岡本麗×田岡美也子×松金よね子「元気なおばさんを求められていたけれど、そうじゃない作品もやりたかった」~「グループる・ばる」最終公演

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2018/9/12 06:00



芸達者のベテラン女優3人が、試行錯誤しながら自分たちがやりたい芝居をつくり続けてきた「グループる・ばる」。この9月の『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~ 』(長田育恵脚本、マキノノゾミ演出)で最終公演を迎える。取材をしていても、誰かの話に誰かがかぶせてくる混沌とした座談会は、このカンパニーならでは。何度かプログラムに寄稿させていただいた縁もあり、最終公演はぜひ取材をしたいとお願いした。時々制作も交えた座談会はやっぱりいつもと同じ。音声を起こすのが大変なのだ。でも聞いていても飽きないおしゃべりは温かさと楽しさにあふれている。

ワガママな作品づくりがしたくて立ち上げたチーム


––最後の公演と聞いて、やっぱりお話をうかがわないとと思ってやってきました。

岡本 もしかしたら最後にならないんじゃないってよく言われるよね。

松金 みんなに言われますけど、最後です。

田岡 うそつきババアにならないように。

––いや、おばあさんになっても続けられると思っていたんです。

松金 もうおばあさんですよ。

岡本 立派なおばあさんよねー。

田岡 もっとおばあさん? 芯からおばあさん?

一同 笑い

松金 元気なうちに、まだやれると言われてるうちに幕引きするのもいいんじゃないかってことです。

岡本 惜しまれているうちに。

松金 もうやり尽くしましたからね。

岡本 満足したわけではないけれど。

田岡 やり残したことがないとは言えないけど、この作品で終わるのなら納得です。

松金 「る・ばるらしくない」と言われた作品もありましたけど、それはそれでやりたかったことなので後悔はないんです。

岡本 元気なおばさんたちというイメージがあったでしょ。

田岡 女性への応援歌みたいな思いがあったんですよね。

松金 そう、だから元気なおばさんを求められていたけれど、そうじゃないものもやりたかったんですよ。いつも、やりたいことをやるというワガママな集団でいられました。

岡本 そ、早い話がワガママを貫き通してきたよね。

田岡 それがやりたくてつくったチームだもんね。その時々の自分たちの視点で社会を見、女たち男たちを見、そこに感じた問題を芝居で描いてきたんですけど、そういう芝居ってないでしょ?
『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~』(2015)
『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~』(2015)

––そもそも皆さんの上の世代は女性を主体的に描いたお芝居がなかったですもんね。文学座の杉村春子さんが演じた作品ぐらい。でもそこを永井愛さん、木野花さん、そして皆さんが開拓してきたように思います。

松金 女性がヒロインとして描かれた作品ばかりですからね。

田岡 あとはロマンスの対象。

松金 ある年齢になると、いわゆる老婆というくくりになる。けれど年をとっても女性だし、普通の人間なんですけど、そういう描かれ方がされないんですよ。

岡本 永井さんや花さんと集まると、やっぱり青春だし、老人の発想ではないのにね。

田岡 更年期とともに生きていく、内的にはそこから始まる女のドラマもあると思うんです。そういうところに誰もスポットを当ててくれない。

松金 メリル・ストリープが言ってましたもん、私の年になると仕事がないって。ハリウッドも同じ状況みたい。

岡本 ベティ・デイヴィスも若いころは華やかな役をやっていたけど、年をとってから、なんでもいいから使ってくれって新聞広告を出したらしいわよ。

松金 私たちなんか、美人女優の系譜でもなければ老女優にもなれない中途半端な立ち位置。でも同世代にはそういう女優さんも多いんですよ。

岡本 この世の中、女性がいっぱいいるんだから、それをお芝居にしない手はないんじゃないのって思う。テレビドラマでもお芝居でもすごく美味しいテーマだと思うんだけどね。

松金 じゃあ私たち、やっぱり続けなければいけないんじゃない?

一同 笑い

永井愛の本づくりを目の当たりにした『ダブルアルバム』

『ダブルアルバム』(2011)
『ダブルアルバム』(2011)

––ところで選ぶのは簡単ではないとは思うんですけど、心に残る作品はありますか?

岡本 みんな我が子でね、できのいい作品もできの良くなかった作品もありますけど、どれもかわいいんです。

田岡 それぞれにいろんな個性があるもんね。

松金 旗揚げ作品は思い出だし、2本目も……。る・ばるの場合、いつも新しい作家さんとの出会いだったから毎回ドキドキワクワク。

田岡 だからどの作品もかけがえがないんですよ。それでも挙げるとしたら、私は『ダブルアルバム』だなあ。

岡本 別の芝居が入っているからそのスケジュールは外してねと言っておいたのに、見事に重ねてきたんですよ。それでこの人たちが、まだ賞ガールになる前の永井さんに直談判しにいった。

松金 永井さんがすごいと思ったのは、まだよそからのお仕事がない時代だったにもかかわらず、簡単に「やります」とは言ってくださらなかったの。普通は何かやりたいものじゃないですか。でも彼女にとっては「何がやりたいのか」がすごく重要だった。だから一晩、(田岡と)二人で初めて互いの家族のことを話あったのよね。それぞれ確執を持っていて、それはいつ取れるんだろうって。

田岡 そして寝ないで永井さんのおうちに行った。そしたら、そのテーマだったらやりましょうって。

松金 でもやるとは言ってくれたんだけど、プロットを書いてほしいと言われて。でも書いていったら「それは、あらすじよ」って言われた。

田岡 しかもここはダメ、ここもダメって。それでひと夏彼女の家に通って、彼女が原稿を打つ後ろで二人で演じたのよね。彼女の本づくりを目の当たりにしたのはすごい財産だった。

それぞれが普通の夫を演じた『昨日 今日 明日~ああ結婚~』

「昨日 今日 明日~ああ結婚~」(2001)
「昨日 今日 明日~ああ結婚~」(2001)

松金 私は『昨日 今日 明日』。これも私たちで書いたものなんですよ。それも違った意味で苦労があった。女性が男性をやってみたらって持ちかけたんです。宝塚みたいな感じではなく、あえて普通のおじさんを演じようって。

田岡 よねちゃんが言い出したときは、無理よそんなのって。でもやってみたら面白くて、これは発想の勝利だよね。

岡本 お互いが夫婦役、だから3組の夫婦の物語で、登場人物の集合写真を撮ろうとするんですけど絶対無理なんですよ。

松金 おーい、誰か抜けたぞって。

田岡 そりゃ撮れないわよね。

松金 だけど最後に集合写真を出すというのは楽しかったね。

岡本 いつ、どのタイミングで着替えに行くか、その計算が大変だった。

田岡 ここでこの夫婦が出て、この人が引っ込んで女性に戻る、その間にどんなシーンにしようとか、そんなことを一生懸命考えました。

松金 つなぎはマイケル・ネイシュタットさんにやっていただいて。

岡本 マイケル頼みだったよねー。

自分たちもお客さんももう一度と感じた『蜜柑とユウウツ』

『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~』(2015)
『蜜柑とユウウツ~茨木のり子異聞~』(2015)

岡本 私は今度の『蜜柑とユウウツ』も好きよ。

田岡 これを最終公演にしたのは、お客さんたちからもう一度観たいという声が多かったのと、私たちも初演が終わった時点でもう一回やりたいと思ったからですね。初演は山の麓をうろうろしていたようなものだったから、もう一回登ろうって。

松金 私が、詩人の茨木のり子さんの世界を評伝劇ではなく、思いとか詩に託した心を芝居にしてほしいという抽象的なことを長田さんとマキノさんにお願いしたんです。

岡本 普通に歴史をたどるのは簡単だけどね。一応、茨木さんの人生について調べたんですけど、優等生だったから劇的じゃないんですよ。

制作 「櫂」の同人だった谷川俊太郎さんを訪ねてお話を伺ったんですけど、それでも私たちの抱いたイメージと変わらなかったくらいでした。そこで長田さんが自分の世界で描くと覚悟を決めたみたいなんです。

田岡 長田さんもすごくオープンマインドで、みんなの意見を聞いて、書き直してくれたり。

岡本 毎日本読みに付き合ってくれて、私たちのわからないところを聞くと説明をしてくれた。すごく自由にトークできたんです。あんなに充実した本読みって初めてでしたね。座付き作家みたいに扱っちゃって申し訳なかったんですけど。

田岡 理想的な稽古ができているなと思ったんですけど、そこからが大変だった。

岡本 演者も演出も短い時間で目一杯やったんですけど、読み込みが足りない部分もあった。今回は一つ、余裕を持って掘り下げるようにしたんです。

松金 初演のときよりもキャラクターが鮮明になってきましたし、このシーンはこういう意味だったのか、再演はそういう発見があるんです。初演はチャレンジだったけど、再演はしっかりお見せしたいと思っています。

岡本 すごくいい本だから、初演よりもっと面白くなる自信がありますから、ぜひ見ていただきたいですね。

永井愛いわく「る・ばるは正しい評価を受けるべき」


––つまらない質問ですけど、皆さんにとってる・ばるってなんですか?

松金 不思議な集団というか、奇跡の集団かな。

岡本 そうね、欲がありそうでないグループ。芝居をするときに譲らない頑固さとか欲張りなところはあるけれど、続けるために何かを残そうという欲はなかったね。

田岡 組織としての欲はなかったから劇団にもしなかった。野心といっても芝居をするというところにしか向かわなかったのね。

松金 毎回これが最後かもしれないから頑張るぞって感じだったよね。

岡本 だからすべての作品が愛おしいんだよね、私たち。

田岡 私はいろんなことをやっては投げ出してきたタイプだったけど、これだけが続いたなあ。続けるうちにだんだん帰る場所になってきた。最初は制作会社が公演の準備をやってくれてたから、本当に芝居をするだけでよかった。途中からですよ、自分たちで制作もやろうと思い始めたのは。

岡本 大変だったね、よい制作さんに出会うまでは。

制作 (笑)この間、永井さんと座談会させていただいたときにすごく素敵なことをおしゃってくださったんです。この人たちへの芸術的評価が低いと。すごく高度なことをやっているのに、正しい評価を受けるべきことをやっているのに、ただのコメディというくくりで見られているのは悔しいって。

岡本 愛ちゃん、愛しているよ~~。

松金 日本はコメディを低く見るところがあるよね、いちばん難しいのに。

岡本 しかも私たちは走りだから、おばさんが3人で立ち上げたというのをキワモノ的に見られちゃったからね、最初に。

––またどこかでやったりしませんか?

制作 永井さんが「ごきげんいかが?」公演をやればっておっしゃってましたね。

松金 永井さんに『片づけたい女たち』の続編やろうよなんて言われたら、やりたいって思ってしまうしね、本当を言ったらキリがない。

岡本 書いてくれたらやっちゃうかもね。

––永井さんが二兎社にみなさんを呼んで、『片づけたい女たち』の続編をやってくださったらいいんですよね。


取材・文:いまいこういち

《松金よね子》1969年にテアトルエコーに入団、1985年に退団。小劇場から商業演劇、ミュージカルと幅広く活躍している。テレビ、映画に多数出演。第16回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。

《岡本麗》俳優小劇場付属養成所を経て、舞台、テレビ、映画、CMなど多方面で活躍。テレビ朝日系『はぐれ刑事・純情派』シリーズでは女刑事役で長年レギュラーを務めた。

《田岡美也子》俳優小劇場付属養成所、早稲田小劇場を経て、NODA・MAP、TPT、二兎社、椿組、MODE、燐光群などさまざまな公演に参加。その他にテレビや映画の出演も多数。

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