける可能性を提供するシステムだ。

寄付または出資は本当に少額でよく、個人の支援者から広く集められる。プロジェクトを公開する人は、プレッジ(支援金)の目標金額を設定し、定められた期間内で達成を目指す。この独特のシステムでキーとなるのが、「協力」と「共有」だ。(98ページより)

「協力」は、シェアリング・エコノミー(訳注:物やサービスを多くの人と共有・交換する仕組み。カーシェアリングや民泊などが広まっている)の特徴のひとつ。

そこには、従来の社会的なルールの枠組みを超えて新たな市場を創造するような、相互関係と相互義務のメカニズムが働いていると著者は説明しています。

自覚しているにせよ無自覚であるにせよ、人は誰でも、日々の生活のなかで何気ない親切な行為を続けて生きていくもの。たとえば友人の引っ越しを手伝うとか、なにかをCDにコピーしてあげるとか、いくらでも思いつくことができるでしょう。

こうした小さな親切は金銭に換算できるものではありませんが、経済学ではときにこれを「関係財」と呼ぶのだそうです。関係財とは、交換や恩返しといった行動が生まれるような人間関係に価値を見る考え方。

会社にエスプレッソの自動販売機があると想像してほしい。入れ替わり立ち替わり、誰かが単純な親切心から自分の分だけではなくて、あなたやほかの同僚の分もコーヒーをいれてくれたりする。

だから、あなたも同じことをする。もしも、このコーヒーのためにいくら使ったか帳簿につけ月額の平均値を出したら、毎日あなたひとりが自費でコーヒーを飲んだ場合の1カ月分の合計と、あまり違わない額になることが多い。 つまり、おごる金額と奢られる金額がだいたい同じになるのだ。(100ページより)

人がなぜこのような行動をとるのかについては、関係財の仕組みで解釈すると合理的なのだと著者は言います。温かい飲み物を人におごって、別の日には同じ気遣いを自分が受けるという喜びと親切心が、価値を想像し積み重ねていくというのです。

その結果、会社のなかの雰囲気がよくなり、感謝や喜びが繰り返されていくというわけです。

すなわち関係財とは、このように人間関係がなんらかのやりとりを生むような、いいエクスターナリティ(外部性)を形成するもの。いわゆる財産との違いは、副次的な利益が増加するという興味深い性質があることだそうです。

突然だが、ピザを食べるとする。最初の1切れはとてもおいしい。2切れ目もおいしいが、1切れ目ほどではない。なぜなら、1切れ目のときよりも、多少は腹が満たされているからだ。そして食べ進んでいくうちに、味わいという恩恵、すなわち副次的利益は着実に小さくなっていく。

このように、副次的利益は減少するという原則がある。ところが関係財の場合、たとえば友情と言ってもいいが、友情は消費すればするほど、もっと消費したくなる。満腹感はなく、ことによると副次的利益も増えていく、そのダイナミズムはピザとは全然違うのだ。(101ページより)

つまりクラウドファンディングのプラットフォームは、この協力と人間関係を動機のスイッチとして利用するものであるわけです。

「自分の周囲にいる人が寄付をしていて、なんとなく自分も寄付をしないといけないような感じになってしまったから」とか、「知り合いのプロジェクトで、寄付をすることで自分もそのプロジェクトの一員のような感じになれる」など、人間誰しもそのような理由で少々のお金を寄付するものだというのです。

おもしろいのは「群衆の英知」と呼ばれる作用によって、見ず知らずの人のアイデアやプロジェクトのためにお金を出す確率が高まること。自分の周囲にいるたくさんの人が、あるプロジェクトに少しずつお金を出しているのを見ると、自分もおなじことをしてしまうわけです。(96ページより)

「共有」は、著者によればクラウドファンディングにおけるもうひとつの重要な特徴。

SNSが強力な起爆装置となり、なにかのアイデアに関心を示す人のコミュニティがあっという間にできるようになってきました。Facebook、Twitter 、LinkedInなどのコミュニケーションシステムはいまや人々の日常生活に深く浸透しており、重要な行動の選択にまで影響を及ぼしているのです。

そのためクラウドファンディングで資金調達する場合、ていねいで効果的なデジタルマーケティング戦略を活用したり、ネットワーク媒体や情報カスケード(最初の人の行動を見て、次の人が真似して行動すること)を活用したりしないと、資金を獲得する可能性が低くなります。

逆に、コンタクトが豊富で密度の濃いネットワークでは、プロジェクト実現に必要な資金を得られる確率が高くなることが明らかになっているのだそうです。

そしてクラウドファンディングは、クリエイティブなプロジェクト(書籍、記録映画、ミュージックアルバム、デザインプロダクトなど)にとって、比較的障壁が低い資金獲得手段になるといいます。

先頃映画監督スパイク・リーや経済学者ダン・アリエリーといった有名人が、映画やドキュメンタリー作品の制作資金を得るためにクラウドファンディングを利用した。すでに知名度のある人物がKickstarter(キックスターター)やIndiegogo(インディゴーゴー)といったクラウドファンディングサイト上に存在することに関して世間で論争が巻き起こり、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

自分のアイデアの実現に必要な資金をいくらでも別の手段で調達できる有名人がいたら、このサイトで日の目を見ないといけない無名の人たちのチャンスを狭めてしまうじゃないか、というわけだ。(104ページより)

しかし、ある研究の結果、こうした有名人の利用には宣伝効果があり、サイト自体の露出が高まるため、ほかのプロジェクトのためにもポジティブなエクスターナリティとなることがわかっているのだそうです。(102ページより)

クラウドファンディングの4つのタイプ


アメリカの調査会社であるMASSolutionsの2012年のレポートによれば、ここ数年で確立されたクラウドファンディングの形式は、次のように分類されるといいます。

・寄付型:資金調達者は寄付を募り、純粋におしるし程度のお礼で報いるタイプ。公益法人や非営利団体の資金調達には特に有効なキャンペーンと形式となっている。

・株式型:ベンチャーキャピタルの機能を持ち、クラウドファンディングの中でも大きな広がりを見せているタイプ。実質的な財政支援で、出資者はクラウドファンディングに典型的なごく少額の出資者であるが、資金調達会社の株式を保有し、製品またはサービスの売上から配当が保証される。

・購入型:出資者が出資金額に応じて対価を得るタイプ。この場合は、どれだけ奮発してくれたかに見合うインセンティブを検討し、有力な潜在的出資者に「ぜひともこれに」と思わせることがポイントとなる。インセンティブ体系の設計は簡単ではないが、うまくつくり込めば夢を叶えるチャンスが増す。

・貸付型(ソーシャルレンディング):アメリカで広く普及しているタイプ。資金を必要とする人と提供する人を、金融機関を介在させずにつなぐツールだ。 貸付における対等な関係、ピア・ツー・ピアともいうべき形式で、ほかと同様に少額の出資の積み上げが資金となる。

(108ページより)

このようにクラウドファンディングは、想像的なプロジェクトを実現する財源を効果的に確保する手段だということ。

より効果的かつ合理的に資金調達するために、金融市場全体のなかで伝統的な手段を補完する構成要素だというのです。(108ページより)


行動経済学、基礎経済学、サイエンス・コミュニケーションの教師兼研究者である著者の解説は、簡潔で明快。そういう意味においても、難解であるという印象が強い経済学の入り口としては最適な1冊だと言えそうです。AI時代を生き抜くための指針として、参考にして見てはいかがでしょうか?
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Photo: 印南敦史

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