着たい服を見失った大人へ。「カワイイ」先駆者が語る“色”の取り戻し方

女子SPA!

2018/9/5 15:45



『世界にひとつだけの「カワイイ」の見つけ方』、こんなワクワクする本の筆者は、増田セバスチャン。きゃりーぱみゅぱみゅの『PONPONPON』MV美術で一躍注目された、いわば「カワイイ」の先駆者です。

原宿の「カワイイ」文化は世界に飛び出し、「KAWAII」は今や世界の公用語。著者がオーナーを務めるショップ「6%DOKIDOKI」も原宿にあり、ハッピーだけを凝縮したようなファッションや雑貨であふれています。

しかし著者は「『カワイイ』はけっして、単に愛らしい、ポップでカラフルな要素だけで成立しているものではない」と断言しています。

◆はなやかさの裏にひそむ「生きづらさ」

増田セバスチャン氏は1970年生まれで千葉県松戸出身。家にも学校にもなじめず、持て余したエネルギーに押されるように原宿にたどりつき、同じような仲間と時間を過ごしていたのだとか。

たまたま私も、同い年で埼玉出身という似通った境遇。「10代の頃、行き場のない思いを抱えながら千葉から原宿へ通う日々を過ごしていた」という著者と同じように私も、田舎にいる野暮ったい自分から脱皮し、本当の自分を探しに原宿へ通っていたのです。ここではないどこかにいる素敵な自分を求めて「原宿」に出かけた若者は、きっと私以外にも大勢いるのではないでしょうか。

今も昔も、10代は閉塞感にとらわれるもの。私もそうした10代を経験したので、著者の言う「生産性のない空虚な日々でしたが、若い無力な時間の記憶は濃密で、その舞台となった原宿は思い入れのある場所」というのが、痛いほどわかります。「生きづらさ」を抱えて原宿に流れつき、「カワイイ」を手に入れる若者たち。しかし、「見た目からでは判断できない悲しい影もまた、原宿という街に射し入っている」と筆者。

「『カワイイ』は裏と表が合わさって初めて成立する」という増田セバスチャンの「カワイイ観」は、どうやらこれらの“影”を背景にしているようです。

氾濫する色彩の中に混ざり込むネガティブな『毒気』、明るさと暗さのバランスが「カワイイ」に不可欠であると述べながら、もとをたどれば「ネガティブな感情が材料となってできた、いわば『毒』かもしれません」と分析しています。

だからこそ、著者が発信する「カワイイ」には、日本の若者だけでなく、いろいろな世代、さらには海外の方々まで引き寄せるパワーがあるのではないでしょうか。

◆大人は「カワイイ」を手放した?

筆者が生み出す「カワイイ」の特徴は、踊り出したくなるような色彩と、どこか懐かしくて大胆なフォルム。子供の頃、親に内緒で食べた駄菓子に似ています。身体には悪そうだけど、惹きつけられずにはいられない、あの味です。

たとえば服装。私達は、幼い時には何の迷いも計算もなく、好きな色や形を選んでいたはずです。それなのに大人になった今、「TPOに合わせること」が第一となり、「好き」で選ぶことが困難になっている人も多いのでは?

「多くの人が生きる過程で、『色』を失っているように見える」と著者が言うように、大人になるにつれ、私達は知らず知らずのうちに自らの色や「カワイイ」を、手放してしまったのかもしれません。未来への希望に満ちた子どもの目に映る世界はカラフルですが、大人になるにつれ、家庭・学校・仕事……という重たい“荷物”が増え、現実が徐々に色あせていく、と筆者は説いています。

そこで「自分の色を再発見」するために筆者が勧めているのは「身の回りの一部(シャツ、靴下、カバン、携帯ケース、恥ずかしければ下着でも)をカラフルな色で飾ってみる」という方法。小物ひとつをカラフルに変えるだけで「その日一日の気分がなんとなく浮き足立ってくる」とか。たしかに、なんだか前向きな気分になれそうな気がします。

◆世界の大都市で「カワイイ」プロジェクト実施中

「タイム・アフター・タイム・カプセル」。これは著者が、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて進行させているプロジェクトです。

各都市の美術館などに、ハローキティやテディベアなどのキャラクター型の巨大透明タイムカプセルを設置し、集まった人々に自分だけの「カワイイ」ものやデコレーションした手紙をその中へ入れてもらうというもの。完成するのは「カワイイ」の集合体です。

ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、パリ、南アフリカ等々、すでに8か国で開催しているといいます。コンセプトは、「『カワイイ』の集合体で世界は変えられるのか?」。参加者は、世代も、性別も、人種も、国籍も、宗教もバラバラ。

原宿生まれの「カワイイ」が、日本人の私達を超越し、世界中を旅しているのです。高揚感と同時に、焦燥感を感じたのは私だけでしょうか。日本人として、「カワイイ」に恥ずかしくないように生きたいではありませんか。大人ですから、仕事や立場があります。今日から私は「カワイイ」に忠実になる、と宣言したとしても、いきなり極彩色のファッションで生活できるとは限りません。でも、小物で「カワイイ」を取り入れるのは可能です。

「できるだけたくさんの人に『色』を取り戻してもらいたい」と言った著者の願いは、一周まわってまた日本にかえってきているのです。ひとりひとりが独自の「カワイイ」を身につければ、日本はもっと明るくなるような気さえするのです。

もう一度、自分だけの「カワイイ」を探してみようかな。そんな思いに駆られました。

―小説家・森美樹のブックレビュー―

<文/森美樹>

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