レンズ越しに、人間本来の「美しさ」を見つめてきた/写真家・ヨシダナギさん

カフェグローブ

2018/8/11 07:45

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アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮り続け、作品の色彩や構図の独創性だけでなく自身の生き方までが注目されるフォトグラファーのヨシダナギさん。幼少期から現在にいたるまで、アフリカ人に対する強烈な憧れを抱いてきました。カメラのフィルターを通して感じる彼らの魅力はどこにあるのでしょうか。自身が定義する「美しさ」についてもあわせてお話をうかがいました。
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ヨシダナギさん
フォトグラファー。1986年生まれ。イラストレーターを経て2009年にアフリカに渡航し、少数民族の撮影を開始。作品の唯一無二の色彩と自身の生き方が評価され、さまざまなメディアに出演。2017年には日経ビジネス誌「次代を創る100人」、雑誌『PEN』の「Pen CREATOR AWARDS」に選出されるほか、講談社出版文化賞「写真賞」を受賞。近著にヨシダナギBEST作品集『HEROES』(ライツ社)。ホームページ(http://nagi-yoshida.com/

テレビで見たマサイ族に憧れて

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ナミビア ヒンバ族 撮影/ヨシダナギ

アフリカ人との出会いはヨシダさんが5歳のとき。テレビ番組でマサイ族の姿を目にして、その“フォルム”のかっこよさに強い衝撃を受けました。同級生がセーラームーンに夢中になるなか、ひとりマサイ族への憧れを抱き続け、10歳のときにお母様に「区役所の人が来たら“黒のボタン”を押してね」と伝えます。

「幼心にもアフリカ人と自分の肌の色が違うことはわかっていました。ただ、何らかのタイミングで区役所の人が黒・白・黄の3色のボタンを持ってきて、それを押せばシステマティックに肌の色が変わると信じ込んでいたんです。でも、母から突きつけられた答えは、“私はアフリカ人になれない”という現実でした」
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「がんばったら、なれないものはないのよ」と口癖のように言っていたお母様から、どんなにがんばってもなれないものがあると聞かされ、ショックを受けたというヨシダさん。その後の人生で「アフリカ人ってかっこいいよね」と言っても同調してくれる人は誰ひとり現れず、それならその姿を自分でカメラに収めて「かっこいい」と言わせたいと、2009年に初めてアフリカに渡りました。

「骨格や筋肉のフォルム、そしてたたずまいまでもが私にとって一番かっこいい存在。人間本来のあの美しさに勝るものはないと、間近で撮影させてもらえるようになった今でもその思いはまったく変わりません」

少数民族の女性たちが持つ“精神的な美しさ”


さまざまな部族と接するなかでヨシダさんが感銘を受けたのが、とりわけ女性たちの“精神的な美しさ”だとか。「社会性が問われる集団生活で、女性の存在なしには部族の存続はあり得なかったはず」と語ります。

「女性たちはとてもポジティブで、どんなにつらいことでも笑って吹きとばすおおらかさがあります。すべてを受け入れる大きな器を持ち、そして誰もが愛情深い。愛情ってこんなふうに相手に伝えるものなんだなと一緒にいるだけで心があたたかくなるんです」

「自分は社会不適合者で、生きにくい人生を送ってきた」というヨシダさん。そんな思いを払拭し、「私の生き方は間違っていなかった」と自己肯定できたのも、女性たち含め部族の人たちのおかげでした。
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「悩みを抱えたり将来に絶望したり。自分に満足していなかった私は、彼らと過ごし、生きるってそんなに大変なことではないし退屈じゃない、もっとラクに構えていればなんとかなるって考えられるようになったんです。ありがたい学びでしたね」

少数民族を撮り続けて今年で10年。今でも日本でちょっとつらくなったときは「彼らだったらどう考えるだろう」と、心のなかで頼っているといいます。

姿かたちを変える少数民族の美しさを肯定したい


何日もかけて辺境の地へ赴き、お風呂はおろかトイレもない環境で野宿を強いられることはしょっちゅう。それでも彼らを撮り続ける原動力はどこにあるのでしょうか。

「近代化の波にのまれて、世界中の先住民や少数民族の暮らしや文化は刻々と姿かたちを変えています。もしかしたら来年再来年という近い将来に消滅してしまう部族もあるかもしれません」

それまでは誇りをもって生きてきたのに、存在を否定されたり興味の対象として見られたりすることで「自分たちはちょっと違うのかな」と感じ始めたのか、女性がブラジャーをつけ始めた裸族もあるとか。
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「彼らの文化を残そうとすることが正しいのかどうかはわかりませんし、私にはそこまでする力はありません。ただ私は撮った写真を彼らに見てもらって、『やっぱり俺らはかっこいいね』と感じてほしい。そして、彼らの生活や文化がもしこの先西洋化してしまったとしても、独自の文化が記憶され、継承されるきっかけになればと願っています」

人生に迷っていた自分に「そのままでいい」と生き方を肯定してもらったぶん、写真が彼らの存在を肯定するための手段になってくれればと話すヨシダさん。彼女の作品に被写体への敬意とやさしさが感じられるのは、そういった理由があるからなのだと合点がいきます。

美しさとは、生きざま。たとえ9歳の少女でも

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ブラジル ヤワナワ族 撮影/ヨシダナギ

作品や生き方だけでなく、その美貌が注目されるヨシダさんに「美しさ」を定義してもらうと、間髪入れずに返ってきた言葉は「生きざま」。

「アフリカの少数民族は、目鼻立ちやスタイルの美しさは“パーフェクト”ではないかもしれません。でも、カメラの前でフィルター越しに見た彼らはとてつもない存在感を持ち、たちまちオーラを放つんです。それは生きざまだったり誇りだったり、何かを背負っている感じ。その美しさに、いつも圧倒されています」

アマゾンで出会った9歳の少女は、何の迷いも後ろめたさも恥じらいもなく、ただ民族を継承していることへの自信に満ちていました。ヨシダさんから目をそらすことなく凛としたその立ち姿に、「見つめられて困ってしまいました。私にも分けてほしいぐらいのオーラでした(笑)」とヨシダさん。
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憧れ続けたアフリカ人を撮ることで“凛とした美しさ”を知ったヨシダさんに、この先40代50代になっても撮り続けていくのかを聞いてみると――

「将来の自分がどんなふうに生きているかなんて考えたことはないですね。『こうありたい』と決めてしまうと他の道が見えなくなってしまいそうなので、わからない先のことは考えません」

その一方で、「アフリカ人になることは叶いませんでしたが、彼らが持つおおらかさと凛とした美しさは備えていたい」とも。お話をうかがって、彼女の目を通して描かれる人々の美しさ、そして彼女がこれから身につけるであろうさらなる美しさにますます注目したくなりました。

『ヨシダナギ-HEROES-写真展』開催中

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2018年8月14日(火)~8月19日(日)西武池袋本店
   8月24日(金)~9月3日(月)そごう広島店
   9月19日(水)~9月24日(月・祝)松坂屋名古屋店

※ほか、神戸・大阪・沖縄・町田にてトークイベント開催予定。詳細はインスタグラム(@nagiyoshida)にて。

撮影/柳原久子(1、4~6、8枚目)、取材・文/大森りえ

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