「分かりやすい『フリクリ』もあっていいと思う」劇場版「フリクリ オルタナ」上村泰監督の挑戦

エキレビ!

2018/9/11 09:45

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』『彼氏彼女の事情』。
1980年代後半から1990年代にかけて、次々と話題作を発表していたアニメスタジオ「ガイナックス」が20世紀最後の年にリリースを開始したOVA『フリクリ』(2001年3月までに全6巻を発売)。
『新世紀エヴァンゲリオン』で副監督を務めた鶴巻和哉の初監督作品は、王道的ボーイミーツガールの構造を持ちながら、物語、映像、音楽のどれもが新鮮で挑戦的。ガイナックスだけでなく、2000年代を象徴するアニメのひとつにもなった。

OVAリリース開始から18年後の今年、伝説的アニメの続編が劇場版として、しかも2作連続で公開。劇場版『フリクリ オルタナ』は9月7日(金)から27日(木)まで公開中、9月28日(金)~10月18日(木)には劇場版『フリクリ プログレ』が公開される。

エキレビ!では、劇場版『フリクリ オルタナ』の上村泰監督にインタビュー。ネタバレ無しのインタビュー前編では、ガイナックス出身で、近年は『パンチライン』『幼女戦記』などの話題作を産みだしている注目の演出家が、どのような思いで『フリクリ』というビッグタイトルの新作に挑んだのかを語ってもらった。


『フリクリ』にとどめを刺されて、アニメ業界を志した
──OVA『フリクリ』の第1巻が発売されたのは2000年4月ですが、当時、上村監督は高校生くらいですか?

上村 たぶん、大学1年生でしたね。アニメが好きで、ガイナックスの新作が出たり放送されたりしたら、当然観るという感じの学生でした。それから2、3年後に、アニメの仕事で生きていきたいと本気で志すことになるのですが、『フリクリ』はそのきっかけの一つ。というか、こちらの世界を目指そうという気持ちに、とどめを刺された作品でした。

──それだけインパクトが強かったのですね。

上村 こんなにもおしゃれなアニメがあるのか、と衝撃を受けました。そもそも、アニメに「おしゃれ」という要素が入ってくること自体、かなり衝撃的でもあった時代なので。「アニメ=オタク」というイメージが濃かった時代に終わりを告げ始めるトリガーにもなった作品かなと思います。本当に大好きで、次の巻が出るまで、何回も繰り返し観ていました。OVAだったので 次の巻がなかなか出ないんですよね(笑)。(主題歌、挿入歌を担当した)the pillowsの曲も『フリクリ』で初めて聴いたのですが、その後、何回聴いたのか分からないくらい好きになりました。

──そこまで思い入れの強い作品の続編で監督を務めることになった経緯や、感想を教えてください。

上村 (制作スタジオの)Production I.Gさんから直接ご連絡をいただいたのですが、僕はそれまで I.Gさんとはあまりご縁がなかったんです。ガイナックスで制作進行(担当話数の制作を管理するスタッフ)だった時代、I.Gさん制作の『BLOOD+』を制作協力で受けて担当したくらい(第28話の制作進行を担当)。だから最初は「なぜ僕に?」と思ったし、『フリクリ』というタイトルの重さも十分に理解していたので、正直プレッシャーもあって。「ヤバい、すごい話が来ちゃったな。どうしよう」と思いました。だから、返事をする前にOVAシリーズの監督の鶴巻さんに「ご飯行きましょう」とお声がけして、「『フリクリ』の続編の監督って話が来たんですけど……」と話したら、「そりゃあ、僕もオッケーしたからね」って(笑)。


──鶴巻さんは、『フリクリ オルタナ』と『フリクリ プログレ』(9月28日公開)のスーパーバイザーも務めていますね。

上村 当然、監督は誰が良いかを鶴巻さんたちにも相談されていたみたいで、「上村なら良いんじゃない?」という感じのことを言ってくださったらしいです。

──鶴巻さんとは、どのような話をしたのか教えてください。

上村 鶴巻さんは「やっちゃえばいいんだよ」と(笑)。でも、鶴巻さんの「やっちゃえばいいんだよ」 という言葉って、実は「思いっきりやらないと駄目だぞ」という意味だと僕は思っていて。まあ、僕の考えすぎかもしれないですけどね。僕のキャリアのスタートは、鶴巻さんが監督をされた『トップをねらえ2!』の設定制作補助という役職で。最初は、ずっと鶴巻さんにくっついて、お仕事をさせていただいたんです。だから、鶴巻さんの作品作りに対するシビアさもよく知っているんですよ。すごく優しい方なのですが、作品に対してだけは厳しくて、駄目なものは絶対に駄目。基本的に妥協はしない方なんです。僕が演出になった時にも、「コンテなんて、丸ちょん(丸い輪郭に目鼻を点で描いたような簡素な絵)で描けば良いんだよ」というアドバイスをくださったんですね。たぶん、僕が絵描き(アニメーター)では無いから、絵の上手い下手は関係無く、演出意図が伝わるコンテでさえあれば良いんだよと、僕の気を楽にしてくれるためのアドバイスだったとは思うんです。でも、しばらくキャリアを積んでから分かったのですが、「丸ちょん」で伝わるコンテって、要はその「丸ちょん」の中に、どれだけ精度の高い情報を詰め込めているのかってことなんですよ。例えば、このカットは広角なのか望遠なのかといった、こちらの要求が(作画担当に)正しく伝わらないといけない。結局、絵は「丸ちょん」でも、コンテとしてはすごい精度を求められるということなんです。そのことを理解するまで数年かかりました。だから、鶴巻さんの「やっちゃえばいいんだよ」という一言も、その言葉のままの意味では捉えられず、すごく重く感じました(笑)。その言葉のおかげで気が楽になった半分、改めて、全力でやらなきゃなという気持ちにもなりましたね。


高校時代のモヤモヤを主人公のカナに投影しようと考えた
──上村監督にオーダーがあった時点で、企画内容はどの程度まで固まっていたのでしょうか?

上村 僕がお話をいただいた時点では、『プログレ』の方の企画は、すでに動いていました。

──では、『オルタナ』に関しては、ほぼゼロからのスタートだったのですね。

上村 そうですね。最初の会議の頃から、『プログレ』はかなりはっちゃけた作品になりそうだという話は伺っていったので、『プログレ』とは違う切り口で『フリクリ』をやってみようという思いは最初からありました。せっかく2作品作るのに、同じテイストで作るのももったいないですし、I.Gさん側からも「『プログレ』とは違うテイストにできれば」という話はあったので。

──具体的には、どのようなテイストに?

上村 『フリクリ』の魅力には、作画が超すごいとか、the pillowsの曲に乗せたカッコ良くて叙情的な芝居が良いとか、いろいろな要素があるんですけれど、僕は心の動きが繊細に描かれているところも魅力だと思っていたので、そこをピックアップしてみようと思いました。あと、具体的に決めていたこととしては、最初の『フリクリ』の主人公は小学生で、『プログレ』は中学生の女の子だったので、『オルタナ』の主人公は高校生の女の子にしたいなと。高校生って、すごくモラトリアムの期間ど真ん中だと思うんです。それこそ、自分の高校時代を振り返ってもそうでした。アニメの監督になりたいけれど、本当になれるわけはないよなとか。地元の友達といるのは楽しいけれど、上京したい気持ちもあったり。自分の可能性を信じて良いのか、いけないのか分からなくて、すごくモヤモヤしていた時期でした。それと、僕はいつもラジオを聴きながら仕事をしているんですけれど、今でも高校生からの「夢が無いのが悩みなんです」みたいな投稿が読まれたりして。今も昔も何も変わらない普遍的な話なんですよね。ただ大きく違うのは、情報過多だったり、社会的に与えられすぎたりして、僕が高校生だった頃よりも、今の高校生の方が生き辛そうというか、さらにモヤモヤしていそうだなと。そんなことを河本カナというキャラクターに投影してみようと考えたのがスタートでした。


──主人公を男子高校生ではなく、女子高生に設定したことの狙いを教えて下さい。

上村 そこに関しては、自然とそう思ったというか……。僕が女の子の主人公で挑戦してみたい、と思ったことが大きかった気がします。僕が今まで(監督を)やった作品の主人公って、体は女の子だけど実は男だったり、幼女の皮をかぶったサラリーマンだったり。あとは、異世界からきた女の子(がメインヒロイン)だったり。実は、生なリアルな女の子の話ってやったことがないんです。キャラクターの感情などを大切に描くということは常に意識しているのですが、それを普通の女の子でやったことがなかったんですよ。だから、挑戦したかったのだと思います。

『フリクリ』という作品にとって、the pillowsの曲は特別
──『フリクリ』は様々な面で非常に尖った作品でしたが、『フリクリ オルタナ』でも、そういった『フリクリ』らしさを意識したことはありますか?

上村 先ほど、今は情報過多の社会になっていると話しましたが、それはアニメも同じで、全体の本数がすごく多いし、情報量の多い作品も増えている気がします。だから、僕が学生だった頃とは違って、分かり辛いことが格好いい時代ではなくなっているとも思うんです。だったら、そこまで複雑じゃない「分かりやすい『フリクリ』」もあっていいんじゃないかなと。特に今回の場合は2本の『フリクリ』が作られるのだから、1本はそういう立ち位置の作品でも面白いだろうと考えました。企画のかなり初期から「『フリクリ』なんだけど『フリクリ』じゃない」とか、「『フリクリ』じゃないんだけれど『フリクリ』なんだよ」という話はよくしていましたね。

──現場のスタッフに指示出しする際も、「『フリクリ』なんだけど『フリクリ』じゃない感じに」といった形でイメージを伝えたりしたのですか?

上村 それは無かったですね。なぜなら、『フリクリ』に対する捉え方や価値観は全員バラバラなので。「『フリクリ』か『フリクリ』じゃないのか」というのは、基本、僕ひとりの中での基準。だから、これで良いのかなとか、すごく葛藤もありました。一番悩んだのは、the pillowsの曲の使い方。特に(新曲ではない)『フリクリ』の曲の使い方でした。自分が大ファンだったせいもあって、「LITTLE BUSTERS」(クライマックスの挿入歌)とかが流れると、『フリクリ』の映像が頭の中に流れ込んでくるんですよ。ラッシュチェック(ほぼ完成状態の映像をチェックして修正箇所を指示する工程)の時でも(笑)。

──「『フリクリ』らしい」どころか、「『フリクリ』だ!」と感じてしまったのですね。

上村 やっぱり、『フリクリ』という作品にとって、the pillowsの曲は特別なんだということを改めて強く感じました。インパクトが強い分、使い方も非常に難しい。そこは、自分自身で葛藤しながら、すごく気を付けたところです。
(近日公開の後編に続く)

(丸本大輔)

劇場版『フリクリ オルタナ』
9月7日~9月27日に期間限定上映

【スタッフ】
監督:上村 泰
副監督:鈴木清崇
脚本:岩井秀人
キャラクター原案:貞本義行
キャラクターデザイン:高橋裕一
メカデザイン:押山清高(スタジオドリアン)
衣装デザイン:谷口宏美
プロップデザイン:細越裕治、秋篠Denforword日和(Aki Production)
美術監督:藤井綾香
色彩設計:中村千穂
CG ディレクター:さいとうつかさ
撮影監督:頓所信二
編集:神宮司由美
音楽監督・音楽:R・O・N
音響監督:なかのとおる
主題歌:the pillows「Star overhead」
スーパーバイザー:鶴巻和哉
総監督:本広克行
アニメーション制作:Production I.G × NUT × REVOROOT
配給:東宝映像事業部
製作:劇場版フリクリ製作委員会

【キャスト】
ハルハラ・ハル子:新谷真弓
河本カナ:美山加恋
辺田友美(ペッツ):吉田有里
矢島聖(ヒジリー):飯田里穂
本山満(モッさん):田村睦心
須藤 完:小西克幸
佐々木 門:永塚拓馬
相田 弁:鈴木崚汰
河本静香:伊藤美紀
河本文太:真坂美帆
デニス用賀:森 功至
木滝真希:松谷彼哉
神田束太:青山穣

(C)2018 Production I.G/東宝

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