5年ぶりに松下洸平+柿澤勇人ペアが復活する『スリル・ミー』、演劇好きもミュージカル好きも心奪われるたった二人だけのストレート・ミュージカル

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2018/8/16 18:00


ピアノ一台に、たった二人の出演者。緊張感溢れる心理劇であり、生々しい愛憎劇でもあり、そしてもちろんスリルに満ちた二人ミュージカル『スリル・ミー』が4年ぶりに上演される。1920年代にアメリカで実際に起こった事件をモチーフにしたこの舞台は2003年にニューヨークで初演され、その後はアメリカ各地だけでなく、オーストラリアや韓国などでも上演。日本では2011年に初演され、2014年まで毎年キャストを入れ替えて上演されてきた。その記念すべき日本初演に参加し、その後も2012年、2013年(ちなみに2014年もそれぞれ違う相手とのペアで出演している)に出演してきた伝説的な組み合わせとも言うべき“私”と“彼”、松下洸平と柿澤勇人。この顔合わせの『スリル・ミー』という意味では5年ぶりとなることもあり、久しぶりの共演に期待値は高まる一方だ。

当の本人たちに、作品への思い入れや意気込みなどを語ってもらった。

ーー『スリル・ミー』に、またこのペアで出演が決まった時のお気持ちはいかがでしたか。

松下:そもそも『スリル・ミー』を再演するという話を聞いた時、一番気になったのが相手役でした。これまで組んだことのない新たな俳優になるのか、それとも今までにやったことのある方になるのか。そこで挙がった名前が勇人だったので、もちろん嬉しさも安心感もあるんですけど、まず楽しみな気持ちのほうがすごく大きかったです。この組み合わせでは5年空いたことになるので。初演の2011年から始まり、2012年、2013年はずっと、お互いに1年間やってきた仕事の経験を『スリル・ミー』にぶつけるというのがライフワークみたいになっていたんです。だから今回は、この5年間のお互いの経験を『スリル・ミー』にぶつけられるということがすごく楽しみなんですよ。
松下洸平
松下洸平

柿澤:いつか絶対にまた、この組み合わせでやるだろうということは信じていたので「ああ、ついに来たか!」という思いでした。特に不安もないですし、かといって何か新しいものをやろうという風にも思ってはいないし。結果論として「新しいものになったね」と言う人がいれば、それでもいいですし、でも過去に僕たちがやってきた『スリル・ミー』は決して間違いではなかったと思っているので。基本的に台本は変わらないでしょうし、演出も、劇場が変わることによって細かい調整などはあるかもしれないですけどそれほど大きくは変わらないと思うんですよ。作品自体はもう何回もやらせてもらっているわけなので、また今回もあの二人きりの空間をもう一回、作り上げようということですね。その中から新しいものが生まれてきたらそれはそれで、演出の栗山(民也)さんと話し合って採用していけばいいだけのことですから。実際、変わるとは思うんですよ。年齢も変わり、経験値もわずかながらこの何年間で、積んできたものがあるので。それをぶつけるには、格好の場だと思います。洸平と同じく、僕もとても楽しみな気持ちでいっぱいです。

松下:僕も、このままでは終われないよなという気持ちはどこかであって。いつか再演の機会があったら、次はもう一回勇人とやれればいいなと思っていたので、確かに「ああ、来たか!」と僕も思いました。

ーー2011年の初演時を振り返ると、どんなことを思い出しますか。

松下:僕も勇人もこの作品で改めて「演劇ってすごいパワーを持っているな」と、自分自身の心に火がついたような気がするんですよ。勇人は四季を辞めて一発目の作品でしたし、僕もこの時に初めて栗山さんとご一緒できて、こんな大役をいただいたのは初めてでしたから。とにかく必死でしたし、もう一組の新納慎也さんと田代万里生さんペアの稽古をノートにメモを取りながら見ていたことや、栗山さんがおっしゃっていた言葉など、とてもよく覚えています。

柿澤:僕はそれまで劇団四季の大きめな劇場に立っていたのが、この『スリル・ミー』の初演はアトリエフォンテーヌでしたから一気に100席のキャパの劇場になって。でもそれは自分が望んでいたことでもあり、とにかく芝居がしたいという想いでいっぱいで、それがそのまま今に至るという感じなんですよね。その一本目の舞台が栗山さんとの作品で、立ち上げ、本読みから参加させていただいて。というか、僕たちはそもそもその前のオーディションから始まっているとも言えるんですけど。やっぱり、思い入れは相当ある作品ですし、役者としてのひとつのターニングポイントになった作品でもあると思います。
柿澤勇人
柿澤勇人

ーーその初演から考えると、7年という月日が経ったことにもなりますが。

柿澤:これは実際にアメリカで起きた事件がもとになった作品で、映画化もされているものなんですが。あらすじとしては同性愛のカップルでIQが200以上あって、法を学んでいる一方でニーチェを崇拝しているという、そういう意味では変わっているというか、普遍的ではないかもしれないんですけど、でも実際に演じてみると愛についてすごく考えさせられる作品なんです。そして人間というのはちょっとしたことがきっかけで、悪いほうへ、破綻に向かってどんどん転がっていってしまう、という。その点は7年経った今の日本でも、やはり起きていることでもあって。今、起きている不可解な事件、なんでこんなことが起きるの? ということが、実はこの芝居の中にもたくさん入っている気がします。だからこそ、今の日本のお客さんが見ても突き刺さるものがたくさんあると思う。観るのが辛い、苦しい部分もあるかもしれないですけど。

松下:2011年の頃と比べて自分自身がどう変わったかというのは、実際に立って稽古をしてみないとわからないですが。ただ、この作品の自分への影響力という意味で考えると、人が人を殺めてしまうことの動機について考えさせられる機会は増えたようにも思います。いわゆる「誰でも良かった」という通り魔的な事件のニュースも目にすることも多くなっている気がしますし、ニュースを見るたびに僕たちは『スリル・ミー』という作品の“当事者”としてもいろいろ考えてしまうんです。ですから、お客様にも2018年版の『スリル・ミー』を観て、また新たにいろいろなことを考えてほしいなとも思います。もちろんこれは愛の物語で、バイオレンスな部分がメインになっているわけではないんですが、そういう、人が人を殺めてしまうことへの葛藤とか動機とか。人間というのは何かが足りない生き物だから、そこには何が足りなかったんだろうということを自分に置き換えて考えることで、当たり前のようにあるものをもう一回大事に考えられるようになるきっかけにも、もしかしたらなるかもしれないという気がしています。二人の愛の物語に関しては、実際に稽古でお互いにセリフを言い合ってみて改めて感じとりたいですね。俳優としての成長というのはそれこそ稽古や本番でしか感じられない部分だから。今はまだそれは自分の中での楽しみとして取っておいて、あまり想像しないようにしています。でもたぶん、第一声でわかる気がするんですよね。
(左から)松下洸平、柿澤勇人
(左から)松下洸平、柿澤勇人

ーー稽古初日が、まずは楽しみですね。

松下:結構バイオレンスな、胸ぐらをつかんだりするシーンもあるんですけど。あれが意外と痛いんですよね……。

柿澤:いや、大丈夫。この5年で僕、相当痩せてるはずだからさ(笑)。

松下:だけどあの頃と、ギラギラ感が違う気がするからなあ。

柿澤:より、ギラついてる?(笑)

松下:ギラついてるね。僕、胸元にサポーターか何か入れておかなきゃいけないかも(笑)。

ーー前回は別のペアで『スリル・ミー』をやっていたわけですが、お互いの舞台はご覧になりましたか?

松下:もちろん観ましたよ。

柿澤:『スリル・ミー』に関しては、ペアが変われば違ってくるのが当たり前だというのは初演から思っていたので、相手役が変われば必然的に変わりますし。ちょっと別のものを観ているような感覚でしたね。
(左から)松下洸平、柿澤勇人
(左から)松下洸平、柿澤勇人

ーーこの5年の間に、それぞれ栗山さんとも別作品でお仕事をされていたので、おそらく信頼はさらに積み重ねられたと思いますが。

松下:でもこの間、栗山さんと話をしていた時に「おまえらのペアはゲネプロしか見ない」なんて言ってましたよ。お酒が入ってたせいもあると思うけど(笑)。おまえらは、もう稽古しなくてもいいだろって。

柿澤:勝手にやってろ、みたいな?(笑)

松下:もちろん冗談でしょうけどね。今回、もう一組の成河さん、福士誠治さんは『スリル・ミー』には初参加ですが、お二人ともものすごく素晴らしい俳優なので、むしろ僕らのほうがより稽古しなければいけないんじゃないかと思っているくらいなんですけど。でも実際のところ栗山さんが、世界中で一番僕たちのことを理解してくれているはずなんですよ。個々の俳優としても、僕と柿澤勇人という関係性にしても。ですから今年も、稽古で何を言われようがそれがすべてですから、全力でその言葉を吸収したいと思います。「老けたなあ」とか言われたらどうしよう、とか思いながら(笑)。

柿澤:「小細工ばっかりしやがって」とか?

松下:そうそう、「誰に習ったんだそれ」とか言われそう(笑)。そんな意味でも今回は原点回帰で、初演の時に栗山さんに言われたことをもう一回思い出すことが必要なのかなとも思います。
松下洸平
松下洸平

ーー初演の時には、栗山さんから厳しく言われたりもしたんですか?

柿澤:いや、栗山さんはそんなに言わないほうだよね。

松下:うん。厳しいというより、短い言葉で的確におっしゃってくださる演出家さんなので。でも今でも別の作品、別の現場で立ち止まった時に思い出せる言葉がいっぱいあるんですよね、栗山さんからいただいた言葉の中には。

柿澤:僕は栗山さんとご一緒したのは『スリル・ミー』と『デスノートTHE MUSICAL』の二作品だけですけど、どちらも初演からで。稽古の時間も短いですし、何回も繰り返さず、僕たちに的確に考えさせる言葉で宿題を与えて「次までにクリアして来い」みたいな無言の圧力があり。また、帰るのが早いんですよ(笑)。でもだからこそ短期集中できて、一発でとりあえず出せるものを出し、また課題をもらって話し合う。今回も、そういう稽古場になるんだろうなと思います。そしてどちらも初演と再演とで、基本的に栗山さんの思い描いているビジョン自体はあまり大きくは変わっていないんですよね。だから悔しいのは、初演の時にも言われていたのに、再演の時にもまた同じ指摘をされると「あ、これ、そういえば前も言われてた!」と思い出して。

松下:うんうん、あるね、そういうこと。

柿澤:そこがまさに栗山さんのこだわりだったりもするから、そこをクリアできていなかった時はものすごく悔しかったりするんです。

ーー成河さん、福士さんの初参加組に、ベテランペアのお二人からアドバイスをするとしたら。

松下:いやいやいや!

柿澤:もう、まったくないです!(笑)
柿澤勇人
柿澤勇人

松下:アドバイスなんて、おそれ多いですよ。特に1ファンとしては、成河さんと自分が同じ役をやるなんて。彼の脳味噌を通すと“私”ってこうなるのか!となりそうで、すごく楽しみなんです。以前、あれも栗山さんの演出作品でしたけど『アドルフに告ぐ』という作品でご一緒した時、彼がこの作品が大好きだというので、よく二人で『スリル・ミー』ごっこをやっていたんですよ。

柿澤:ふうーん! そうなんだ!!

松下:その時から、栗山さんの口から成河さんの名前は出ていたんですよね。「『スリル・ミー』をいつかまたやることになったら、おまえ、やれよ」って、しょっちゅう言ってましたから。だからそれこそ「ついにこの日が来たな!」という感じもしているんです。きっと、より演劇的な、質の高い演目にしてくれるお二人なんじゃないかと思いますし。決してエンタメに走らず、むしろそこに背を向けて逆走していきたいんですよね、この作品だけは。流行とかブームの乗るのではなく、ちゃんとしたものを演劇として残せるものですし、そうしないといけない作品ですから。

柿澤:僕としても「拝見させていただきます!」という気持ちしかないです。そしてお二人のいいところは全部パクらせていただいて(笑)。だけど23歳の時から僕たちはこの演目をやってきて、その間いつも下っ端として先輩たちの背中を見ながらやってきた感覚があったんですね。だからなんだか、そういう変な癖みたいなのがついてるのかもしれなくて。今回はお二人とも先輩だから問題ないですが、今後もしかしたら僕たちよりも若い20代の俳優がこの作品をやる機会が出て来るかもしれないのに、その時もやっぱり「勉強させていただきます!」という気持ちでやってしまうかもしれないですね(笑)。

ーー『スリル・ミー』は演劇好きの人も、ミュージカル好きの人も、どちらの興味もひける作品かと思います。ずっと気になりつつも未見の方がまだまだいらっしゃると思いますので、ぜひお二人からお誘いのメッセージをいただけますか。

松下:『スリル・ミー』でしか味わえないスリルがあって、どの演劇にもない緊張感がある作品なので、まずはぜひそこを楽しみにしていただきたいです。栗山さんがよく「これはストレート・ミュージカルだ」とおっしゃっているのですが、まさにその言葉通りで。単なるエンタメではなく質の高い演劇作品として残せるように、僕たちもこの5年間の経験を全部この『スリル・ミー』に注ぐつもりで臨みます。ぜひあの独特の空気を、観るというより体験しに来ていただきたいですね。

柿澤:『スリル・ミー』をご覧になったことのある方へは、松下洸平とは5年ぶりなので「お待たせしました!」という感じで。そして、まだ観たことのない方へは、こういう100分間はなかなか日常では味わえないものですし、演劇の中でも体験することのできない特別な100分間だと思うんです。演劇好きな方にもミュージカル好きな方にも、「こんなにすげー作品があったんだ!」って言わせてみせます! ぜひ、劇場にお越しください!!
(左から)松下洸平、柿澤勇人
(左から)松下洸平、柿澤勇人

取材・文=田中里津子 撮影=山本れお

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