「この世界の片隅に」妊娠してなかったすず、代用品ノイローゼに「代用品か…うちもそうなんかね」4話

エキレビ!

2018/8/12 10:00

こうの史代原作、松本穂香主演の日曜劇場『この世界の片隅に』。太平洋戦争さなかの広島県呉市を舞台に、主人公・すずと周囲の人々が織りなす日常を描く。


先週は原作者・こうのの「ゴッドマーズ」発言が話題を呼んだが、たしかにドラマ版は「戦時下のホームドラマ」として独特のスタンスを保ちつつある。先週放送された第4話のキーワードは「居場所」と「代用品」だった。


子どもを産む「義務」を果たせなければ「居場所」はない?
昭和19年8月、すず(松本穂香)が呉の北條家に嫁いできて半年が経っていた。すずは呉の軍港をスケッチしていたところをスパイ行為だと勘違いした憲兵(川瀬陽太)に見つかって叱責される。戦中はそれだけ自由がない世界だということ。サン(伊藤蘭)、径子(尾野真千子)も一緒に平謝りして、なんとかその場は収まるが、すずはショックで寝込んでしまう。

体調が優れないすずに対し、子どもができたのではないかと言う円太郎(田口トモロヲ)。子どもへの期待より、円太郎へのひんしゅくが少し上回るところが面白い。家の跡継ぎであり、兵士となる男子への期待がとてつもなく大きかった時代の中で、北條家はちょっと変わっているのかもしれない。

結局、すずは妊娠していなかった。栄養不足と環境の変化によるストレスで生理が遅れていただけだったのだ。婦人科からの帰り道、すずは遊郭にいるリン(二階堂ふみ)を訪ねる。妊娠していなかったので家族をがっかりさせるのではないかと率直に語るすず。家族や近所の友人たちにも言えない本音がリンには言えるようだ。

すずは子どもを産むことを「義務」と言う。「出来のええ跡取りを増やさんと、それが嫁の務めいうか、義務じゃろ?」。すずの考え方は、この時代の人の標準的なものだ。「産めよ殖やせよ」は昭和16年に政府が閣議決定した人口政策確立要綱のスローガンである。個人の自由を否定し、「生産性」を高めよ、というものだ。昨今の政治家の発言とも通じるものがある。

「義務が果たせんかったらどうなるん?」と訊くリンに、すずは「居場所がないんかもしれんね」と答える。それに対してリンは笑いながら、

「子どもでも、売られても、それなりに生きとる。誰でも、何か足らんくらいで、この世界に居場所はのうなりゃせんよ。すずさん」

と語りかける。リンのこの言葉は、このドラマが現代のわれわれに向けて発信しているメッセージのひとつ。誰かが考え出した「義務」を果たしていないからといって、つまはじきにされることはない。人間には生きる権利があるし、居場所だってある。

佐野亜裕美プロデューサーは原作を読んで、「閉塞感溢れる現代を生きる私たちと地続きのところにある、『居場所をめぐる物語』」だと感じたと語っていた(公式サイトより)。

強気な径子(尾野真千子)も、近所の友人の志野(土村芳)も嫁いだときは居場所を見つけることができなかった。径子は息子の久夫が授かって居場所ができたが、子がいない志野は居場所がないままだ。志野たちの優しさがしみる。

代用品ノイローゼに陥ったすず
「すいとんで代用しようかね」
「だいよう?」
「うん、ほんまは違うほうがええんじゃけど、仕方ないけえ、これでこらえてもらうんよ」

物資不足を補うため、晴美(稲垣来泉)と一緒にすいとんをつくるすず。もう一つのキーワードは「代用品」だ。

「あのとき、一時の気の迷いで変な子に決めんで本当よかった」。夫・周作(松坂桃李)の親戚の言葉を聞いて、すずは心が乱れる。

納屋で見つけたリンドウの柄の茶碗、周作の「いつか、わしの嫁さんになる人がつかやあええ」という言葉が、リンの着ていたリンドウの柄の着物、リンが長ノ木を知っていたこと、リンが言っていた「字を書く仕事」などと重なり合う。そしてリンが持っていたノートの切れ端と、周作の破れたノートが完全一致――。周作が前に結婚を心に決めていた相手はリンだった。

夫にとって自分はリンの代用品なのではないか……。妊娠していなかったことで居場所を失ったと感じているすずだったが、夫の愛情への信頼もゆらぎはじめていた。すずの憤りを竹槍訓練につなげる演出の軽さがドラマの救いになっている。

すいとんをつくりながら「代用品か……うちもそうなんかね」とつぶやくすず。すいとんを食べながら家族が言う「やっぱり代用品は冴えんね」「しょうがないじゃろ、代用品なんじゃけ」「ほうよね、代用品でも、あるだけぜいたくやね」という言葉もいちいち胸に突き刺さる。

「そんなに代用品、代用品、言わんでください」

夜、周作の求めを拒むすず。不思議がる周作に、すずはこう答える。

「代用品なんかな思うたら……」
「ん?」
「いえ……」

火鉢に入れた炭団(たどん。炭の粉をかためた燃料)の代用品が失敗で部屋が煙に包まれると、咳き込みながら「ダメですか、代用品」とつぶやくすず。もはや代用品ノイローゼだ。

「代用“品”」というすずの物言いは、この時代の嫁が人というより物として考えられていたことを示している。そうでなければ言われるまま、見知らぬ人のもとへ嫁いできたりなんかしない。それでも人は人として生きていかなければならない。そのためには居場所が必要なのだが、居場所をつくるには他人との心のつながりが欠かせない。心のつながりが網の目のようになって、人を受け止めるのだ。だが、周作とリンとの関係を知ったすずは、周作の心のつながりが断ち切られそうになってしまっていた。

北條家に居場所をなくしたままのすずが、ある日、出会ったのが……幼馴染の哲(村上虹郎)! すずと哲、そして周作のエピソードは本日放送の第5話でじっくり語られる。あと、第4話は現代編がなかったけど、このままなくてもいいんじゃないかという気がすごくする……(第5話ではあるみたいだけど)。今夜9時から。
(大山くまお)

「この世界の片隅に」
TBS系列)
原作:こうの史代(双葉社刊)
脚本:岡田惠和
演出:土井裕泰、吉田健
音楽:久石譲
プロデューサー:佐野亜裕美
製作著作:TBS

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