最後のインド総督マウントバッテン卿「英国総督 最後の家」単純な美談では終わらない誠実さ

エキレビ!

2018/8/15 09:45

なんとなく昔からずっとあの感じであの位置にあると思っている国、インド。しかし、現在のインドは70年ほど前にイギリス領から独立してできた国である。『英国総督 最後の家』は、世界第2位の人口の国がいきなりできるのはめちゃくちゃ大変……というのをわかりやすく教えてくれる。


貴族にして軍人! マウントバッテン卿、最後のインド総督として着任す
『英国総督 最後の家』の主人公は、フルネームだとルイス・フランシス・アルバート・ヴィクター・ニコラス・マウントバッテンという長い名前の貴族だ。「マウントバッテン」という耳馴染みのない名前は、日本で言えば「土御門」とか「姉小路」みたいな感じの苗字である。元々は「バッテンベルグ」というドイツ系の姓だったのだが、第一次大戦時の反ドイツ機運によって「ベルグ」の部分を同じ意味で英訳して「マウント」とし、マウントバッテンとなった……という人だ。

このマウントバッテン卿、貴族の生まれながら若い頃からイギリス海軍で活躍し、中将にまで昇進。第二次大戦が始まった後、ヨーロッパでは駆逐艦に乗り込んで戦い、さらに1941年に太平洋戦争が始まってからは東南アジア方面連合軍最高司令官に就任。主にインドの東側に位置するビルマでの作戦を指揮し、緒戦では日本軍に痛めつけられたものの最終的に攻勢に出て勝利したというタフな軍人でもある。若い頃には皇太子と一緒に軍艦に乗って当時は同盟国だった日本に来たりもしていたが、その後の太平洋戦争では散々な目に遭わされため大の日本嫌いになり、天皇訪欧の際にレセプション出席を最後まで固辞。しかし「軍は政治的裁判に関わるべきではない」という理由で東京裁判は批判していたという、それなりに筋の通った人物だ。

第二次大戦が終わって間もない1947年、マウントバッテンに申しつけられたのがインド総督の任務である。大戦で疲弊し、植民地の面倒を見られなくなったイギリスはインドの独立を決定。戦時中にビルマやインドで戦っていたマウントバッテンなら経験的にも身分的にも適任だろうということで、最後のインド総督として主権譲渡のために派遣されることになったのだ。『英国総督 最後の家』は、そのマウントバッテンが総督官邸にやってくるところから始まる。

使用人は500人、壮大すぎるインド総督官邸
総督官邸は巨大な建物である。なんせただの個人邸ではなく、様々な国の要人が来たり総督が執務に励んだりする立派な行政施設だ。大広間と迎賓室がそれぞれ34部屋、食堂が10部屋もあり、映写室まである。屋敷に仕える使用人は500人。映画の冒頭では、この巨大な豪邸の中でカラフルな制服を着たインド人使用人たちがずらりと並んで仕事をする様子が映される。さながらおとぎ話のような豪華さである。

実際、当時のインドはイギリスに比べて豊かな土地だったことも示される。マウントバッテン家の飼い犬のために使用人たちが餌を持ってくるのだが、その餌が綺麗に盛り付けられた鶏肉なのだ。たとえ貴族といえど大戦以降の貧乏暮らしからは逃れられなかったマウントバッテン家の人々からすると、フレッシュな鶏肉はご馳走だ。貴族なのに犬の餌をつまみ食いして「うまい……!」となっているシーンは「イギリスも大変だったんだね……」と同情を誘う。

そんな中、マウントバッテンとその妻エドウィナはインド独立のため尽力する。屋敷の使用人達とも交流をはかり、「色々言いたいことはあると思うけど、なんとかうまいこと独立までやっていきましょう!」と精力的に仕事をするのだが、その独立がなかなかうまくいかない。今まで頭を押さえていたイギリス人がいなくなるということで、インド国内各地では宗教対立などを原因とする暴動が大発生。死者も出まくり、のっぴきならない状況になっていたのだ。中でも大変なのが、インドでは多数派のヒンドゥー教徒と、少数派であるがゆえに「別の国という形で独立させてくれ!」と主張するイスラム教徒の対立だった。

独立に伴う悲劇に向き合った、誠実な一作
邦題は『英国総督 最後の家』だが、この映画の現代は『Viceroy's House』。つまり「総督の家」だ。このタイトルの通り、実のところ本作は総督であるマウントバッテン自体の話というより、彼を中心に総督官邸では何が起こったかという点にフォーカスした映画である。

『英国総督 最後の家』の重要人物が、総督官邸に勤める使用人ジートと、総督令嬢パメラの秘書として働くアーリアだ。この2人は互いに惹かれ合うものの、ジートがヒンドゥー教徒でアーリアがイスラム教徒。おまけにアーリアにはイスラム教徒の婚約者までいるというややこしい状態である。官邸には統一インドを望む国民会議派と分離を主張するムスリム連盟が詰めかけて連日激論を交わしている。使用人達の間でも「独立と同時に、なんか分離しそう……」という空気は伝わってくる。もしイスラム教徒が分離独立するなら、ジートとアーリアは離れ離れだ。

単に独立までの流れを追うのではなく、ひとつの屋敷の中に総督マウントバッテン、ヒンドゥー教徒であるジート、イスラム教徒であるアーリアという3人を配置したことで、物語としてインド独立の困難をわかりやすく立体化したのがこの映画のミソである。元々混ざり合って生活していたものを分割するのがいかに大変か、この3人のおかげでその大変さの解像度がずいぶん上がっているのだ。「インド独立までの半年間」というキツくて厳しい時期を題材に、わざわざ映画という形でフィクションを織り交ぜた作品を作った意味がちゃんと発生している。

イギリスが製作した映画であるにも関わらず、インド・パキスタン間の国境策定でのイギリスの狡猾さに触れた点や、独立前後の混乱で発生した難民や虐殺から逃げなかった点は大人っぽいバランス感覚だ。絶対に単純な美談では終われない話を、精一杯のラインで着地させた点で誠実な作品である。あまり日本では知られていない史実に触れるために見るもよし、インド史とイギリスの歴史への入り口とするもよしの一本だ。
(しげる)

【作品データ】
「英国総督 最後の家」公式サイト
監督 グリンダ・チャーダ
出演 ヒュー・ボネヴィル ジリアン・アンダーソン マニーシュ・ダヤール フマー・クレイシー ほか
8月11日より全国順次ロードショー

STORY
1947年、イギリスは約300年統治した植民地インドの独立を認め、最後のインド総督としてマウントバッテン卿を派遣する。しかし、インド国内ではヒンドゥー教徒とイスラム教徒が対立し、独立に向けて混乱が広がっていた

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