ケラリーノ・サンドロヴィッチ×鈴木杏=“KERAのみぞ知る”新作に! KERA・MAP『修道女たち』

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2018/8/10 12:40



ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)が、劇団以外の演劇の場としてスタートさせたKERA・MAP。その8作目となる新作公演が2018年10月に行われることが発表された。

公演タイトルは『修道女たち』。ところで「修道女」と聞いて想像するものと言えば、宗教、戒律、貞節、禁欲、女性だけの世界、あの独特の服装!?などなど…我々の生活とはかけ離れた存在なだけに、逆にいろいろな想像、妄想を掻き立てられる存在ではないだろうか。

今回の公演に出演する鈴木杏は、ナイロン100℃ 42nd SESSION『社長吸血記』以来のKERAとのタッグとなる。「4年ぶり?」「そうですね」という会話から二人の対談は始まった。

――まず、タイトルの『修道女たち』からお伺いしたいのですが……どうしてこのタイトルになさったんですか?

KERA 直感です! いろいろなスケジュールを踏まえるともうタイトルを決めなければならないというギリギリのタイミングで(笑)……この取材の雰囲気、先日までやっていたナイロン100℃ 46th SESSION『睾丸』の稽古が始まる前に、三宅弘城と取材を受けた時の事を思い出します。あの時も、取材で話した事とまったく違うものが出来上がりましたからね(笑)。今回もそれを楽しんでいただくしかないですね。


――KERAさんの中にはいつか新作のテーマにしようかな、というネタのストックはあるんですか?

KERA ボンヤリとはあるんですけどね。ほんとにボンヤリで。KERA・MAPも劇団公演も行き当たりばったりで、直感を信じてやってここまで来ました(笑)。台本だってプロットを一切立てずに100本以上書いてきました。とはいえ、どの作品もさすがに「入口」は慎重になりますね。入口を間違えると可能性がぐっと狭まってしまうから。例えるならば、知らない街に行き、そこに何があるのか分からないままうろうろしながら、どれだけおもしろいものや心打つもの、美しいものを発見できるか…そういう事を毎回しているんです。その方が思いも寄らないおもしろいものを発見できるんですよ。

――確かにKERAさんの作品は、毎回予想のナナメ上をいくような驚きとおもしろさがいっぱい詰まってますね。

KERA こんな作り方では、出演者やプロデューサーも「危なっかしくて仕方がない」と思っているでしょうが、でもそうやって作ってきた作品で少しずつ信頼を得てきたんじゃないかな。これで最悪なものを作っていたら次に仕事をさせてもらえなくなりますし(笑)。今回もモチベーションだけは異様に高いですよ!絶対納得いくものに仕上げたいです。いつにもまして頑張りたいと思っています。

――ところで今回の『修道女たち』。脚本はこれから、という段階ですが、方向性としてはコメディ路線だと思っていてもいいですか?

KERA コメディはコメディだと思います。コメディにもいろいろありますからね。よくある修道女を扱ったコメディ…例えば、聖職者なのにハチャメチャなことをやる、聖職者なのに不道徳極まりない、聖職者なのにものすごくファンキーな……といったものには絶対ならない。“聖職者なのに〇〇”という発想にはならないようにしようと考えています。もったいないですよ。そんなことにこの題材を費やしてしまうのは。

ただ、観客の中には熱心なクリスチャンの方ももいるでしょうし、キリスト教を模した別の架空の宗教にしようかなと。その方が作る方も観る方も気楽になれるでしょうから。

よくよく考えると、僕はカトリック系の幼稚園出身ですが、だからといって宗教が近しい存在ではなかった。これは『睾丸』に描いた1960年代の学生運動も同じ。僕にとってリアルタイムではない存在でした。その距離感と似たような距離を宗教にも感じています。日本という、宗教を持たなくてもいい国で生きているからこそ、宗教を客観的に観ることが出来る。

コントっぽい舞台では神様や神父が出てくる作品をいくつもやっていて、古田新太と組んだシリーズでは大倉孝二が毎回神様役をやってましたしね(笑)。神を信じる者が神の不在に直面する、そういう局面を描くのが好きなんでしょうね。



――今回久しぶりにKERAさんの作品に出演する鈴木さんですが、以前『社長吸血記』に出演した時の印象を教えていただけますか?

鈴木 すごく居心地よく、程よい緊張感があって、素敵な空間にいることができたという印象でした。劇団員の方も昔から存じ上げている方が多かったので「劇団公演の稽古場の空気ってこういう感じなんだ!」と知ることができました。皆さんかっこよくて、KERAさんと劇団員の方々との信頼関係も見ることができました。劇団公演の客演という形でKERAさんの作品に入れたのは私にとって確かな入口だったと思います。

――いい印象と手応えを感じたまま、再びKERAさんの作品に出演することとなりました。今のお気持ちは?

鈴木 またKERAさんにお声がけいただいて素直に嬉しかったです。役者って皆一緒だと思うのですが「もう二度と呼んでもらえない」という不安をどこか抱えている節があると思うんです(笑)。

KERA え? そうなんだ(笑)?

鈴木 (笑)。自分がどこまで(作品や演出家の)イメージに追いつけることができるか、というシビアなところがあると思うんです。直感から生まれたものを、直感で嗅ぎ取って、直感で演じる……それって本当に手探りなんです。また、演出家さんも同じ期間に同じ場所にいる時はいつもニコニコしてくれると思うんですが(笑)、公演が終わって離れた後は、お互い相手が自分の事を本当はどう思っているのか、分からないじゃないですか。それが常に不安なので、お声をかけていただいて「ああ、よかった!」と安心するんです。

ふと、気が付けばずっとKERAさんの作品を見続けていますね。KERAさんの作品が出来上がりながら、稽古をしていきながら、本番になる……という時空の感じって、どこの稽古場、どの本番とも違う不思議な時空なんです。あの感覚をもう一度味わえるのは幸せです。



――仕事のオファーを受けた後で、今回は『修道女』の話だと聞いたとき、どんな事を思いましたか?

鈴木 「おお、そうかー!!」って、いちファンのリアクションみたいになっちゃいました(笑)。仮に自分が出演しないとして『睾丸』を普通に観に来て、そこで受け取ったチラシの中に次回公演が『修道女たち』ってあったら「おもしろそう!!」って思う、その感覚と同じでした。いろいろな事が起きそうだし、制約もありそうだけど、それを軽く飛び越えられそうな気もします。楽しみです。

――修道女、というテーマに絡めての質問です。日常の中で「宗教」について考えたり接したことはありますか?

鈴木 今、NETFLIXでモーガン・フリーマンが出演しているドキュメンタリー『ストーリー・オブ・ゴッド WITH モーガン・フリーマン』を観ています。「神とは何ぞや?」を考えるためにエジプトに行ったり、脳科学などいろいろな面から「神とは何か、それがどう人間に作用しているのか」という事を探っていく番組なんです。突き詰めれば突き詰めるほど、自分は何者なのか、どうやって生きていくのが良いのか、どんどんシンプルな事に集約されていくんです。

現代宇宙論を調べるとアニミズム(有機、無機問わずすべての物に霊魂が宿ると考える信仰)のことが出てきたり、技術や研究が進むほど、逆にはじまりの事に近づくというのはすごく面白いと思いました。


――興味深い話ですね。ところで、KERAさんから見た「鈴木杏」という人物はどんな人ですか?

KERA 「女優」って感じです。

鈴木 えー!何ですかそれ!初めて言われました、そういう表現(笑)!

KERA ある時までは「予備校のコマーシャルをやっているお嬢ちゃん」という印象でしたね(笑)。

鈴木 今も続いていますからね(笑)! 写真はずーっと若い頃のままですが。若い頃の写真に自分がいたたまれなくなってきたら、逆に「街中であの広告を見かけるといい事あるよ! ラッキーだよ!」と周りに言うようにしようかなって思っています(笑)。

KERA 半世紀後もあの写真を使っていたり、皆死んじゃって誰も知らなくなった頃に「あの女性って誰だろう」って言われるようになるのもおもしろいかも(笑)。それはさておき、彼女はエンターテイメント性の高い作品だけでなく、文字通り身を削るような取り組み方をしないと成立しないような難作にたくさん出演していますからね。表層的な取り組み方では成功しないだろうって現場にばかりいる、という印象があります。だから「女優」というイメージです。

鈴木 (いろいろな作品で)重い物を背負わされがちなんです(笑)。


――今の段階で『修道女たち』のヒントになりそうな情報を可能な範囲で教えていただけますか?

KERA 先日、本チラシ用の撮影をしたんです。雪が降っている中、出演者が一列に並んでいて、遠くに教会らしき建物が見えているイメージをね。豪雪によって、巡礼に来た修道女たちが山荘に閉じ込められたというイメージが頭の中にあるんです。その一方で、やれ聖書に誤植があるとか、翻訳者によって聖書の解釈が違うとか、くだらない事も考えているんです。規律や戒律が厳しいので恋愛なんて出来ないと思うけど、そんなのしたい人はするに決まってるじゃん、とかね(笑)。

鈴木 恋愛は本能に近いものがありますよね(笑)。

KERA 『修道女たち』というくらいだから、修道女たちは複数いる訳ですが、女性キャスト全員に修道女を演じてもらうかどうかはまだわからない。意外と山荘にいる人物が物語の要になる可能性もある訳で。あと、修道服を着ると基本髪の毛が隠れるじゃないですか。その状態で舞台に出た時に、誰が誰だか分からなくなるんじゃないかなと。ところが撮影の時に眺めてみたら「あ、大丈夫だ。絶対分かる」と確信しました(笑)。

鈴木 撮影の時に着てみたらすごく暑かったです。そしてあのフードって声が籠るんですね。

KERA そうなんだよね。耳部分を少し開けないとね。

鈴木 でも面白い体験でした。

KERA コスプレとかでは髪も出して着ている人もいますけど、本来は髪の毛は見せてはいけないはずなんです。チラシでは犬山イヌコと伊藤梨沙子の髪が少し見えてしまっているんですけど、本番は隠さないとね。



――他の出演者にも注目したいと思います。気になるのが鈴木浩介さんとみのすけさん。女性だらけの座組みに光る男性二人です。

KERA 貴重な男優二人なので、有効に使わないと(笑)。浩介はドラマ『怪奇恋愛作戦』で一緒に仕事をした事があるんですよ。その昔出会った頃は八島智人のマネージャーかと思ってたんです(笑)。で「ああ、役者さんなんだ」と知って。今はMCのような仕事もやって、すっかり安心できる存在になってしまったよね。「安心できる人」だと浸透する前に一緒にやりたかったですね(笑)。いい役者さんだと思います。味があるし、余計なアドリブ入れなそうだしね。

――みのすけさんとは今年もう3回目……大好きなんですか?

KERA 大好きです(笑)。

――鈴木さんから見た共演の皆さんの印象は?

鈴木 私が言うのもなんですが、よくぞここまでマイペースな人たちが集まったな、と。皆さん飄々と風をまとっているような…職人的という印象があって、居心地が良さそうです。すでに信頼しています。個人的には伊勢志摩さんとご一緒できるのが本当に嬉しくて。「伊勢志摩産の味噌汁」が売られていると買いたくなっちゃうし、「伊勢志摩旅行」とか、「伊勢志摩サミット」とか、文字を見るとビクッて過剰反応してしまうんです(笑)。

KERA そういえば伊勢志摩とは初めて一緒に舞台をやるんだよ。30年以上前から知っていたのに。

鈴木 え! 意外! 何度もやっていると思ってました。

――さて、これから執筆される脚本、山荘、豪雪、などキーワードが少し出てきましたが、一体どんな内容になっていくんでしょうね。

KERA こうして取材でいろいろ聞かれたりするじゃないですか。すると頭のどこかで「こうなるとおもしろそう」って皆の想像を裏切ってやりたいと思ってしまうんです(笑)。

――となると、この取材の場で「本当は修道女が出てこない物語」とか「実は男性二人が修道女だった」とか、いろいろな想像を口に出していくと、その設定は使えなくなるんですね(笑)。これ以上話を続けるとKERAさんを苦しめることになってしまいますね(笑)。

KERA どっちみち苦しむんですけどね。苦しくないと楽しくないから(笑)。



新作のヒントの片鱗がチラチラと見えているようで、何も見えていないような…。すべては「神のみぞ知る」もとい、「KERAのみぞ知る」ということなのかも!? 全貌が掴めない状態をむしろ楽しみながら、10月の初日を待ちたいものだ。

取材・文・撮影=こむらさき

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