八千草薫が三度目の上演に挑む舞台『黄昏』稽古場レポート 村井國夫との夫婦役を可憐に演じる

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2018/8/9 18:00


昨年芸能生活70周年を迎え、87歳となった今も活躍を続ける八千草薫が、『黄昏』三度目の上演に挑む。1979年にニューヨークで初演され、ヘンリー・フォンダ、ジェーン・フォンダ、キャサリン・ヘップバーンが出演した映画版も好評を博した物語で、ある家族がひと夏に経験する絆の結びつきを描く。八千草は2003年の初演、2006年の再演共ヒロイン・エセルを演じており、久方ぶりの上演となる今回、夫ノーマン役に新たに村井國夫を迎えてこの役に挑む。初日まで一週間となった稽古場で、一幕の通し稽古を観た。

八千草は可憐の一言がぴったりの容姿。笑顔もかわいらしく、小柄ながらオーラがあり、実際に舞台に立ったときどう見えるのだろう……と思わせるものがある。夫役の村井とはかなりの身長差があり、村井の腕に八千草がすっぽりはまってしまうところは胸キュンシーン。今年初めの『戯伝写楽2018』蔦谷重三郎役ではギラギラとした男の渋みを感じさせた村井だが、今回は、白いヒゲをはやし、背中もどことなく丸め、自身の老いを意識し始めてとまどう役どころがしっくり。文学が専門の名誉教授というインテリ役で、自らの老いや死について、シニカル、スパイシーかつブラックなユーモアを飛ばしまくるあたり、実にチャーミングである。

エセルとノーマン、仲睦まじい夫婦は今年も夏を過ごすべく、ゴールデン・ポンド近くの別荘にやって来た。郵便配達のチャーリー(伊藤裕一)は、二人の娘チェルシー(朝海ひかる)の友達で、老夫婦のことを何かと気にかけているようだ。そんな別荘に今年は珍しい客が現れた。久しぶりにチェルシーが訪ねてきたのだ。そして彼女は、今のボーイフレンドであるビル(松村雄基)とその息子ビリー(若山耀人)を伴っていた――。

ノーマンとチェルシーの間にはどうやらわだかまりがあるらしい。それというのも、実は、二人はよく似たところがあるからなのではないか――と感じさせるほどに、朝海チェルシーのパキッとシニカルな物言いが村井ノーマンに通じるものを感じさせる。そんなチェルシーを愛する松村ビルは、非常にまっすぐな好人物である雰囲気を漂わせて。そんなビル相手に村井ノーマンがシニカルなブラックユーモアを爆発させるくだりは、大いに笑いを誘われる。ビリー役の若山は素直な演技が好感度大。郵便配達のチャーリーを演じる伊藤も軽妙なところを見せる。

人は誰でも老いていく。それは決して避けられない人生の摂理である。その老いに、どう立ち向かうか。そんな闘いにおいて、周囲の愛する者たちの力が大きな役割を果たしてくれるであろうことを感じさせる『黄昏』。暑い夏、心に清涼な風が吹く予感がする。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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