名古屋の小劇場「ナビロフト」がオリジナル作品を発信する【NAVI LOFTクリエイション企画】がスタート

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2018/9/11 06:05


【NAVI LOFTクリエイション企画】第一弾は、澄井葵を演出に迎え、二人芝居を上演


メインである俳優の他にも、演出家、演劇プロデューサー、〈名古屋演劇教室〉の主宰など多彩な顔を持ち、精力的な活動を続けている小熊ヒデジ。その小熊が2016年のリニューアル以来運営に携わっている名古屋の小劇場「ナビロフト」は、《地域に根ざし、全国とつながる劇場》を目指して、これまでさまざまなプログラムを実施してきた。その試みのひとつとして今回新たに始動する【NAVI LOFTクリエイション企画】は、「ナビロフト」のプロデュースによりオリジナル作品の創作・上演を行なっていくものだ。

9月14日(木)から3日間に渡って同劇場で開催される第1作目は、青年団演出部で活動していた経歴を持ち、ソロユニット〈,5(てんご)〉を主宰する澄井葵を演出に迎え、小熊と、名古屋を拠点にフリーの俳優として活動する江上定子による二人芝居『さかさま』を上演する。本作は〈リクウズルーム〉の佐々木透による同名小説を澄井が上演用に構成したもので、ある朝、天地が逆さまになってしまった男が、さまざまな困難を経ながら出勤する途中、自分と同じく逆さまになった少女と出会う物語だ。

2011年以降、拠点を東京から愛知に移して活動している澄井は、昨年「ナビロフト」で初開催された“最強の一人芝居フェスティバル”『INDEPENDENT:NGY』に、脚本・演出で参加(詳細はこちらの記事を参照)。それをきっかけに今回、演出を担当することになったという。【NAVI LOFTクリエイション企画】の企画意図や今後の展開、本作『さかさま』の演出プランに稽古の感想など、企画者で俳優の小熊ヒデジ、演出家の澄井葵、出演者の江上定子の3者にそれぞれの思いを聞いた。
NAVI LOFTクリエイション企画① ナビロフト×,5『さかさま』チラシ表
NAVI LOFTクリエイション企画① ナビロフト×,5『さかさま』チラシ表

── 【NAVI LOFTクリエイション企画】は、この『さかさま』が初めての作品になりますが、演出は最初から澄井さんにお願いしようと?

小熊 そうです。去年の『INDEPENDENT:NGY』で澄井さんと出会って、打ち上げの時に「一緒に何かやれるといいよね」という話をして。それをずっと、どういう形だったら出来るか考えていて、それとは別に「ナビロフト」で何かモノを創っていくことも始めたいと思っていたので、じゃあそれを合わせるとちょうどいいなと思って、「こういう企画でやりませんか?」と話をしたんです。

── 小熊さんと江上さんが出演されるというのは、どのように決まったんでしょう。

澄井 最初に声を掛けていただいた時は、小熊さんの一人芝居というか、「作品をひとつパッケージとして持っていて、どこでも上演できるものを」ということだったのでテキストをいろいろ探していたんですよ。今回の『さかさま』は、〈リクウズルーム〉の佐々木透さんの作品なんですけど、東京にいた頃に出会って作品をいろいろ見せていただいた時に、この作品は小説で書かれていたんですね。「これを上演するのは難しいな」と思ったんですが、「面白い作品なのでやってみたい」という気持ちがずっと私の中にありまして。ただ、上演するには俳優さんの選び方の部分ですごく難しいテキストなので燻らせていたんですけど、今回の企画に向けてあれやこれや探した時に、「あ、あるじゃん」と。これが出来たら凄いと思って小熊さんに言って、登場人物に女の子が出てくるので、この少女が出来るのは、私が知る限り名古屋界隈では江上さんしかいないと思ったんです。

── 江上さんは、2016年に澄井さんが演出された岸田國士戯曲短編上演集『ことばのあや』にも出演されていますが、その時にご一緒された経験から?

澄井 そうですね。どういう風にお芝居を創るか、ということの信頼がすごくありましたし、今回の作品のような少女役は、江上さんくらいファンタジーな質感の方じゃないと出来ない、という確信でお声掛けしました(笑)。最初の小熊さんのオーダーとは変わってきちゃったんですけど、もしかしたら二人で全国を回っていっていただけるのであればいいなと。

── 小熊さんは、この作品を澄井さんから提示されてどう思われましたか?

小熊 原作の小説を読ませてもらったことがあって、大変だなぁと思いましたね。でも澄井さんと一緒にやる以上、大変さは免れないな、という思いはどこかにあったので。

澄井 そうなんですね! 小熊さんから「無理」とかそういう言葉は一切なくて感謝しているんですけど、そうだったんですね(笑)。

── それは『INDEPENDENT:NGY』での作業をご覧になってそう思ったんですか?

小熊 『INDEPENDENT:NGY』の時はそこまで具体的に考えていなかったけど、少なくとも今まで僕が一緒にやったことのないタイプの演出家、ということは思っていました。上演作品を観ても、簡単ではないだろうなと。でも、一緒にやりたいというか、やるべきだと思ったのは勘でしょうね。澄井さんは、僕の芝居は観たことがないんですよ。『INDEPENDENT:NGY』の時は制作で受付周りをやっていたんですけど、打ち上げの時に澄井さんが僕のことを、「面白い身体の状態だ」と言ったんです。それがとても印象深かったのと、幾つかの団体が出る中、一人だけ明らかに立ち位置が違う人がいると思って(笑)。作品の佇まいみたいなものがとても興味深いと思いました。
稽古風景より
稽古風景より

── 澄井さんが小熊さんに仰った、「面白い身体の状態」というのは?

澄井 受付って、ここにスタッフがいますよ、と受付に張り付いた感じがするんですけど、小熊さんはどちらかというと“劇場に張り付いてる”というんですかね。それがすごく良くて、この人はどういう方なんだろう? と。もちろんお名前はたくさん見ますし、俳優や演出をやっていらっしゃるのは知ってはいたんですけど、こういう立ち位置なんだ…と、すごく不思議でそのまま「不思議ですよね」って言っちゃったんですよね。
 年齢差も結構あるのに、私がいろいろ言ってもそのまま素直に言葉を受け入れてくださるので、これだけキャリアがあって若手演出の人間にオープンになってくださる俳優は小熊さん以外知らないですね。立場とかキャリアがあって、どうしても上から物を言われる方もいますけど、小熊さんは絶対にそうじゃないので有難いです。江上さんもですけど。

── 江上さんは澄井さんからオファーをいただいた時、どう思われましたか。

江上 役者をやらせていただく時はだいたい来たお話は断らないんですけど、澄井さんの演出は経験があるので、もう二つ返事で「やります」と。台本をもらった時はハテナがいっぱいで、「どうするんだろう? これ」と思いました。澄井さんの頭の中はこういう風になっているのかな、と。

── 原作は小説ということですが、テキストは編集されている?

澄井 そうですね。元は小説として書かれていて地の文があるので、台詞と地の文を整えて、演劇としての効果を足したり引いたりしています。元の本とは少し違う話になっているんですけど、最終地点は一緒だと思っています。

── どういうトーンや間合いで発声していったらいいのか、俳優にとって難しそうな台本ですよね。

江上 澄井さんのプランを言ってくださるので、私は早い時期に考えるのをやめました。考えたら考えただけつまらなくなるなと思って、なんとなくの雰囲気でやっています。

澄井 俳優さんが一番大変だと思うのは、普通の演出家は「ここはもっと強く」とか、はっきり「こういう演技をしてください」と言うと思うんですけど、私は逆に「どちらとも捉えられる言い方をしてください」と言うんですよ。時間も、今が過去なのか現在なのかもわからないように、と。変な話、断定してしまうとお客さんが読んでしまうので、「読まれないように逃げ続けてください」と言います。特に江上さんはそういう役どころですし、小熊さんが前半、過去形でずっと喋るところも、“どの過去なのか”というのがいろいろ飛んだりするので、それが行ったり来たりする中で「こうしてください」とオーダーするので大変だろうなと。
 絶対的に「このようにやってほしい」と指示する形ではなくて、まず俳優さんから出てきたものを見て、そこから味付けというか、その状況に対して俳優さんからどんな質感が出てくるかを見ないと判断ができない。その上で、じゃあこう配置しようとか、こういう構成にしよう、というのを流れの中で客観的に修正するので曖昧な言い方になりがちなんです。

── 前回拝見した『ことばのあや』にしても、今日の稽古から受けた印象からも、澄井さんはわりと静かな感じの作品を創られることが多いのかなと。

澄井 そうですね。通常の、人が話している以上に強く発してしまうとそこにドラマが生まれるから、お客さんが簡単に読んでしまうというのか。お客さんは観るつもりで来ているので、そこで俳優が強く動き始めたら先を推測し始めるので、そうではない、リアルタイムで起こっていることだけを目の当たりにしてもらいたい、と思っているんです。できるだけ抑えて、狙っているところ以上の振り幅を出さないところもありますし、逆にそれを狙って物語の方に押し出して通すみたいな、ゲージを上げ下げするようなことをやりたいと思っていますし、やってきました。
 あと、これが一番ネックなんですけど、こういうことをやっていただける俳優さんにしか声を掛けることができなくて。興味を持っていただいて、且つそれができる俳優さんは、かなりキャリアがあったりするんですね。なのでなかなかやっていただける方が少ないんですけど、今回に関しては本当にお二人ともそのあたりを承知してくださっています。そうではない俳優さんと一緒にやったりすると、そこをまず理解してもらわなくてはいけないので、かなりスタートのハードルが高かったりします。
稽古風景より
稽古風景より

── 今回の演出については、どんな点を重視されましたか。

澄井 毎回そうなんですけど、感覚を疑うというか、お客さんが日常で生きている時に使っている感覚とは全く異なる部分で観てもらいたい、と思って演出しています。全く異なるのか、無自覚に使っているのか、という部分のゲージを上げたいんです。皮膚感覚であったり、思考力ではなく感覚の部分で、目の前で更新され続ける情報を処理してもらいたいな、と。俳優さんたちは実際には“逆さま”にはなりませんけど、それを“逆さま”として観る中で、自分たちの日常とか存在というものに疑いを持ったり、「どうやって生きていたんだっけ?」というところに立ち返ってもらえるといいな、と思います。

── 小熊さんは、「大変さは免れない」と予想されていた澄井さんの演出を実際に受けてみて、どうですか?

小熊 大変だろうと思っていたのは、彼女の思っていることを俳優として体現していくわけなので、澄井さんの世界観というのかセンスといえばいいのか、それにどこまで自分が食らい付いていけるか、ということ。澄井さんが思っているような、或いは彼女が面白がれるような芝居にちゃんとたどり着けるかどうかが大変だろうな、と思ったんです。

澄井 抽象的な作品を創る演出家は、理論的、理性的に創る人の方が多いと思うんですけど、私の悪いところは本当に抽象的な作品を創るくせに、演出の仕方も抽象的なんです。その抽象性をすごく理性的に引き受けて消化してくださる俳優さんたちの存在に救われています(笑)。

── でもその抽象性が澄井さんの演出の良いカラーになっているわけですよね。

小熊 もしかしたら結果としてそうなのかもしれない。演じる側としては、抽象的な分遊びみたいなものがあって微調整をつけていくことができるので、作業としてやりがいのある部分ではあります。中には明確に言う演出家もいますよね。極端に言うと「こっち向いて」とか。そういう芝居は俳優にとっては余白が少ないけれど、澄井さんのようなオーダーの仕方は、俳優としてはその余白の部分を楽しめます。

澄井 「こっち向いて」とか言うのは、その時はそのタイミングでこっちを向くのが面白い…ということなので、それよりも、今この状況が「面白かった」と伝えて、“その面白さに達するアプローチ”を俳優さんがしてくれることの方が大事なんです。逆に「ここでこっち向いて」と言ったことで面白くなくなってしまう方が嫌なので、俳優さんが「ここまで狙ってやっていいんだ」というところさえ理解してもらえればいい。ただ、それは俳優さんの持っている力量が問われるところでもあって、小熊さんや江上さんはそのあたりをわかってやってくださるので嬉しいです。

── ビジュアル的にはどんな感じになりそうですか?

小熊 すごくシンプルです。そんなに建て込まなくて具象ではない。でもおそらく作品と相まって印象的な舞台にはなるかなと。「ナビロフト」の空間を広く使います。
稽古風景より
稽古風景より

── 〈,5〉というのは澄井さん単体のユニット名なんですよね。お名前の由来というのは?

澄井 私が何かやる時のユニット名ですね。ついていると余分だし、無いと足りない、完成されないというのか。私の創るものは、余分なことしかしないかもしれないし足りないかもしれないという実験的な挑戦の要素が多いので、そういうユニットなんだぞ、ということを暗に言っているんです。そんなのわかるかー!ってことですけど(笑)。

── 劇団にされないのは、お一人の方が動きやすいから?

澄井 そうですね。自分がチャレンジしたい内容もその時々で変わってきますので、その時に団体だと身体が重くなるので。

── その分、俳優さんをその都度見つけるのがちょっと大変だと。

澄井 最近は「一緒にやりたい」と仰っていただくこともあるんですけども、やっぱり質感が絶対大きいので、「今回はこの質感だな」という感覚に合った俳優さんに声を掛けたいというのはあります。江上さんはずっと声を掛けさせていただいているので、私がその質感にハマっているんです。

── 今後のご活動については?

澄井 基本的に年に一回、何かできればいいかなと思っていまして、〈,5〉の名前の由来上、何かにくっつこうと思っているんです(笑)。本公演をバンバン打つタイプのものではなく、何かのついでに付ける、というのが生存戦略のひとつなので(笑)。

── 【NAVI LOFTクリエイション企画】としては、今後どういった展開になりそうですか。

小熊 とりあえず来年は6月ぐらいにやろうと思っているので、年1回ぐらいで継続していけたらいいなと思っています。

── それは演出家と俳優の組み合わせもいろいろ変えながら?

小熊 そうですね。どういう風になるかわからないけど、様子を見ながらやっていけたらなと。要はプロデュース公演なので、できればそこでいろいろなアーティストが出会うことがきる場になればいいなと。若手の人だったら、いろいろな俳優と一緒に作業する機会だったり、ベテランの人だったら、新しい若い才能から刺激を受ける場であったらいいなと思うし、ゆくゆくはナビロフト発の作品としていろいろなところで上演できるようになるといいなぁという風には思っています。
NAVI LOFTクリエイション企画① ナビロフト×,5『さかさま』チラシ裏
NAVI LOFTクリエイション企画① ナビロフト×,5『さかさま』チラシ裏

取材・文=望月勝美

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