『探偵が早すぎる』は今から見ても遅すぎない!脚本家に聞いたドラマ化のポイントはここだ!

9月に入りいよいよ盛り上がってきた木曜深夜のドラマ「探偵が早すぎる」。事件が起きる前に解決しちゃう探偵物ということで注目を浴びた小説を原作にし、コミカルな魅力がいっぱいの連ドラだ。面白そうだったけどここまで見逃してたなあ、というあなた!タイトルは早すぎる、だけどいまから見ても遅すぎない!これから楽しみたいあなたのために、脚本家・宇田学氏に聞いたシナリオ作りでのとっておきポイントを紹介しよう。これまでも「99.9-刑事専門弁護士」などでコミカルな一方で深みもある事件物を生み出してきた宇田氏が語ってくれた「探偵が早すぎる」の奥行きとは?

【取材/文:境 治】

1)絶妙な掛け合いが面白いメインの二人は、原作では接点がなかった?!

「探偵が早すぎる」は突如5兆円を相続することになった十川一華(広瀬アリス)と、相続を阻もうと送り込まれた刺客から事が起こる前に救ってしまう奇妙な探偵・千曲川光(滝藤賢一)の、絶妙な掛け合いが大きな魅力だ。この二人の関係をどうドラマ化したのか、まず宇田氏に聞くと意外な答えが返ってきた!

宇田氏「ポイントになったのは、千曲川と一華をどう引き合わすのかですかね。原作では、千曲川は一華とほとんど接触を持ちません。見えない場所から、一華が気づかない間にトリック返しをしています。それが原作の面白さでした。」
なんと!ドラマでは二人の掛け合いが面白いのに原作では接触がなかったと言うのだ!

宇田氏「ドラマになる上では2人を引き合わさないわけにはいきません。面白さを消さないように、付かず離れず2人の距離感を保たせることをまず考えました。そのため、千曲川はキャラクターを一華は背景を大きく変えようと決断したのです。そうなると、橋田の役割もかなり重要な位置になり、原作のキャラクターを活かしつつ、千曲川と一華の間をしっかりと取り持てるように描こうと思いました。」

なるほど、探偵・千曲川を連れて来るのは水野美紀演じる家政婦・橋田政子だったのだが、橋田を浮上させることで一華と千曲川の関係が出てきたのだ。「ドラマ化」のひとつの技術が浮かび上がってくる話だ。

2)新たな女優力が開花した広瀬アリスのコメディエンヌぶり!

「探偵が早すぎる」は、一華を演じる広瀬アリスのこれまでにないコメディエンヌぶりが話題だ。美しい顔をひんまげて変顔を見せてくれたり、怒ったり泣いたり感情の起伏を面白おかしく演じている。女優の中でも美人度が高い広瀬アリスが、「わろてんか」でも見せたコミカルな芝居をさらに進化させ、新たな魅力を示してくれた。これはさぞかし脚本の段階から練られたのだろうと聞いてみたのだが、これも意外な答えだった。

宇田氏「僕は広瀬さんをテレビでしか拝見したことがなかったのですが、一華のような天真爛漫なイメージがありました。ですので書いている段階でキャラクターの肉付けはしやすかったと思います。もちろんプロデューサーさんとの話し合いの中で詰めていきましたよ。一華は苦しい環境の中に置かれている人物が明るく前向きに生きていく。そんなキャタクターを共有していました。」
おや?イメージしていた回答とちょっとちがう?

宇田氏「ドラマになる段階でできる限りコメディに振り切ってみようというコンセプトもあったので、コメディエンヌに関しては、僕の書き方がどうこうではないと思います。広瀬さんが一華を演じながら、どんどん広げていってくれたと思います。コメディって、芝居の中で一番難しいですよね。いや、本当に素晴らしい女優さんだと思います。」

宇田氏として決めたのは「明るく生きる女性」というキャラクターで、コメディエンヌの演技はむしろ広瀬アリスが自分で広げていったらしい。一華の役作りを通して、広瀬アリスが自身の女優力をまた新しく開花させたのなら、「探偵が早すぎる」にはドラマの面白さ以上の価値があるのかもしれない。今後の広瀬アリスにとって大きなマイルストーンとして語られる作品になりそうだ。

3)家族みんなで楽しめる!宇田氏の姿勢が存分に出た面白さと深さ!

筆者は「99.9」も大好きだったしNHK「4号警備」も見ていた。これら宇田脚本のドラマには共通する魅力がある。それは「思い切り笑えるコミカルな事件物」とでも呼ぶべきもの。犯罪が扱われる緊迫感や重みがありつつ、大笑いしながら見てしまうのだ。「探偵が早すぎる」もそんな楽しさ満載なのだが、この点も聞いてみた。

宇田氏「僕はテレビの前で家族みんなで笑って見れるような作品をいつも心がけています。ですので、自然とコミカルものになってしまってるのかもしれません。重いテーマを扱う時でも、ただただ重くしてしまうより、重いテーマの中に笑いを盛り込むことで、そのテーマがより重く伝わることがあると思います。短い時間の中でどれだけ振り幅を大きい物語を書けるか。それが僕の作品に共通していることかもしれません。」
みんなで見てもらえるドラマ。確かに”宇田ドラマ”にはそれがある。ただネット配信も普及した中で、いまはなかなか難しいのではないだろうか?

宇田氏「『視聴率なんて今の時代……』という声もよく聞きますが、脚本家はそこに責任を持たないといけないと思っています。ネット配信が増えようと、視聴率を取っているドラマはあるわけですし。リアルタイムで見たいと思ってくれる人がいるということです。」
「ドラマって本当みんな必死になって作っているんです。見てる人たちに笑ってもらいたい、涙を流してもらいたい、共感してもらいたい。様々な思いでどうやったら面白いドラマになるのか、皆が必死に考えてます。だからこそ、僕は多くの人に見てもらえるような作品を作り続けていかないといけないと考えています。」

宇田氏のドラマは笑っているうちにグッと心に刺さるのだが、この回答もまた心にグッと沁みる。熱い志をいつも胸に脚本を書いているにちがいない。作品からそれは伝わっていたが、あらためて取材に答えてもらって熱を感じた。「探偵が早すぎる」もいよいよクライマックスを迎えて笑いのボルテージも高まりつつ、宇田氏が込めた思いも高まって来るのだろう。一華はついに五兆円を受け取るのか。彼女をささえてきた橋田はどんな思いを秘めているのか。変人探偵・千曲川は結局ただ変人なだけなのか。いろいろ気になる「探偵が早すぎる」の結末を、みなさん一緒に見届けようではないか!【宇田 学プロフィール】

うだ・まなぶ  脚本、演出家。
旗上げ時より劇団の脚本・演出を行う。綿密な取材力、キャラクター作り、あらゆる人間にスポットをあてた群像劇を得意とする。近年は舞台にとどまらず、ドラマや映画の脚本活動も精力的に行っている。
<主な脚本作品>
フジテレビ『TOKYOコントロール』『ラッキーセブン』『TOKYOエアポート』
TBS『99.9-刑事専門弁護士-』(season1・2)『ORANGE~1.17 消防士の魂の物語~』
NHK『ボーダーライン』『悪夢』『4号警備』
舞台TEAM NACSニッポン公演『WARRIOR~唄い続ける侍ロマン』
映画『万能鑑定士Q-モナ・リザの瞳-』
<受賞歴>
2015年、NHKバリバラ特集ドラマ『悪夢』で市川森一脚本賞<奨励賞>受賞。
2016年、同作品でニューヨークフェスティバル受賞。

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