BTS(防弾少年団)はなぜ世界を制圧できたのか?

wezzy

2018/9/8 00:15


 BTS防弾少年団)の最新アルバム『LOVE YOURSELF 結‘Answer’』が、アメリカのビルボードアルバムチャート(9月2日付)で初登場1位を獲得した。

BTS(防弾少年団)は今年5月にも『LOVE YOURSELF 轉‘Tear’』がアルバムチャートで1位を獲得。英語以外の言葉で歌われたアルバムとしてはイル・ディーボ『アンコール』以来12年ぶりの快挙として大きく報じられたばかりだ。

『LOVE YOURSELF 結‘Answer’』のタイトル曲である「IDOL」は、ミュージックビデオが8月24日(韓国時間)に公開されるやいなや、24時間で4500万回の再生回数を記録。これはテイラー・スウィフトが「Look What Make You Me Do」で記録していた4320万回を大きく上回り、YouTube公開後24時間の再生回数で世界一を記録した。

この「IDOL」は<You can call me artist/You can call me idol><I don’t care/I’m proud of it>と歌い、ヒップホップ・R&BグループであるとともにアイドルでもあるBTSの複雑な立ち位置を改めて確認するような内容となっている。

ファンにはよく知られている通り、BTSはもともとアイドルとして結成されたグループではない。JYPエンターテインメントで作曲家としてキャリアを積んでいたプロデューサーのパン・シヒョク氏によって企画されたヒップホップグループのプロジェクトとして始まっている。

所属事務所も、SMエンターテインメント(東方神起、少女時代、EXO、Red Velvetなど)、YGエンターテインメント(BIGBANG、2NE1、BLACKPINK、iKONなど)、JYPエンターテインメント(2PM、TWICEなど)といった大手事務所ではなく、パン・シヒョク氏が設立したビックヒットエンターテインメントからデビューしている。

そういった経緯もあり、BTSのメンバーは作詞・作曲・振り付けなどのクリエイティブにも積極的に関わっている(BIGBANGを始めとしてこのようなパターンはK-POPには珍しくないが)。

そして、彼らが歌う楽曲の内容も、「ボーイミーツガール」なラブソングなどのいわゆるアイドル楽曲の類型を逸脱し、メンタルヘルスの問題や、貧困・雇用など、まさに若者世代が直面している社会問題に踏み込むこともある。

「防弾少年団」というグループ名には「10代、20代に向けられる抑圧や偏見を止め、自身たちの音楽を守り抜く」という意味合いが込められているが、そのコンセプトを貫徹しているともいえる。

たとえば、「DOPE」では、「三放世代」(低賃金により「恋愛」「結婚」「出産」を諦めざるを得なくなった若者を指す総称)といったワードを歌詞のなかに入れ込み、自分たちの世代を簡単にカテゴライズしたうえ見放そうとする大人やメディアへの怒りを歌っている。

そういった<You can call me artist>といえる要素は歌詞の内容だけではなく、音楽的な技術やヒップホップ文化に対するリテラシーの高さという面でも同じだ。

『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)6月12日放送回にゲスト出演した丸屋九兵衛氏(音楽情報サイト「bmr」編集長)は、2014年に自身が行ったBTSとのインタビューの思い出を語りながらそういった点を指摘する。

丸屋氏はインタビューのなかでBTSの各メンバーに「好きなアーティストは?」という質問をぶつけたのだが、その回答に驚かされたと語っていた。

<シュガ君がすごくて。この人1993年生まれですよ。『好きなアーティストはボーン・サグズン・ハーモニーとスリー・6・マフィアです』と。1993年生まれの男がそれを好きって、すごいでしょ>

ボーン・サグズン・ハーモニーもスリー・6・マフィアも、両方とも1990年代中盤に活躍したアメリカのヒップホップグループ。シュガにとっては生まれたちょうどその頃に全盛期を迎えていたグループであり、ブラックミュージックの歴史を勉強していないとこれらの名前は出てこない。

こういった逸話を紹介したうえで丸屋氏は、BTSがアメリカで成功した理由を<ヒップホップリテラシーが高い。韓国人ラッパーのなかでもずば抜けてヒップホップリテラシーが高かったというのも、あるのかもしれないなと思って>と指摘する。

ただ、BTSがグルーバルな成功をおさめ、さらに、少女時代やBIGBANGや2NE1などのK-POPグループがどうしても崩しきれなかった牙城であるアメリカのチャートまで手中におさめたのは<You can call me idol>の要素を決して忘れなかったからでもあるのかもしれない。

BTSの楽曲はヒップホップ・R&Bの最新トレンドを取り入れつつも、ひとつのフレーズのループだけで楽曲全体を押し切ることも多いアメリカのヒップホップ・R&B系ヒット曲とは違い、「Aメロ、Bメロ、サビ」的な展開のある構成を堅持している。

「ミュージックマガジン」(ミュージックマガジン社)2018年8月号に掲載されたsoulitude氏と鳥居咲子氏による論考のなかで二人は、パン・シヒョク氏による<BTSを制作した初期段階からK-POP特有の価値観は守っていこうと思っていた>という発言を引用しつつ、アメリカのブラックミュージックの傾向に寄せ過ぎずにK-POPアイドルのかたちを守り続けたことが、逆にアメリカでの成功を呼び寄せたのではないかと指摘する。

<前の世代のK-POPアイドルがアメリカ進出を試みた頃は、現地のプロデューサーを雇って現地のトレンドに溶け込むような楽曲で勝負しようとした。タイミング的に合わなかったという部分もあるかもしれないが、やはりそのやり方だと現地のアーティストの音楽を聴けば済んでしまうという点で結果が実りにくかったのではないだろうか。対してBTSはありのままのK-POPで勝負に出た。グルーバルに注目されるようになってからも、その姿勢や音楽性は変わらなかった。彼らでないとできない音楽、彼らでないと出せない魅力を守ってきた>

BTSがこういった選択をとることができたのは、先行するK-POPグループたちの挑戦によって蓄えられた知見によるものも多いはずでその点は忘れてはならないが、BTSのとったアプローチは日本の音楽業界にも学ぶことのできるものがたくさんあるはずだ。

また、BTSの成功はポップミュージック以外の分野でも大きな変革をもたらすかもしれない。

「ユリイカ」(青土社)2018年8月号において音楽ライターの磯部涼氏は<アメリカにおいてアジア系男性は最もセクシーではない存在だと思われていたわけですが、BTSはその壁を突き崩した>と指摘している。

確かに、ラスベガスで開かれた「ビルボード・ミュージック・アワード2018」(現地時間2018年5月20日)においてパフォーマンスされた「FAKE LOVE」のなかでジョングクがシャツの裾をたくし上げてシックスパックに割れた腹筋を見せた瞬間、会場は割れるような歓声に包まれるが、観客席を映すカメラを見る限り、アジア系はもとより、黒人や白人などさまざまな人種の人たちが盛り上がっている。

BTSのビルボード総合アルバムチャート1位のニュースを揶揄する言説として「どうせ韓国系のアメリカ人が聴いてるだけ」というものがあるが、「ビルボード・ミュージック・アワード2018」のパフォーマンスを見ると、それが的を射た指摘でないことがよくわかる(とはいえ、BTSが良いチャートアクションをするのは「ARMY」と呼ばれる強力なファンダムのおかげという要素も確かにあるが)。

これまでハリウッドの世界では東アジア系の男性はセクシーな存在として描かれることはあまりなかった。

ブルース・リー、ジャッキー・チェン、ドニー・イェン、ジェット・リー、イ・ビョンホンといった俳優たちのアクションが高く評価され、彼らの身体表現がセクシーと見られることもあったかもしれないが、ジョングクの腹筋に対する反応は、それらとは少し意味合いの異なるものである。

BTSの成功と、それによって変わった見方は、アジア系俳優にとって新たなタイプの仕事を生み出すきっかけとなるかもしれない。

現在BTSはアメリカ、カナダ、ヨーロッパなど世界各国11都市をまわるワールドツアーを行っており、日本では11月13日と14日の東京ドーム公演など、東京、名古屋、大阪、福岡で9公演が予定されている。このツアーと最新アルバム『LOVE YOURSELF 結‘Answer’』を経たBTSは次にどんな展開を見せてくれるのか。

(倉野尾 実)

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