体操協会 vs コーチ「どちらが悪いか」論ではパワハラは止まらない

日刊SPA!

2018/9/12 08:32



コーチによる選手への暴力問題をきっかけに明らかになった日本体操協会女子のパワハラ騒動。

ワイドショーでは連日、元オリンピック選手やスポーツジャーナリストが選手側vs協会側に分かれてそれぞれの主張を繰り広げ、騒動は泥沼の様相を呈している。

◆協会の失敗は「まず被害者と対話しなかったこと」

「相次ぐスポーツ界でのパワハラ問題の中でも、“行為”ではなく“処分”が被害者を追い込んだ過去に例のない展開です」

こう指摘するのは、『パワハラをなくす教科書』(方丈社)の著者で、ハラスメント問題に詳しいカウンセラーの和田隆氏だ。

ご存知のとおり、速水悠斗コーチの暴力指導を理由に無期限の登録抹消処分にした協会に対して、暴力の被害者だったはずの宮川紗江選手(18)が「協会のほうがパワハラだ」とコーチを守ろうとする――そんなねじれた構図で騒動が勃発した。

「コーチの暴力行為に対して組織としての対応は迅速でしたが、その早すぎる対応が憶測を生み、適切さを欠いてしまった。選手がパワハラは受けていないと主張しても暴力行為そのものが禁止されているので、処分は避けられません。

しかし、暴行を受けた選手の思い、要望などを丁寧に聴くことなく一方的に処分した結果、『無理に引き離された』という思いが募り、それまで抱いていた協会への不信感はさらに大きくなったのでしょう」

ハラスメント対応の第一は、被害者の声をしっかり聴くこと。そして、問題を分解して考えることが重要だと和田氏は語る。

◆嫌われる指導者は、同時に好かれることも

「パワハラ問題は、『パワハラ』という抽象的な言葉にさまざまな問題が集約されてしまうため、コトがややこしくなるのです。今回の件にしても、コーチから選手への暴行問題と協会内のさまざまな問題が絡み合って、すべての事実が明らかになっていない段階で、どちらが正しい、どちらが悪いといった短絡的な話になってしまっている。これでは問題は解決しません。

次から次へと浮かび上がる問題や疑惑について、個人の問題として処理するのではなく、組織に内在するリスクを徹底的に洗い出し、改善していくことが本質的な問題解決につながります」

それにしても、どうしてこうもスポーツ界のパワハラ問題が後を絶たないのか?

「一般企業にも言えるのですが、『結果第一』の考え方がパワハラを生む土壌となりやすく、スポーツの世界はそれがより顕著です。指導方法に問題があっても結果を出せば『正しい』ことになるし、中にいるとその異常さがわからなくなる。

ものすごく嫌われている指導者は、ものすごく好かれていたりもするんです。指導者の熱のこもった指導によって、愛を感じて奮い立つか、怒りと感じてダメージを受けるかは人それぞれで、それがパワハラかどうかの判断を難しくさせるんです」

◆“情熱”がパワハラにならないための処方せん

協会内のパワハラの実態については第三者委員会の調査結果を待つしかないが、現時点で明らかなのは、コーチも強化本部長も熱い“情熱”の持ち主だということ。

「“情熱”という感情の強さが、パワハラ行為へつながりもする。ポジティブな感情も行き過ぎるとネガティブな感情に反転しやすいので注意が必要です。

現在、多くの企業や教育機関等からパワハラ防止研修の依頼を受けていますが、権力が集中しやすい組織にこそ教育が不可欠です。自己の優位性を、人を追い込むためでなく、人を活かすために使う、その方法を学ぶのです。

パワーを適切に出力すれば、組織の秩序は保たれ、コミュニケーションを良好に維持できます。パワーを使って、自尊心を傷つけてしまう恐れがある場合、即座に出力停止にします。パワーの質と量をコントロールする『パワーをマネジメントする』という発想と実践です」

◆組織の問題は、内部からは見えにくい

組織に内在する問題は、その組織にいる人には見えにくいもの。組織のトップは、外部の第三者からの指摘に対し、一つずつ改善していく。そして、現場の声に耳を傾け、役割や規則は丁寧に伝える。そんな“あたりまえ”のことが大事だという。

「お互いに話した量が多いほど、納得性も上がります。事実、考え、気持ち等を共有することで関係性も改善できます。『対話を重視する』という方針を徹底することで組織も生まれ変われると思います。協会もコーチも選手も体操にかける想いは同じなのですから」<取材・文/日刊SPA!取材班>

【和田隆氏 プロフィール】

メンタルプラス株式会社代表取締役。カウンセラー、コンサルタントをする一方、ハラスメントやメンタルヘルス、睡眠改善、コミュニケーションなどをテーマに、民間企業や官公庁、教育機関で講演・指導を行う。著書に『パワハラをなくす教科書 「健康経営」を実現する基本と原則』(方丈社)

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