心霊スポットで起きた「心身の異変」を精神医学の見地から考える

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2018/8/12 17:45

心霊スポットや肝試しで不思議な体験をしたり、その後で言動に異変が生じたりすることがあるようです。これらの心身の異常は精神医学的にはどう考えられるでしょうか。さまざまな例を挙げながら、考え方と対処法を解説します

心霊スポットでの不思議な体験の原因は

暑い夏に、この季節ならではのイベントを計画されている方も多いでしょう。夏の楽しみ方もそれぞれの好みを反映するものですが、なかにはスリルや涼を求めて、心霊スポットなどでの肝試しを考えている方もいるかもしれません。

水を差すつもりは全くありませんが、実際にそうした心霊スポットやそこから戻った後で、普通にはないような体験をしたと話される方も実際にいるものです。それは頭痛や息苦しさなどの体の不調だったり、いないはずの何かが見える、聴こえるといった不思議な体験だったりもします。

古くから科学的な証明の難しい分野の話ではありますが、今回はこれらの心身の異常に対する一つの考え方、また困ったことが起きてしまった時の対処法・解決法の一つを、精神医学的に考えてみたいと思います。

どの国、どの文化にもある心霊スポット・肝試し

どの国、どの文化においても、「心霊スポット」と呼ばれるような特別な場所はそれぞれあるものです。その昔、罪を犯した人の処刑の場だった、あるいは長く語り継がれるような悲しい出来事や事件がそこで起きた、あるいは理由は分からないが怪奇現象が何度も目撃されている……など、その場所ならではのルーツや怖い話で語り継がれたり、噂として広がったりしているものです。

通常であれば怖い場所は避けたいと思うでしょうし、私自身もなるべくなら近寄りたくないと考えるほうですが、それでも興味を覚える方は一定数いるものです。いわくつきである場所が醸し出す特殊な雰囲気に刺激を感じたいといった心理もあるのでしょう。あるいは肝試しのようにみんなでスリルや怖い思いを共有することで、気持ちも昂揚して、仲間意識が高まるような面もあるかと思います。

そして多くの場合は、話題の心霊スポットであれ、困ったことは実際には起こらずに終わることが多いでしょう。しかし稀に、一部の方が本当に心身の不調を訴えることもあるようです。それらの問題のタイプごとに、精神医学的に考えられる心の問題、場合によっては関連する可能性がある心の病気についても、述べていきます。

心霊スポットで一人だけ幽霊を見た場合

心霊スポットで、いわゆる幽霊や人魂のようなものを本当に見たといった体験は、特によく聞くものです。その場合、その何かを目撃したのが一人だけだったのか、集団だったのかは重要なポイントになります。

もし目撃したのが一人だけだった場合、仲間に話せばその場はかなり盛り上がるでしょうが、ただ嘘を言っているのではないかと疑われてしまうこともあるでしょう。まして、一緒に行った仲間が誰も目にしておらず、自分だけに見えたというような場合、当人にとっては嘘ではなく、現実のものと見分けのつかない「現実体験」であっても、他の人には見えない、つまり科学的に実際には存在しないものであったならば、それは「幻覚」と考えるべきです。

ただの見間違い、視覚の誤りで一過性のものであれば、さほど問題はありません。何かを見たということ以外に特に問題がなく、それ以降も何度も同じものを見たと話すようなこともなく、翌日から普段通りの生活になっていれば、一時的な精神病性の精神体験ということになり、病院受診などの必要はありません。

しかし一般的に「幻覚」は、深刻な精神症状の一つです。ないはずのものを何度もいると感じたり話したりする場合、脳内の機能に幻覚を生み出すような変調があることを意味します。日常生活に支障をきたすような変調のレベルが見られる場合は、精神科での対処が望ましくなります。

心霊スポットで集団で幽霊を見た場合

では、もし周りの人も同じものを見た場合はどうでしょうか? 精神医学的な見地から考えれば、集団的な幻覚が突然発生したという可能性も否定はできませんが、その場合は実際に、幽霊ではないにしろ幽霊と見間違えるような錯視を起こす何かが実際にあったと考えるほうが自然だと思います。

心理的にも、「ここには霊が出る、心霊スポットだから何かが起こる」という気持ちで行っているわけですから、それに近いものを集団で誤認してしまうのも不自然なことではありません。一人の時以上に集団で同じ体験をしたというほうが恐怖体験の信憑性は上がりそうですが、この場合は通常、日常的な「誤解」と言えるレベルのものであることが多く、個人の脳内に異変が起こる幻覚の場合と比べれば、精神医学的な病的意義は大きく減じます。あまり心配のないケースと考えるべきでしょう。

心霊スポットに行ってから様子がそれまでとは違う場合

では次にその心霊スポットから戻ってきてから、大きな変化が出てしまった場合はどうでしょうか? 別人のように様子が違う、口から出る言葉がまるではっきりしない、そして顔から表情がなくなってしまった……。これらはいずれも深刻な精神病性の症状ですが、その症状と心霊スポットに行ったこととの関連ははっきりさせたいところです。

医学的にこの関連性を説明するのは一般的に難しいもので、実際にこのようなケースでの受診があった場合は、しばらく経過をみる必要があると考えるべきでしょう。いわくつきの場所に行ったことがきっかけになったのか、その場の何かがより直接的な原因になったのかを見極めるためでもあります。

逆説的ではありますが、心霊スポットとの関連性はさておき、精神科を受診して実際に起こっている症状への治療を始め、すぐに元の状態に戻ったならば、「一時的に精神病性の問題が現われた」と考えられるかと思います。具体的には、「短期精神病性障害」といった診断名などに落ち着く可能性があります。

心霊スポットがうつ病・統合失調症発症のきっかけになることも

また、心霊スポットに行く前から通常の精神状態がすでにあまりよくなく、うつ病や統合失調症などの心の病気を発症する手前の段階の場合も注意が必要です。心霊スポットのような、特殊な場所だと意識しやすい非日常的な場所に出かけること自体が、実際に発症のきっかけになる可能性もあります。

もっとも心の病気を発症する一歩手前の段階ならば、心霊スポットに行きたいとはあまり思わないかもしれません。もし、その場所ではっきり頭痛や息苦しさを覚えたといった変調があった場合でも、あるいは戻ってから一時的に気持ちが落ち込んでしまっても、すぐ普段の生活に戻っていれば、病院を受診して対処すべき問題など特にないです。しかし、先述のように幻覚などが現れる精神病性の問題は、あまり日常的なものではないので、その後の日常生活に影響がはっきり現れているような場合は、病院受診を考慮すべきでしょう。

もし仮に心霊スポットなどに行って非日常的なことに一時的に気持ちが昂揚したとしても、その後に気持ちの落ち込みなどが1週間以上続いたり、幻覚などによって日常生活に明らかに支障が出たりしている場合は、心霊スポットとの因果関係を考える以前に、うつ病や統合失調症の発症などの可能性も考え、精神科等を受診も考えたほうがよいことも覚えておいてください。

アルコールや自然のガス……中枢神経系の薬物の影響も

また、先のような精神症状が現われた際は、中枢神経系に作用する何らかの薬物との関連がないかも注意して振り返るべきでしょう。

例えば夜に仲間と集まって飲み会などをしていて、その場の盛り上がりから近くの心霊スポットに肝試しに行こうということもあるかもしれません。そしてアルコールが入っていた場合は、正常な知覚や判断ができにくくなるものです。また、場合によってはその場所に何らかの原因で自然にガス様の物質などが発生している場合もあり、それを偶然吸引することで中枢神経系に変調が生じて知覚が混乱する可能性も考えられます。

「文化依存症候群」的な側面があるという認識も大切

また、その場所が怪奇現象が起こるスポットだという認識自体が、ないはずのものを見た・聞いたと感じる精神症状の原因になることもあります。世界的にも、悪霊が出ると言われる場所に行き、帰ってきた時に悪霊がとりついたような声で話し始めたといった、一種の憑依現象なども数は少ないながら報告されており、これらは精神医学的に「文化依存症候群」のタイプと見なされています。

文化依存症候群とは、特定の地域や言い伝えのある文化環境において、そこに属する人たちだけに発生しやすい精神症状のことです。例えば「狐憑き」の概念がある地域では古くから「狐憑きの症状」の報告があったり、「魔女」「天狗」などの概念がある地域では「魔女を見た」「天狗を見た」といった報告があったりします。

そしてこの文化依存症候群的なものは、心霊スポットにおいての心身の不調においても似た面があるのではないかと思います。もしこの夏に心霊スポットに行ってみたいと考えている方や、肝試しのようなことを考えている方は、「その心霊スポットで起こると言われていることが、あらかじめ知識として頭に入っていること自体」が、実際にそれと同様の症状を生み出す原因になり得ることを、頭に入れておくことも大切かと思います。

おわりに

今回は心霊スポットやそこで起こり得る心身の問題について、精神医学的な見地から解説してみました。

また、心霊スポットは、ここまで述べてきた精神症状に関連する可能性があることはさておき、私有地や廃墟への不法侵入になってしまったり、自然豊かな場所で実際に危険を伴うような場所もあるようなので、そのあたりの現実的な安全性に配慮することも、言わずもがなの大切なことだと思います。
(文:中嶋 泰憲(精神科医))

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